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白い虎

「あれ……?今日はなんだか少ないね?」


 柔らかな日差しが注ぐ、一日の始まり。すっかり朝の日課と化した、動物たちと行う一日の食料調達の時間。未だベッドの上で丸くなっているナイアーの背を一撫でして、パジャマから動きやすい服装へと着替えてバルコニーに出たリオは、外に集まっている動物たちを見て首を傾げた。


 いつもなら集まっているはずの熊や狼たちの姿がない。その代わりとばかりに、小動物たちが群れで集まっている。見ていて和む光景だが、大型動物たちはどこへ行ったのだろうか。


「ぴぃ!ぴぴっ!」


 この森で初めて出会った夕陽色をした小鳥は、すっかりリオに懐いてしまった。毎朝いの一番にリオのもとへと訪れては、ちょこんと肩に止まって羽を休める。可愛らしい小鳥に懐かれて嫌な気持ちになるはずもなく、今では肩にいないと落ち着かなくなるくらい、一緒にいるのが習慣化しているほどだ。


「おはよう、ヒイロ。みんなはどうしたの?」

「ぴぴぃ?」


 ヒイロと名付けた小鳥の喉元を擽ってやりながら今いない動物たちのことを尋ねてみても、小鳥は不思議そうに首を傾げるばかり。その姿に少しだけ笑って、手編みのカゴを抱えてバルコニーから降りる。


「みんな、今日もよろしくね」


 そう声をかけると、あちこちから返事をするような鳴き声が聞こえた。

 兎たちが先行し、薬草が群生している場所に案内してくれる。日当たりの良い場所から必要な分だけ収穫する。採り切ることはしない。


 ナイアー曰く、ここは魔素濃度が高い場所だから、取りきっても薬草はすぐに生えてくるらしいが、必要以上に採ってもダメにしてしまうだけだ。


 リオが薬草を摘んでいると、その間にも小動物たちがこれが美味しい、あれが美味しいとキノコや果実をカゴに入れてくれる。一匹ずつそのふわふわした頭を撫でてやると、彼らもまた嬉しそうに鳴くものだから、時間がかかると分かっていてもやめられない。


 薬草の収穫が終わると次は果物だ。果物の場所へは鳥たちが案内してくれる。リオが届かないような高いところにあるものも、嘴や爪を使って器用に収穫してくれるのだ。彼らは喉の辺りを指の腹で撫でられるのを好む。そうするとクルクルと可愛らしい声で擦り寄って来て、なかなか離れようとしない。その度にヒイロがぴ!ぴ!と声を上げる。そうすると、彼らは渋々と離れていく。これまで見た鳥たちのなかでも一番小さなヒイロが纏め役のようなことをしているのは、意外な気がしなくもない。


 一通り収穫を終えると、彼らがお気に入りの場所に案内してくれる。綺麗な花が咲く場所だとか、日当たりがよく昼寝に向いてそうな場所だとか。そういうところを散歩しながら家に戻るまでが、この森に来てからの日課だったのだが、今日はどうにも様子がおかしい。


 まるで早く帰ろうと言わんばかりに、動物たちが身体を押してくるのだ。一体どうしたのか。大型動物たちがいないことに関係しているのか。こういう時、動物たちの言葉が分かればいいのにと考えてしまう。そうすれば彼らが伝えたがっていることが分かるのに。このままここにいるより家に帰った方が良いらしいことは分かったので、カゴを抱え直して歩く速度を早める。もうすぐで家に着くところまで来た時、茂みががさがさと音を立てた。兎たちが唸る。鳥たちが威嚇するように羽を羽ばたかせた。私はと言えば、ぶわりと膨らんだヒイロの羽毛が頬に当たってくすぐったいなと場違いなことを考えていた。


 警戒する場面だと頭では分かっている。だけど不思議なことに、自分のなかにあるはずの警戒心が少しも働かなくて戸惑う。そうこうしている間にも、茂みを掻き分ける音が近づいて来ているのが分かった。じっと茂みを見つめていると、勢い良く白い何かが飛び出してきた。


「ぴぴぃっ!」


 ヒイロの鳴き声と羽の音が聞こえる。自分より大きな身体の勢いを受け止めきれず、もろとも地面に倒れ込んだ。柔らかい草に覆われた地面だったことが幸いしてか、痛みはない。大きな何かが私に伸し掛かって、ザリザリしたなにかが頬に触れた。ふんすふんすと荒い鼻息が聞こえて、頬を舐められているのだと気づいた。


「お、おちつ……んんっ……」


 薄目を開けて、自分の上にいる動物の姿を確認する。白い毛皮の、虎……だろうか。

 あまりにも距離が近すぎて、正確には分からない。なにせ視界の大部分をピンク色の鼻先が占めているのだから。宥めるように手が触れている部分を撫でてみても、離れる気配がない。牙を突き立てられる様子はないが、流石にこのままの体勢でいるのはつらい。それに、周りから聞こえる兎や鳥の声が大変なことになっている。このままだとこの虎が彼らに襲われかねない。


「ティグリス!」


 どうしよう。必死に打開策を見出そうと頭を捻っていると、遠くから、誰かを呼ぶ声がした。


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