〔宝物殿を守る訳〕とは
どうしてブレイムは、宝物殿を守っていたのか。
それは、至極簡単な事。
ブレイムは答える。
「変な輩から、〔宝〕を守る為だ。」
「でもそれは、人間が考える様な〔お宝〕では無い。ですよね?」
ヒィは尋ねる。
黙って頷くブレイム。
その辺りの事は、サフィから説明が。
「あたしが宝物殿に拘ってた事で、薄々感付いてるでしょうけど。改めて明言しておくわ。あれは【建物では無い】のよ。」
「〔ゲート〕、だろ?」
「そう。流石、ヒィね。」
「お前が張り切るとしたら。ゲート絡みなのは、分かり切ってるからな。」
あっさりと答えを当てるヒィ。
そう、あれはゲート。
建物の外見をしているが、あれは扉にあれこれ足された結果。
誰が?
利用する神々が。
ではブレイムが、戒めの相手としているのは?
それも、神々。
下の世界の者達に対してでは無い。
移動を面倒臭がり、下の世界へ干渉する事が減って。
上の世界で話し合いばかりして、自ら動こうとしない。
正に怠慢極まりない対応、これが驕りで無くて何だと言うのか。
ブレイムはそう主張する。
ここからは、ブレイムの昔話。
サフィに助けられた後、ワービーストとして生まれ変わり。
様々な神々へ仕える様になった。
下の世界へ積極的に介入していた頃は、共に付き従った。
しかし平和な世の中に成って行くと、神々も安心したのか。
下の世界への関心が薄れ、天使を代わりに派遣する様になった。
逆に言えば。
それで事足りる程、下の世界は統制が取れ。
規律正しい仕組みが出来上がった、と言う事でも有る。
わざわざ神々が調停に出向かなくても、勝手に解決する。
成熟して行く社会の中、神々が口を挟む余地は減り。
『下の世界はもう、そこで暮らす者達に任せて良いのではないか』との意見が。
神々の中で、大半を占める様になった。
だからゲートは、どんどん朽ち果てて行き。
下の世界の住人の前に直接顔を出す事も、パタリと止んで。
人々から、神々に対する信仰心が無くなって行く。
代わりに存在感を増したのが、精霊。
魔法を行使するのに欠かせない存在なので、神々よりも崇められる様に。
それが、ブレイムには我慢ならなかった。
そんな中でも、サフィだけは。
下の世界へよく顔を出し、人々と戯れていた。
或る時、ブレイムは決意する。
『下の世界へ移住しよう』、と。
『なら、丁度良いわ』と、相談相手のサフィに言われ。
ペルデュー国に在ると言う宝物殿、その守護者として。
あの窪地で暮らす事となった。
『きっと何時か、あなたの力が必要になるから』と。
今正に、その通りと成りつつある。
神々が安穏とした生活を送る間に、こちらの世界を狙う者が侵攻しつつあった。
それが、〔K〕。
恐らく、今の体たらくでは。
神々はKに勝てない。
慌てた神々は、〔天啓〕と言う形で。
対抗勢力を生み出そうとしていた。
その核となるのが、〔救世の御子〕。
彼等に神々の能力の一部を委譲し、代わりに戦って貰ってその場を凌ぎ切る。
神が、本来の力を取り戻すまで。
しかし能力を分け与えるには、適性が必要。
誰にでも授けられる程、軽々しい物では無い。
極稀に現れる能力適性者へ、託す事となる。
それは生まれ出る前かも知れないし、成長した後かも知れない。
適性者の数も分からないから、託す者も限られ。
救世の御子は、複数の能力持ちになるかも知れない。
神は、思っているより沢山居るのだ。
そうやって、漸く。
重い腰を上げて動き出す神々に対し、駄目出しをする為。
ブレイムは、ゲートの前に居座った。
と言う訳だ。
サラッと、とんでもない事を言ったブレイム。
ここで今一度、一同に対し付け加える。
「〔恩有るこのお方の仲間だ〕と言うから、話したのだぞ。特に、そこの騎士。国王や魔導士に報告せぬよう。」
「だ、駄目なのか?」
恐る恐る、尋ねるアーシェ。
こんな重要な事実、誰にも知らさず心の中で抱えたままなら。
罪の意識が半端無い。
仕えるべき主を騙す事になる、心苦しい。
それでもブレイムは言う。
「駄目だ。逆に、国内が混乱するだろう。それはお主も、望む所では無かろう?」
