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シャルム魔法王国

「――か」


 声が聞こえる。


「――ですか」


 サラ……? いや、これはサラの声じゃない。

 私、森で迷子になりかけて……それで、どうなったんだっけ。あ、足を踏み外して落っこちたのか。てことは、ここは天国? それとも、私はまだ生きて森の中に……?


「あの~、大丈夫、ですか?」


 誰かの声で、私は目を覚ました。


「ひゃっ!」


 いきなり目を開け、がばっと起き上がる私に、目の前にいる女の子が驚きの声を上げる。意識をなくした私に声をかけてくれていたのは、どうやらこの三つ編みのかわいらしい女の子だったようだ。すぐにお礼を言うために口を開こうとした、が、視界に飛び込む光景に私の思考は一瞬停止する。


 私が寝転んでいるのは草むらで、周りはたくさんの木々に囲まれている。森――なのは間違いないと思うけど、向こう側に、大きなお城のような建物が見える。あれは、ルヴォルツの王宮ではない。


「あの、ここは……?」


 お礼より先に口から出た言葉は、場所を確認する問いかけだった。

 首を傾げる私を見て、三つ編み少女は微笑みながら答える。


「ここは神秘の森ですけど、来るのは初めてですか?」

「しんぴの、もり?」


 私が住んでいたあのだだっ広い大きな森に、そんな名称はない。


「あはは。たしかに、用事がなければあまり来ないですよね。私はよくここに薬草を採りに来るんです。ここは薬草がたくさん生えてるので。あなたも薬草を採りに?」

「いえ、私はそうじゃなくて……というか、神秘の森なんてルヴォルツにあったかしら。ねぇ、ここってどこなのか詳しく教えてもらえる?」

「えっと……ここは、シャルムの神秘の森の……入ってすぐ右に歩いた場所、ですけど」

「……シャルムというのは?」

「……この魔法王国の名前ですよ」

「ま、魔法王国!?」


 大きな声を出し、私は後ずさる。

 ここはルヴォルツではなく、シャルムという国……? だめだ。頭が混乱している。


 魔法や魔法使いの存在については知っている。必ず、幼い頃に家庭教師からその歴史を聞かされるからだ。


 かつて、世界には人間と魔法使いがいた。二種類に分けられてはいたが、ちがいは〝魔法が使えるか〟〝使えないか〟だけである。見た目も成長の仕方にも変わりはない。


 人間と魔法使いは仲違いを起こすこともなく、うまく共存していたという。特に、ルヴォルツは数ある国の中でいちばん魔法使いの数が多い国で有名だった。

人間が突然魔法を使えることはなく、魔法が使えるのは、魔法使いの血を引いているもののみだ。突如魔力を発揮するものもいたらしいが、大抵の魔法使いは幼少期から魔法が使え、次第にコントロールできるようになっていくという。


 人間は魔法に憧れ、生活にも様々な変化を与えてくれた魔法使いをとても尊敬していた。魔法使いもまた、知恵を絞り出し自力でなにかを生み出す能力が長けている人間を尊敬しており、決して馬鹿になどしていなかった。

関係は良好で、このままずっと人間と魔法使いは手を取り合うと思っていた――が、今から約200年前に、この世界から魔法使いが消えてしまった。そう、絶滅したのだ。


 理由は、人間の数の増加。人間の数は、圧倒的に魔法使いより多かった。そして、魔法使いは魔法使い同士でなく、人間と恋愛し結婚することが多くなっていったのだ。

原因はわからないが、人間と魔法使いの間に生まれてくる子供の八割は、魔法使いの血を引かずただの人間として生まれてくる。もしかすると魔力を継いでいる可能性もあるが、人間の血のほうが濃いせいなのか、ほとんど魔力を発揮できるものはいなかった。


 こうして子孫を残せなくなっていった魔法使い。魔法使い同士で結婚しようとも、周りに魔法使いがいなくなっている。こうして魔法使いは、絶滅の道を辿ってしまった――。


 私が聞いたのは、こういった話である。今を生きる人々の中では、魔法という存在は、すっかり過去の話になっているのだ。だって、魔法は絶滅してしまったのだから。それなのに……。

