ヒダマは契約成る、一方で山龍は
砦に呼ばれる、ペガル家の関係者。
デッダの妻と子供達、そして弟夫婦など。
聞き取りを重ねた結果、今回の事はどうやらデッダの独断。
野望を秘めた心の内を見抜けなかった事に対し謝罪する、親族達。
特に妻は、ショックが大きい様だ。
彼女達に罪は無いが、罰を与える必要が有る。
区長達が下した処分は、以下の通り。
1.ペガル家の当主は、デッダでは無く〔その弟〕とする。
2.デッダは禁固刑に処すが、特に期限は設けない。反省の色が見られるまでとする。
3.デッダの妻及び子供達は、当主を継いだ弟夫婦の奉公人と成る事。
4.当然だが、今後は町の為に全力で尽くす事。
以上。
ヒダマに配慮して、かなり温情的な処分となった。
精霊達は、無暗に命を奪う事を望まない。
人々の暮らしに寄り添って来たヒダマなら、尚更。
『これで良い』、区長達はそう思っていた。
協議は終わり、区長はそれぞれの屋敷へと戻る。
レギーとクリスも、ターレンに連れられて屋敷へ。
そこでターレンはクリスに、或る魔法を教えてやる。
それは曽て、調査に訪れていた魔導士から教わった技。
精霊の声が聞こえる様になる魔法。
自分は無理だったが、クリスなら……。
教わった通りに呪文を唱え、耳を触るクリス。
すると、『キイィーーン!』と言う甲高い音と共に。
触った耳が光り出す。
どうやら成功したらしい。
早速クリスの耳に、何者かの声が聞こえて来る。
『やあ。可愛らしいお嬢さん。僕は、火の精霊ヒダマの〔ポウ〕だよ。宜しくね。』
「ほ、本当に聞こえた!」
興奮するクリス。
これまでも、精霊の気配を感じる事は出来たが。
声までは聞こえなかった。
ポウが続ける。
『話は聞いているかい?僕達にはもう、時間が無いんだ。契約をお願い出来るかな?』
「勿論よ!さっさと済ませましょう!」
『ありがとう。じゃあ、目を瞑って。』
ポウにそう言われ、静かに目を閉じるクリス。
1人でブツブツ言っている様にしか見えない、ターレンとレギー。
何が起こるのか、ドキドキしながら見ていると。
天井の梁から、小さい火種が落ちて来る。
それはポトリと、クリスの頭の上に乗っかる。
少しの間、ゆらゆら揺れた後。
火種はヒュルッと消滅。
熱さ等は感じないらしい、クリスは平然としている。
クリスの耳に、ポウの声が聞こえる。
『契約成立だ。何とか間に合った、君のお陰で僕達は救われたよ。』
クリスがそっと目を開ける。
屋敷の柱から、ポコポコ小さい炎が生まれると。
嬉しそうに揺れている。
急に火が見えたので、慌てる召使い達。
消そうと水を取り出した時には、既に火は消えていた。
それが〔ヒダマ達のダンス〕だと知ったのは、その少し後の事。
クリスがポウと契約を交わした時。
フラスタ中の家々で、ヒダマ達のダンスが見られたらしい。
初めは悲鳴、後に感嘆の声。
皆それで、ヒダマの存在を思い出した様だ。
子供達は珍妙な光景が見られて、家の中をはしゃぎ回り。
大人達は今一度ヒダマに、感謝の祈りを捧げる。
ポウは、フラスタを仕切るエリメン卿の屋敷に住んでいる精霊。
その契約効果は、町中に反映される。
だからフラスタのヒダマ達は、こうして蘇った。
町を守る事が出来て嬉しい、クリス。
ポウはクリスにこう言い残して、静かになった。
「他属性の精霊とも契約出来るけど、氷の精霊は別だよ。ごめんね。」
「『さんりゅー』とか『こくおー』って、ちょっと呼びにくいなあ。名前は無いの?」
「名前か?そうさなあ……。」
ヒィ達が泊まっていた、ターレンの屋敷の一室。
そこには、ヒィ達3人と。
後で合流したサフィ、それに山龍が居た。
