表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
助けた人は龍で、騎士で、美形貴族  作者: たかむら
第一章 いざ行かん、龍の国
10/125

不機嫌な龍



 村に着くまでは今までの私の仕事を話したり、リュカさんの仕事の話を聞きながら歩く。あんまりチラチラ見ると失礼かなと思い、リュカさんをガン見したら「何だ?」と聞かれた。

 何だと聞かれても困るんだけど、なんか、なーんかリュカさんが変。どこかがおかしい。でもそれが分からない。素直にその事を聞いてみたら「ああ」と一言だけ言われて、ヒントをくれた。


「龍族は他の種族と違い、魔法の他に龍特有の力を持っている。大抵の種族は致命傷か魔力が枯渇するまで力を使いすぎてしまうと死ぬが、龍族は魔力が0になっても他の生命を取り込むことによって生きながらえる事ができる」

「人の命を常に吸収してるんですか?」

「そんな事はしない。生命エネルギーならなんでも良い、故に基本は植物から少しづつもらっている」

「それがヒントに繋がるんですか?」

「ああ。もしも明日までに当てる事ができたら何でも一つ願いを叶えてやろう」



 急にリュカさんが神龍(しぇんろん)みたいな事を言い出した。もしかして不思議な球を七つ集めると願い事を一つ叶えてくれるのかな。リュカさんのヒントのようでヒントじゃないような言葉をぐるぐる頭の中で考えてみるが、答えは出ない。

 まあ、アハ体験だと思えばいいか。ちょっとモヤモヤするけど気づけた時は最高にスッキリするだろうから、今は気にしない事にする。


 森を抜けると平たい大地に出て、やっと急こう配が続く山道におさらばできた。でももう少し歩くと村に着くみたいで、リュカさんから旅程を言い渡される。言わずもがなリュカさんが龍族である事は秘密で、極力村の人とは話さない事、お金を使う時はリュカさんに一声かける、などの約束をした。この村には2日間滞在する予定だ。そして次に向かう場所はヒトが住む国で、私が歩くには距離が長すぎるらしいので(ほろ)馬車に乗って行く。

 

 初めて乗る馬車に内心ウキウキしていたら、リュカさんの「私は龍族なので馬が怖がって乗せてくれないかもしれないな」の一言で一気に不安になった。 



「リュカさんだけドラゴンになったら良いじゃないですか」 

「忘れたのか?ドラゴンは密猟者に狙われやすいんだ。それに、今の私の力では龍体になれない」

「だからツノが生えていないんですか?」

「いや、今は見せる必要がないから出していないだけだ。出して歩けば自分が龍族であると言っているようなものだろう?」

「確かにそうですね。でも今なら周りに人がいないですよ。触ってみたいです!」

「…まだ、駄目だ。それと、そのような事は他の龍族には言うな」

「何でですか?」

「ったまには自分で考えろ!」

「何で急に怒るんですか!?」



 今までは私の歩幅に合わせて歩いてくれていたのに、急に一人でずんずん進んで行くものだから、私は必死に走って追い掛けた。リュカさんの足の長さが憎い。村の入り口へ着く頃には、私はへとへとで、リュカさんはやっぱり普段から紳士的だったんだなと思い知らされた。

 

 村に入ると先に宿屋を探し、今回も一階が食堂で二階が宿舎になっている所へ泊まる事にした。この村は今日から三日間、収穫を祝うお祭りのようでとても賑やかだ。宿屋の受付は猫耳が生えたおばあちゃんで、出店や人気の催し物を教えてくれた。



「今うちは空きが大部屋二つと、一人用の部屋が一つしかないんじゃがどうするかね?大部屋の内一つは格安で相部屋状態じゃ」

「では一人用の部屋を一つ。」

「じゃあ私は相部屋でお願いします」

「今彼女が言った事は聞かなかった事にしてください。一人用の部屋に泊まりますが料金は二人分払うので宜しいですか?」

「え?」

「ああ、構いませんですじゃ。料金も一人分で結構ですじゃ」

「それは有難い」

「ま、待ってくだい」

「コハル、少しの間静かにしていてくれ」



 久々に有無言わせぬ綺麗なお顔を、リュカさんがこちらに向けてくる。あ、黙れってことですね。すみません。今日、私の寝床が床に決定した瞬間だった。

 ふくよかな猫耳おばあちゃんの女将さんに着いて行くと、二階の奥の部屋に案内された。ここは部屋の中に簡易シャワーと洗面所が有り、二階へ上がってすぐ横に男女別のトイレがあった。トイレは水洗式で、お尻を拭く紙もちゃんとある。なので思わず手を合わせ、名も知れぬ神様に感謝した。


 初めて泊まった宿屋にはトイレがなく、外でご自由にどうぞだったので、大変困ったしお尻を拭く紙もなくて、宿屋の人に聞いたら不思議な顔をされながら、陶器のかけらを渡された。おしりがズタズタになりそうで怖かった。

