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助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第四章 戻ってきました、龍の国
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お世話を頑張る世話師猫(2)



 世話師猫の朝は早い。

 小春の世話から恋愛初心者で暴走気味のリュシアンの面倒まで全てを勝手に見ている。だがこれは世話師猫にとって幸福な事なのだ。彼は今の暮らしをとても楽しんでいる。きっと今のこの生活を邪魔する者には尻尾でシバき倒すことだろう。


 文二は小春の世話をするため、日本に滞在していた時期がある。その期間は人間の暮らしについて勉強し、“人間”とはどういう生き物なのかを学んでいた。勉強内容は多岐に渡る。確定申告、料理、恋愛、資産運用など気になる物は片っ端から学んでいた。

 世話師猫が人間の暮らしについて勉強していたのには理由がある。それは妖精の暮らしと人間の暮らしが全くの別物だったからだ。そのため小春を攫う前に人間社会を勉強し、彼女を世話できるよう必死に色んな物事を習得していた。ある時は人の姿になり学校や会社に現れ、またある時は野良猫に扮して情報を得ていた。

 今まで何千何万何億年と精霊の世話をし続けていた世話師猫は小春の世話の難しさや大変さに心を躍らせている。彼にとってこんなに世話しがいのある生物は初めてだ。なにせ精霊の世話は主に食事の面倒と住処の管理だけで済む。だがしかし人間はそうはいかない。特に小春の場合は異世界人なのでこの世界の常識から教え込まなければならない。それになんといっても弱い。儚い。




「文二、舌仕舞い忘れてるよ?」

「にゃっ」




 世話師猫が舌を仕舞い忘れている時は小春にどうやって説明しようか、この後は何の世話をしようかと考えている時だ。彼女のように能天気にボケーとしている訳ではない。

 


***


 オートマタを先頭に遺跡の中を探し歩いていると頑丈な扉で閉められた部屋が現れた。その扉は鉄で出来ており、扉にはびっしりと蔦が張っている。その扉をゴギギギギっとヴェルゴナが平然とした顔でこじ開けた。小春以外の者は皆平然とした顔で彼の後に続いて行く。しかし小春だけは足を止め、吃驚した顔でヴェルゴナを見た。



「どうしたコハル?」

「リュカさん、ヴェルゴナさんもゴリ、じゃなくて素晴らしい腕力の持ち主だったんですね」

「僕が何?」

「あ、いや、あの、何でもないです!」

「そういえば、カーバンクルのダイフク君はいないのかい?」

「大福は暑さにやられて妖精さんの口の中で休ませてもらってます」

「コルルの?」

「はい」

「んーもしかしたら治せるかも」

「え!?本当ですか!?」



 ヴェルゴナの御供の妖精コルルが口からカーバンクルの大福を吐き出し、ヴェルゴナが小春をちょいちょいと呼ぶ。




「その指に嵌めている指輪はカーバンクルの額から取れた魔石だね?」

「はい。どうして分かったんですか?」

「魔族は魔力痕を辿るのが得意だからね。その魔石から感じる魔力とダイフク君の額にある魔石の魔力がとても似ている。だから、もしかしてって思ってね」




 そうニッコリとほほ笑んで言うと、ヴェルゴナは大福の額にある魔石に指輪を近づけてと小春に指示を出した。その言葉の通り魔石を近づけるとカーバンクルの熱が魔石に吸収され、辛そうに呼吸を繰り返していた大福の呼吸が整っていく。




「すっ凄い!」

「きゅ~」

「気持ち良いと言っておるにゃ」

「良かった~」

「暑い場所ではそれを定期的にやってあげると良いよ」

「教えて頂きありがとうございます」

「いいえ」



 リュシアンも知らなかったようで珍しそうに様子を観察している。やっと体調が整った大福は小春の肩に乗り、彼らは再び中へと足を進めた。

 今歩いている遺跡の中は何かの研究をしていた痕跡があり、古びた魔動機に沢山の蔦が巻き付いている。ヒトがいるような気配はないが、オートマタは何かを思い出したかのようにずんずん奥へと進んで行き、一つの部屋の前で立ち止まった。



「ココ、来タ事アル」

「ここも施錠されているね。うーん、これはさっきみたいに簡単には開けられないな。複雑な術式が組み込まれてる」

「解析魔法で解除できないのか?こういった物は得意だったろう」

「トラップもあるみたいだから直ぐにとはいかないね」

「そうか」

「にゃにゃーん!任せるにゃ!」

「文二できるの?」

「にゃ!」



 世話師猫の文二がビシッとやる気満々で前足を上げ、体全体で頼れとアピールしている。その様子を見ていた小春達は扉から一歩下がり、彼が何をするのか興味津々といった様子で見守った。

