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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第四章 戻ってきました、龍の国
108/125

ステータス オープン!



 この世界について、私はまだまだ知らない事が沢山ある。

 今は妖精さんの中に居るので、鬼人族の国(アマノミカヅキ)に到着するまでリュカさんが勉強会を開いてくれる事になった。



「僕も参加して良いかな」

「別に構わないが、基礎的な事しか話さないぞ?」

「うん。構わないよ。僕はリュシアン君が話す授業を聞いてみたいんだ」

「ヴェルゴナさんって変わってますね」

「そうかい?」

「だってリュカさんの授業を受けてみたいなんて、尋常じゃないです」

「それはどういう意味だコハル」

「すみませんでした。だから頬を抓ろうとしないでください」



 リュカさんの座学は眠くなる。だって話が長すぎる。


 ヴェルゴナさんが魔法で長椅子を出し、其処に着席する。左から文二、私、大福、ヴェルゴナさんの順で座った。今日は貴族についての授業で、復習も兼ねて問題も出すと言われた。リュカさんの授業の何が嫌かってこの問題だ。ひねりが加えられすぎて正解したためしがない。まぁ普通の問題でも正解率は30%以下だけど。


 まず、この世界には貴族がいる。

 だから御貴族様に失礼がないよう振るわなければならない。でもそれは種族間によって異なる。

 例えば龍族や魔族、エルフ、鬼人族、ドワーフのような長寿種族には、全種族の誰もが失礼の無いよう振る舞わなければならい。だけど寿命の短いヒト族の貴族にはそれが適応されない。理由は長寿種族が寿命の短い種族の事をいちいち覚えていられないからだ。勿論ヒト族同士の間では貴族間でのやり取りを行う場合、それ相応の振舞いをしなければならない。



「コハル、獣人族の場合はどちらか覚えているか?」

「えーと、獣人族の貴族にも全種族が失礼のないように振る舞わなければならない?」

「残念。違うよ。『獣人族も短命種族と見なされ適応されない』が正解だ」

「でもヒト族より長生きなんですよね?」

「全ての獣人族がそういう訳ではない。兎族はヒト族よりも短命で平均寿命が100歳だ」

「長生きですね」

「コハルの感覚からすれば全ての種族がそうだろうね。では話を戻すよ」

「はい」


 

 その後は長寿種族が何故、短命種族の貴族に貴族的な振舞いをしなくて良いのかを教えてもらった。理由はすぐ没落したり、剥奪されたり、死んだりするからで、いちいち記憶してられないからだった。でも長寿種族は短命種族の国の王が誰かくらいは辛うじて覚えているらしい。それくらい長寿種族にとって短命種族の命は短い。

 他にも長寿種族は種族ごとにそれぞれ国が一つなのに対し、ヒト族や獣人族は何百とある。だから長寿の彼らからすれば短命種族の国はしょっちゅう滅んではまた新たな国を生み、新たな貴族が減っては増え、を繰り返しているようにしか見えないらしい。なので国名を覚えるだけでも精一杯だそうだ。


 私からしてみれば平均して120歳まで生きられるこの世界のヒト族はかなりのご長寿枠に入る。だけど長寿種族にとっては瞬きの間なんだとか。

 未だに自分の寿命が延びた実感もないし、感覚も沸かないけど、私もリュカさんと婚姻を結んだので長寿種族の枠に入る。だから時間が空いている時は、こういった年に関わる授業が多く行われている。

 


「じゃあ僕からリュシアン君に問題」

「良いだろう」

「ソーデンガナ国の前の国名は何だったでしょう?」

「キーテマンガナ国だ」

「正解。流石だね」

「だが100年前にその国も滅び、今はデンガナ帝国が築かれている」

「そうなのかい?これは一本取られたね。はぁ、本当にヒト族の国はすぐ名前が変わるね。ソーデッシャッロ国と間違えていた頃が懐かしいよ」

「似たような滅び方をし、隣国に乗っ取られた国だからな。よく試験に出る問題だ」



 何それ。

 もう本当に意味分からん。

 長寿種族の貴族名だけでも覚えるのが大変だというのに…。

 それにしても既に滅んだ国の名前と今ある国の名前の両方を憶えているリュカさんの記憶力が凄まじい。私なんて徳川15代将軍の名前を一代目と五代目しか覚えられなかったのに。


