精霊様と契約2
「さあ、最後、行くぞ〜!」
私が張り切っていると、ジェードから情報が。
『看板が真っ白なのは、無の精霊だからだ』
「無の精霊?」
無って、どういうことだ?
『言った通り、あの精霊が司っているのは、「無」つまり、死、と言われている』
「死…………」
復唱しながらも、まだ理解が出来ない。
『あの精霊は、ほとんどの物を無にできる。そこには、塵一つさえ残らない』
消滅させる、ってこと?
『だから他の精霊から怖がられて、ここから出てこない』
それは………辛いね。自分の全てを否定されるようなものだから。
「ねえ、『言われている』ってどういう事?
随分曖昧じゃない?」
ジェードはさっき、そう言った。彼にしては珍しく曖昧な表現だ。
『精霊の力は、使って初めてわかるんだ
———僕は、無ではないと思っている』
じゃあ何と思ってるんだ、と疑問に思ったけれど、まだ話す気はなさそうだ。
『私たちも、ね、分かるの
私の時が止まった時、皆、私を避けるようになったから
何も感じなかったはずなのに、心にぽっかり穴が空いたみたいに』
『おい、僕も一緒にするな
僕についてこれる精霊がいなかっただけだ』
『寂しかった、でしょ?』
『違う!』
『寂しかったのよ』
ついには断定されてしまった。二人はなんだかんだで気が合いそうだ。
「じゃあ、行くよ?」
真っ白な看板のかかった扉をノックする。
『誰?』
扉の奥から、弱々しい声が聞こえる。
返事は返ってきた。まずは重畳。
「エステラと申します」
『…………』
名乗って少しした後、扉が開いて、黒く、もやっとした物体が私たちに纏わり付く。
「うわっ!?」
『落ち着け』
『大丈、夫』
慌てる私と反して、二人は落ち着いている。入るための儀式的なものなの?
『……………どうして来たの?』
「貴方と話をするためです」
黒いもやに包まれながら、聞こえる声に返事をする。
『話?何を話すの?』
「う〜ん、そうですね………
貴方は、好きなことや物ってありますか?
趣味なんかでもいいですけど」
『………無い
ずっと、ずっとここにいるから、他のことなんて知らない』
「それは大変!
あのね、外って素敵なこともあるんですよ
私と一緒に、楽しいことや好きなものを見つけに行きませんか?」
確かに辛いこともあるだろうけど、それ以上に素敵なものだってある。それに、ずっと一人でいても、退屈だろうに。
『………そうやって私を連れ出して、また私を罵るの!?もう、傷つくのは嫌なの!放っておいてよ!』
プチッ。私の中の、何かが弾けた。
「はあっ!?
生きてるのに傷付かないわけ無いでしょ!?何甘えてるのよ!
皆が皆同じ考えじゃないんだから、当たり前で
しょう!?むしろそっちの方が怖いわ
貴方は何も知らないのよ!少しの悲しみや苦しみを知って、全てを知っているような気になるんじゃないわよ!
貴方はね?傷つけられてかわいそうな自分に酔ってるだけなの。貴方が世界で一番不幸なわけないでしょ?
理不尽に親が殺されたり、身分の違いで虐められたり、種族の違いが受け入れられなかったり、辛い思いをしているのは貴方だけじゃないの!」
ああ、久しぶりにキレたわ。
『……なっ、何よ!あんたに何がわかるの!?』
「何もわからないわよ!だって、私は貴方じゃないもの!
それに、貴方だって、私のこと何も知らないでしょう!?不幸自慢はやめなさい!どうせするなら———」
私はクルクスを出して、もやを切り裂く。最初からこうすればよかった。
「幸せ自慢にしなさい、バ〜カ」
姿を現した無の精霊様の額に、デコピンをお見舞いした。
『っ…………分かった、わよ!
ず〜っと幸せになって、こんな風に言ったあんたを見返してやるんだからっ!
だから、まずはデコピンの代償として————協力してよね!』
少し照れながら、彼女は笑った。
「もちろんよ
でも、まずは、ジェードとラリマーを解放してくれるかしら?」
『あっ、ごめんなさい!