 世話師猫はいつも背負っている木で出来た大きなスプーンを手に持ち、ドアに向かって振りかざす。



「んにゃにゃにゃー!」



 呪文を唱えると扉にびっしり生えていた蔦は退き、何重にも張られていた魔法陣があっという間に消え去った。小春は部屋に入れる事を素直に喜び文二とハイタッチをかわす。しかしリュシアンとヴェルゴナは眉をひそめ、少し不服そうな表情で文二を見た。

 それもそのはずだろう。彼らにとっては珍しい古代魔法を見られるまたとないチャンスだったのだ。なのに世話師猫の文二は「んにゃにゃにゃー!」とだけ鳴き、簡単に難所を突破してのけたのだ。

 二人は文二がどんな古代魔法を使ったのか、またトラップの解除方法など何一つ分からないまま部屋の中へと渋々入った。


 部屋の中には大きな黒い箱の形をした魔動機、そしてそれに繋がれた幾つものモニターがある。その全てに蔦が張っており、とてもじゃないが起動しそうにない。

 オートマタが大きな魔動機に手をかざす。しかしオートマタ自体の損傷が激しいためなのか、それとも魔動機が古いからなのか、理由は分からないが動くことはなかった。



「コノ中、マスター、居ル」

「え?この大きい厳つい箱の中に?」

「開ケテホシイ」

「文二できそう?」

「うーにゃ。これは無理である」

「さっきは簡単にできたのにこれは違うの?」

「この魔動機は魔法で施錠されている訳じゃないからだよ」

「そうにゃ。ヴェルゴにゃの言う通りにゃ」



 リュシアンは黙ったままその魔動機に触れ、カラクリを調べ始める。そしてオートマタに話しかけた。

 


「魔法で開かないとなると何か“鍵”となる物があるはずだ。何か覚えていないか?」

「マスターカラ、承認プログラム、受ケタ。デモ、私ノ手、壊レテル」

「そうか。きっと君自身がこの魔動機を開ける鍵なんだろう」

「マスター、会イタイ」

「手を治す魔法ってないんですか?」

「あるにはあるけど、機械を治す魔法は傷を治す魔法と違って時を操るから難しいんだよ。だから使い手は少ない。というかそこまで高度な魔法を操れる人はあまりいないんだ」

「そうなんですね」



 ヴェルゴナが小春に説明している間、リュシアンは黙ってオートマタを見る。

 


「オートマタに修復魔法を施すしかなさそうだな。制限は付けさせてもらうよ」

「え!?リュカさんできるんですか!?」

「リュシアン君できるの!?」

「承知シタ。アリガトウ」



 リュシアンがオートマタの頭に手を置き、祝詞を唱える。

 


「デルヴァンクール家の名の下に()の者の時を戻せ、(ことわり)を遡り完全なる姿で我の前に現れよ」



 唱え終わるとオートマタの損傷が激しかった部分は徐々に修復されていき、最終的には傷一つない綺麗な姿へと戻った。新品そのものだ。

 リュシアンがこの魔法を使用できるのは元七番隊の遺跡発掘調査部隊に所属し、遺跡の調査任務で頻繁に使用していたからだ。しかし誰もが此処まで正確な修復魔法を出来る訳ではない。



 オートマタは早速魔動機に手を差し込む。すると魔動機から音声が流れた。



『№007ヲ確認。起動シマス』



 魔動機は砂埃を上げながら形を変え、中から白骨化した遺体が現れた。それは椅子に座っており、少しでも触れると崩れ落ちてしまいそうなくらい絶妙なバランスを保っている。

 リュシアンは小春に危険が及ばないよう自身の背に隠し、ヴェルゴナと一緒に近づく。そして白骨化した遺体の手元を見て目を見開いた。



「これはっ」

「リュシアン君?どうかしたのかい?」

「この白骨化した遺体の手元にある図案は私を襲った武具の図案だ」

「リュカさんを!?」

「コハルと出会う少し前に食らったものだよ。相手は私が殺したし、その国ももう十四番隊と特部隊が殲滅している」

「十四番隊ってあの殲滅部隊のことかい?」

「ああ、そうだ」

「最近龍族に殲滅された国といえば死の森で密漁していたヒト族の国だよね?龍族にしか効かない兵器も作っていたとかって聞いたけど」

「その通りだ。何故こんな物が此処に…」




 深い謎を残したまま、リュシアンは図案を手に取りポーチの中へと仕舞った。

  



