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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第四章 戻ってきました、龍の国
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人魚の涙を求めて



 話はまとまり、小春とリュシアンが代表して“人魚の涙”を探しに行く事になった。

 ウメユキは任務完了報告書作成と地底遺跡崩壊の報告、またカタクリ王国に対龍族用兵器の図案があった事を報告しなければならないため帰国する。ルイーゼッケンドルフも裏ルートで調査するため帰国する。

 リュシアンに付いて行きたがっていた双龍はそのまま別任務へ赴くため同行できず、厄除縁部隊は基本的に鬼人族の国(アマノミカヅキ)から出られないため、そもそも同行できない。ヴェルゴナは途中まで同行する予定だ。



「酷い罰を与えられるじゃないかと思ってヒヤヒヤしました」

「そらあらへんよ。そないな事してもうたら国際問題になってまうわ」

「そうなんですか?最初に規則を破ったのはこちらなのに…?」

「そらそうやけど、こっちにはリュカ君おるからなぁ」

「リュカさんってそんなに凄い人なんですか?」

「そら凄いよ。でもまず龍族相手に大層な罰は与えられへん」

「?」



 小春はウメユキの言っている事を理解できず小首を傾げる。



「ウメユキ。コハルにはまだ『始まりの種族』について教えていない」

「せやったん?一番最初に教えてるんか思たわ」

「もしかして龍族が始まりの種族なんですか?」

「私達だけではないよ」



 リュシアンは掻い摘んでこの世界の成り立ちを話す。

 まず始まりの種族とはこの世界が誕生し、最初に生まれた種族の事だ。その種族は五種族存在し、五大元素魔法と対になっている。


 天空の(ドラゴン)、彼らは風を司る。

 大地のドワーフ、彼らは土を司る。

 森のハイエルフ、彼らは木を司る。

 火焔の鬼、彼らは火を司る。


 この始まりの種族同士では争わない協定を結んでいるため、此度の件で首が撥ねられる事は無かった。

 まだ判明していない水を司る種族は文献が見つかっておらず、人魚ではないかと各国の考古学者達が調査している。それ以外の種族については同時期に似たような文献が発見されており、ドワーフが住む国では天空古代語で『空に飛龍が舞う時、その方角を見よ』と苔むした石板が残っている。 

 


「魔族は始まりの種族じゃないんですね」

「僕たちの祖先はエルフらしいよ。まだはっきりとした文献は見つかってないけどね」

「にゃっ!にゃっ!」



 急に姿を現した世話師猫が小春の足を前足でてしてしと叩く。そして鞄から幼児向けの絵本を取り出し彼女に渡した。表紙にはコウモリと黒ネコが描かれてある。



「絵本?これがどうしたの?」

「これを読めばヴァンパイアが分かるにゃ」

「へぇ、これは懐かしいね」

「ほんまやな。その絵本ウチも小さい頃読んだことあるわ」



 世話師猫は会議室での会話を姿を消した状態で聞いていたため、ヴァンパイアを知らない小春のために彼女が理解しやすいよう文字が少ない本を探しに行っていた。因みに世話師猫はこの本を無断で拝借(ネコババ)している。

 


 小春は1ページ目をめくり、ネコの鳴き声に疑問を抱く。



「この猫の鳴き声おかしくないですか?ネコ~ンって」

「せやろか?ネコの鳴き声はネコ~ンちゃう?」

「私もそう思うが」

「僕はヌコ~ンて聞こえるよ」

「俺はヌァコ~ンだな」

「僕は小春ちゃんの啼き声が聞きたいな」



 ナツメフジは本気なのか冗談なのか分からない際どい発言し、リュシアンによってまたもや氷漬けにされた。

  


「”にゃあ”じゃないんですか?」


「”ニャア”は世話師猫やろう。ははっコハルはんおもろいなぁ」


「もしかして、世話師猫とネコって違う生き物ですか…?」


「そらそうやわ。ネコは世話師猫みたいに二足歩行やのうて四足歩行で魔法も使うたりせんただの動物。世話師猫いうんはもう知ってるやろうけど、伝記にも載ってへん伝説上の生き物で普通はこない頻繁に姿現さへん。ほんで古代魔法が得意なんやったっけ?」


「得意かは分からないがブンジはよく古代魔法を使用している。それよりもコハルが居た世界のネコはブンジの様に二足歩行なのか?」


「いえ、四足歩行です。でもたまに後ろ足で立ったりします。あとは文二に似てますね」


「そうか、喋りもするのか。異世界は不思議だな」


「いやそうじゃなくて、にゃあって鳴くんです」


「ほな雑談はここらへんで終いにして、そろそろ出発しよか」





 それぞれに準備を整え、彼らは“うつけ門”で利き酒勝負に勝ち出国した。




***


 小春とリュシアンが目指すヴァンパイアの国は龍の国(ルシェール)と同様に宙に浮いており、ヒト族でも飛んで行けるほどの高さにある。なのでそれほど高い位置にある訳ではない。

