魔法長会議 2
「自然魔法の使い手が多すぎて、魔法師と場所が足りません。以前から言っていますが、もっと効率よく子供たちに教える場は作れないのでしょうか」
「今月は五人も白魔法に目覚めた子かいたの! 魔法長を引き継げる逸材がこの中にいればいいんだけどねぇ」
「……特に問題はない」
会議が始まり、私は必死にギルバート様の隣でメモとり続ける。今は現状報告をしているようで、内容は三者三葉だ。
「ベアトリスとクロードはともかく、ディオンの件はたしかにどうにかしないとな。子供に魔法のコントロールの仕方を教えるのは重要なことだ」
「そう思っているならなんとかしてくださいよ。無能ですか」
「……お前、次言ったら魔法長の椅子から引きずり下ろすぞ」
「気にくわなければ暴力ですか? ダールベルク家の偉大なる魔法力を、もっといいことにお使いになってはいかがです?」
「おいリアーヌ! あいつをつまみ出せ!」
立ち上がり足をテーブルの上に乗せ怒りを露わにするギルバート様。
ディオンさんとギルバート様の相性はどうやら最悪のようだ。国王相手にこんな口がきけるなんて、ディオンさんもかなり肝が据わっているというか……。
「あの、ギルバート様、シャルムには学校はないんですか?」
つまみ出すのは不可能なので、とりあえずギルバート様に別のことを考えてもらえるよう質問を投げかけてみた。さっきから子供に魔法を教える場がなんちゃらとか言っていたし、実際に気になったのもある。
「学校……? 本でしか見たことないが、あるわけないだろ。シャルムは見ての通りの小国だ。これ以上でかい建物を作るスペースがない。一応魔法長やその下につく魔法師たちが、まだ魔法を覚えたての奴らに魔法を教える場所があるが、学校と呼ばれてるものみたいに素晴らしいものとは言えねぇな」
「ふーん。じゃあ、学校はないんですね」
「君が言う、〝学校〟ってところは、どういうところなんですか?」
「あ、アタシも知りたいっ! 教えて教えて!」
学校に興味を持ったのか、ディオンさんのほうから私に質問をしてきた。
「学校っていうのは、決められた年齢から通うところで、必要最低限の教育をみんなで一緒に受けるって感じですかね。いろんなことを学校で一気に学べちゃうんです!」
まぁ、まだ通ってないんですけどね!
「いろんなことを一気に……ですか。それはいいですね。シャルムは文字の読み書きや基本的な教養は、ほとんど家で両親から教わることが多いですから。元々魔法使いは知能が高めなので、物覚えはいいですからね」
「じゃあ、外で教わるのは魔法だけですか?」
「そうだね~。魔法もちゃんと教えてもらえるのはせいぜい十二歳くらいまでで、そこから魔力が高かったりセンスがある人は独学したり、師匠を見つけて学んだりして魔法師の試験を受けるって流れ。生活魔法や簡単な魔法は、十歳くらいでマスターしちゃう子が多いの」
「この独学が一番難しいんですけどね。いくらセンスがあったって、魔法を学び、魔力を高める努力をしなければ、天才以外は秀才にもなれず凡人に成り下がるだけですから」
ということは、シャルムの子供たちは最高でも十二歳までしか魔法を学べないのか。もしかしたら、教わる内にとんでもない魔力を秘めている魔法使いがいるかもしれないのに。
でも年齢の制限をつけなければ、どんどん教え子だけが増えて魔法師の人数や場所が追いつかないってことなのか。……どうにかできないかしら。
「あっ! 私が通う予定のレヴェリスト学園は、かなり大きな学校なのよ! 他国から留学生が来るくらい! 魔法を教える場所が足りないなら、レヴェリストに魔法科を作っちゃえばいいわ! そしたら、魔力が高い人も勉強が続けられるし、逆に魔力は普通だった人の中にとんでもない逸材がいるかもしれないし! 一般的な勉強もできて、人間と魔法使いがコミュニケーションもとれて、きっと楽しいと思うわ!」