二人に罪はないのに………っ!』
「ちょっと、私と随分態度が違うんじゃない?」
『そんなことないわよ
そうだ、エステラ
私にも名前をくれるわよね?』
セリフだけ見ると傲慢だけど、彼女の深い赤色の瞳は、不安気に揺れていた。
「いいわよ
ガーネット、なんてどう?」
ガーネットは赤い宝石だが、影の黒も美しく、黒髪赤眼の彼女にふさわしいと思う。
『ガーネット、気に入ったわ!』
「それはよかった」
ガーネットの明るい笑みに、私も笑顔で返す。
『宝石にするなら、チェリーブロッサムアゲートとか、ハウライトとかの方が良かったんじゃないか?』
私は苦笑する。
ちなみに、チェリーブロッサムアゲートは薄い赤、ハウライトは水色の宝石だ。
何故ジェードがこれを挙げたかと言うと、石言葉に理由がある。と思う。
それぞれ、正直な美しい心を育てる、心身の浄化、という意味がある。つまり、遠回しに落としてる。
いや、まあ、今のままでいいとは思わないけどそこまでじゃないから。というか、ジェードはツンデレでしょ?正直じゃないんじゃ……。
そんな事を考えていると、ラリマーに服を引っ張られた。そういえば、ノクティス着たままでクルクス持ったままだった。危険危険。
「どうしたの?」
解除してから、ラリマーに聞く。
『ステラが精霊の住居に入ってから、もうすぐ一時間
皆、心配してる?』
………あ、すっかり忘れてた。
「まずい、戻らないと………っ!」
『ステラ、時間戻す?』
『いや、乱用は駄目だ
お前はまだ安定していないし、尚更だ』
『え、何?
エステラ怒られるの?』
ガーネット、にやにやするなっ!
「どうやって戻ればいいの?」
そもそも、それだ。
『お前の部屋にも、湖への転移陣があるだろう
出せ』
『仕様が無いか
こっちだよ〜』
ガーネットが手招きした場所にあったのは、全身が入る大きな鏡だった。
『ここを通ったら、湖の真上へワープ!』
「え、思ってたのと違う」
転移陣ってさ、ほら、魔法陣みたいなのじゃないの?
『ステラ、行こ?』
あ、はい。私が先頭なのね。
恐る恐る片足を入れると、感覚がない。あ、そっか、真上ってことは、空中なのか。
ガーネットを見ると、舌打ちしていた。落ちるの期待してたな?
「じゃ、行くね〜」
今度こそ、姿見の中へ飛び込んだ。
急いで翼を広げ、動かす。うわ、本当に真上だわ。しかも中心。結構大きいから、移動に時間かかりそう………。
『ほら、行くぞ』
後からきたジェードに背中を押され、湖畔——元来た方へ飛ぶ。
「うわっ、風強っ………!」
向かい風が凄い。前髪がっ!
「む、バリア〜」
地味に攻撃されているので、バリアで防ぐ。
「あ、ねえ、ジェード
私、三人と契約したわけだけど、魔力は大丈夫そう?」
考えなしだったわけではないが、三人とも力が強いのは間違いない。もし魔力が足りなかったら大変だ。
『は?無尽蔵みたいな魔力持ってるくせに、何言ってるんだよ
そんなの精霊でも滅多にいないぞ』
え、そうなの?
「でも、父様や母様はもっとあるよ?」
『いや、『天姫アメリア』と『氷血エドワード』と比べたら駄目だろ
ちなみにこの二つ名は、リンネ神が巫山戯てつけたやつだ』
リンネ神何やってんの。しかも、父様もヤバかったのか。っていうか、氷血って、父様結構優しいよ?
『そのうちお前も何か二つ名つけられるぞ』
何でにやにや笑うの!っていうか、内容の問題じゃなくて、二つ名自体遠慮したい。厨二感が凄い。
『いたよ、お母さん、お父さん、妹さん』
え、ちょっと待って。湖畔まで、まだまだあるはずなんだ。ラリマー、何で見えるの?