 小春はヴァンパイアについてまだ習っておらず、道中にリュシアンとヴェルゴナから基礎知識を教わった。まずは国名からだ。


 彼らが住む国はベガスドキュール帝国と言い、宙に浮いている本国以外にも支配している国がある。それは地上にあるヒト族や獣人族の国だ。

 今回向かう国は本国で、そこは常に陽も月も昇らない。

 


「真っ暗なんですか?」

「常に夜だが暗くはないよ。むしろ眩しいくらい賑やかだ」

「夜なのに眩しいんですか?」

「ベガスドキュール帝国はカジノ大国でね、国中が電飾で飾り付けられてあるんだよ」

「へぇ~面白そうな国ですね」

「適度に楽しめばな。観光客の中には破滅する者もいる」

「世界は違ってもそういうのは一緒なんですね」

「コハルがいた世界にもカジノがあるのか?」

「はい。ありますよ」

「やったことは?」

「ゲームセンターにあるスロットを一度だけ打ったことがあります」

「なら問題ないな」

「何がですか?」

「ベガスドキュール帝国に入国する際は身分証(カード)を見せるのではなく、設置してあるスロットマシーンでコウモリ図柄を揃えなければならない」

「揃えられないとどうなるんですか?」

「入国できない」

「僕もリュシアン君も苦手でね」



 小春も得意な訳ではない。

 そんな話をしていると世話師猫が小春の足を突いた。



「どうしたの文二?」

「目押しできるにゃ。任せるが良い」



 それだけ言うとまた姿を消した。

 



***


 鬼人族の国(アマノミカヅキ)を出国してから一週間が経ち、彼らはやっとヒト族の国へと到着する。ヴェルゴナとは此処でお別れだ。彼はこの国で創作物に使う材料を購入するため数日留まる。

 小春とリュシアンも足を休めるため一泊だけ宿泊する事にし、それぞれ宿をとった後、別れの挨拶をした。



「ヴェルゴナさん、今日まで色々助けてくださってありがとうございました」

「こちらこそ。もとはと言えばコルルが迷惑をかけたからだよね。ごめんね。でも久々に楽しい旅ができたよ。ありがとう」

「また何処かで会うだろう」

「そうだね。またその時まで。じゃあねリュシアン君、コハルちゃん」



 ヴェルゴナは早速素材探しに出かけ、リュシアンは小春を休ませるため宿の中へと入った。部屋に戻ると世話師猫は姿を現し、小春に抱っこをせがむ。リュシアンの肩に乗っていたカーバンクルは一目散にベッドに行き、眠りについた。



「明日は昼に此処を出よう」

「朝じゃないんですか?」

「飛んで行くから昼で構わない」

「飛んで?何か特別な乗り物に乗って行くんですか?」

「私が龍体化し近くの森まで飛んで行く」

「え?大丈夫なんですか?もしリュカさんが密猟者に狙われたら…」

「心配はいらないよ。密猟者には見つからない高度で飛ぶ。それに、このままのペースで行けばベガスドキュール帝国に到着するのに3年はかかる。コハルとの旅は好きだが、そろそろ誰にも邪魔されずにゆっくりと過ごしたい」

「さ、3年!?そんなに遠いんですか!?」

「そうだよ。魔国の東の果てにある国だからね」



 小春は遠すぎる距離に驚き、リュシアンの後半の言葉は耳に入っていない。

 その事にムッとしたリュシアンは会話を切り上げ小春を後ろから抱きしめた。そして彼女の肩に顔を埋め、ペロッとひと舐めする。



「ひャァッ!?なっなななな」

「ふふっ。鼓動が早くなったな」

「リュカさんが変な事するからですよ!」

「焦らされるのは好きじゃない。だが、此処では抱かないから少しだけ触れさせて」



 リュシアンはそう言うと小春の耳や首筋を味わうように嘗め始めた。

 本来は甘噛みして愛情を示したいところだが、彼女の肌は柔らかすぎるため出血する恐れがある。そのため理性で必死に欲を抑え込み、この程度で我慢した。


 リュシアンの熱を孕んだ吐息に小春は身をガチガチに固くし、耳まで真っ赤にして心の中で『心頭滅却!悪!即!斬!早く終われ破廉恥タイム!』と唱える。その姿に気分を高揚させたリュシアンは、最近知ったばかりのキスマークを彼女の項に付け、名残惜しそうに腕の中から解放した。

 因みに此処では抱かないと言ったのは小春の初めてを自身の邸でゆっくり味わいたいからで、それを知っている世話師猫は抱っこされたまま、顔から湯気が出そうなほど赤面し耐えている彼女の顔をジーっと最後まで眺めていた。




 翌日、いつものごとくリュシアンに抱きしめられたまま眠りについていた小春は目を覚まし、彼を起こさないよう腕の中から出る。しかし温もりが消え目を覚ましたリュシアンは、風魔法で彼女を引き寄せた。そして朝から喉を鳴らし甘え始める。