すごく楽しそうなことを思いついて、つい興奮して敬語も忘れて思いの丈を語ってしまった。突拍子のない私の提案に、話を聞いていたギルバート様と魔法長のお三方が目を点にしている(クロードさんはよく見えないけど)。
「あなた、魔法使いが人間界では滅んだとされていること知っていますよね? もっと現実的な話をしてください」
ディオンさんには大きなため息を吐かれてしまう始末。個人的に、いい提案だと思ったんだけどなぁ。
「でもさ、リアーヌたんの言う通り、そんなことが可能なら素敵だと思わないっ? アタシたちも助かるし、魔法使いの人口はこの何百年でずいぶん増えたでしょ? シャルムにいても知り合いばっかりだし、学校を作れる場所もないし、なんか毎日同じなんだよねぇ」
「……人間によって魔法使いは滅びかけた。同じ道を辿るのは危険だ」
「僕もクロードさんと同意見です。それに、人間が魔法使いを受け入れるかわからない。逆もしかり、ですけど」
じろり、とディオンさんに睨まれる。私はまだ、ディオンさんにまったく信頼されていないみたいだ。この先、信頼されることがあるのだろうか。
「ふたりともカッタイなぁ。ね、ギルたんはどう思う?」
黙ってひとりでなにかを考えているギルバート様に、ベアトリスさんが話を振る。
「……魔法科か」
小さな声で、ギルバート様はそう言った。
「ギルバート様、もしかして、魔法科を作ることに興味湧いたんですか!?」
「現実的ではない。でも――確実にないとも言い切れねぇ」
まさかの好感触。言ってみるものだとガッツポーズしている私と真逆に、ディオンさんは頭を抱えている。
「ギルバート王、本気ですか? 彼女と過ごしすぎて、どこかおかしくなったのでは?」
「なってねぇ! ただ、人間はそこまで恐れる存在じゃない。魔法を使えないこと以外は俺たちと変わらない。こちらにも大きなメリットがあるとしたら、100パーセントあり得ない話ではないと言いたかっただけだ。大体お前が言ったんだろ。場所が足りないと」
「……それとこれとは話が」
「同じだ」
しーんとした空気が会議室に流れる。もう、どうしてこのふたりはけんか腰でしか話せないの。特にディオンさん。上に立つ側なのに、こんなひねくれていたら生徒もついて行けない気がする。実際見たことはないけれど、ディオンさんの指導はすっごく厳しそう。
「魔法も使えない人間なんかと一緒にいたって、楽しいわけありませんよ」
つーんとした態度を貫くディオンさん。……この人、もしかしてかなりの魔法オタクなんじゃないだろうか。だから人間の私とは、そもそも話が合わないと思っているし、話すこともないと思っているんじゃ……。
だったらそれはちがうと証明したい。ディオンさんは知らないだけだ。人間は魔法が使えないけど、その代わり、魔法に対しての憧れや期待は魔法使い以上だということを。
「ディ、ディオンさん! ひとつお願いしていいですか!」
「……聞ける範囲のものでしたら」
「私にディオンさんの魔法を見せてください!」
「……なぜですか。見せたって、あなたは一生真似できませんよ」
「だからです。ここへきて、街の人にたくさん魔法を見せてもらいました。どれもすっごく驚いて、すっごく感動したんです! 私にはできないことだから。せっかくシャルムに来れて、魔法使いに会えたんです。是非、魔法長の魔法をこの目で見たいんです!」
ディオンさんの近くまで移動して、前のめりで頼み込む。
「さ、さっき椅子を運んだときに見せたでしょう!?」
「いきなりで一瞬だったじゃないですか! 簡単なものでもいいんです! お願いします!」
「……白魔法も黒魔法も、簡単に見せるような魔法じゃないし、いちばんお手軽な僕に頼んだってことですか」
「どうしてそんなにひねくれてるんですか。ディオンさんがいちばんすごい魔法を見せてくれそうだからですよ」
