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フキの町に現れたモノは

 その日、フキの町は大混乱だった。

 いきなり町の上空へ現れたかと思うと、グルグルと回り出すモノ。

 胴が長く、そのあちこちから炎が吹き上がっている。

 それは石畳で覆われた、中央広場の真上で。

 とぐろを巻いて、ジッととどまっている。

 その直径、広場をすっぽりと覆う程。

 その暑さから、あちこちで悲鳴が。

 何事だっ!

 町中から一斉に駆け付ける自警団。

 熱で倒れた人達を、救護施設へ運ぶ者。

 上空とにらめっこしている者。

 皆、町を守ろうと必死。

 その中に、ヒィの姿も有った。

 ネロウとブレアと共に、救護活動に当たる。

 すると、上空から声がする。

 それは。




「やっと見つけた!」




 と同時に、上空のとぐろが小さくなって行く。

 グルグル輪になった後、一直線に成り。

 1本の棒を形作る。

 それは気が付くと、丸太程の太さまで細くなっていた。

 うねる棒、その滑稽こっけいさ。

 ワニの様な顔付き、胴から伸びる手足。

 その上にまたがっている、少年らしき影。

 スーッとヒィの傍まで飛んで行くと、ひょいっと影は飛び降りる。

 そしてヒィに、話し掛ける。


「やあ。久し振り。約束通り、来たよ。」


「き、君は!【ドギン】かい!」


「えへへ。」


 頭を掻きながら照れる少年。

 武闘会で立会人として参加していた、ドギンだった。

 ヒィは、彼と前に約束した。

『困った時には力になる』と。

 その言葉を頼りに、ここまでやって来た。

 彼が乗って来たらしきモノは、更に縮んで。

 ヘビの様に、首に巻き付いている。

 変な奴が、町に降り立った。

 そんな情報がもたらされ、町長とロイエンスもすっ飛んで来る。

 2人が駆け付けた時は、すっかり周りから熱も引いて。

 普段通りの生活に戻っている。

 呆れる2人。

 対して『ごめんなさい!』と方々で頭を下げる、ヒィとドギン。

 ドギンが乗って来たのは、【火龍】。

 かなり炎の吹き出しを押さえさせたつもりだったのだが、それでも放射熱は強かったらしい。

 体力の弱い者を、危険に晒してしまった。

 申し訳無い気持ちのドギン。

 悪気が無いのは察していたので、一緒に謝ってあげるヒィ。

 そこへユキマリが、店に有った水を配って回っている。

 飲ませたり、拭きタオルを浸したり。

 そうやって、ヒィのフォローに入っている。

 お陰で最小限の被害に留まり、倒れた人達も軽度で済んだ。

『まだ辛い人は言ってねー、元気になる食べ物をあげるからー』と、声掛けするユキマリ。

 ユキマリも、ドギンの顔は覚えていたので。

 良からぬくわだてでは無く、不可抗力だと思っていた。

 だから、町長とロイエンスに。

 ドギン達との話し合いを申し出る。

 彼が如何いかに、無害であるかを。

 それにユキマリも、知りたかった。

 ドギンがヒィの下へ訪ねて来た訳を。

 こうすれば、話し合いの場に同席出来る。

 そこまでちゃっかり考えていた。




 取り敢えず、議論の場を集会所へと移し。

 話し合いが始まる。

 ユキマリの狙い通り、同席は叶った。

 ただその場に、アンビーも居るのは想定外だが。

 武闘会に出席していて、ドギンと面識が有る者。

 その候補として、アンビーも挙がっていた。

 会場の手伝いをしていたのは、アンビー達ネコ族なのだから。

 ユキマリが抜け駆けをしようとしている、そう感じ取ったアンビーは。

 喜んで出席。

 ユキマリとアンビーは、互いに主張し合う。

 ドギンの無害具合を。

 火花を散らしながら、2人の主張は続く。

 その中で、縮こまっているドギン。

 2人が言っている事は即ち、『如何に自分が能無しか』を競い合っている様なもの。

 辛いのは当たり前。

 それを汲み取ってか、ロイエンスが2人を制する。


「分かった、分かった。もう良い。2人共、下がってくれ。」


「「で、でも……。」」


 2人は尚も続けようとするが、ロイエンスの目線を追い駆けてようやく気付く。

 どれだけ、ドギンのプライドを傷付ける様な真似をしていたかを。

『はーい』と弱々しい返事をしながら、2人は退場する。

『後で内容を聞かせてね』と、ユキマリが。

『物すっごく気になるんだけどー!』と、アンビーが。

 それぞれヒィにささやきながら。

 集会所の会議室に残るのは、町長とロイエンス。

 そして、ドギンとヒィ。

 真昼間だった事も有り、他は出払っている。

 ロイエンスがドギンに尋ねる。


