収穫祭で誘拐イベントです!
アデラに誘拐イベントの事を聞いて、母様(と私とアデラ)は対策に乗り出した。
アデラによると、誘拐犯は人間。エルフは見目がいいので、時たま誘拐事件が起きてしまうらしい。さらに天使の血も混じっているので、希少度も上がる。
ちなみにシナリオだとまだ俺様ではないアベラールが助け出すらしいが、数分であろうといたらトラウマになるだろう。子供だし。
あ、ちなみにアベラールの自尊心が高くなるのは、里帰り的な感じでエルフの里に寄った後、人間の街で敬われたのが理由らしい。今回のクロエの件もあって「人間は敵」から「人間は下」に変わって、さらに傲慢に。———ゲームではエステラと気が合いそうだね。
で、対策内容。
まず、会場の入り口がざるにならない様にする事。そもそも入りこまなければ問題ないし。
次に、警備の強化。これは当然かな。天使だって珍しいし、まだ碌に訓練もしていない子が狙われた時様にもね。
私?私は毎日訓練してますよ。文字通り、血の滲むような、ね。訓練開始が夏だったから、約三ヶ月かな。やっと体力づくりや体操以外もやらせてもらえる様になった。まずは護身術からね。
で、他にも母様が諸々対策してくれたので、一応気を引き締めながらも収穫祭当日です!
収穫祭は、母様が作った特大の空間でやる。公園の広場をイメージしたら分かりやすいかな?あれを切り取った感じ。でも凄い広いよ。
町民の方々(私は初めて目にした)がそれぞれの空間の畑で作った野菜達その物を生かした味が出る様に簡単に調理して下さった。
あ、一応ね、町はあるんです。えーっと、天界の中にたくさんの町の空間があって、その空間の中にさらに家なんかがあって………という風に、空間in空間なんですよ。
王城に行くには、天界、王都、城下、王城と色々経由しないと駄目らしい。大変ね。
あ、ちなみに、誘拐犯がこの空間に入れたのは何処ぞのうっかり天使の転移に巻き込まれたから
らしい。何それ、処罰物じゃないですか。
まあ、多分協力者がいるよね。そんな偶然があってたまるか。
「ステラ〜
そろそろ準備できたかしら?」
「はい、今行きます!」
え?何の準備かって?
この収穫祭、家族で回るんです!
王族なのに総出で大丈夫か!?とか思うかもしれませんけど、母様最強ですし、天界では祭りに身分は関係ないらしいんですよ。皆一緒に楽しもう、みたいな。
クロエはどうするかって?問題ありません!何故なら—————。
「本当にいいんですか?
わた、私、ノヴェム家の者なのに………」
そう。もう、連れて来ちゃいました☆
アデラによると、兄と二人で回っていて、少し離れた時に拐われたらしいんですよ。そこで私は考えた。
じゃあ、一人にしなければいいじゃな〜い。
あ、もちろん、本人も了承済みです。脅してませんよ!?
あれから約三ヶ月。私とアデラはクロエと親睦を深めようとしました。その時、父様が、なら、他の子も招いたら?と言ったので、お友達、バッチリ増えました!脱・ボッチ!(ルカは除く)
で、事前に許可も取りました。身分差にどもってるだけです。本人も喜んでくれてました。—————本当ですよ?
あ、ちなみにアベラールに話すと、普通に喜んでくれてたみたいです。まだ軽度のシスコンなのかな?只々いいお兄ちゃんだよ。
で、早速回る事数分。アデラは目を輝かせてリンゴ飴を食べてる。
あ、収穫祭と言っても、ハロウィンでもなく、ただの野菜パーティでもないからね?
野菜とお菓子で半々くらいの出店がある。
クロエは植物が好きみたいで、野菜も範囲内みたい。味や見た目をどこからか出したノートに書き留めていた。
「姉様!私、あれ見てきます!」
はしゃぐアデラを微笑みながら見送って、クロエに尋ねる。
「クロエは、後、何か見たい物ない?」
「いえ!私、お友達と一緒にこうして楽しめたので、満足です!」
ふおおおおおおっっ!!お友達………。しかも、クロエめっちゃいい子……っ!シスコンアベラールの気持ちがちょっと分かったよ。
「………お嬢ちゃん達、ちょっといいかい?」
「…………何方ですか?」
声をかけてきたのは、人当たりが良さそうに見える男だった。
「いや、ちょっと道に迷ってね
よければ、案内してくれないかい?」
「もちろ————モガッ!?」
「何処に行きたいの?」
クロエの口を塞いで、なるべくあどけなく言う。
「道案内」は誘拐トップ三くらいには入る言葉ですよ?
しかも羽が見当たらないし———黒だな。
『ザザッ———二番街、噴水前にて、怪しい人物を発見。見た目四十くらいの人間。服装は——』
父様とアデラに無魔法のテレパシーで情報を伝える。
『囮捜査に乗り出しますので、現行犯逮捕、お願いします
計画通りに』
『『了解』』
そう。もちろん計画は考えてあった。
きっと、本当の行き場所など答えないだろうから、私がわざと拐われ、アデラに後を付けさせる。父様も合流して、取り押さえだ。
「ああ、ちょっと神殿まで行きたくてね」
「何処の神殿?
