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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第一章 いざ行かん、龍の国
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感じた違和感



 お祭り初日とあってか、この宿屋の一階にある食堂も大変賑わっている。大福には申し訳ないが出店で買ったブルーベリーと木の実を渡し、私達は夕食を取りに一階へ降りた。

 丸いテーブル席は全てお客さんで埋まっており、カウンター席にも人が沢山座っている。

カウンター席の両端には大きくて厳つい獣人族の男の人が座っており、今日は真ん中に座るしかなさそうだ。



「リュカさん残念でしたね」

「仕方ない、隣が男なだけマシだ」



 空いている真ん中のカウンター席に座ると、リュカさんが注文を始めた。

 エールとヤウールと、後は聞いた事のない料理名だった。数分もしない内に料理が運ばれてきて、一つは赤みのお刺身みたいな盛り合わせで、もう一つは薄切りお肉とサラダが一緒になった食べ物だった。食べてみると、豚しゃぶサラダみたいで美味しかったが、如何せん味が濃い。三口目でギブアップしてしまい、赤みのお刺身を食べようとしたら、リュカさんから二切れしか食べてはならない、と謎の注意を受けた。

 そんなにお腹が空いてないから別に良いけど、リュカさんはこのお刺身が好きなのかな。私が二切れ食べたとしても、ざっと見てまだ十切れ以上は残る。



「このお刺身好きなんですか?」 

「嫌いではないが、好きでもない」 

「じゃあ何で私は二切れしか食べちゃダメなんです?」

「この刺身はほんの少しだけ魚の毒を残し、舌や唇の痺れる感覚を楽しむという料理だ」

「な、何でそんな恐ろしい料理頼んだんですか!?」

「悠久の時を生きているとたまに刺激が欲しくなる、というのは冗談で、コハルに色んな料理を食べて欲しいからだ」

「リュカさんは冗談が下手です」

「そうだろうか?」




 因みにヒト族以外の者は、この魚に対して耐性があるが、ヒト族はこの魚の刺身を十切れ以上食べると致死率100%で死ぬらしい。という事でリュカさんの紳士的?な配慮で私は二切れまでみたいだ。怖かったのでビクビクしながら一切れだけ食べたみた。しいて言うならば、スーパーで最後まで売れ残って半額になったマグロの赤身を、強炭酸水で一日漬け込んだような味だ。要はあんまり美味しくないという事だ。

 

 あまりにも私がご飯を食べないので、追加で何か頼むかと聞かれたが、もう色んな意味でお腹いっぱいなので遠慮した。リュカさんは見た目に似合わず結構食べる。最後に、大福用にワイルドベアーの蒸し焼きをテイクアウトし、私達は借りている部屋へと戻った。

 

 リュカさんは食事中もフードを被っており、隣に座る獣人族の男性から女性と勘違いされ口説かれ始めた時は、笑いを堪えるので必死だった。リュカさんの手の甲はスベスベで美しいけど、掌は剣を持つせいかちゃんとゴツゴツしている。手の甲だって男らしく骨ばっているのに、所作が綺麗すぎるせいか、時たま女の人に間違われている。


 そして、此処の獣人族の方達には、私が男の子に見えているらしい。部屋に戻る前に少しだけ話しをして仲良くなった獣人族のおじさんから「じゃあな坊主~」と手を振られた。私はちゃんと胸だってあるのに!身長も160㎝あるかないかくらいなので、決して低くはないと思う。が、獣人族の方からするとチビなのかもしれない。

 

 


 部屋に戻り大福にテイクアウトした料理を渡すと、がっついて食べ始めた。

 シャワーは先にリュカさんへ譲り、私は後から入る。

 男の子に間違われた事に若干、いや、かなり?落ち込んでいたらリュカさんが色気ムンムンでシャワールームから上がってきた。髪はちゃんと乾かしている。やっぱりあのハゲ発言を気にしているのだろうか。



「リュカさん、私ってこの世界では男の子みたいなんですか?」

「?そんな事はないと思うが」

「じゃあ何で間違われたんでしょうか」

「それは私がコハルに認識阻害の魔法をかけているからだろう」

「え、何ですかそれ。初耳ですよ」

「だろうな。初めて伝えた」

「ほう・れん・そう!大事ですよ」



 この部屋に男女二人で泊まるにあたって、リュカさんがしれっと私にいつの間にか、他人から男の子に見える様、魔法を掛けていたらしい。だから部屋のドアも完全に閉めているんですね。腑に落ちないような、そうでないような。しかし、ちゃんと女性に見えている事には安心した。



 シャワーを浴びながら考える。

 この世界の人は髪色がとっても豊富だ。今日もピンク頭や、黄、赤、緑と色んな髪色をした人がいた。黒髪も二人くらい。瞳の色も同様だ。私みたいに黒髪黒目の人には出会わなかったけど、そもそも髪色と瞳の色が一緒の事自体が珍しいらしい。リュカさんみたいに髪色が二色の人も珍しいらしいが、この世界では髪色と瞳の色が近ければ近い程、魔力量が多く、人攫いにも狙われやすいらしい。

 だから私は気を付けなければならない。

 リュカさんに護身術教えてもらおうかな。



 そういえば、今日、初めてリュカさんの不機嫌MAXなお顔を見た。綺麗なお顔の人って、何で怒るとあんなに怖いんだろう。女性が苦手…なんだろうか。じゃあ一緒に旅をしている私の事も、実は苦手?いや、でもそんな素振りは見た事がない…と思う。

 森の中で私が転びそうになった時も助けてくれたし、ぼろぼろの木で出来た、いかにも落ちそうな橋を渡る時、「押すなよ」と三回言われたので、フリかと思った私が三回目にリュカさんの背を押し、川に落ちた時も怒らなかった。うーん、男の子に見えている訳でもない…とすると。

 もしかして…。

 私のこと珍獣か何かと思ってる?