不思議そうな顔で私の様子を伺う三つ編み少女は、ここを〝魔法国〟と言っている。


「……じゃあ、あなたは魔法使いなの?」

「は、はい。というか、シャルムには魔法使いしかいませんし」

「魔法使いしかいない国!? シャルム? そんなの、世界地図のどこにも載っていないし、今まで聞いたこともないわ!」

「だ、大丈夫ですか? ここで気絶していたので、頭を打って記憶障害になっているんじゃ……!」

「私、ここに倒れてたってこと!? いつから!?」

「いつかはわかりませんが……私が来たときには、ここで倒れていましたよ」


 私、ルヴォルツの森から、なにかの拍子でこのシャルムってとこにワープでもしたってこと? そんな魔法みたいなこと、信じられない。いや、この三つ編み少女が魔法使いということも、まだ信じ切れていない。


「あの、よかったら、あなたの魔法を見せてもらえないかしら?」

「私の魔法、ですか?」

「そう。そしたら、なにか思い出すかも。この国のこととか」

「はぁ……。では、ここで簡単にできる魔法をやってみますね」


 そう言って、三つ編み少女は草むらの中にある蕾の状態の花に手をかざした。そしてふわりと優雅な動きで手首を回すと、蕾だった花が綺麗なピンク色の花を咲かせた。


「これ、最近やっとできるようになったんです! 咲きかけの花にしかできないんですけどね」


 えへへ、と照れくさそうに笑う三つ編み少女。


「……すごい」

「いえ、そんな! 私の得意な魔法ではないですし、花魔法を専門にしてる方はもっとすごいんですよ!」

「専門なんてそんなの関係ないわ……私にとっては、魔法を使えること自体がすごすぎるのよ」


 実際に見てしまったからには、信じないわけにはいかない。彼女は本当に魔法使い。そしてここは、シャルム魔法王国――私、とんでもないところに来てしまったみたい。


「申し遅れたけど、私の名前はリアーヌ。リアーヌ・アンペールよ。あなたの名前は?」

「わ、私はニーナっていいます!」

「ニーナ! 今から話すこと、信じてくれる!?」

「え? ええ。信じます」


 三つ編み少女はニーナというらしい。見た目通りのかわいらしい名前だ。

 私はニーナの両手を握り、ずいっと前のめり気味でニーナに言う。ニーナは戸惑いながらも、何度も小さく頷いてくれた。きっと、私の圧が怖かっただけだと思うけど。


「私――人間なの」

「……へっ?」

「魔法使いじゃなくて、人間なの。魔法なんて使えたことないし、見たのも今が初めて」

「……に、にん、にんげっ!?」

「そう。人間。どうしてここにいるかは自分でもわからな――って! ちょっと! ニーナ!?」


 私の言葉がよっぽど衝撃的だったのか、ニーナはそのまま気絶してしまった。


「大丈夫!? ニーナ!」


 最初と立場が逆転している。何度も声をかけ体を揺さぶったが、ニーナが目を覚ます気配はない。


 誰かが来そうな感じでもないし……本当にここが知らない場所だと更に確信を得るためにも、私は自ら動き出すことにした。ニーナをおんぶし、ニーナが持って来ていたであろう薬草が入ったカゴを手に取る。誰かを背負うなんて初めての経験だ。幼い頃、お兄様やサラにしてもらっていたのを覚えていて見様見真似でやったけど、案外できるものね。


 そういえば、私のお気に入りの帽子が見当たらない。落ちたときに、帽子だけルヴォルツに置いてきてしまったのだろうか。今度また、この森に来て一応さがしてみよう……。


 私はニーナをおんぶしたまま歩き出した。ニーナに場所の詳細を聞いていたおかげで、すんなり森の外に出ることができた。


 森から出ると、大きな街が見える。まるでルヴォルツの王都のようだ。しかし、見えるものすべてがルヴォルツとはちがう。なぜならこの国には、魔法が存在しているからだ。


 魔法で火をつけたり、水を出したり……そんなことが、生活の一部として当たり前に行われている。立ち並ぶお店の看板も、魔法で作られているのか見るたびに色や模様が変わっている。そんな幻想的な空間に自分がいることが、いまだに信じられない。