「た、確かに……。」
何処からかは分からないが、Kが何れ来るのは確実。
そんな話が広まったら、国内外が荒れるに決まっている。
結束が大事なのに、コミュ同士がバラバラになりかねない。
考えに考え、アーシェは答えを出した。
「私も誇り高き、カッシード公国の騎士。約束は守ろう。」
「それで良い。無用な波は立てぬ事だ。」
アーシェの言葉に満足するブレイム。
『お主もだぞ?』と、今度はジーノを睨む。
「え?オラも?ドワーフなのに?」
「だからだ。妖精は能天気過ぎる。直ぐに、他のコミュへ喋るだろう。そうなれば……。」
ヒィの方を向きながら、ブレイムが言う。
或る種、同族を見る目付きで。
「彼が苦しい立場に追い込まれる。それでも良いのか?」
「な、何で!?何で兄貴が……!」
「彼は〔救世の御子候補〕なのだろう?既に広まり始めているぞ。」
「そうか!武闘会で目立ち過ぎたから……!」
良い意味でも、悪い意味でも。
ヒィは、存在感を放ってしまった。
彼を歓迎する者、排除しようとする者。
今後も行く先々で現れ、立ち塞がるだろう。
その確率を上げてはならない、彼の行動を縛ってはならない。
これから紡がれる物語の流れを、意図せず加速させてはならない。
それは、ジーノ自ら。
〔兄貴〕と慕う人物を、この手で追い込む事になる。
だから、我慢。
まだまだ傍で、学びたい事が有る。
ジーノも、決めた。
「誰にも喋らないよ。約束する。」
「結構。」
「でも内輪では、話しても……。」
「何時、何処でも。『誰も聞いていない』と断言出来るならな。」
「うっ……。」
黙り込むジーノ。
そこへ。
「必要な時は、僕が仲介してあげるよ。思念波で。」
『ヒュッ』とヒィの右肩に現れた、サラ。
余りにキツい言い方をするブレイムのフォローに、わざわざ出て来たのだ。
「全く相談出来ないと、どの道つっかえる事になるからね。どう?」
「お主が良いなら、私は構わんよ。」
「決まり!」
サラはブレイムと言葉を交わした後、シュッとまた姿を消した。
因みに、今この部屋は。
結界が三重に張られている。
外から順に、サラ・サフィ・ブレイム。
ヒダマにさえも、聞かれない様にする為。
国家機密を越えた、何か。
ここで話された内容は、それ程重大な物。
それに比べたら。
お宝目当てで宝物殿を襲おうとする連中など、雑魚も同然。
ダイエンの身体を借りて散々ぶっ放した、悪魔の魔法攻撃も。
簡単に耐えられる訳だ。
ブレイムは〔人獣〕と言うより、〔神獣〕に近い存在なのだから。
さて、話も終わった事だし。
【あれ】を片付けますか。
サフィは結界を解き、部屋の外へ出ようとする。
ドアを開けると、そこには。
クリスとレギーが居た。
レギーがサフィに言う。
「宝物殿へ行くんでしょ?僕達も連れてってくれないかな?勿論、父さんは了承済みだよ。」
「『私達は、見届ける義務が有る』。ポウに、そう言われたのよ。」
クリスも言う。
あのお節介精霊めーっ!
内心は、邪魔で仕方無いが。
無理に作り笑いを浮かべ、『良いわよ』と返事する。
『じゃあ、早速……』と、自分達の部屋に戻って準備をしようとする2人。
しかしサフィは、むんずと2人を掴み。
「先に行って、待ってなさい!」
シュッ!
シュッ!
「ふうっ。宝物殿の前に置いて来たわ。すっきりしたー。」
「こらっ!何も言わず、いきなり跳ばす奴が有るか!」
「良いじゃない。あたし達も直ぐに行くんだから。少し位待たせても。ねえ?」
怒るヒィに対し、ブレイムに同意を求めるサフィ。
流石のブレイムも、困った顔付きに。
更に怒るヒィ。
「ほら見ろ!賛同が得られないじゃないか!」
「分かったわよ!これで良いんでしょ!」
むくれるサフィは、ジーノとアーシェの首根っこを掴み。
シュッ!
シュッ!
「これで良しっ。監督役を置いとけば……。」
「良く無いっ!」
またしても怒るヒィ。
散々な態度に、言い返すサフィ。
そのやり取りを見て、ブレイムは思う。
彼女のこんな賑やかな顔を見るのは、何年ぶりだろうか。
何時の間にか、2人を見る眼差しが。
温かいモノになっている、ブレイムだった。