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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第四章 戻ってきました、龍の国
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カタクリ王国からの脱出


 

 それぞれが質問し終わった後、国王から転移門を壊してくれと頼まれた。リュカさんはそれを了承し一撃で破壊する。すると魔動機から『全プログラム破壊モード起動』と音声が流れ、隠し部屋にある全ての魔動機とゴーレムが爆破された。もちろんホログラムも消えている。

 その爆発のせいで遺跡全体が崩れ始め、天井からは大きな岩が落ち、揺れも酷くなった。



「リュシアン君。急いで此処から出よう」

「おいでコハル」

「はいっ」



 文二と大福を抱え、リュカさんの手を取る。

 オートマタは?と振り返ると私達を見つめたままその場から動かないでいた。



「オートマタさん早く!」

「私ハ、此処ニ残リマス」

「えっ」

「コレヲ、ドウゾ」



 私が立ち止まったことによりリュカさんも足を止める。

 オートマタは自身の額に触れ、そこから小さな正方形のチップを取り出しリュカさんに渡した。そのチップには“親愛なる息子へ”と文字が刻まれている。

 


「ソレハ、私ノ記憶。アナタニ、託シマス」

「お前は、この国の王子だったのか」

「ハイ。父ト共ニ、コノ国ニ、眠リマス」



 遺跡の崩壊が激しくなり、ヴェルゴナさんが私達を呼ぶ。

 爆破と先ほどまでの戦闘の影響のせいでどんどん遺跡が崩れていき、オートマタは上から落ちて来た岩に押し潰された。それを見届けたあと、私はリュカさんに抱えられて隠し部屋から脱出した。


 あのオートマタは、この国の王子様だったんだ…。

 という事は、もしかして、オートマタさんが開けた魔動機の中に入ってたマスターって国王様だったんじゃ…?



「リュカさん!」

「今は脱出が先だ」

「コルル!僕たちを飲み込んで!」

『ガッテン』



 妖精のコルルがヴェルゴナさんの内ポケットから飛び出し、私達を飲み込んだ。



***



「っと」

「ふぅ、これで一先ず安心だね」



 リュカさんに抱きかかえられたまま見覚えのある南国風のビーチに着地する。

 此処は妖精さんの中だ。 



「リュカさんの転移魔法で脱出しないんですか?」

「しても良いが、妖精に任せた方が楽だ」

「どういう事ですか?」

「己の魔力を消費せずに済む」

「なるほど」



 妖精は私達とは違い独自ルートを進む事ができる。だから崩れてくる遺跡に潰される事はないらしい。分かったような、分からないような。いや、やっぱりよく分からない。

 あれかな。小さい頃にテレビで見た猫型バスが走ると木々が勝手に避けてくれるあの現象かな。うん。たぶんそうだろう。そういう事にしておこう。だってこの世界の常識にいちいち何で?どうして?と疑問を抱き始めたらキリがない。だから無理矢理納得するしかない。


 私が必死に理解を深めている間、リュカさんとヴェルゴナさんはオートマタから受け取ったチップの解析をしていた。そして沢山の事が解明した。やっぱりあの魔動機の中で眠っていた骸骨は国王様でホログラムの人だった。

 あのホログラムは生前撮ったもののはず。なのに魔動機の中で亡くなっていた骸骨(姿)にそっくりだった。私がホログラムを見た時に何か見覚えがあると思ったのはこれだったのか。オートマタが言っていた通り本当にこの人は生前も骸骨のような見た目だったんだ。


 彼は自分が発明した対龍族用兵器の作成図を誰にも盗られぬよう守って生涯の幕を閉じた。そうリュカさんが教えてくれた。他にも色々話してくれたけど、内容が難しすぎてあんまり覚えていない。

 覚えているのはカタクリ王が最初は真面目に兵器となる武具を作っていたけど、どうせ完成した後は自分も殺されるだろうと悟り、最終的に欠陥だらけの作成図を作り上げてそれをリザードマンに渡した事くらいだ。

 でもそれがリザードマンにバレるのは時間の問題で、いつか本物の図案を彼らが探しに来るだろうと思った彼は魔動機型シェルターを作り、その中で本物の図案を抱いて永遠の眠りについた。

 魔動機型シェルターを開ける鍵をオートマタにしたのは、そのオートマタが(自分)の息子だったから。そして王子がオートマタになってしまったのは暗黒時代に他国との戦争で死傷し、その亡骸を国王自らがオートマタ化したからだ。



