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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第四章 戻ってきました、龍の国
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喉を鳴らすのは



 あの日、文二からリュカさんが倒れた原因は私にあると聞いて驚いた。龍族の事を知っているようで、私はなんにも分かってなかった。国史を習っているからって、知ったつもりになっていた。


 そもそも永い時を生きるってどういう感覚なんだろう。前に出会ったハイエルフとエルフのハーフのエディ君は153歳で、それは私にとってかなりの長寿枠に入る。他に年齢を知っている人と言えば、魔族で夢見るハンドメイド作家のヴェルゴナさん。彼は4,293歳。最早桁が異次元すぎてよく分からない。

 100歳まで生きるだけでも凄い事なのに、何百何千年も生きるってどういう感覚なんだろう。全く想像がつかない。そもそも自分が100歳まで生きる想像もしてなかったのに、今の私は龍族と同じだけの寿命がある。平均して8000年もあるそうだ。正直全くそんな感覚は湧かない。

 そういえば、リュカさんが何歳なのか未だに教えてもらってない。一体何歳なんだろう。確か、ヴェルゴナさんが自分より年下だと言っていた。あの見た目で4,000歳くらいなら、リュカさんが3,000~4,000歳でもおかしくない。


 今日まで辛い事や、嬉しい事、悲しい事、楽しい事、沢山の大変な事を乗り越えて、もみくちゃにされながら頑張って1年1年を過ごしてきた。それをあと何百何千年と経験しなきゃいけないのか。そう考えると、長寿族の人達の精神が鋼だという事に気付かされる。ヘコんだり、落ち込んだり、マイナス方面に思考が走っていかないのかな。そういえば今まで出会った長寿族の人達は皆、鬱とかそういうのが無縁に見えるくらい生命力に溢れていた。フィーさんも、ユメヒバナさんも。



「何でなんだろう」

「身体の創りが違うからにゃ」

「文二?」



 机にぐで~っと伏せて考えごとをしていると、世話師猫の文二が現れた。



「前に龍族やエルフは気高い種族だって教えてくれたよね」

「にゃ」

「それと関係があるの?」

「うむ。正確には龍族、エルフ、魔族、ドワーフ、鬼人族にゃ」



 文二曰く、彼らは長寿だからこそ遺伝子レベルでポジティブシンキングなんだそうだ。それだけ聞くとハッピー集団に聞こえるけど、それは自分自身の軸というモノをしっかり持っており、得手不得手を理解し、自身の強さも弱さも認め、自己研鑽を怠らないという意味が含まれる。

 だから誰かを陥れようとか、騙そうとか、そういうモノに時間を割かないし、弱いなら強くなれば良いという事でくよくよしない。そんな暇があれば鍛錬する。そんな彼らだからこそ、実態がなく精神が弱い者に住み着き悪さをする魔物と無縁なのだそうだ。


 

「なるほど。やっぱり始まりの種族って凄いんだね。あと魔族も」


「そうである。にゃがヒト族には長寿族にも及ばぬ素晴らしい知恵がある」


「知恵?」


「うむ。長寿族は長寿が故に発展が遅いにゃ。これはヒト族に比べて時間の概念がゆっくりだからにゃ」


「へぇ」


「短命種族は人生が短いからこそ思い悩み、苦労し、その乗り越えた先に長寿族が驚くほどの発展した物を生み出すにゃ。これは小春が暮らしておった世界の人間も同じにゃ。ただ短命種族の残念な所は人生が短いゆえ蹴落とし合いや奪い合いが絶えず恨みつらみが増え、因果関係が複雑化しておる」


「うん、そうだね…」


「コハルはもう小龍の妻にゃ。ゆっくり時間をかけて自分自身をみつめるにゃ」


「私を?」


「そうである」


「コハルにはまだ隠された何かが眠っておる。それは某にも分からん」


「そうなんだ」


「急ぐにゃ。ゆっくり、ゆっくりにゃ」


「うん。分かった。ありがとう文二」




 どんなに強い種族でも、長寿族でも、いつかは最期を迎える日が来る。最後に文二が教えてくれたのは各種族についての死因だ。龍族で最も多い死因は愁死(しゅうし)。一番少ない死因がなんと戦死。それくらい龍族は強い種族なのだ。

 そんな強い龍族が老衰でも病死でもなく愁死する。愁死とは心をいため、うれえ悲しんで死ぬこと。永い時を独りで生き、その寂しさに耐えきれず龍心が凍てつき、眠る様に亡くなるそうだ。

 だから、お義父様とお義母様はリュカさんを心配してたんだ。リュカさんは私と出会う前にお義父様とお義母様に結婚はしないと言っていたそうだ。永い時を一人で生きていくつもりだったと聞いている。今なら二人が私達を見て安堵し、心から祝福してくれた理由がよくわかる。


 そして、今回リュカさんがああなってしまったのは己が与えた愛情よりも受け取る愛情が少なく、寂しい思いをしたから。番から受ける愛は龍族にとって必須で、定期的にないと寂しさで龍心が不安定になってしまうらしい。それを知ったこの日から、私はできるだけリュカさんの傍で過ごすようにした。セーターも編まないといけないし。やる事はいっぱいある。


 文二から沢山の事を教わった翌日、二着目の手編みセーター作りに取り掛かった。これにはリュカさんにも参加してもらった。彼を暴走させてしまった原因は私にあるし私が悪いけど、でもやっぱり邸の皆を氷漬けにしたのは良くないと思う。だから罰として手伝ってもらった。

 私としては罰だったんだけど、リュカさんは二人きりで長時間居られる事や、一緒に一つの物を創りあげる事に喜び、なんと徹夜でセーターを完成させた。よっぽど早く着たかったんだろう。銀白色の精霊の力を借りて1日を75時間にしていた。おかげで私は寝不足だ。指の感覚が麻痺している。体も悲鳴を上げている。