「う〜ん…………音声拡張。防音壁」
まずは、父様達にだけ聞こえるよう、声を大きくだけど他のところには漏れないように魔法をかける。便利だよね、魔法。
「父様〜!母様〜!アデラ〜!」
私にはまだ見えないけど、声は届いてるはずだ。
『ちょ、お前!
僕達のことも考えろ!うるっさいぞ!』
『騒音、駄目』
『ちょっとエステラ!』
あ、精霊様方を保護するの忘れてた。
「ごめんなさい」
大人しく頭を下げる。
「あ」
そろそろ皆が見えて来た。
父様は————無表情、怖いです。怒ってらっしゃいますね、はい。
母様は————精霊様方に目がいってます。まあ、流石に三人も精霊様を連れてくるとは思っていなかったのでしょう。
アデラは————よかった。純粋に心配してくれてる。ありがとう。
「父様、母様、アデラ
遅くなりました。ご心配をおかけして、申し訳ありません!」
着陸した瞬間、私は皆に頭を下げた。すると、
『まあ!
エステラ様、問題児様方と契約されたのですね!
ありがとうございます』
ヘリオドール様が姿を現し、涙目で感謝された。
問題児様方、ね。心配はかけてるけど、力が強くて偉いから、注意できなかった、ってところかな?怖がってる精霊様もいるみたいだけど。
『おっ、エステラ様!
厄介なのと契約されましたね
頑張ってください!』
アベンチュリン様もそう言うが、声は弾んでいて嬉しそうだ。なんだかんだで心配していたのだろう。
『でも、どうやってあそこに入ったのですか?』
あ、やっぱりあそこは入れないものなのか。
「茂みの穴から………」
あの場所を説明すると、精霊様は何名か確認に飛んで行った。
「そういえば、皆の大きさはそれぞれなの?」
私が契約した三人は人サイズだが、他の精霊様は掌サイズだ。
『いや、皆本当はこの大きさだが、邪魔だろう。変化している
だが、住居ではこっちの方が寛ぎやすいからな普段はこれだ』
なるほど。
『なろうと思えば、獣型にも小さくもなれるぞ』
そう言って、ジェードは小さくなった。
「わ、本当だ!」
でも、すぐに元に戻って言う。
『僕はこっちの方が楽だから、あまり変化したくない』
なるほど。覚えておけ、と?
『私は、これが、楽』
『私もこのままかな』
ラリマーは水色の小鳥になった。
「獣型の姿は自分で決めれるの?
決まってるの?」
『基本、最初に変化したものにしかなれない』
『え、そうなの!?
私、いろいろなれるんだけど』
ジェードの言葉にガーネットは目を見開き、いろいろな動物になって見せた。
『………本当にお前は規格外だな
後、これは僕の推測だが、お前が司っているのは、無でも死でもないと思うぞ』
『え?』
あ、言ってたやつか。
『お前が司っているのは、空間だろう』
『空、間?』
『ああ、今までに消したもの、それを思い浮かべてみろ』
『え?
———えっと、じゃあ…………籠』
ガーネットがそう言うと、私たちの目の前に、小さな籠が現れた。
『えっ!?』
喫驚するガーネットに、ジェードは説明を続ける。
『おそらく、自身の空間庫に無意識にしまいこんでいたのだろう
転移もお前が思い込んでいただけで、あれは転移陣じゃない』
………そうだったんだ。っていうか、やっぱりあれ、転移陣じゃなかったんだ。
その後、ガーネットは何度も近くに転移して、楽しんでいた。
『私……化け物でも、死神でもない!』
「よかったね、ガーネット」
喜んでいるガーネットに微笑みかけ、背後からのブリザードを感じ取り、固まった。
「ステラ、何があるかも分からないのに、勝手に移動しては駄目だろう?」
「すっ、すみませんでした!!!」
全力で父様に謝る私を見て、精霊様方は笑っていた、とか。
…………私には、尻目に見る余裕すらなかったけど、ね。