私、いっぱい知ってるよ!」
あ、これは本当。神殿の場所は、ずっと前から変わってないんだって。ソフィア先生に習った。いや、ソフィア先生の授業で習った。本人じゃないな。
「ングウウウ!?」
クロエはまだ踠いている。
「クロエ、あそこの騎士団の方に名乗って、保護してもらって!」
クロエを巻き込んでは動きにくいし、もしもの時も大変なので、小声で伝える。
「いい?」
小声だし、優し目に言っているけど、母様直伝の有無を言わさない雰囲気を出す。
すぐにクロエが頷いたので、私はクロエを送り出した。
「おじさん、こっちだよ〜!」
クロエを待とう、とか言われる前に強行突破だ。
「え、あ、うん……?」
動揺しているけど、そのまま引っ張って行く。
そもそも、何処の神殿か言っていないのに案内される、って可笑しいでしょ。何で気づかないかなぁ、この男。
「あ、お嬢ちゃん、こっちじゃないかな?」
そう言って、男は森の方を指す。
「そうなの?」
「うん、確かこっちの方にあったはずだよ」
じゃあ何で道案内いるんだよ。
しかも、ここは作られた空間だから、広場以外の森は終わりがないんだよ?
笑わない様にするの、大変だわ。
確か、シナリオでは小屋に閉じ込められて、何処ぞの協力者と人間界へ転移、だっけ?
っていうか、計画がざるすぎない?この空間作ったの母様だし、怪しい場所くらいすぐに特定できると思わなかったのかな?
あ、ちなみに私が囮になるのは現行犯で捕まえるためで、めぼしい場所には騎士団が目立たない場所で待機してるから、父様とアデラは念の為に行動してる。
それに。協力者の目星もついてるしね。
「あ、あれかな
案内してくれてありがとう
………よかったら、お菓子でも食べない?」
ぶほっ!駄目だ。吹きそう。
案内してないし!お菓子で釣るとかないわ〜。
「うん、食べる〜!」
解毒魔法とかもろもろかけてからね。
でも多分、お菓子の前に何かあると思うんだよね〜。例えば—————。
「物理で眠らせる、とか?」
私はそう言って、私に手刀を当てようとする男の手を掴んだ。
「なっ!?」
あ、もちろん強化魔法かけてますよ?流石に幼女の体で大の大人を止めるのは無理。
「ぐわっ!?」
突然、男に縄が巻きついた。———違うわ。蛇だったわ。
「父様、ご苦労様です〜」
そう、他にこんな事ができる人はいない。というか、この蛇自体、父様が遺伝子組み換えした特殊な蛇だしね。
「誰がお前を招いた?吐け」
父様のその言葉は、有無を言わさない様な迫力があった。
「………っ!?」
暫く無言を貫いていると、蛇縄が締まって行く。
「吐け」
たった一言。しかし、確実に効果はあった。
「す、スタルチス・トレデキムだ………」
男の顔色はどんどん青くなっていく。
「トレデキム………やっぱりか」
父様はそう言って、ため息を吐いた。
そう。正直、分かってた。
何故わざわざ誘拐させようとするのか?邪魔だからだ。
トレデキムは十三。トレデキム家の者は、強さが正義だと思っている。———単刀直入に言えば、脳筋だ。
クロエたちの親———母親がエルフなのだが、魔法では秀でていても、それは人間レベルだ。天使達からすれば平凡。下手をすれば劣っている。
もちろん、武力なんて無い。剣を握った事もないらしい(人間なんかはそれが普通だけどね?)し、それが気に入らなかった様だ。
ま、こんな杜撰な計画が上手くいくと思ってたって事は、筋金入りの脳筋なのかな?手、抜きすぎだし、証拠はどんどん上がってきた。
あ、ゲーム内でも簡単に捕まってた?皆が平和ボケしすぎて駄目駄目だっただけ?………もう、もう何も突っ込まない、と思う。
「クロエ、大丈夫だった?」
戻った私は、一番にクロエの元に駆けつけた。
「はい、結局、何があったんですか?」
あ、流石に誘拐とか言ってないのか。そりゃそうだよね。
「あ〜………、えっと〜………」
「あのおじさん、人間だったんだ!
何かあったら危ないから、姉様が戻してあげたって!」
アデラ、フォローありがとう。でもそこは「父様が戻してあげた」とか、さ?もうちょっとリアリティーを————。
「そうなんですか!
ありがとうございます!」
おおおお。天使(本物)の笑顔いただきました!
クロエ、ゲームの主要人物だけあって、めっちゃ可愛いんだよね。アデラと並んでも遜色ないよ!
「じゃあ、続き回ろっか」
計画で中断してたけど、収穫祭はまだ続いている。回っていないところを見るため、三人で歩き始めた。