宝物殿、あるべき姿へと
シュッ!
レギー達に遅れる事、数分。
ヒィとブレイムも、サフィの瞬間移動で宝物殿前へとやって来た。
そこでは、周りを散策している4人の姿が有った。
初めて来た時には、ゆっくりと眺める暇も無かったので。
宝物殿に付いた焦げを、間近でじっくりと観察するレギー。
花をツンツンしているジーノ。
裏に回ってみる、アーシェとクリス。
行動は様々。
ただ、4人共分かっていたのは。
ここは頻繁に訪れて良い場所じゃ無い、それだけ。
だから、今の内に堪能しておく。
それも、ヒィ達の到着で終わりを告げる。
宝物殿の入り口らしき場所へと、皆が集まる。
そして、これから起こる事を目に焼き付ける為。
ヒィの背中越しに、大きな建物を見つめるのだった。
「いつもの感じで良いんだな?」
念の為、ヒィはサフィへ尋ねる。
『ええ、パパッと済ませちゃいましょ』と、サフィ。
背中から剣を抜き、前へと構えるヒィ。
基礎の有る階段を登り、焦げ付いた部分が有る壁へと向き合い。
チョンと剣先を壁の上方に当て、縦にシュルッとなぞる様に振り抜く。
すると、宝物殿全体が『ピカッ!』と光り。
視界が真っ白になって、何も見えなくなる。
「うわっ!」
「きゃっ!」
慌てて顔を背け、更に俯き加減と成って。
眩い光から目を守る、レギーとクリス。
他の人達の様子は分からない。
きっと同じ行動を取っているだろう。
それ位、光が強烈だったから。
段々光量が落ちて来ると、目を少しずつ開けるレギー。
目を伏せるタイミングが少し遅れたので、初めは視界がぼやけていたが。
目が慣れて来ると、はっきり見える様になる。
そこで目に付いた風景は。
「あっ!」
視界を取り戻した他の者達も、一様に声を上げる。
そこには、宝物殿らしき建物は無く。
基礎さえも消え去っていた。
そして残っているのは、白い石の立方体。
縦横奥は、3メートル程だろうか。
奇妙な事に、それは地面の上に在った。
前面は、花畑から少し離れている。
早速近付いて、その塊を観察する子供2人。
好奇心旺盛な年頃、叩いてみたり周囲を歩いてみたり。
そして出した結論は。
「ただの塊ね。」
「だね。」
これが、ゲート?
扉には見えない。
何処から開くのか、見当も付かない。
疑う2人に、サフィが言う。
「今から起動確認するから。そこで見てなさい。」
正面?らしき方へ回り込む2人。
それは、基礎に設置された階段が有った方向。
サフィがヒィへ言う。
「その面の真ん中を、剣で突いて頂戴。『開け!』って、叫びながらね。」
「本当に人使いが荒いな、全く。」
「ごちゃごちゃ言わないの。みんな、期待してんだから。」
「はいはい。」
適当に流しながら、立方体の70センチ程手前に立つヒィ。
ワクワクしながら見ている、レギーとクリス。
その少し後ろから、ジーノとアーシェが。
ヒィの右にはブレイムが、左にはサフィが。
見届け人の様に陣取っている。
『ふう』と一息吐いた後、ヒィは。
『開けっ!』と叫んだ後、剣先を正方形の真ん中に付ける。
すると、小さな点が浮き上がり。
ジュワッ!