 最近のリュシアンはこうやって小春に甘える事が多い。それは道中に小春が発した『デレ』という言葉を実践しているからだ。事の発端は世話師猫の抱っこ癖から始まる。



「また抱っこ?」

「にゃ!」

「文二は甘えんぼだなー」



 小春は困った顔をしながらも抱き上る。それを見ていたリュシアンは眉を顰め、世話師猫に『コハルはただでさえ疲労しやすいのだから己の足で歩け』と伝えた。



「これくらい大丈夫ですよ」

「だが、重いだろう」

「魔法で体重軽くしてくれてます」

「そうか…」

「リュカさんって、デレるの下手そうですよね」

「でれ、とは何だ?」

「甘えるという意味です」



 リュシアンは足を止め、視線を世話師猫に向け思案する。



「どうしました?」

「練習する」

「そうですか。頑張ってくださいね。応援してます」

「ああ。コハルには練習相手になってもらう。さて、どう甘えようか」

「え!?私ですか!?結構です!大丈夫です!間に合ってます!」

「そう遠慮するな。私は“デレ”もマスターしてみせる」

「うわー余計な事言んじゃなかった!」



 このような経緯でリュシアンは小春限定で甘えている。 

 小春は朝から己のキャパを超える程の愛を受け、『これはデレとは違うような?』と思いながらも彼の気が済むまで付き合った。

 満足したリュシアンは身支度を整え、髪を結ってくれと小春に頼む。以前のように髪を短くしないのはこの時間を気に入っているからだ。



「リュカさん出来ましたよ」

「ありがとう」

『おなかすいたー』

「某もにゃ」

「近くに店があったな」

「じゃあテイクアウトしてきますね」

「待て。私も行く」



 カーバンクルと世話師猫は留守番し、二人だけで朝食を買いに出掛ける。

 テイクアウトした料理はワイルドベアーの塩茹で肉とパスタで、小春の口にはどれもしょっぱ過ぎたため残した物はカーバンクルが全て食べた。


 ヒト族の国を出たあとリュシアンは森の中で龍体化し、小春を掌に乗せて空高く飛び上がる。世話師猫とカーバンクルも彼の掌の中だ。

 小春は久々のドラゴンに興奮し、リュシアンの鱗に頬をくっつけて遊び始めた。



「いつ見てもリュカさんの鱗って綺麗。それにスベスベ~。ひんやりしてて気持ち良い」

「にゃ~」

『リューシーのうろこキラキラ~』



 小春をマネて二匹も遊び出す。

 それを止めるようリュシアンは念話で彼らに話しかけた。



『コハル、くすぐったいから大人しくして』

「すみません。余りにも気持ち良くて」

『気持ち良い…か。流石にこの姿でコハルと(くな)ぐのは難しいな』

「くなぐ?ってなんですか?」

龍の国(ルシェール)に帰ったら飽きるほど教える』



 気分を良くしたリュシアンは翼を大きくはためかせスピードを上げる。

 彼の手の中は魔法障壁が張られているため強風の影響は受けない。それどころか快適な環境だ。そのため世話師猫は鞄からジュースやら菓子やらを出し、ピクニック気分で空の旅を楽しんでいる。



「リュカさんお腹空きませんか?」

『雲を食べているから空かないよ』

「美味しいですか?」

『ここらへんの雲はまぁまぁだ。そろそろ降りるからコハルはブンジに捕まって』

「はい」



 かなり飛ばして飛行していたせいもあり、もうすぐヴァンパイアの国(ベガスドキュール帝国)付近の森に到着する。世話師猫は散らかしていた食べ物やティーカップを片付け、カーバンクルは小春の肩に乗った。小春は言われた通り世話師猫を抱きしめる。


 次の瞬間、彼女は臓器がふわっと浮くような感覚に襲われ、龍体化を解いたリュシアンと共に地上に落下していった。



「うわぁぁああああああああああ!しぬぅぅううううう!」

「地面に着く前に浮遊させるから死なないよ」

「今!今浮遊させてくださぃいいい!魔法!風魔法ぉぉおおおお!」

「んにゃぁぁあ~」

「今使用すると地上に降りるまでに時間がかかる。このまま重力に任せて落下した方が手っ取り早い」

「キューー!」



 叫びながら落ちて行き、前述の通りリュシアンは地面に激突する前に小春らを浮遊させた。



「こ、怖かった」

「にゃっはっは」



 世話師猫は楽しかったようで森の中をスキップしている。対してカーバンクルは怖かったようで小春の肩にしがみ付いている。


 

「今日は此処で野宿しよう」

「待ってください。まだ心臓がバクバクいってます」


 

いつも読んでいただきありがとうございます!

イイネやブクマもありがとうございます(*´ω`)

誤字脱字報告も助かってます。ありがとうございます;つД`)

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