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恋と呪いの女子会

 


「おい、リアーヌ――」

「失礼しますっ!」

「……」


「リアーヌ、午後の仕事は――」

「忙しいので!」

「……なんだ? あいつ」


 ギルバート様に呪いをかけられてしまったので、私はそれからの時間ギルバート様を避けることにした。

 

 幸いにも、今日は仕事が少ない。というか、私のできる仕事は限られているので、私のできる仕事が少なかったが正解か。

 フェリクスのお許しが出て、私は自由時間をもらった。すぐに街に出る。行き先はもちろん、ニーナのところだ。


「あら! リアーヌ、いらっしゃい。今日はどうしたの?」

「ニーナ! 大変なの! 呪術を解く薬は売ってない?」

「ど、どうしたの? そんなに胸を押さえて。どこか苦しいの?」

「ええ。なんかきゅんきゅんするような、かと思えばギュッて締め付けられるような、そんな感覚がして。今朝ギルバート様に会ってからなの。きっと、寝坊した私への罰にギルバート様が変な魔法をかけたんだわ!」


 大真面目に言う私と反対に、ニーナはぽかんとしている。

 するといきなり大笑いして、目尻に浮かぶ涙を拭いながらニーナは言った。


「あははっ! リアーヌ、それは恋じゃない?」

「こ、こい⁉︎」

「リアーヌったら、陛下のこと好きになったのね」

「……私がギルバート様を? そんなわけっ……」


 ギルバート様はたしかにかっこいい。ちょっと口が悪いけど、最近は優しくなったし、表情も豊かになったし、たまーに見せる笑顔がすごく素敵で、もっと知りたいなとか思うけど――。


 あまりに騒ぎ立てる私たちを見かねて、おばさんが店番を代わってくれた。私はニーナの部屋で、話の続きをすることになった。


「ニーナ、呪術でないなら、私はいつのまにか惚れ薬でも仕込まれてたのかしら? この店に置いたりしてない? 惚れ薬」

「まだそんなこと言ってるの? 店に惚れ薬はないわ。それに、惚れ薬を作るのってとっても難しいのよ。高難易度のふたつの魔法を組み合わせないといけないし、この国で惚れ薬のレシピを知ってるのは、私と私の両親くらいね」

「え⁉︎ ニーナ、本当に作れるの?」

「……実はうちの家族、闇魔法も使えるの。めんどくさいからあまりおおやけにはしてないけど。私ね、呪術にすっごく興味があって、小さい頃からずっと勉強してたの! 呪いって奥深いのよ。髪の毛一本手に入れれば、簡単に呪いをかけられるし――」

「ニーナ、怖いから落ち着いて」

 

 私は自分の髪の毛が落ちてないかどうかをとりあえず確認する。

 どうやらニーナは呪術オタクのようだ。よく見れば本棚にもそれらしき本がたくさん並んでいる。前回来たときは気づかなかった。

 

「大丈夫。呪いは勝手にかけるとシャルムでは裁かれる。人の感情を動かすような魔法は禁止されてるの。だからもちろん、惚れ薬もだめ」

「へぇ~。そういう法律がちゃんとあるのね」

「そう。だから陛下がリアーヌに呪術や惚れ薬を仕込むはずないでしょ。リアーヌは一緒にいるうちに、陛下に恋しちゃったのよ」

「してないってば!」

「でも陛下変わったわよね。雰囲気が柔らかくなったわ。……リアーヌのおかげかしら。私的には、リアーヌはフェリクス様とくっついてほしかったんだけど」

「フェリクスって、またどうしてそこなのよ」

「並んでるとお似合いだもの。よく一緒にいるって噂も聞くし」

「もう、ギルバート様もフェリクスも両方そういうのじゃないの! この話は終わり!」

「リアーヌから言い出したのに。意地張っちゃって、かわいいんだから」


 ムキになる私を見て、ニーナはけらけらと笑っている。

 ふたりのことを、恋愛対象として意識したことなかったのに。そんなこと言われると意識しちゃうじゃない。

 よく考えればフェリクスとなんて、獣化したとき相当な濃厚スキンシップをとってる気がして、急に恥ずかしくなってきた。


「そういうニーナは恋人とかいないの?」

「私? 私は残念ながらなーんにも。リアーヌは元々いた国に好きな人とかいるの?」

「それが私もなーんにもないの。周りにいる男といえばお兄様くらいね。義理の兄なんだけど」

「へぇ! かっこいい?」

「かっこいいけど……ちょっと難があるわね」


 そう。重度のシスコンっていう難が。


「いつか、リアーヌの家族にも会ってみたいな」

「もちろん! 私もニーナに紹介したいわ! きっと、また魔法使いと人間が共存する未来は来ると思うの。だからそのとき必ず紹介する。約束よ」

「うん。私も今までずっと人間がどういうものか知らなかったけど、リアーヌと出逢ってから興味が湧いたの。……外の世界にも、行ってみたいな」


 ニーナはそう言って、部屋の小窓を見つめた。そこから先に広がるまだ見ぬ世界に、思いを馳せるように。


「……リアーヌは、次のレッドムーンに帰っちゃうのよね」


 さっきまでの元気なニーナとは打って変わって、ニーナは寂しそうにぽつりと呟く。

 言われて私も気づいた。シャルムでの日々と、もうすぐお別れしないといけないことに。


「うん。……でも、また会えるわ」

「そうよね。ごめんね。急にしみったれたこと言って」

「本当よ。私まで……寂しくなってくるじゃない」


 しばらく無言の時間が続く。ふと外を見ると、夕陽が沈みかけていた。


「じゃあ私、そろそろ行くわ」

「うん。またいつでも来てね」


 私はニーナと、店番をしていたおばさんとおじさんに挨拶して薬屋を後にした。

 オレンジの空を眺めながら、王宮までの道のりを歩く。


 ――レッドムーンまで、あと一ヶ月を切っていた。

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