「でも、やっぱりこの王子(オートマタ)を起動させた犯人が分からないままだね」

「そうだな。さて、これからどうするべきか」

「あの、一つ質問良いですか?」

「良いよ」

「どうぞ」

「ありがとうございます。今って一体何処に向かってるんですか?」

「ああそれはね。アマノミカヅキだよ」

「鬼人族の国?ですか?」

「うん。だってコハルちゃん達はコルルが勝手に連れ出してしまっただろう?だからきっとあちらでは不法出国扱いになっているはずだよ」

「え!?」

「アマノミカヅキでは出入国の際に鬼の試練を受けなければならない事は知ってるかい?」

「はい」

「そのルールを破ってしまったから僕も顔を出して謝ろうと思ってね」

「そうですか。先に帰った温羅さんは大丈夫でしょうか」

「温羅?それはコルルがリュシアン君と間違えて連れて来てしまった者の名かい?」

「はい。温羅ヨツバヒメさんです」

「温羅ヨツバヒメ、どこかで聞いたことがある名だ」

厄除縁(やくよけえにし)部隊の者だ」

「ああ!あの温羅一族の先祖返りの子か!悪い事をしたな」

「そういえばリュカさんも不法出国扱いになってるんじゃないですか?」

「そうだな。私も何か対策を練らないといけない」

「リュシアン君もかい?」

「ああ。コハルの気配が急に遠のいたからな。だから私も鬼の試練を受けずに出国している」



 リュカさんはコルルに攫われた私達とは違い、龍の意志という龍族だけが使える術を使って無断で出国している。

 


「鬼に謝ったら許してもらえますかね」

「どうだろう。僕もこんなこと初めてだから分からないな。許してもらえたら良いけど、そう簡単にはいかないと思う。リュシアン君は知ってる?」

「私もこんな事は初めてだ。まずは門番の鬼と話してみるしかない」

「温羅さん無事でしょうかね」

「他所の男を二度も心配するなど。浮気は許さないよコハル」

「え?今のが浮気に入るんですか!?」

「入る」

「何処が浮気に入るっていうんですか!?」

「全部だ」

「えええ!?」



 リュカさんが拗ねてしまった。これは面倒な事になるかもしれない。

 今までにも何度か拗ねてしまった事はあるけ良い結果になった(ためし)が無い。なんとか弁明するも私が喋れば喋るほどリュカさんの機嫌は悪くなり、しかもヴェルゴナさんまで私が悪いと言ってきた。何処だ。一体あの会話の中の何処に浮気要素があったんだ。


 ヴェルゴナさんはリュカさんを気遣ってビーチチェアがある方に行ってしまい、私とリュカさんは二人きりになってしまった。大福と文二はビーチで遊んでいる。良いなぁ。私も混ぜて欲しい。

 


「あの、なんかすみませんでした」

「なんか?」

「いや、えーと、すみませんでした」

「何が悪かったのか理解していないな?」

「はい」

「はぁ。良いかコハル。コハルは私の妻だ」

「はい」

「その妻が夫よりも先に他の男を心配するなど有り得ん」

「でも」

「でもじゃない」

「だって」

「…」

「いふぁいれす」

「反省しなさいコハル」



 久々に頬を抓られた。

 しかも目が笑ってない。



「すみませんでした。うぅ、頬っぺ痛い」

「次に私より他の男を優先したら一生邸から出さない。解ったね?」

「それは嫌です。軟禁反対!」

「では私と同伴であればルシェール国内に限り邸から出る事を許可する」

「それも嫌です」

「私も嫌だ」



 膠着状態は続き、リュカさんも私も譲らない。

 ビーチは陽が落ち始め、文二と大福が遊び疲れて砂浜で眠っているのが見える。羨ましい。



「コハルは私を愛していないのか…?もう、()に飽いてしまったのか?」

「え!?愛!?いつのまにそんな話になったんですか!?」

「最初から今までずっとだ」

「私は途中まで行動を共にした温羅さんが無事かどうかを心配してるだけです。別に浮気とかそういうんじゃ」

「夫である私の名より先に二度もその男の名を口にしたのは何故だ。私はどんな時でもコハルに一番に想われていたい」

「リュカさんは今傍にいるから大丈夫だって分かるじゃないですか。でも温羅さんはこの場に居ないから心配で」

「解せん」

「えぇぇ」



 リュカさんの姿は未だに高校生くらいのままで、駄々を捏ねるている思春期の子供にしか見えない。

 