「コハル、似合うか?」


「似合います似合います。リュカさんは何着ても似合いますよ。たとえ葉っぱ一枚だろうが何でも似合います」


「何故そんなに疲れ切った顔をしている。やはり()がセーターを縮ませてしまった事を怒っているのか…?」


「それは全然気にしてません。勝手に1日を75時間にした事を怒ってるんです!おかげで寝不足です!すっごく疲れました!」


「すまない。嬉しさのあまりコハルの疲労を見落としていた。すぐに聖魔法をかけよう」


「いえ結構です。寝たいです。寝れば回復するので大丈夫です」


「そうか…」



 

 因みに縮んでしまったセーターを文二にプレゼントしようとしたらリュカさんに風魔法で邪魔され、更に氷漬けにされた。そして寝室にオブジェとして飾られた。



 明け方、リュカさんは喉をグルグルと鳴らし、私を腕の中に閉じ込める。

 龍族が喉を鳴らす時は安心したい時や、甘えたい時、喜んでいる時。何千年と生きていようと、生きている限り心は動き続ける。このグルグルはどの意味だろう。でも、だんだん、意識が…。



「リュカさんっ苦しっ」

「グルルル」

「絞まっ絞まってます!」

「ハッ。すまない。つい」

「ついで私の意識落とさないでください」




***



 龍族について知るだけで終わってはならない。今日は文二、ユリウスさん、ユリアーナ、ルイーゼに教えてもらった事を実際に試す日だ。明日はリュカさんが仕事だからやるなら今日しかない。という事で朝食後、リュカさんを誘って庭に出た。



「リュカさん、ドラゴンの姿になってもらえますか?」

「?。分かった。危ないから少し離れていて」

「はい」



 眩い光を纏い、リュカさんがヒト型からドラゴンに姿を変える。



『これで良いのか?』

「はい。ありがとうございます。じゃあ次はうつ伏せになってください」

『分かった』



 この念話でのやり取りも随分慣れてきた。最初の頃はリュカさんの声が直接頭の中に響くもんだから驚いたけど、今では普通に会話している。


 今、私達は邸の裏手にある広大な庭にいる。いつも近くにいる皆が誰も居ない。文二も、大福も。私の目の前にいるのは巨大で美しいアイスドラゴン(リュカさん)だけ。



 龍族の愛情表現には50近くある。私が知っているのは甘噛み、喉を鳴らす、龍体化した時に相手の顔を舐め合うくらいだ。これじゃほぼ知らないに近い。だからユリウスさん達に色々教えてもらった。だけど実際に試すには難しい物ばかりだった。理由は私が弱すぎるから。

 特に舐め合うについては私の皮膚が剥がれてしまう。ドラゴンの舌はそれくらい強い。逆に私がドラゴンの鱗を舐めてしまうと舌が取れてしまう。これじゃ流血事件だ。いやそんなレベルじゃないか。


 という事で、ユリウスさん、ユリアーナ、ルイーゼに相談し、リュカさんには私なりの愛情を示す事にした。まずは龍体化してもらい、全力で鼻先に抱き着く。ただそれだけだ。



「行きますよリュカさん!」

『何をするつもりだ?』

「えい!」



 勢いをつけて鼻先に飛び乗り抱き着く。飛び乗ってしまったせいで地面から足が浮いてしまった。

 リュカさんは一瞬だけ驚くも、すぐさま私が何をしたいのか察知し、満足そうに喉を鳴らす。ゴロゴロというよりグルグルという音が私の体全体に響く。



『コハル、ありがとう。もう良いよ』

「駄目です」

『コハルが怪我をしてしまわないか心配だ』

「大丈夫です」



 本当に心配なようで、何度も降りるよう勧めてくる。しかも愛を伝えるのはヒト型の時だけで良いとまで言ってきた。それは嫌だ。私は龍体化した時のリュカさんも大好きで、ちゃんと愛してると伝えたい。ドラゴンのリュカさんは神秘的で、格好良くて、強よそうで、逞しくて、美しくて、私はどの姿のリュカさんも大好きだ。

 そう伝えると、照れてグリグリと鼻先を押し付けてきた。そのせいで私はバランスを崩してしまい、鼻先から落ちた。



「うわっ!」

『コハル!』



 ぐわっとリュカさんが大きな口を開け、私を丸ごと飲み込む。地面に衝突するのは免れたけど、ドラゴンの口の中は結構怖い。牙に突き刺さらなくて本当に良かったと思う。



『すまない。魔法を使うよりも先に口が動いてしまった』

「いえ、ありがとうございます。おかげで地面に衝突せずに済みました」

『怪我は無いか?』

「はい。大丈夫です」

『良かった』



 …。

 なかなか口が開かない。



「あの」

『なんだ?』

「出して欲しいんですけど」

『もう少しこのままで』

「え?」

『味覚でコハルを楽しめる』

「えぇぇ~?!」

『1年だけで良い』

「いっ一年!?長ッ!絶対嫌です!早く出してください!」

『では半年でどうだ』

「嫌ですよ!もってあと1分です!リュカさんの口の中寒いです!」

『…そうか』

「落ち込まないでください~!」




***


おまけ①


「そもそも一年も私を口の中に入れてると食事できないですよ」

「龍体化したままでいれば問題ない。栄養も生命エネルギーを得る要領で体外から補えば良い」

「ドラゴンって何でもありなんですね」

「惚れ直したか?」

「いえ」

「…」


ブクマ、イイネありがとうございます!

今年もよろしくお願いします。

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