 ありえる。ありえるよ。

 だって私は異世界人だし、珍しい神獣や精霊、カーバンクル、世話師猫などとよく遭遇している。リュカさんは感覚が麻痺してしまって私を珍獣もしくは珍種の異世界人だと思ってるんだ。

 

 そういえば、森の中で珍しい木の実があると手ずから食べさせてくれていた。私はドキドキしていたけど、あれはリュカさんからしたら餌付けだったのかな…。思い返してみれば、大福と同様に私を扱っている節がある。

 

 ま、まあリュカさん龍だし、紳士かと思えば急に鬼畜ゴリラになるから別に意識なんかしてないけど。してないけど、何か…モヤっとする。




 髪を乾かして保湿クリームを身体に塗り、化粧水で肌を整えてからシャワールームを出る。

 ベッドには大福を撫でながら寛いでいるリュカさんが座っていた。


 貴族様なリュカさんに床へ寝てもらう訳にはいかないので、私が床に座ろうとしたら腕を引っ張られた。

 そしてリュカさんの膝に着地する。



「何をしている?」

「床で寝ようかと」

「何故?」

「え?」




 リュカさんは初めから二人でベッドに寝ようと思っていたらしく、大福を私に預け、リュカさんが壁側に寄り、私を後ろから抱きしめる様なかたちでゴロンと横になった。

 ん?んん?

 距離感おかしくないですか。

 色々おかしくないですか?


 リュカさんは疲れていたのか、すぐに後ろから寝息が聞こえてきた。私も大福を腕の中に抱きかかえ後ろにいるのはじゃがいも、後ろから良い匂いがするけどじゃがいも、と自分を騙しながら眠りについた。




―――――――




 翌朝、目を覚ますと眼前にはリュカさんの綺麗なご尊顔があった。近っ!!

夜中寒かったのか、彼は私をしっかりと足まで絡ませ抱きしめている。身動きが取れない為、仕方なく、仕方なく頭突きをしてリュカさんを起こす事にした。 

 

 えいっと自分の頭をリュカさんの額目掛けて頭突きをし、ゴッと鈍い音が鳴る。機嫌をとる準備と、謝る準備はバッチリです。なので起きてください。



「ッ!?」

「おはようございます。本日はお日柄も良く晴天に恵まれ」

「こんな刺激的な起こし方をされたのは初めてだ。しかも外は豪雨だ」

「あ、本当ですね。あはははは」

「ふふふふっ覚悟はできているか?」

「すいませんでした!」




 そもそもリュカさんが私を抱きしめて寝ているのが悪いはずなのに…。

 リュカさんは朝から超絶美しい笑みをたたえながら私の頬っぺたをぐいーっと伸ばしてきた。カーバンクルの大福は私とリュカさんがじゃれているのだと勘違いをして自分の頬っぺたをぐいぐい伸ばしている。可愛い。

 

 今日もちょっとだけ見た目に違和感のあるリュカさん。もしかして日に日に美しさが増しているとか?あり得なくもない。


 

 朝食を一階の食堂で軽く済ませ、部屋に戻る。

 この宿屋の一階の壁には馬車の行程表があり、明日の朝5時から私達が行こうとしている国行きの幌馬車が記載されてあった。


 外は雨なのでお祭りは中止だ。

 する事もなく私はベッドの上で大福と遊び、リュカさんは椅子に座って魔石をカフス状に変形させている。

 魔石はリュカさんの掌で浮き、高熱で焼かれた金属の様に形をどんどん変えていく。不思議な光景だ。



 何故だろう。宿屋に泊まっているはずなのに、あんまり疲れが取れない。むしろ暴れ鳥のシチューを食べた時の方が、身体の疲れも取れてぐっすりと眠れていた気がする。

 リュカさんに不思議に思っている事を伝えると彼もそう思っていたみたいで、あの時作った暴れ鳥シチューの調理方法を教えてくれと言われた。



「特に変な物は入れてませんよ、じゃがいもと暴れ鳥のお肉、人参ぽいものと玉葱。それとローリエですね」

「ローリエを入れたのか?」

「はい。香り付けやお肉の臭みを消す効果もあるので」

「…それだろうな。ローリエを入れて煮込むタイミングや時間が良かったのだろう。ローリエは魔力増強ポーション、体力回復ポーションによく使われる葉の一種だ。コハルはかき混ぜながら自然と魔力を注いでいたのではないか?」

「そうなんですかね?美味しくなりますようにと思ってかき混ぜていただけなので、よく覚えていません」

「また野営する時にでも作ってみよう。しかしローリエには癒しをもたらす効果はなかったはずなんだが…」

「癒し?ですか?私は特に感じませんでしたよ」

「そうなのか?」




 私とリュカさんでは感じた内容が違うみたいだ。種族が違うからかな。

 明日は朝が早い為、今日は出来るだけ前倒しで行動する事にした。





癒し効果は勝手にリュシアンが感じただけで、ローリエにそんな効果はない。

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