「あれ、その子ニーナちゃん?」


 ぼーっと立って街を眺めている私に、ひとりのおばさんが話しかけてきた。

 そうだ。私、ニーナの家を聞いて連れて帰ってあげようと思っていたんだったわ。


「は、はい! 薬草を採りに行っている最中、具合が悪くなったみたいで……すぐ家まで送り届けたいんですけど、どちらにあるかわかりますか?」

「あらあら。そうだったの。ニーナちゃんの家は、あの角を曲がってまっすぐいったところにある薬屋さんの二階だよ。早く元気になるといいねぇ」

「ありがとうございますっ! ニーナにも伝えておきます!」


 親切なおばさんに礼を言い、私はニーナの家を目指した。

 

「すみません。あの私、ニーナのお友達のリアーヌっていうんですけど……」


 ニーナをおんぶしたまま薬屋の店主を訪ねると、私に背負われているニーナを見てすぐに駆け寄って来る。出会って数分しか経っていないのに、勝手に友達なんて言って図々しいと思いながらも、ほかに私たちの関係をうまく表す言葉が見つからない。


「ニーナ!? なにがあったの!?」

「あ、あの、私が驚かせたせいで、意識を失っちゃったみたいで……ごめんなさい!」

「驚かせた? ……この子ったら。怖い話を聞いただけでも意識を飛ばすことがあるのよ。ごめんなさいね。きっとすぐ起きると思うわ。わざわざ送り届けてくれてありがとう。」


 そう言って、ニーナの母親と思われる人がニーナを抱え、二階へと上がっていく。


「ほら、あなたも森からここまでニーナを背負って大変だったでしょう。よかったら、二階でゆっくり休んでいって」

「は、はい! ありがとうございます!」

 

 お言葉に甘え、私はニーナの家に上がらせてもらうことにした。正直、行くあてがなかったのですごく助かる。ニーナが目を覚ますまで、私はおばさんの淹れてくれたお茶を飲みながら、ここへきてやっと一息つくことができた。


「に、にんげんっ!」


 起き上がったニーナの第一声はそれだった。部屋から聞こえたその声に、私は食べていたお菓子を喉に詰まらせ軽くむせる。


「? あの子、なに言ってるのかしら」


 おばさんは呆れたようにそう言って、ニーナの部屋へ入って行った。私が送り届けたことを話す声が聞こえ、まだ家にいると聞くと、ニーナは慌てて部屋から飛び出てくる。


「リ、リアーヌさんっ! その、迷惑かけてごめんなさいっ!」

「そんな! お互い様よ! 私もニーナに助けられたんだから! それに、こちらこそ勝手にお邪魔してごめんなさい」


 何故かお互い頭を下げ合うという、奇妙な光景だ。


「それにしても、ニーナにこんな美人な友達がいたとはねぇ。リアーヌちゃんっていうのね。いくつなの?」

「十六歳です」

「あら! ニーナと同い歳じゃない!」

「え!?」


 どう見ても年下だと思っていたのに、同い歳だとわかり驚く。それはニーナも同じだったみたいだ。


「……あはは、見えないよね。私、老けてるから」

「そんなことないわ! リアーヌさん大人っぽいから、同い歳とは思わなくて」


 年相応じゃないのは、どうやら私のほうみたい。


「リアーヌちゃんはどこから来たの? 見ない顔だけど……そもそも、ふたりは一体どこで?」


 おばさんに聞かれ、私はギクっとする。ニーナも、最後に私と交わした会話を思い出したようで、そわそわとしている。


「あ、あの……リアーヌさんは……」

「ニーナ。私、もう一度ちゃんと話すから、今度は最後まで聞いてくれる? よかったら、おばさんも一緒に聞いてください」


 なにか言って誤魔化そうとしているニーナに優しい口調で話しかけると、ニーナは黙って深く頷いた。私たちの間に流れるある妙な空気に気づいたのか、おばさんは一瞬眉をひそめる。