 森の中を歩いていた時は、もったいないと分かっていたけど、登山用に持って来ていたウェットティッシュで拭いた。

 だって割れた陶器怖いもん!誰にお尻を見せる訳でもないけど、お尻がズタズタなんて嫌だぁ。



 部屋の窓を開けると、外の賑やかな声が聞こえてくる。

 身支度を整え、リュカさんと一緒に日用品を買いに部屋を出ると、肩に乗っていた大福が私から離れ、ベッドの上で丸まった。疲れたのかな。ベッドのサイズは横幅が狭くシングルサイズだったけど、この村の獣人族に合わせてか、縦は長かった。 

 他にもこの部屋の中には少し大きめの机が一台と、椅子が二脚ある。

  

 リュカさんはローブについているフードを被り、私はローブだけを羽織る。

 リュカさんは私の買い物に着いて来てくれるみたいで、化粧品を買いたいと伝えたら案内をしてくれた。まだ文字の読めない私にとってはとても有難く、店の中でも一つ一つ丁寧に教えてくれる。この店ではポーションも売っているようで、私用にいくつか見繕ってくれた。


 買った品物は化粧水と保湿クリーム。それに、上級ポーションが一つと、期限切れでお買い得だった5本入りの中級ポーション。乳液はそもそもなくて、代わりに保湿クリームを勧められた。期限切れの中級ポーションは効果が出なくても文句を言わない、という体で格安で売られていたので、試しに買ってみた。 

 リュカさんも自分用に上級ポーションを一つだけ買っている。

 

 

 その後はたまたまリュカさんが見つけた出店の宝石?店で、石を探す。私も一緒に店頭に並べられてある指輪など、装飾品を見てみたが、0の数が多すぎて買えなかったので、大人しくリュカさんの買い物が終わるのを待つ。



「奥さんにあげるんですか?」

「?そんな者はいない。私の力を制御できる魔石がないか探しているだけだ」

「なんで制御するんです?」

「馬に怯えられない為だ」

「なるほど」



 三つほどリュカさんが買い、小腹が空いてきたので、出店に売ってある三種類のフランクフルトを食べながら、宿屋へと戻る。

 本当はもうちょっとお祭り気分を味わいに、出店を見てみたかったけど、たまたまリュカさんにぶつかってきた犬耳の女性が、彼の顔を見てキャーキャー黄色い声を上げて騒ぐもんだから、超不機嫌になった彼に連れられて強制的に宿屋へと帰る羽目になった。


 宿屋へと戻るまでがかなり大変で、フードからチラッと見えるリュカさんの御顔を見ては獣人族の女性達がキャーっと歓声を上げ、その度に私の隣を歩く彼からブリザードが吹き荒れる。

 中には勇敢なライオンの耳を生やした女性がいて、リュカさんに今夜一緒に食事をしに行きませんか?と誘っていた。こんな超絶不機嫌なリュカさんへ話しかけに行くなんて、貴方は勇者なんですか?そうですか。聖剣持ってないんで、代わりに味のしなくなったフランクフルトを授けよう。

 リュカさんの機嫌が悪くなるまでは美味しかったはずなのに、今では全く味を感じられない。もしかして味覚を奪われたのかな。


 美しい獣人の方、可愛らしいウサギの耳を生やした獣人の方など、全ての女性の誘いを無視してリュカさんは歩く。もちろん近くを歩いている私は針の筵。視線が怖い。たまに舌打ちとか聞こえてくるし、罵詈雑言パラダイス。

 リュカさんと距離を取ったら少しはこの嫌味を聞かなくて済むかなと思い、距離を取ろうとしたら、それはそれで、ありえないくらいの速さで私の手をリュカさんが捕まえ、握りつぶされそうな程の威力で手を繋いで来た。

 なんですかこの嬉しくないシチュエーション。

 私の気持ちとは裏腹に、その光景を見た周りの女性陣はキャー!と声を上げる。私だって声を上げたい。別の意味でだけど。

 

 リュカさん本当に龍族なんですか?実はゴリラとのハーフなんじゃないですか?


 途中、耐えられなくなったリュカさんは私の腰に手を添えて、宿屋まで一瞬で移動した。初めからそうして欲しかったです、と心の中で思う。

 私達が借りている部屋へ戻ってからも、彼は無言で椅子に座り、買ってきた魔石に手を(かざ)す。


 私はする事が無いので、ベッドに座り、リュカさんがやっている事を黙って見つめる。一つ目の魔石は割れてしまい、二つ目の魔石にはひびが入ってしまった。三つ目は成功したのか鮮やかなパライバ・トルマリン色をしている。南国の透き通った海の色を連想させる色だ。



「ふぅ、成功した」

「お疲れ様です。他の二つは粗悪品だったんですか?」

「いや、上等な魔石だが私の力に耐えきれなかったようだ」

「じゃあ貰っても良いですか?」

「魔石が欲しいのか?」

「いえ、綺麗な石なので、いつか加工して耳飾りか何かにしようかと」

「それならちゃんとした物を買ってやる」

「いえ、それは結構です」

「…()からの贈り物を拒むのか?」

「え!?いつからそんな自意識過剰になったんですか!?」



 またもや私のうっかり失言?のせいで頬っぺたを引っ張られた。今回のは私、悪くないような気がするんですが。それとも貴族様からの贈り物は、拒んじゃいけないとかっていう規則でもあるのかな。それならちゃんと教えてくださいよ。私はこの世界の常識に疎いんですから。



ブクマや評価が増えている!嬉しい!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