「オートマタ、この遺体は君のマスターで合っているか?」

「ハイ。彼ハ、私ノマスター。違イアリマセン」

「白骨化してるのに分かるんですか?」

「マスター、元々骸骨ノ様ナ、見タ目」

「辛辣ですね」

「ソレニ、歯ノ形ガ一緒」

「なるほど」



 これでオートマタのマスター探しは一旦終了し、白骨化した遺体を遺跡内にある庭園に皆で埋葬した。

 本来はこれで終了のはずだが、新たなる謎ができたため小春達は解決の糸口を掴むべく奥へと進む事にした。

 謎というのは暗黒時代の終わりに滅んだ国『カタクリ』が対龍族用に武具の図案を作成していた事。そしてその図案をどうやって現代のヒト族が手に入れたのか。又、損傷の激しかったオートマタを誰が起動させたのかだ。

 魔族であるヴェルゴナがこの遺跡内には魔力の痕跡が残っていないと言う。そのためオートマタを再起動させたのは魔力が豊富で強い種族は自然と外れる。一番濃厚なのはヒト族だ。実際に図案を元に武具を作成し襲った経歴がある。しかしヒト族の国となると数が多く特定に時間がかかるため、彼らは少しでも手掛かりを得るべく奥へと進む事にしたのだ。



「結構歩いてますけど何も見つかりませんね」

「そうだね。オートマタ、君はマスターが何を作っていたのか知っているか?」

「知ラナイ。私ハ、マスターノ身ノ回リヲ世話スル、オートマタ。マスターノ、仕事ワカラナイ」

「キュ~」

「大福?大丈夫?」

『大丈夫だよ』

「文二は?」

「お腹空いたにゃあ」

「そういえば御昼も食べずにずっと歩きっぱなしだったね。遺跡内だから太陽の光も届かないし、今何時くらいなんだろう」

「そろそろ夕時だよコハルちゃん。疲れたのなら私が背負おうか?」

「私の妻に触れるな」

「はははっ冗談だよリュシアン君」

「コハルも疲れたのなら言いなさい。私が背負おう」

「大丈夫ですよ。それに今のリュカさんの姿に背負われるのはちょっと…」

「ふふっ。こんなに若い姿のリュシアン君を見れるのはそうそうないよね」

「見た目が若返っているだけで精神まで若返っている訳ではない」

「それは分かってるんですけど、何か見た目が高校生くらいのリュカさんにおんぶされるのは嫌です」

「まぁでもこのまま歩いていても夜を明かしてしまいそうだし、そろそろ寝床でも見つけるかい?」

「そうだな」



 ヴェルゴナの提案通り彼らは探検を止め、寝床に丁度良い場所を探す事にした。

 


「仮眠室、近イ」

「丁度良いいですね!そこにしませんか?」

「にゃ!」



 先導するオートマタに続き、小春と文二が走って追いかける。そしてただただ広いだけの空間に出た。



「ここが仮眠室?」

「オートマタ専用、仮眠室」

「なるほど」



 部屋の天井からはエネルギー充填用のチューブが垂れ下がっている。しかし錆びれていて起動はしないようだ。

 世話師猫、リュシアン、ヴェルゴナで危険が無いか確認し、今夜はこの部屋で過ごす事になった。夕食はコハルが持っていたレトルト食品で済ませ、リュシアンがポーチから寝袋を出す。



「コハルちゃんとダイフク君だけでもコルルの中に入って寝るかい?」

「え?良いんですか?」

「駄目だ。それだと外で何かあった時に対処が遅れてしまう」

「だそうだよ。ごめんねコハルちゃん」

「えぇぇ、そんなぁ。リュカさん、妖精さんの中の方が安全だと思います。駄目ですか?」

「安全を確保したいなら私の腕の中で眠れば良い」

「それはちょっと」

「夫婦なのだから別に問題ないだろう。むしろいつまで待たせる気だ」

「今のその姿でそういう話をしないでください」

「姿など関係ない。だいたいコハルが赤面ばかりして全く先に進めないから」

「うわぁあああ!ヴェルゴナさん居るのに何話そうとしてるんですか!」

「僕は別に構わないよ」

「私が構うんです!」

「まぁ。恥らう姿は愛らしくいつまでも見ていたいと思うが、やはりそれ以上の事もしたい」

「もうリュカさん黙ってください」

「へぇー。リュシアン君でも上手くいかない事ってあるんだね」



 心底不思議そうにヴェルゴナが呟く。そして「うんうん」と世話師猫が深く頷いた。




約半年も更新があいてすみません。(;´Д`)

また読んでいただけると嬉しいです。今年はできるだけ…いや、なるべく、最低でも月に1回は更新できるよう頑張ります!

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