「私は――この国に住む魔法使いではありません。ルヴォルツという国から、なぜか気づいたら神秘の森にいました」


 それから私は、自分がわかりうる限りの情報をすべて話した。

 自分が人間であること。魔法使いは200年前に絶滅したと聞いていたこと。シャルムの存在を知らなかったこと。森で足を滑らせ落下して意識を失ったら、神秘の森で目を覚まし、ニーナに出会ったこと。


「……冗談、じゃなさそうだね」


 すべてを聞き終わったおばさんは、小さくそう呟いた。


「あのときは、人間って聞いてびっくりして気絶しちゃったけど……リアーヌさんの話を改めて聞くと、目覚めたときのリアーヌさんの反応がどこかおかしかったことにも納得がいくわ」

「それに、この国は決して大きくはない。リアーヌちゃんほどの美人さんを、今まで知らなかったっていうのもおかしな話だし……シャルムでわざわざ人間だって嘘をつくメリットなんてひとつもないし、信じられる話ではあるね……」


 ニーナもおばさんも、かなり驚いてはいるものの、私の話をちゃんと信じてくれたみたいだ。


「こんな場所があったなんて、今までどうして気づかなかったのかしら」


 あの王都を囲む森の中に、神秘の森に続く道があったのだとしたら、誰かが気づいてもおかしくない。


「そりゃあ、見えないからだよ」

「見えない?」

「あのねリアーヌさん。シャルムは人間には見えないんです。位置的には、ルヴォルツ王国にある大きな森の場所にシャルムはあるんだけど、結界が張ってあって、人間は入れないし、見えない作りになっているんです」

「へぇ……まるで、本の中の世界みたいな話ね……じゃあどうして、私はシャルムに入ることができたの?」

「そこなんだよ。いちばんの謎は。シャルムに人間が来るなんて、前代未聞の出来事だものね」

「そうなんですか!?」


 驚いて、おもわず大きな声を上げてしまった。まさか、私がこの国に来た初めての人間だというのか。


「とりあえず、今日は泊まっていきなさい。明日起きたら、まず陛下のところに行ったほうがいいわね。王城までは、ニーナが案内してあげなさい」

「はい! 任せてリアーヌさんっ! 今日私を家まで送り届けてくれたお礼も兼ねて!」

「ええ! そんなにお世話になっていいんですか? ありがとうございます。知り合いもいなくて、途方に暮れるところでした……」


 ニーナと出会えてなかったら、ここがどこかもわからず、私は未知の世界に怯えていたことだろう。おばさんとニーナの優しさに、胸の中がじんわりとする。


「あ、でも、人間が紛れ込んだって知ったら、陛下に殺されたりしませんか?」


 陛下というのは、呼び名の通りシャルム国の国王陛下ということ。急に国王に会いに行き、〝人間です〟なんて言ったら処刑されそうだ。


「あはは! 大丈夫だよ! ここはそんな残虐なことをする国じゃない。陛下は愛想はあまりよくないけど……でもイケメンだよ! リアーヌちゃんは綺麗だから、陛下もほっとかないかもしれないね」


 そう言われても、国王陛下ともなれば、すごく年齢も離れているだろうし。それでもイケメンと言われるなんて、若いときはさぞかしモテたんだろうな。


「それに、結界の管理をしているのは王家だから、陛下に会えば、なにかわかることがあるかもしれないわ!」

 勇気づけるようにニーナが言う。

 王家が結界の管理を? たしかに、これは有力情報だ。私がここに来たとき、結界になにか異常があったのかもしれない。ニーナの言葉を聞いて、城へ行くことへの期待値が高まる。


「それじゃ、そろそろお父さんも帰って来るし、晩ごはんにしましょうか」

「おばさん! 私、手伝います!」

「お母さん! 私も!」

「あらあら。娘がひとり増えたみたいで楽しいわ」


 おばさんは笑いながら、キッチンへと向かう。

 仕込んでいたスープを魔法で火を出して温めるのを見て、私は「すごい!」と大はしゃぎしてしまった。ここでは普通のことが、私にとっては普通ではない。目を輝かせながら魔法を見る私を見て、おばさんもニーナも少しうれしそうにしていた。

