神器の〔裏事情〕
カノーから話を聞き終わった、一同。
納得する者有り、首をかしげる者有り。
それでも、事態は収拾した様だ。
後はカノーの話通りか、確認するだけ。
と言う訳で、ヒィは。
グランガ達と共に、火口内に在る神殿へ向かう事となった。
結構な高さの火山、平地より300メートルは標高差が有るか。
しかし、意識とは不思議な物。
これが300メートルの長さの棒だったら、登ろうなんて思わないだろう。
高層建築物も同様。
なだらかな斜面が見える山だからこそ、『頂点へ行こう』と思える。
まあ、神殿へ行くには。
山頂踏破する必要は無いが。
山の中腹辺り、昔の噴火跡だろうか。
洞窟の様な横穴が開いている。
そこまでうねうねとジグザグに続いている、山道を登れば。
横穴を抜けて、火口内部へと出る。
但し今でも噴煙を上げ、マグマもボコボコ吹き上がるので。
細心の注意を払って進まねばならない。
火口内部へと入れば、後は少し上へ登るだけ。
流石に噴火口まで降り、神殿を建造出来る程。
エルモンも黒陶器も、熱に耐えられる訳では無い。
だから神殿に向かう際は、お守りを下げ。
ゆっくりと進んで行くのが常。
今回は〔サラ〕と言う、強力な火の精霊が付いているので。
こちらへ、マグマが飛んで来る心配は無いが。
神殿に向かったのは。
神官のグランガ、町長親子であるヘウラムとドギン。
そのお付き2人に、ヒィ。
事実を知る者は少ない方が、機密保持には都合が良い。
そう判断しての事。
話し合いの場に居た、他の2名は。
バーファの人達に、『犯人の手掛かりが得られた』と。
わざと触れ回っている。
変な挙動をする輩が現れないか、確かめる為に。
今の所、町中で。
変わった様子は見られない。
一通り、町を周った後。
主人の帰りを待つ為、黒い三角柱へと戻って行った。
神殿に着いた一行。
噴火口から上方へ続く、切り立った崖の様な斜面に出来た平坦な土地。
そこに神殿は立っているのだが、極めて質素な造り。
言い方を変えれば、祠の様。
高さ4メートル程、幅6メートル程の入り口。
そこから奥へ15メートル程進んだ、突き当りの壁に。
中央には横たわる棺と、その左右に神棚の様な出っ張りが。
それぞれ備わっている。
神器は棺の中へ入れられ、余程の事が無い限りそのままだと言う。
昔、活発に火山が噴火していた時期が有り。
エルモンの町が次々と、マグマと噴煙で滅ぼされて行った。
困ったエルモン達の下へ、ヴォルカノからの神託が下り。
急遽作られた物、それが供え物として棺の中に安置された。
すると噴火は鎮まり、一時的に火山の周りの気温も下がって。
エルモン達の町の復興が加速した。
それ以来、供え物は〔神器〕とされ。
それをそこから動かせば、神の怒りを買い。
派手に噴火を起こすだろう、そう言い伝えられてきた。
本当に昔の話なので、無事に安置されているか時折神官が確認するだけで。
どの様な物が棺の中に在るのか、知る者は殆ど居ない。
つまり、ここに居る者の中で〔神器を見た事が有る者〕は。
神官のグランガだけとなる。
グランガの説明では、神器は【剣の形】をしていたと言う。
何故その様な表現となるのか?
神器なので、神から許可を得た者以外は。
普通、手に取る事は出来ない。
神官も同様。
だから時々、棺の蓋をずらし開けて。
中を確認する程度。
剣の形をしているが、剣と明言は出来ないのは。
そう言った理由から。
これは、裏を返せば。
持ち去った犯人は、グランガでは無い事を示す。
実際に握った事が有れば、ぼかした表現など使わない。
嘘を付くにも、もっとましな言い方が有る筈。
これで、犯人リストからグランガは外れる。
では他に、誰がそんな事を?