「……そ、それなら、仕方ありませんね」
あ、ちょっとうれしそうな顔してる。
「そうと決まればさっさと行きますよ! 王宮の庭の一部をお借りさせていただきます!」
「わー! いつもクソつまんない会議だけど、今日はリアーヌたんのお陰で楽しくなってきたぁ!」
「……」
ディオンさんを筆頭に、魔法長三人衆はさっさと会議室を出て行った。
「は!? おい待て! 勝手に会議を中断すんな! リアーヌ、そもそもお前が――」
「私たちも行きましょう! ギルバート様!」
「……はぁ。もう好きにしろ。俺は疲れた」
全身の気が抜けたようにだらんとしたギルバート様を無理やり引っ張って、私たちもディオンさんの後を追い、王宮の庭へと足を運んだ。
◇◇◇
「ではいきますよ。ま、そんな大したことはできませんが」
庭の花や芝生などがない土だけの場所を選び、ディオンさんは地面に向かって手を伸ばす。どうやらこの様子だと、私に土魔法を見せてくれるようだ。
ディオンさんが魔法を発動する。すると、平らだった地面から土で作られたお城がムクムクと生えてきた。
す、すごい。
私たちの身長を遥かに超える大きな土の城を一瞬で作り上げたディオンさん。さすが魔法長。今まで見た魔法とはレベルがちがう。
「これくらい僕以外にもできる人はいますが、まぁあなたに見せるにはこんなもので十分で――うわっ!」
「すごい! すごすぎるわディオンさん!」
あまりの感動に、私は後ろからディオンさんにタックルするかのように飛びついた。
「こんなお城をすぐ作ってしまうなんて! 私感動しました! もうこのお城に住んじゃいたいくらいだわ!」
「……っ!」
ディオンさんの魔法を絶賛して笑いかけると、ディオンさんは頰を赤らめ、私から顔を背ける。
「あれま。ディオンのやつ、顔真っ赤にしちゃってる! そりゃあ自分の魔法をこんなストレートに褒められたらうれしいよねぇ。かわいいやつめ~。さすが童貞魔法長」
「……それ以上言ってやるな。聞こえてたらあいつの魔法で業火に焼かれるぞ」
「そのときはクロードたんが火をまるごと闇に吸い込んでくれたら大丈夫っ!」
「……お前はなにもしないんだな」
近くでベアトリスさんとクロードさんが楽しげになにか話しているが、すごすぎる土の城を前に会話がよく耳に入ってこない。
ギルバート様は少し離れたところから、そんな私たちを呆れた顔で見ている。
「に、人間はたかがこんなことで喜ぶんですか! 魔法使いなら、そんな大袈裟な反応しませんよ! くだらない生き物ですね」
ベリッと音がしそうな勢いで、ディオンさんは私の体を自分から引き離す。
「……ごめんなさい。つい、興奮しちゃって。あまりにも感動したから」
喜びすぎて、逆に引かれてしまったのだろうか。そう思い、少ししょんぼりしていた私にディオンさんは言った。
「でもまぁ――あなたの僕の魔法を見たときの笑顔は、悪くないと思います」
「……えっ」
今私、ディオンさんに褒められた?
幻聴かと思い顔を上げると、ディオンさんは私のほうこそ見ないものの、まだ頰は赤いままで、照れ隠しをしているように見えた。
「ふふ。また見せてくださいね。ディオンさんっ」
「……気が向いたら、ですけど。 ああもう、今日の会議はこれで終了です! では、解散!」
「あー楽しかった! リアーヌたん最高だったわ! まったね~ん!」
「……」
クロードさんは黙ってぺこりと頭を下げる。ゾロゾロと並んで帰っていく姿に気づいたギルバート様は、慌てて三人の背中に向かって叫んだ。
「おい! 会議が終わったかどうか決めるのは俺だろうがぁぁ!」
その悲痛な叫びに足を止めるものは誰もおらず、こうして魔法長会議は終了した……。
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