 凹んでいると文二が私の肩を優しくポンポンと叩いた。

 ありがとう。そのふわふわなお手々にすっごく癒されるよ。


 大まかな貴族についての話が終わるとリュカさんが氷魔法でソファーを作り出し、私に休むよう促した。



「まだ大丈夫ですよ。元気いっぱいです」

「駄目だよコハル。もう休みなさい。妖精の中は外とは違う時間が流れている。外はもう深夜だ」

「そうなんですか!?どうりで中々陽が沈まない訳だ」



 リュカさんとヴェルゴナさんと文二はまだ起きているようで、ヴェルゴナさんが妖精のコルルに『夜に切り替えてくれるかい』と声を掛けると、夕焼けだった空が満天の星空に切り替わった。

 大福が欠伸をし、私も続けて欠伸をする。ビーチチェアでひと眠りしようと長椅子から立ち上がると、リュカさんが私の頭に手を乗せてきた。そこからふにゃ~と眠気が襲ってくる。昔アニメで見た、眠りのなんちゃらのおっちゃんもこんな感じで睡魔が襲ってきていたのかもしれない。そんな事を考えながら私は意識を手放した。

 


***



 リュシアンに頭を撫でられ強制的に眠りにつかされた小春は、氷で出来たソファーに優雅に座る彼の腕の中に居る。その様子を見てヴェルゴナは微笑む。

 世話師猫の文二はコハルに洗浄魔法を掛け髪を梳かしており、カーバンクルの大福はリュシアンの肩で高級なファーの様な状態で眠りについている。



「コハルちゃんのこと、本当に凄く大事にしてるね」

「軽度の麻痺状態になっていたからな」

「麻痺だって!?まさかっ、あのゴーレムとの戦闘で呪いを受けたのかい!?」

「いや、これはニンゲンの体質だ」

「体質?」

「同じ姿勢を取り続けていると、体が痺れる症状が出る」

「そんなっ、それじゃあ生まれながらにデバフを受けているようなもんじゃないか!」

「そうだな。私もそう思う」



 リュシアンはこの世界にステータスなるものがあるという事を小春に教えていない。それは彼女が自身のステータスを見た時にショックを受けないか心配だからだ。

 彼が小春のステータスを見たのは初めて出会った頃で、洞穴で彼女が眠っている時にこっそりと盗み見た。通常であればステータスをロックしている者がほとんどだが、小春はその存在自体を知らなかったため誰でも閲覧できる状態にあった。だがリュシアン程の強者であれば相手がロックしていようがいまいが強制的に解除する事ができる。


 彼女の今のステータスはリュシアンが細工を施しており管理している。その為もし誰かに見られてしまっても、全ステータスを見られる心配はない。見られたくない項目の上には*マークが付いており、他人からは空欄に見える。



「リュシアン君、婚姻の儀をしたという事はコハルちゃんのステータスを見たんだろう?まぁ、君くらいの練度があれば儀式をしなくても見られるだろうけど」

「コハルには伝えていないが、出会ったばかりの頃に一度。あとは定期的に確認している」

「そうなんだ」



 リュシアンは一呼吸し、何もない空間に手を翳す。



「デルヴァンクール家の名において彼の者のステータスを開示せよ。コハル・デルヴァンクール、ステータスオープン。限定解除」

「こ、これは!?」

「これがコハルのステータスだ」



 ヴェルゴナの目の前に石板が現れる。

 そこにはコハルのステータスがびっしりと書かれてあった。



名前:コハル・デルヴァンクール(旧姓トウゴウ)

種族:ニンゲン

出身国:日本*

家族構成:父、母、兄、弟

夫:リュシアン・ヴァンディファ・デルヴァンクール

保護者:世話師猫*

従属:漆黒(ヴァンプール)(ドラゴン)

眷属:カーバンクル

タイプ:支援、回復

生命力:40/50

魔力:9,999,999*

固有スキル:ã?ãƒåŒ–ー

初級魔法:風、土

上位魔法:なし

最上位魔法(神からの祝福)*:古の御業*

精霊加護(祝福):あり*

状態異常:軽度の麻痺

毒耐性:なし

種族葬術(そうじゅつ):なし

貸し借り:なし

負債額:なし



「何故僕にコハルちゃんのステータスを!?というか何だこの生命力の少なさは!」


「これでも出会った頃よりは5倍増えている」


「これでかい!?」


「そうだ」


「いやいや待ってくれ、おかしいだろう!?5倍って事は元々は10って事かい!?なんて事だ!生まれたばかりのヒト族でも1000はあるというのに…。50なんて下手したら、躓いて転んで打ち所が悪かったら死んでしまうくらいのレベルだよ?!」


