砦での会議、再び開催へ
ドンゴ家の屋敷は。
レギーの実家とは比べ物にならない程、豪華絢爛。
だが何処か、無機質にも感じる。
精霊の力が通っていないと言うか、生気が無いと言うか。
一応ここにも、火の精霊ヒダマは居る様だが……。
屋敷はレンガ積みの高い塀に囲まれ、中が見えない。
正面に回ると、この屋敷の門前にも兵士達が立っている。
ヒィとレギーが兵士達の下へ向かい、ドンゴ家に用が有る旨を伝える。
レギーの姿を見た途端、だらけていた兵士達はシャキッとし。
大急ぎで、中へ取り次ぎをする。
良く今まで、何も無かったものだ。
『トホホ』と嘆くレギー。
考えが分かったのか、その肩を軽くポンと叩くヒィ。
半開きだった門が全開し、『どうぞ、お入り下さい』と兵士達が中へ招く。
ソリを外へ待たせたまま、取り敢えず要請だけ済ませようと。
レギーとヒィは、屋敷へと入って行った。
『ヒダマは居るけど、居心地が悪そうだよ』と。
久し振りにサラが、ヒィに話し掛ける。
『伝えとくよ』とヒィが返事すると、『ありがとう』と一言。
またサラは黙ってしまった。
その様子を見て、レギーがヒィに尋ねる。
「誰と話してたんですか?」
「剣に宿る精霊だよ。ヒダマが恐縮がるから、引っ込んでいるけどね。」
「そうですか。」
ヒダマよりも高位の精霊が宿っているのか……。
道理で凄い訳だ。
レギーは素直に、そう思う。
老人達を癒した、緑色の炎。
これは第4の炎、【回復・復元】を司る。
ここが初出では無い。
ラモーとの特訓で、ヒィが負傷した時。
何とかしてくれたのが、この炎。
サフィと言うヒーラーが居る時は、殆ど使わない。
本来は、剣を振るうヒィの切り札として。
隠し持つ物だから。
今回は特別。
悪魔が身体を乗っ取れない様、人々の表面に防御膜を展開していたのと。
瞬間移動の使い過ぎで。
サフィは、回復役として期待出来無かった。
だから、仕方無くだった。
まあ、見ていた人間達は自慢気に話すだろうが。
簡単には信じないだろう。
魔法使いや魔導士など、魔法に携わる者以外は。
「何と!それは由々しき事態!直ぐ手配しよう!」
「宜しくお願いします。」
ドンゴ家の代表、【セドウ=エル=ドンゴ】と面会したレギーは。
感謝の意を表し、頭を下げる。
この間に。
許可を貰ってソリとキムンカ達を敷地内に引き入れ、ドンゴ家へ返す。
別れが惜しいのか、サフィはキムンカにスリスリ。
ジーノは『ありがとよ!』と、労いの言葉を掛ける。
キムンカ達は、自分達が住まう小屋へと戻って行く。
小屋と言っても、人の暮らす家並みに立派な建物。
彼等は家畜として飼われている訳では無く、人間と対等の扱い。
それでも初対面の人々は驚くので、キムンカ専用の屋敷が用意されている。
決して隔離では無い、共存共栄の為。
その辺は、キムンカ達も了承していた。
ここに見られる様な不思議な関係は、他の地域にも存在するが。
何れ、触れる事も有ろう。
区長達へ送った使者が戻る間。
セドウの前に連れて来られた、案内人2人が。
全て白状する。
怒りを抑えながらセドウが、『追って沙汰を下す』と告げると。
観念する案内人。
そのまま、屋敷の外へと連行され。
犯罪者を放り込んでおく牢屋へと入れられた。
入れ替わりに、使者が戻って来る。
皆速やかに、砦へと集まるそうだ。
さて、俺達も行きますか……。
ヒィ達は先に、屋敷を後にする。
慌てて支度をしたセドウも、ボディーガードに守られながら。
続いて砦に向かう。
セドウの顔は、険しかった。
まるでこれから、戦場へと向かうかの様に。
「おお!レギーにクリス!お帰り!」
「ただいま!」
砦へ一足先に着いていたターレンに出迎えられ、思わず抱き付くレギー。
やはりまだ子供、親元を離れ不安だったのだろう。
それをニヤニヤしながら見ていたクリス。
「な、何だよ!文句有るっ!」
「無いわよ。全然。」
クリスの態度に反発するレギー。
それにあっさりと答えるクリス。
レギーを優しく離すと、ターレンは。
膝間づいているエドワーとヘレンの下へ赴き、礼を言う。
「守り通してくれて、ありがとう。」
「「勿体無きお言葉。」」
畏まるお付き2人。
ここでお付きの任を解かれ、再びターレンのボディーガードへと戻る。
ヒィ達にも礼を言おうと、近付くターレン。
そこで見慣れない人影を見付け、驚く。
「そ、そなたは!どうしてここへ!」
「驚かれるのも無理は無い。私も初めは驚いたものだ。」
ターレンにセドウが声を掛ける。
その内に、他の区長も駆け付けた様だ。
緊急の議有り、しかも前に国内で暴れた連中と関係が有る。
そう告げられたら、馳せ参じるのも当然。
こうして何日か振りに、5区長全員が揃ったのだった。
砦の2階、会議室の様な部屋に集った人々。
そこには、言い知れぬ緊張感が漂っていた。
何故なら、議題が議題なのと。
滅多にここへ現れない、〔国王〕とも〔山龍〕とも呼ばれる者が。
立ち会っていたからだ。
しかも、前に集まった時には居なかった少女の後ろで。
彼女が主人であるかの様に、胡坐を掻いて座っている。
何ともややこしい関係。
この場を取り仕切るのは、部外者である筈のヒィ。
こうなってしまったものの、受けた依頼は遂行せねば。
と言う訳で、司会者的な立ち位置に。
ヒィが5区長へ告げる。
「残念ながら、この中に【国を売ろうとした輩】が居ます。」
「そ、そんな!」
「裏切者が居るだと!」
「……いや、それが本当だとすると。これまでの事が上手く説明出来る。」
「うーむ……。」
セドウは知っていた。
案内人の証言を聞いていたから。
出来れば自分から名乗り出る事を期待し、ヒィに間を作って貰ったが。
誰も、そんな素振りは見せない。
残念だ、区長としての誇りさえ捨て去ってしまったか。
そう思い、ヒィへ物申す。
「して、それは誰の事か?」
「はい、それは……。」
ヒィが告げた、裏切者とは。
「あなたですよ。ドンゴ家が管轄する地域の、隣の方。」