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神秘の森で幸せ探し


「そういえば、お前が目覚めたのって神秘の森だったよな」


 ある日の昼下がり、ギルバート様が窓拭きをしている私に声をかけてきた。

 ニーナの話を聞いてギルバート様が私に呪術をかけていないことがわかったので、もう避けずに普通に会話をするようにしている。


 ニーナが私がギルバート様に恋してる、なんて言うから変に意識するようになったけど、自分ではそんなふうに思っていない。あのときは、ギルバート様にうれしいことを言われたからテンションが上がっただけ。……多分。


「そうです。ルヴォルツの森で気を失って目覚めたら神秘の森ってとこにいました。それがどうかしました?」

「別に。明日結界の調整で神秘の森に行くからふと思い出して聞いただけだ」

「へぇ。神秘の森に――あっ! ギルバート様、それ私も一緒に行っていいですか⁉︎」

「はぁ? なんでだよ」


 どうして私は大事なことを忘れていたんだろう。……サラの帽子のことを。

 目を覚ましたときあの帽子だけ見つからなかったから、改めて探しに行こうと思ってたんだった。


「探し物があるんです! ギルバート様の仕事の邪魔は決してしないのでお願いします!」

「探し物? 神秘の森なんて名称だけは立派だけど、あそこは薬草以外特に何にもねぇぞ」

「そうじゃなくて、ここへ来たときに持ってたはずの帽子がなくなってたんです。大好きな侍女からもらったお気に入りの帽子だから、もう一度ちゃんと探したくて……」


 落下した際に手放した可能性もあるけど、念のためもう一度神秘の森には行っておきたい。


「そういうことか。わかった。ひとりで行くつもりだったが、リアーヌは明日午後から俺の付き添いとして神秘の森に同行しろ」

「え! いいんですか! さすがギルバート様、話がわかりますね!」

「城にいても窓拭くくらいしかすることなさそうだしな。じゃあ明日、忘れてたら置いてくぞ」

「はーいっ!」


 言ってみるものだ。ギルバート様が一緒なら迷うこともなさそうだし、ラッキー! ……ん? でもよく考えたらギルバート様とふたりきり……?

 

「デートの約束か? 妬けるな」

「……フェリクス! もう、いつも急に背後から現れないでよ。驚くでしょう。それにデートってなんの話よ」

「ギルと神秘の森に行くんだろ? 会話を盗み聞きさせてもらった」

「聞いてたならわかるでしょ。ギルバート様は仕事で、私は探し物! 遊びに行くわけじゃないの。あ、フェリクスも暇なら一緒に行きましょうよ」

「行きたいのは山々だが、明日の午後はやることがあってな。ふたりで楽しんでこい」

「だから仕事の一環だってば」

「今度俺ともデートしよう。リアーヌはどこか行きたいところはないのか?」

「えっ? そういえば街にあるアイスクリーム屋さんにずっと行きたいと思ってたの。いつも美味しそうな甘い匂いがするから」

「お安い御用だ。では今度な」


 フェリクスは持っていた資料で私の頭をぽんっ、とすると、上機嫌で去って行った。

 あれ? なんで私フェリクスとデートの約束をしてるんだろう。まぁいいか。アイスは食べたかったし、結果オーライってことにしておこう。


◇◇◇


 次の日、約束通り私とギルバート様は神秘の森へと向かった。

 ギルバート様が結界を見ている間に、私はこの前ニーナと出会った場所を中心に辺りをくまなく探した。

 しかし、帽子はどこにも見当たらない。風でどこかに飛ばされてしまったりしたのだろうか。


「見つかったか?」


 やることが済んだのか、ギルバート様が私のところまでやってくる。


「全然です。大分日にちも経っちゃったし、難しいかもしれません」

「……ちっ。仕方ねぇな。時間はあるし、俺も手伝ってやるよ」

「本当ですか! ありがとうございます!」


 落ち込む私を見かねてか、ギルバート様も帽子探しを手伝ってくれることになった。

 結構な時間探したものの、やはり見つかる様子はない。


「……どこ行っちゃったの。私の帽子ぃ~」

「これだけ探してないんだ。もしかしたら、ルヴォルツの森に置いてきたんじゃないのか」

「そう思います? やっぱりそうなのかなぁ。すみませんギルバート様、せっかく付き合って下さったのに」

「別に。今日は特にやることもなかったしな」


 歩き回って疲れてしまい草むらの上に座り込むと、ギルバート様も隣に腰掛ける。高そうな服を直に地面につけることになんの躊躇もしないギルバート様を見て、私は少し驚いた。


 帽子はルヴォルツにあることを信じるしかないか。これ以上ギルバート様を付き合わせるのも申し訳ない。もしなければ、そのときはサラに誠心誠意込めて謝ろう。


 そう思いながら静かに揺れる草花を見つめていると、近くにクローバーがたくさん生えているのが目に入った。


 懐かしい。幼い頃はよく、お兄様と一緒に四つ葉のクローバーを探したものだ。どっちが早く見つけるか競争をするのだけど、お兄様は先に見つけてもいつも私が見つけるまで待って、わざと負けてくれていたっけ。


 久しぶりに四つ葉のクローバー探しをしてみたくなり、うずうずしてきた。


「……ギルバート様、時間って、まだあります?」

「ああ、あるけど。なんだ、まだ探すのか」

「はい。今度は別の物を。ギルバート様も一緒にやりましょう! たまには童心にかえるのも楽しいですよ」

「童心って、なにすんだよ」

「四つ葉のクローバー探し!」

「……」


 くだらない、とでも言いたげな顔はやめてほしい。

 今までのギルバート様ならすぐ言葉にしていたんだろうが、言わずに飲み込んでくれたことは優しさだとも思う。顔に出てしまっているけどね。


「なんでわざわざ探すんだよ。四つ葉のクローバーなんて」

「四つ葉のクローバーを馬鹿にしたらいけませんよ。四つ葉のクローバーは幸せの象徴で、見つけたら幸せになれるんですから」

「あぁ……よく聞くな。その話。でも俺たちなら――」


 ギルバート様は立ち上がると、クローバーをひとつ摘み取る。そしてあっという間に、三つ葉のクローバーを四つ葉に変えてしまった。

 

「すごい。魔法みたい」

「魔法だからな」


 そうだった。

 もう二ヶ月シャルムにいるのに、思わずそんな言葉を口にしてしまうほど、あっという間に姿を変えたクローバーをギルバート様にそのまま手渡される。

 

「俺たちだったらこれができる。だからわざわざあるかもわからない四つ葉を探したりしない。……でも、きっとお前たち人間は、それができないから探すんだよな。見つけたら、やっぱうれしいもんなのか?」

「それはもちろん。私はうれしくて飛び跳ねちゃいます」

「安易に想像できるな、お前のその姿。……魔法使いは、自分で探すなんてしようとしたことがないから、わからねぇ」

「じゃあ、尚更してみましょうか」

「……は?」


 そこまで言われたら、やるしかないでしょう。

 四つ葉を見つけたとき、ギルバート様はどんな顔をするのか、気になって仕方ない。


「四つ葉のクローバー探しですよ。もちろん魔法を使うのは禁止で。帽子は見つからなかったけど、なんだか四つ葉は見つかりそうな気がするので」

「なにを根拠に言ってんだよ」

「それじゃあ始めましょ!」

「お、おい! マジかよ。……ったく、しょうがねぇな。少しだけだぞ」


 文句を言いながらも、ギルバート様はクローバー畑に足を踏み入れる。

 そして私と同じように、たくさんあるクローバーから、幸せの四つ葉を探し始めた。

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