「だいたい朝夕の挨拶を拒むとはどういう了見だ」

「挨拶はしてます」

「私が言っているのはその挨拶ではない。口付けの事だ」

「それは、ヴェルゴナさんがいるからで」

「ヴェルゴナは関係ない」

「関係あります!人前でしたくないです」

「分かった。では其処はコハルの気持ちを尊重しよう」

「え?良いんですか?」

「ああ。だが甘噛みも挨拶も出来ない私のこの憤りをどうしたら良いか解決してみせろ」



 珍しくリュカさんのプンプンモードが長い。それに折れているようで全く折れていない。

 尊重してくれるんじゃなかったんですか。

 因みに怒っている時のリュカさんは俺様発言が多くなる。やっぱり御貴族様だからかな。



「じゃ、じゃあキスマークはどうですか?」

「きすまーく、とは何だ?」

「付き合っている人同士がお互いの体に付け合うものです」

「コハルが居た世界では主流なのか?」

「はい」

「どうすれば良い」



 流石にいきなり首筋に付けるのは躊躇われる。なのでリュカさんの腕に唇を押し当て軽く吸い付いてみた。しかしなかなか痕が付かない。龍族は皮膚も丈夫なんだろうか。

 という訳で少しだけ強めに吸い、彼のきめ細く美しい肌がほんのり赤くなるまでそれを何度も繰り返す。い、息が持たない。キスマークを付けたいだけなのに何でこんなに疲れるんだろう。

 ぜぇはぁと息を切らし、やっとの事でキスマークを付ける事に成功した。



「ぜぇ、はぁ、こ、これが、キスマークです」

「この鬱血痕がか?」

「はい。嫌、でしたか?」

「嫌じゃない。それどころか、必死に()の腕にしゃぶりつくコハルを見るのは酷く心揺さぶられるものがあった。良い眺めであった」

「そういう楽しみ方はしないでください。間違ってます」

「先ほどお互いにと言っていたが、場所は同じ所にか?」

「決まりはないですよ。好きな所に好きなだけって感じです。でも他人に見える場所には付けないのが一般的ですね。場合によっては男避け女避けで敢えて見せつけるようにキスマークを付ける人もいますけど」

「そうか。では私もコハルに」



 リュカさんが私の腕に軽く唇を押し当てる。

 紅い華が咲くと満足そうに其処を撫で、やっと彼の機嫌が直った。



「これは…意外と難しいな」

「そうですか?」

「コハルは脆いからね。普通に吸い付けば青黒い打撲痕になってしまう。ほんのり色づくかせるには技術が必要だ」

「そういえばさっきリュカさんの腕には簡単に付かなかったです。こんなにも体の作りが違うんですね」

「そうだな。練習といこう」

「それは大丈夫です」

「遠慮しなくて良い。私の腕でも胸でも、好きな場所に練習すると良い」

「だから今のリュカさんには無理ですって!」

「見目が幼く見えるだけでいつもの私だと言っているだろう。気にするな」

「気にします!」



 ギャーギャー騒ぐ私達にヴェルゴナさん、文二、大福が気づき、私達の元に集まって来た。

 リュカさんは目にもとまらぬ速さで私の服を正し、ジャンプしてきた大福をキャッチする。



「仲直りできたみたいだね」

「にゃっ」

『リューシーからコーの匂いがする!』


 

 返答に困っているとリュカさんが答え、しかも『“ニンゲン”には愛し合う者同士キスマークを付け合う文化がある』と先ほど私が付けたキスマークを皆に見せ始めた。止めてください。そういう所ですよリュカさんの悪いところ。


 

「へぇ、軽度の他傷行為が愛情表現の一種なのか。面白いね」

「龍族にも甘噛みがあるじゃないですか」

「あれは他傷行為ではない。甘噛みしながら直接相手の匂いを己に取り込んでいる」

「そんな事してたんですか」

「知らなかったのかい?」

「はい。今初めて知りました」



 他にも龍族はお互いの体を擦り付け合って匂いを混ぜる愛情表現があるらしい。だからリュカさんはやたらめったら所構わず私を抱きしめてくるのか。ん?でも結構最初の頃、寒がりだとか言って引っ付いて来てたような。




◇◆◇

おまけ ~小春が脳内回想中の時のリュシアンとヴェルゴナの会話~


「コハルちゃんがゴーレムに咲かせていた花を回収していたけど、リュシアン君も何か創作しているのかい?」

「創作という程の物は作っていない。コハルが生み出す花は良い香りがするから何かに使えないかと思って収穫しているだけだ」

「でも何かは作ってるんだね。今度ハンドメイド作家が集まるイベントがあるから一緒に出店してみないかい?」

「遠慮する」

「そう。良い経験になると思うんだけどな」

「私が作っているのは売り物ではない。個人的に楽しむための物だ」

「じゃああの花を使って何を作ってるんだい?」

「大層な物ではないよ。あの花から抽出した成分で化粧水と保湿クリームを作ったり、フラワーアレンジメントをして寝室に飾っている」

「十分凄いよ。そういえばリュシアン君が治めている領地の特産品は化粧品だったね」

「よく覚えているな」

「所でその花、僕も分けてもらったり」

「断る」

「だよねー」



誤字報告ありがとうございます!助かります!


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