報酬?いいえ、おまけです
「ありがとうございました。」
感謝の言葉をヒィに掛ける、ヘウラム。
十分過ぎる程、持て成された後。
ヒィは帰路に就く。
町の入り口付近では、住人総出でお見送り。
ヒィは、住人達に手を振りながら。
ドギンと共に、バーファの町を離れた。
今回の依頼に対する報酬は、〔マール〕では無く〔対価〕。
ジーノとアーシェ、2人分の〔お守り〕と。
それに付随する、幾つか。
サフィは女神を自称するのだ、お守りは要らないだろう。
サラもヒィと良く似た事を言ったので、お守りは2つだけ。
後は。
アンビーの抱える事業が大きくなり、もっと広範囲に展開出来る程まで成長した時に。
バーファ製陶磁器を取り扱える様、前向きに検討してくれると言う確約だったり。
もしもこの世界が、何らかの勢力によって。
危機に晒さそうになった時。
バーファを初めとした、カルデラ内に暮らすエルモン達は。
ヒィ側へと付く、その誓いだったり。
その他、諸々。
中でも、一番に上げるとすれば。
それは……。
「なあ。こいつ、頭から離れてくれないんだけど。」
「ん?」
ヒィが、自身の頭を指差す。
ドギンがそこを見ると、何か居付いている者が。
それは甲高く、そして小さく。
『ピーッ、ピーッ』と鳴いている。
ドギンはヒィに言う。
「へえ、気に入られたんだ。珍しいね。」
「何が居るんだ?捕まえようとしても、頭の上で動き回ってさあ。」
ガシッと右手を右側頭部へと当て、ワシャワシャと髪の毛の中で動かすも。
上手い事、ちょろちょろと逃げ回っているらしい。
その度に、頭皮がツンツンと痛く。
気になって仕方が無い。
ヒィが呟く。
「正体が分かれば、許容出来るんだけどなあ。」
「つまり、『顔を見せて、安心させてくれ』って事?」
「そうなるね。」
「だったら、最初からそう言えば良いのに。」
「でも何か、じっとして無くてさあ。こいつ。」
捕まえようが無いから、姿を見る事が出来ない。
イライラはしないが、少し気持ち悪い。
ヒィは、そう言いた気。
だから代わりに、ドギンがそれへと言ってやる。
「顔が見たいってさ。良いだろ?」
「ピッピッ。」
鳴き方が変わった。
それは、ヒィの左肩に飛び移ると。
『ピーッ』と一鳴き。
鳴く方向を見る、ヒィ。
そこには、小さな鳥のヒナが鎮座していた。
ヒィの髪の様に、真っ赤な羽毛に包まれ。
嘴は黄色、足も黄色。
指は……3本か。
大きさとしては〔ウズラの卵〕が、該当する物として近いかも。
もこもこして可愛いが、何の種類か分からない。
ただの鳥では無さそうだが。
ヒィは焦る。
「この子の親が、心配してるんじゃないか?」
「大丈夫。この子は、自分の意思で来たみたいだよ。ほら。」
そう言ってドギンは、空を見上げる。
そこには。
〔大きな翼を広げた鳥〕の形をした、真っ赤な炎が。
見守る様に、ヒィ達の遥か頭上を旋回している。
首は長く、頭は小さく。
胴体はシャープで、尾は長い。
5本の尾羽の先には3つ位、大きな丸が。
串団子みたいに連なっている。
ドギンは言う。
「親が『この子を宜しく』って言ってるんだよ。ですよね?」
「そうだよ。ヒィに可愛がって欲しいみたい。」
右肩に現れたサラが、ドギンに同意する。
『手を振ってあげて』とサラが言うので、ヒィは旋回する炎に向かって手を振る。
「大切にするよ!そして何時か!あなたの元へ、無事に送り届けるから!」
ヒィがそう呼び掛けると、安心した様に。
炎は、火口の方へと飛んで行った。
ヒィはサラに尋ねる。
「この子は一体、何者なんだい?後、名前が有るのかなあ。」
「それは後で、【君自身が】尋ねなよ。」
そう答えるとサラは、剣の中に引っ込んだ。
モヤモヤした気持ちに成りながら、ヒィはドギンと歩く。
『お楽しみに』みたいな事を言われてもなあ。
そう思いながらも。
サラに従う他無い、ヒィだった。
「さあ、乗って。」
バーファへ向かった時と同じ様に、少し大きくなった火龍へと跨るドギン。
火龍が大きくなれる場所まで、町から離れなければならないのは。
面倒臭いと言えば、面倒臭い。
でもそれに見合う程のスピードを、火龍は持ち合わせていた。
何時までも〔火龍〕と呼ぶのは。
他人行儀な感じがして、気が引けるので。
ヒィはドギンに、名前を教えて貰おうとする。
「俺は単純に、【リュー】って呼んでるけど。」
「〔リュー〕が名前なのかい?」
「違うよ。火龍は、固定した名前を嫌うんだ。だから、あだ名だね。」
「うーん、難しいんだなあ。」
「考え過ぎなんだよ、あんちゃんは。」
「そんなもんかなあ。」
「そうそう。さあ、早く。」
ドギンに促され、リューへと跨るヒィ。
髪の毛の中に再び潜り込んだヒナが、『ピィッ』と鳴くと。
それに呼応して、リューが大きくなる。
そして立派な姿になると、勢い良くフキの方へと飛び出す。
フキへ向かう道中、ヒィは。
ありがとう、助かったよ。
そう言いながら、リューの胴体を撫でてやる。
嬉しそうに体をくねらせるリュー。
その姿を見て、ドギンも何故か嬉しかった。
今度は、町の人々を脅かさない様。
方舟の発着地点へと降り立つ、リュー。
丸太位の大きさまで縮んで、待機。
その間に、ヒィが降りる。
「また会おうね!」
「ああ!」
ドギンとヒィは、堅い握手を交わす。
そしてドギンを乗せたリューは、上空へと登り。
大きくなった後、火の玉となってバーファへと帰って行った。
その姿が見えなくなるまで、ヒィはずっと立ち尽くす。
さあ、土産話を待ち望んでいる連中の所へ帰りますか。
思い直したヒィは。
『ピーッ』と一鳴きした後黙っているヒナを、髪の毛の中に隠しながら。
広場を後にし、フキの町へと続くC級街道へ出て行くのだった。