「私はヒィの叔父、後見人でも有る。もし差し支えなければ、ここへ来た理由を話してはくれまいか?」


「うん。」


 フキの町に迷惑を掛けた、後ろめたさも有ったのだろう。

 3人の前で、ドギンは話し始めた。




 ドギンは火の妖精〔エルモン〕の1人。

 と同時に。

 エルモンの町〔バーファ〕の町長の、跡取り息子でも有る。

 バーファに暮らす者は、【ヴォルカノ】と言う神を崇め。

 その下に位置する火の精霊、【ウルカ】の加護を受けている。

 ウルカは、火の精霊の中では真ん中に位置する者。

 サラより2つ低く、ポウより2つ高い。

 基本時に、妖精の代替わりは。

 長寿な事も有って、形式的な物。

 しかし今、バーファの町は揉めていた。

 ヴォルカノに楯突き、神殿の祭壇にそなえられていた神器を盗み出した輩が出た。

 その権威を利用して、町長の地位に就こうとしていたのだ。

 〔エルモンの総本山となっている、バーファを治める〕と言う事は。

 〔数多あまたのエルモンの頂点に立つ〕と同義。

 地の果てまで追い駆け、そいつをやっと捕らえたが。

 肝心の神器が見つからない。

 無理やり吐かせようとしたが、獄中で死亡。

 妖精の死、即ち【消滅】。

 誰の手にる仕業かは、分かっていない。

 いかったヴォルカノかも知れないし、裏でそ奴を手引きした者かも知れない。

 とにかく。

 長い間、祭壇自体が封じられていたので。

 神器がどの様な物か、知る者が居ない。

 捜索が行き詰まる。

 そこで、神官による祈祷きとうが行われた。

 その者が占った所、『武闘会で手掛かりが得られる』と出た。

 このままでは示しが付かない、ヴォルカノの怒りに触れて町が滅ぼされるかも。

 そう恐れた、ドギンの父である町長は。

 息子に託す。

 偶然か、立会人の依頼が〔テトロン〕から有ったので。

 ドギンが立会人として、会場へと向かったのだ。

 勿論ドギンも、それ相応の優れた力を持つ。

 武器の観察眼は、ドワーフにも勝る。

 その目が、『これだ!』と感じたのだ。

 ヒィの背負っている、不殺ころさずの剣を見て。

 真っ赤な刀身、あれは業物わざものに違い無い。

 不思議な力も感じるし、あれを持って帰れば……。

『神器が戻って来た』と噂になれば、本物を持つ誰かが。

 必ず『こちらが本物だ』と名乗りを上げ、バーファへとやって来る。

 そこを取り押さえ、神器を取り返す。

 その予定だったのだが……。




「サラに突き離された、と。」


「うん。」


 ヒィにそう言って、うな垂れるドギン。

 全く、最初からそう言っていればいいものを……。

 いきなり『貸してくれ』と言われても、すんなり受けられないよなあ。

 そう漏らすヒィ。

『俺が焦り過ぎてたんだ』と、しょぼくれるドギン。

 対して、キョトンとした顔の町長とロイエンス。

 ドギンの事情は分かった。

 しかし、切れ味皆無のこの剣が。

 それ程素晴らしい物に思えない。

 2人は知らなかったのだ、サラマンダーが宿っている事を。

 そこで、サラが姿を現す。

 ヒィの右肩にちょこんと座ると、2人に挨拶する。


「やあ。ボクはサラ。〔サラマンダー〕だからサラ、宜しくね。」


「……火の精霊、最上位の!」


 びっくりする町長。

 そして『ははーっ!』と、途端にかしこまる。

 サラがその気になれば、この辺り一帯を焼き尽くすなど造作も無い。

 その気になればだが。

 ロイエンスも驚く。

 元々由来不明の剣、おかしくは無い話だ。

 急に刀身が深紅に染まったのも、これで合点が行く。

 ロイエンスに対しては、友好的なサラ。

 彼が一族と共に旅をしていた頃、剣を大切に扱っていたのを覚えていたから。

 気安く、ロイエンスに話すサラ。


「ヒィは、この剣を持つに相応しい人間と成りつつあるよ。着実にね。」


「そ、それは喜ばしい事で……。」


「だから、ヒィの成長を見守ってあげて欲しい。これまでと同様にね。」


「はい。」


 低いトーンで、力強く答えるロイエンス。

 一方で、ヒィの凄さに感心していた。

 サラマンダーに認められるとは、兄が知ればさぞ喜ぶだろう。

 ヒィの行く末を共に見たくなった、だからヒィへ進言する。


「力になってやると良い。それがきっと、皆の為だ。」


「おじさんが、そうおっしゃるなら。」


「ありがとう!」


 そう言って喜び、ヒィの手をギュッと握り締めるドギン。

 自分に何が出来るか分からないが、困っている者を放っては置けない。

 ヒィの目には、新たな決意の火が灯っていた。

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