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にらみあい?

タイトルがしっくり来ないのでそのうち変更するかもしれません

人間(ユマン)混血(パラヴィナ)、そこの男は久遠の民(エルフ)、か」


 なんで人間の姿なんだとか、聞きたいことはたくさんある。けれど、それ以上に、彼らに向けられたナイアーの声の冷たさに驚く。人をからかうような物言いをするところがあるのは知っているけれど、こんなにも温度がない声を聞いたのは初めてだった。


「ナイアー?」


 抱き上げられたまま、顔を後ろに向けると、丁度こちらを見ていたナイアーと目が合った。あの目も鼻も口もない顔を見慣れてしまったから、なんだか不思議な感覚だ。

 場違いだと分かっていても、どうしても気になってそっと頬に触れてみる。温かい、血の通った温度。じっと見つめ返すと可笑しそうにナイアーが笑みを深める。どことなく猫科らしさを感じて、やっとあの黒い獣と自分を抱き上げている相手が同じであるのだと理解した。


「迎えに来てくれたの?」

「ああ。兎が呼びに来たのでな」


 どうやら、絡まれているのを見た一匹がナイアーを呼びに走ってくれたらしい。呼んできてくれた子には、あとで感謝の人参を贈ろう。もちろん、一緒にいてくれた他の子たちにもお礼をするつもりだけど。


「ここ、かえらずのもりっていうの、知ってた?」

「人間が勝手にそう呼んでいるだけだ」

「なるほど」


 ナイアーは、一応、私が召喚した召喚獣扱いになる、はずだ。だから、人間社会でどう呼ばれているかなんて、知らなくても無理はない。

 なんとなく、彼らと話が噛み合っていない気がしたけれど、この場所に対する私の知識はナイアーが教えてくれたものだ。人間と召喚獣では認識が同じはずもない。違和感の由来はそれだろう。彼らに会ってからずっともやもやしていたものが解消されて、ほっと息を吐く。


 心に余裕が出来たからか、ここでやっとあちら側が静まり返っていることに気が付いた。様子を伺うように視線を移すと、どこか唖然としつつも武器に手をかける三人と、ぐるぐると威嚇音を発する白い虎の姿。


 剣と、弓と、杖。それに……分類的には鞭、だろうか?詳しくないから絶対とは言えないが、ゲーム的には近距離、中距離、遠距離と、バランスの良さそうな組み合わせだ。私には分からないが、たぶん彼らには実力もあるんだろう。だからと言って、ここで暴れられるのは困るのだけど。


「帰れと言ったところで懲りねばまた来るか。……リオ」

「ん?」

「あれらを追い返しても恐らくまた次が来る可能性がある。生きていくのならば、他者との関わりが必要になることがあるだろう」

「うん……」


 他人が怖いからと、人間不信気味だからとずるずる誤魔化して来た。でも、もし、これからもこの世界で生きていくのなら、ずっと曖昧にして関わりを避け続けるのは難しい。ましてや、既に見つかってしまったのだから尚更だ。


 黙っていてほしいと頼むにはここにいる訳を話さなければならない。人の口に戸は立てられないから、一度事情を知られたら、果たしてどうなるか。それを防ぐには、彼ら自身の命をどうにかするか、記憶を封じ込めるか。


 人の命を奪うには、前世で培った倫理観が邪魔をする。記憶を封じ込める、なんて、自分が味わったあの苦しみを彼らに押し付けるのと同義だ。どちらも私には出来そうもない。


「もし事情があるのなら、血の契約を結んでも構いません」

「え」

「イエルヴァ!?お前何を言い出すんだ!」


 諦めようとしたその時、エルフの男が口を開いた。


 <血の契約(ブルーアトラク)


 それは一度結んでしまうと、破ることは死を意味するこの世界で一番重い契約だ。真っ先に不可能だと切り捨てた方法であり、少なくとも初対面のどんな性格かも分からない相手と結ぶものではない。それを自分から言い出したのだから、彼の仲間が驚くのも当然だった。


 私自身、彼に向けるのは現時点で信用よりも猜疑心や不信感の方が強い。思えば、目が合ったその瞬間から彼の様子はおかしかった。場所が場所だからと言われればそうかもしれないけれど、それにしたって初対面の相手で取る態度にしては妙なものだ。仲間らしい二人も驚いていたから、あれが通常状態だとは考えにくい。


 あの一連がすべて演技だとしたら相当なやり手だ。その時点で敵う気がしない。エルフの態度には、彼が口にした”みこ”という言葉が関係しているのだろうか。


 うまく思考が纏まらない。もっとちゃんと考えなければと思うのに、そう思う度に不安が募る。そうやってぐるぐると考えすぎていたせいか、突然、腹部からきゅうぅ、と情けない音がした。


 ――そう言えば、朝の収穫と散歩に出たきりで、朝食を摂っていない。


 自覚した途端、頬に熱が集まる。


「そういえば、まだだったな」


 クツクツと意地悪く笑うナイアーにしがみついて顔を隠す。確かに前世では学生の頃から何かと理由をつけて美味しいものを買い漁ったり、レシピを探して自作したりもしていた。

 社畜時代の楽しみはちょっと高めなお取り寄せを食べることだった。そんなだからいつまでたっても色気より食い気、花より団子と揶揄されていたことも覚えている。だからと言ってここで食い気を発揮するのはやめてほしかったなぁ……!


 自分の身体に対して内心でどうにもならない文句を言いながら、ぽかんとしている三人に、未だ熱の冷めない顔を向けた。


「あさごはん、いっしょに、どうですか」


 恥ずかしさのあまり生まれたてのロボットみたいな片言になってしまったのは、どうしようもないので大目に見てほしい。


読んでいただきありがとうございました。評価や感想をいただけると今後の励みになります。

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