『呼び辛い』と、ジーノが山龍へ注文を付ける。
山龍はサフィの方を見ると、それに答える様に。
「名乗っても良いんじゃない?あたしの仲間だし。」
「承知しました。では。」
改まって、山龍は。
本来の名を名乗る。
「私は太古の生物、【恐竜】の【ブレイム】だ。宜しく頼む。」
「因みに、名付けたのはあたしよ。センス有るでしょ?」
「感服致します。」
サフィに対してお辞儀をするブレイム。
前にも触れたが、見掛けは完全に紳士。
40代後半だろうか、白い短めの口髭を生やしている。
格好も黒のスーツ姿。
白いYシャツの上に、黒いネクタイをきちっと締めている。
まるでこれから、誰かの葬式へでも行くかの様。
ジーノが格好について尋ねると、『同胞の死を忘れない為の物だ』と返す。
気になる単語が出て来たので、アーシェがブレイムに尋ねる。
「《恐竜》とは、何ぞや?そんな名前、【アカデミー】でも聞かなかったが……。」
「それはそうだろう。元々〔ゼアズ・ワールド〕の者では無いからな、私は。」
「えっ!」
ブレイムの言葉に、驚くアーシェ。
アカデミーとは、この世界の人間族コミュに存在する〔教育機関の最高峰〕。
そこではこの世界、ゼアズ・ワールドに付いての研究が。
日夜、報告されている。
世界の歴史、コミュの活動具合など様々。
大抵の知識は、網羅されている。
そんなアカデミーで話題に上がらない、だから聞いた事が無い。
その理由が、〔この世界の者では無いから〕ときた。
混乱するアーシェ。
まさか、こことは別の世界から来たとでも言うのか!
それは、〔異世界とここが通じている〕と同義。
大変な事だ!
天啓が指し示した、Kなる者が。
異世界からやって来る者なら、事前に対策のしようが無い。
その可能性を生んでしまった、ブレイムの存在が。
アーシェに頭を抱えさせる。
それ程この世界に関して知識の無いジーノは、寧ろあの大きな姿に興味が有った。
「あの山の様に大きいのが、本当の姿なのかい?」
「そうだ。私は曽て同胞と共に、繁栄の春を謳歌していた。しかし或る時突然、滅んでしまった。」
「でもあんた、生きてるじゃん。何で『滅んだ』なんて言うのさ?」
「それは、その間際に。偶々私だけ、この方に命を救われたからだ。」
そう言って、サフィを見るブレイム。
ぶいっ!
自慢気にピースするサフィ。
『凄いでしょ』と言いたいらしい。
ブレイムは続ける。
「私は助けられた。そしてこの方に誓った。『同胞の分まで、ここで過ごそう』と。戒めとして。」
「戒め?」
疑問に思うジーノ。
ブレイムが答える。
「そうだ。戒めだ。【驕り高ぶる者は、必ず滅びる】。その〔生きた教訓〕として存在し続ける事で、その役目を果たしている。」
「そういやこうなって、かれこれ何年経つかしら?1,500年?」
「2桁少ないですぞ。大体、200,000年です。」
「に、二十万年!」
びっくりするヒィ。
そんなにブレイムが、長生きしているとは見えないし。
第一その話が本当なら、サフィも……。
考えるヒィの顔を、両手のひらで挟み込み。
ムニュムニュと揉み出すサフィ。
「乙女の年齢を勘繰らないの!失礼ね!」
「にゃ、にゃにを……!」
抵抗するも、ムニュムニュし続けられるヒィ。
顔の筋肉が緩むと、漸く手を離すサフィ。
やっと解放され、ホッとするヒィ。
一方で、やっと落ち着いたのか。
冷静な表情と成り、ブレイムに尋ねるアーシェ。
それは。
『宝物殿とは何か』と言う核心にも触れる、重要な質問だった。
「どうしてあなたは、宝物殿を守っていたのだ?あんな辺境の地で暮らしていても。教訓や手本になど、ならないと思うのだが……。」