「そうだ」


「そうだって…それに、麻痺のせいで生命力が40になってるじゃないか!弱すぎるにも程がるだろう!?ニンゲンとはこんなにも弱い種族なのかい!?」


「他にも動き過ぎると筋肉痛というデバフが掛かる」


「キンニクツウ?」


「筋肉が炎症を起こし痛みを引き起こす現象だ」


「呪いの一種だろうか」


「いや、ニンゲンの体はそういう構造で出来ていると言っていた。私も初めて見た時は誰かから呪いを掛けられているのではないかと疑ったよ。でも実際にはその場に怪しい者はおらず、コハルのステータスを確認したら呪いではなく麻痺状態になっていた」


「彼女は、今までどうやって生きてきたんだ…」


「さぁな。私もそれが知りたい」




 リュシアンはヴェルゴナの事を信用しており、妻である小春のステータスを見せた。

 だが他にも理由はある。


 


「リュシアン君。何故僕に彼女のステータスを見せたんだい?」


「コハルの魔法を見て疑問に思っていただろう」


「まぁ、そうだね。正直コハルちゃんの力量であの魔法を操る事は不可能だ。土属性には強い適性があるようだけど、水属性魔法はからっきしだよね?なのに蔦や蔓をあそこまで異常な速度で成長させ、花まで咲かせていた。リュシアン君が教えていたとしても、精霊の加護(祝福)あったとしても、これは異常な事だよ。それにあの生成スピードは上級魔法以上のレベルだ。何よりゴーレムを拘束していた力が僕達よりも彼女の方が上というのはおかしい。あれには、何か特別な力が宿っていたんじゃないかい?」


「魔族相手に隠し通せるとは思っていなかったが、そこまで見破っていたのか」


「じゃあ、やっぱり何か裏があるんだね?種族によるものかい?」


「それは違う。だがまだ詳しい事は言えない。ステータスを限定解除したのはコハルが使った魔法について探りを入れさせない為だ。君は気になった事はとことん調べる質だろう?」


「ふふ、よく知ってるね。その通りだよ」


「だからだ。ヴェルゴナの言う通りコハルが習得している魔法だけであの拘束魔法は成立しない。あとは()の勝手な思いだが、ニンゲンという種族を知って欲しい。そう思ったからコハルのステータスを見せた」


「そうなんだね」




 リュシアンは眠っている小春の頭を撫で視線を落とす。そして再び視線をヴェルゴナに戻した。




「ニンゲンという種族を言葉で説明するよりも、触れた方が理解が早い」

「良いのかい?」

「壊れ物のように、優しく頼む」

「分かった」



 ヴェルゴナはリュシアンの言った通り壊れ物に触れるよう、そうっと小春の腕に触れた。そして感触を確かめるように優しく握る。



「こ、これは一体どういう事だ!?コハルちゃんの腕がっ」

「これがニンゲンの腕だ。コハルが特別弱い訳ではない」

「なんてか弱いんだっ。いや、これは脆いと言った方が良いのか?」

「もろもろのよわよわにゃ」

『だから皆でコーを守ってるんだよ!』


 

 世話師猫の文二も会話に交ざり、先ほどから大声を連発していたヴェルゴナの声に起きてしまった大福も参加する。



「こんなにも儚い種族がいたとは驚きだ。鑑定眼を使っても呪らしきものは見当たらないし、なんてことだ…。これほどまでに髪色と瞳の色が近く魔力量も豊富なはずのに、何故コハルちゃんはこんなにも儚いんだ…」