それを確かめに、わざわざ神殿まで出向いたのだ。
神殿の中へ入る一行。
気のせいか、少しひんやりしている感じがするヒィ。
噴火口からの熱が、奥まで入り込んでいないのだろうか。
棺の左右に在る出っ張りへと、お守りの元となる鉱石を供えるグランガ。
そして棺の前で膝間づくと、天に向かって祈りを捧げる。
「おお!我等が神よ!今一度、姿を現したまえ!そして真実を、教えたもう!」
すると、神殿の天井から。
低い声で『良かろう』との返事がする。
棺は2メートルの長さ、その真ん中に『ボッ!』とオレンジ色の炎が灯り。
と同時に、お供え物の鉱石が消える。
炎の中から、或る姿が見える。
それを見て、ヒィは少したじろぐ。
何故なら、その見掛けは。
ミカに似ていたからだ。
ややピンクがかった白い肌、肩に掛かるオレンジ色のロングヘア。
オレンジ色のワンピースを着て、オレンジ色の透き通った靴を履いている。
背格好も、ミカに近い。
少女の様に感じたが、目付きの鋭さから少年寄りだと思った。
ミカ似のそれは、棺の上で仁王立ちし。
低いトーンのまま偉そうに、グランガへと話し掛ける。
「何用か?」
「〔例の件〕でございます。」
〔例の件〕と言えば、通じる筈だ。
同行しているヒィを見れば、尚更。
送り出す前、カノーはそう告げた。
その通りに、グランガは振る舞う。
神官として、律儀に礼儀正しく。
実際、その通りになった。
オレンジ色の少年?は、静かに頷くと。
ちらっとヒィの方を見やった後、グランガに告げる。
「そうか。ならばこれにて、そなたの謁見を終了とする。では……。」
姿を消そうとする、その者。
そこへ、サラの声が。
「そりゃ無いだろう?わざわざ足を運んであげたんだ。もっと歓迎の意思を示しても良いんじゃない?【バナ】もさ。」
「「「「「「なっ!」」」」」」
絶句する、この場の者達。
グランガもだし、その後ろに控えていたヘウラム達もだ。
神だと思って、これまで接して来たので。
サラの一言で、『ヴォルカノでは無い』と判明して。
少々困惑気味。
一方でヒィだけは、その姿と。
以前、サフィから聞いていた話で。
或る程度、『こんな展開になる』と察しては居た。
面倒臭がって、下の世界へ降りて来なくなった神の代わりに。
天使がこき使われている。
下の世界で神と称される〔顕現者〕は、殆どが天使。
それが、〔今、目の前で繰り広げられている光景〕の真実。
サラが〔バナ〕と呼んだのは、やはり天使だった。
ヒィの右肩に姿を現したサラを見付けると、途端に口調が変わる。
トーンも少女らしい感じに高くなり、話し方も軽々しく。
〔神の威厳を保つ〕、その役目から解放されスッキリしたかの様に。
「何で、お前がそこに居んのさ。」
「何でって、お前の雇い主の【尻拭い】だよ。決まってるだろ。」
「そ、そんな事は無いぞっ!」
まるで『全てお見通しだ』と言わんばかりの、サラの言葉に。
声が裏返るバナ。
バナの反応で、『カノーの語った事は真実だ』と確信するヒィ。
サラは『やれやれ』と言った感じで、バナに言う。
ヒィの顔を、横から眺めながら。
「やるのは良いけどさあ。ちゃんと穴が無い様にしないと、見抜かれるよ?ここに居るヒィみたいな、勘の鋭い者にさ。」
「えっ!ヴォルカノ様の作戦に抜かりは……!」
「だから、有るんだよ。良ーく考えなよ。」
「そう言われてもなあ……あっ!」
「やっと気付いたか。」
サラは、自分の言った事が理解して貰えたので。
満足し、姿を消した。
戸惑ったままの、ヘウラム達。
火の妖精は、考えるのが苦手な様だ。
何処が穴なのか、サラの代わりにヒィが指摘する。
それを聞いた途端、ヘウラム達は皆納得する。
『あ、後は宜しく!』と、狼狽えた様な発言を残し。
オレンジ色の炎と共に、バナも姿を眩ました。
神殿から帰還すると、ヘウラム達は。
『神器は取り返した!』と、町中へ触れ回る。
その英雄として、不本意に祭り上げられるヒィ。
これでこの町に、平和が戻るなら……。
そう心に言い聞かせ、ヒィは各家々からの接待を受ける。
ヒィが持て囃されている内に、ヘウラムとグランガは。
話し合いに出席していたお付き4人へ命じ、神器そっくりの物を作らせた。
そしてこっそりと、グランガが棺に納める。
『英雄を派遣して下さったヴォルカノ様に、感謝の意を』とか何とか。
神殿に出向く理由を適当に作って、その時に。
その間、3日程。
あっと言う間に完成させる、お付き達の鍛冶の技術も然る事ながら。
あっさりと信じ込んでしまう、エルモン達の純粋さよ。
感心したり、呆れたり。
それでも何とか、依頼は果たせた。
『それが何より』と、無理やり自分を納得させるヒィだった。
賢明な方なら。
〔尻拭い〕とは何か、〔穴〕とは何か。
既にお分かりだろう。
こうして、バーファの騒動は幕を閉じたのだが。
これは、〔この世界の、ひっ迫した現状を表す出来事〕の1つに過ぎない。
まだまだ、沢山の事が起こるだろう。
その時、ヒィ達の前に待ち受けるモノは何か?
流石にそこまでは分からない、ヒィなのだった。