 しばらくすると、ニーナのお父さんが帰ってきた。私がおじさんに挨拶をすると、おばさんが私のことをおじさんに説明した。おじさんも驚愕こそしていたものの、私のことを温かく受け入れてくれた。……ああ、なんて理解力のあるいい家族にめぐり会えたのかしら。


 みんなで食卓を囲みながら、私は人間界のことを聞かれ、ルヴォルツや、ほかの国の話をした。世界の広さにみんな興味津々で、食事が終わったあとも話は尽きなかった。

 

 夜になり、私はニーナの部屋で寝かせてもらうことになった。ニーナとはすっかり仲良くなり、ニーナも私に心を開いてくれたのか、いつの間にか敬称も敬語もなくなっていた。……この感じ、庶民時代に戻ったようでなつかしい。

貴族間では家柄で上下関係ができ、常に誰かに気を遣い、遣われてばかりだ。自然な感じで私に接してくれる同世代の友達なんて、周りにはいなかった。お兄様に友達を作るのを邪魔されていたせいもあるけれど。


「ねぇリアーヌ、これ、よかったら」


 寝ようと思いベッドに入ると、ニーナが一冊の本を渡してきた。


「なんの本?」

「シャルムがどうやってできたか、詳しく書かれているの。リアーヌ、まだ全然シャルムや魔法使いのことわからないと思って……この本、役に立つと思ったから」

「うわぁ……! ありがとうニーナ! これ、今から読んでもいい? ニーナは先に寝ていいから!」

「ふふ。全然いいわよ。読み終わったら灯りを消してくれればいいから、私のことは気にしないで」

「本当にありがとう。ニーナ。おやすみなさい」

「おやすみなさい。リアーヌ」


 私は枕元にある小さな灯りをつけて、本を開いた。

 

 【シャルム魔法王国】

 この国は、絶滅を恐れたひとりの優秀な魔法使い、クラウス・ノア・ダールベルクが建国した、魔法使いだけが住まう国である。


 昔は魔法使い同士で結婚すること普通だったが、いつしか人間と魔法使いが恋に落ちることが多くなっていった。遺伝的に人間の血が優先されることにより、魔力を持っていてもそれを発揮しない子供が増え、魔法使いの数はどんどん減って行き、絶滅――と、世界では言われているが、実際、こうしてシャルム魔法王国で魔法使いは生きながらえている。


クラウスは生き残りの独身である魔法使いに召集をかけ、魔法使いの血を持つものがいちばん多かったルヴォルツ王国の一部を借り、シャルムを建国。魔法使いだけの国を作ることで、人間との結婚を防ぎ、確実に魔法使いの子供を増やしていくことを目的とした。

 人間と接触できないよう、クラウスは強大な魔法で国を囲むように結界を張り、人間には目に見えず、侵入も不可能な国を作り上げた。


 後にクラウスは愛する人間がいたと語っていたが、魔法使いを絶滅させないため、別れを決意したと言う悲しい背景がある。人間界では、消えた魔法使いは全員死んだと思われている。

 時を経て、シャルムは魔法が溢れる美しく素晴らしい国へと発展を遂げた。そして、人間と共存していた時代を知る者は、もう誰もいなくなった。


 ――こんな隠された歴史があったなんて。

 ルヴォルツ、いや、世界中の国のどの本を読んでも、魔法使いは200年前に絶滅したとしか書かれていない。

 しかし実際は、こうやって国を作り、魔法使いは生きている。

 人間が絶対に知るはずのなかった大きな秘密を知ってしまった恐怖か、それとも興奮なのか、全身に鳥肌が立った。


「う~ん……」


 隣でニーナが唸りながら寝返りを打っている。いけない。そろそろ電気を消して私も寝ないと。


 電気を消し、布団の中に潜り込んで目を閉じると、頭の中にサラの姿が浮かんだ。


 ――サラ、会いに行けなくてごめんなさい。私が突然消えて、きっとすごく焦っているわよね。心配性のサラだから、広い森の中全部を捜して回っているかもしれない。だけど、私がこんな場所にいるなんてわかるわけないし、今のところ伝える術もない。


早く、ルヴォルツに帰る手段を見つけなくては。



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