そこを中心に虹色の光を放ちながら、円が形成され。
凄まじい速さで大きくなって行く。
あっと言う間に面全体を埋め尽くした、虹色の光。
輝きがが消滅すると。
正方形は、空間に空いた穴となった。
唖然とする、レギーとクリス。
穴の中を覗き込み、うんうん頷くサフィ。
ヘヴンズへの接続は、正常に行われた様だ。
サフィが手で合図すると、ヒィは『閉じろ!』と叫ぶ。
今度は、正方形の四辺から。
シャッターが閉まる様に、緑色の平面が中心へと伸びる。
そして重なり合い、穴を塞いだかと思うと。
『ジュッ!』と言う音を立てて、ただの一枚板になった。
ゲートの修復は、これで終了。
サフィがクリスに言う。
「確かめたいんでしょ?触ってみたら?」
「だ、大丈夫なの?」
「ええ。あんた達は許可して無いから、通り抜けないわよ。」
確かめたい、でも怖い。
そんなクリスの手をギュと握る、レギー。
そう、2人でなら。
思い切って、両手のひらをペタリと付けてみる子供達。
余りの平らさに、下へズルッと滑りそうになる。
何とか踏ん張って、耐え切ると。
表面を撫で撫で。
やはり、凸凹は無い。
人知を越える物、こんな身近に存在するなんて。
不思議でも有り、嬉しくも有る2人だった。
「なあ。何でゲートを直したら、建物が消えたんだ?」
ジーノがサフィに尋ねる。
対する答えは、素っ気無いもの。
「あんな飾り、無駄なだけよ。ゲートとして機能する部分が有れば、それで十分。」
「いや、それは分かるけどさあ……。」
「『ファンタジーだから』だろ?どうせ。」
納得の行っていないジーノに、ヒィが言う。
ジーノは、建物が基礎毎消えた【原理】を聞いたのだ。
それにサフィは答えていない、だから不満だった。
でもヒィは、敢えて例の言葉を使った。
『そんな事、どうでも良いじゃない』と言うサフィの気持ちを、代弁する様に。
それと同時に。
色々と付け足しておきながら放置した神々への、【無責任さに対する警告】なのだろう。
『あんた達も無駄ばかり繰り返していると、こんな風に消え去る事になるわよ』と。
ヒィは、そうとも思っていた。
その右肩に左手を置き、ブレイムは頷く。
ブレイムも同意見らしい。
そして何処か懐かしそうに、緑色の正方形を見つめるブレイムだった。
何故緑色か、言うまでも無い。
〔回復・復元〕を司る緑色の炎の力で、ゲートを修復したから。
他の面は白のまま。
これなら花畑が立方体の傍まで迫っても、何方がゲートの面か直ぐに分かる。
こんな形になっていて驚くであろう、再びゲートを利用した神々さえも。
満足気に、サフィはこの場から去る。
てっきり『このゲートを使って帰る』と思っていたジーノは、肩透かしを食らう。
ターレンの屋敷に荷物を置いたまま、それさえ思い出せていれば。
そんな事は考えなかっただろうが。
通路を潜り、雪が解けた斜面へと出る一同。
ムニャムニャと、呪文の様な物を唱え出すブレイム。
すると通路の入り口は、サアッと消える。
普段は幻を見せて、隠しているらしい。
ホッとすると同時に、またあの剥き出しの地面を眺める羽目になるレギー。
肩を落とすその姿、少々哀れ。
そこでヒィは、サラに尋ねてみる。
「出来る?」
『出来るよ。』
サラはヒィの意図を察したらしい、直ぐに返事が来た。
『ならば』とヒィは、地面に剣先を向ける。
緑色の炎が剣先に灯り、地面へポトリと落ちると。
ブワァッ!
剥き出しになった地面全体へと、燃え広がる。
焦るレギー、キューレやヴィルジナルが怒ると思ったのだ。
しかしそんな事は無く、炎が消え去った後には芽吹いたばかりの新芽が。
荒れた土地の力を、回復してやったのだ。
剣を背中に仕舞うヒィ、その手を取って縦にブンブンと振るレギー。
「ありがとう!これでまた、山菜取りが出来るよ!」
「これ位は、喜んで。」
満面の笑みを浮かべるレギーを見て、ヒィも嬉しそう。
『やっぱり魔法は、こう使うべきなのよ』と、改めて思うクリス。
ヒィの使う炎は、魔法とはやや性質が異なるのだが。
『ここでは突っ込まないでおこう』と胸の内に仕舞う、サフィだった。
ヒィ達の出来る〔後処理〕は、こうして幕を閉じた。
後は、フキの町へと帰るだけ。
しかし、何か忘れている様な……。