「コハルは生命力が極めて低い。一撃でも攻撃魔法を食らえば即死だ。いや、攻撃でなくても即死だが…」


「それって毒や呪いでもって事かい?」


「ああ」


「にゃ。精神攻撃もにゃ。食らえば一発で廃人にゃ」


「そんなっ…。リュシアン君。僕は守る戦いには慣れている。だから何かあったらいつでも遠慮なく呼んでくれ」


「恩に着る。できるだけ自分の手で守りたいが難しい場面もいつか来るかもしれない。その時は頼む」


「うん。分かった」



 リュシアンは他にも自分が知っているニンゲンの知識を伝え、世話師猫も補足説明に入った。

 特に状態異常の中でもストレス耐性が弱い事などを話し、歴史を話すうえで映像のようなものはコハルに見せないでくれと話した。



「そういえばコハルちゃんのステータスには年齢が表示されていないね」

「それは私も思った。バグか?」

「そうではないにゃ。コハルが住んでいた国では年の数え方が二種類ある。それゆえ表示されないのにゃ」



 世話師猫はそう語るが、もう一つ理由がある。

 それは違法な手段でこの世界に召喚されたからだ。そのため小春のステータスはこの世界の住人と仕様が違い、極端に生命力も低い。

 以前ボラギンで召喚された三田尻 亜加は正式な方法で召喚されていたため、彼女の生命力は約1万近くあった。コハルがこの世界において非常に脆く儚い存在になってしまったのは、世話師猫のせいである。彼が違法な手段で呼んだばかりに彼女は環境に適さない体のまま異世界に飛ばされてしまったのだ。また、ステータスに表示される項目は誰もが同じという訳ではない。



「それにこの文字化けは何だろう。リュシアン君は読めるかい?」

「ヴェルゴナもか。私も読めない」

「て事はコハルちゃんにしか読めないのかもね」

「それは違うにゃ。コハルが固有スキルんにゃぁ~」

「ダイフク、通訳を頼めるか?」

『任せてリューシー!ブンジはね「解放条件をクリアしておらぬゆえ文字がおかしくなっておる」って言ってるよ』

「なるほど、そういう事か」

「僕にも教えてくれるかい?」


 

 大福との会話はカーバンクルの額の中にあるリュシアンの鱗でやり取りをしているため念話だ。彼の鱗を所持している小春も聞き取ることができるが、ヴェルゴナは持っていないためカーバンクルが「キューキュキュッ!」と鳴いているようにしか聞こえなかった。



「へぇ。そういう事だったのか。でも解放条件って何だろうね」

「私も初めて聞く」

「某もである」

『僕も!』



 ヴェルゴナは顎に手を当て考える。

 それは文字化けについてではなく、小春のステータスについてだ。一方的に自分だけが見て知っているのは不公平では?と考えている。

 魔族には紳士的な男性が多く、彼もその内の一人だ。そのため小春が起床したら自身のステータスを見せようと閲覧制限と隠したい内容の変更を始めた。しかしそれはリュシアンによって止められる。彼は小春にステータスの存在自体、まだ伝えるつもりはないらしい。まぁ、他にも理由はあるだろう。

 最終的にヴェルゴナは自分の口から直接伝える事に決め、操作を止めた。



 妖精のコルルが外の時間帯に合わせ、体内を朝焼けに切り替える。

 その光に小春は目を覚ました。

 


「んっ」


「おはよう。コハル」


「んにゃー」


『おはようコー!お腹空いた!』


「おはようございますリュカさん、文二、大福」


「おはようコハルちゃん。聞いて欲しいことがあるんだ」


「おはようございますヴェルゴナさん。なんでしょう?」


「ありがとう。僕の名前はヴェルゴナ・F・エドモン。Fはフルリボンの略称で、あんまり知られたくないから普段は隠してる。種族は魔族で、年齢は4,293歳。家族構成は父、母、兄、妹。僕は真ん中ね。あとは知っての通り元近衛騎士零番隊隊長で今は夢見るハンドメイド作家。他に知りたいことはある?何でも聞いて」


「え?いきなりどうしたんですか!?ていうか、よ、よんせん歳!?」




 小春は起床後すぐにヴェルゴナのマシンガントークを食らい目を点にする。そして年齢を聞いて数字の多さに目を見開いた。


 


「ふふ。思ったより上だった?僕はよく童顔って言われるんだ。リュシアン君よりも年齢は上なんだよ」

「え?じゃあリュカさんは3000歳くらいですか?」

「…言わない」

「もしかして年齢のことコハルちゃんに言ってないのかい?」

「ああ、そうだ。だから止めたんだ」

「ごめん、ごめん」

「もういっそのこと今此処で言っちゃいましょうよ」

「断る。聞けば絶対コハルは私を爺扱いする」

「しませんって」

「それに関しては信用できない」

「えええー」

「日頃の行いのせいだよ」

「ぐさぁっ」


 


ブクマとイイネ、評価も増えてる!?ありがとうございます!ありがとうございます!

誤字脱字報告もありがとうございます!本当に助かります(;´Д`)

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