弱々しい供を連れ、フラスタへ帰還
喋りに喋った後、結局案内人2人もグルグル巻きに。
命を取られなかっただけでも、儲け物だ。
モンシドへ集っていた男達も、帰り支度を始める。
その中を、暖かい風が通り過ぎる。
どうやら寒い季節も、終わりを迎えるらしい。
エイス達ヴィルジナルも、奥へと引っ込む事になろう。
そう考えると、少し寂しく感じるヒィだった。
数百もの人数なので。
男達のフラスタへの帰還は、少々時間が掛かりそうだ。
ヒィ達は先行して、町へと戻る事に。
その為に、クリスはサフィへ願い出る。
『力を貸して欲しい』と。
『まあ、しゃあ無いか』と、サフィも了承。
ここで恩を売っておいた方が、その後の事がスムーズに運ぶだろう。
そう考えての事。
サフィの狙いは、あくまで〔あれ〕なのだ。
それが分かっているのは、フキの屋敷で同居する3人だけだが。
ヒィ達は2台のソリに分乗して、モンシドを発つ。
『俺達も直ぐに行くからよー!』と、男達が声を掛ける。
後ろを振り返り、男達に手を振るレギーとクリス。
その顔は、明るさと暗さが入り混じっている。
心中はやはり、複雑な様だ。
モンシドが見えなくなるまで進むと、ソリは止まる。
サフィは『よいしょ』とソリから降りると、その側面に触れ。
ブンッ!
シュッ!
ブンッ!
2台のソリを、乗っている人毎瞬間移動させる。
その先は。
「もう良いんですよ。離れても大丈夫です。」
「で、でも……。」
「事情は分かっています。もう終わりました。あなた方は解放されたのですよ。」
「ほ、本当かい?」
「ええ。一緒に帰りましょう。」
「う、ううっ……。」
涙を流してその場に崩れ落ちる、老人達。
そう、サフィが跳ばした先は。
モンシドへ向かう道のりの2日目に、泊まれず断念した小屋の前。
老人達が占拠していた、あの小屋だ。
彼等にも、そこに留まらなければならない訳が有った。
しかし、それももう不要。
だから、老人を町へと返すのだ。
どうやって?
それは、こんな風に。
「こいつ等も直ぐにワープさせるから。跳んだ先で待ってて。」
「わぁぷ?何じゃいな、それは。」
「けったいな事を言い出すのう。」
「深く考えなくて良いわよ。さあ、輪になって肩を組んで。」
サフィに言われた通り、円陣を組んで1つの塊になる老人達。
サフィはそれに触れながら、叫ぶ。
「行くわよー!それっ!」
シュッ!
老人達の姿が消える。
そして直ぐに、『シュッ!』とサフィが戻って来る。
「これ、あと1回有るんでしょ?面倒臭いなあ。」
ちょっと愚痴をこぼしてみるサフィ。
それを聞いて申し訳無い顔付きと成る、レギーを見て。
『冗談よ、冗談!あははは!』と誤魔化すサフィ。
どうやら。
サフィへ頼んだ事に対し罪悪感が有るか、試したらしい。
それが分かると、満足し。
サフィは続けて、ソリも跳ばした。
1日目に寄った小屋の老人達は、かなり疲弊していた。
ヒィは剣を取り出し、先を老人達にかざす。
急に武器を向けられ、驚き震え出す老人達。
しかし、その先から緑色の炎が立ち上ると。
見る見るうちに、元気を取り戻して行く。
老人達は、ヒィの不思議な力に感謝し。
円陣を組んで、サフィに運ばれて行った。
そしてソリもまた、再び跳ばされた。
そうやって、ソリと老人達を運んだ先は。
モンシドへ行く為に通った、あの門の前。
目の前へと次々と現れる人々に、門を守っている兵士達は面食らう。
縄で縛られたままの案内人が、エドワーによって突き出される。
エドワーは兵士達に言う。
「この者達を連れ帰る為、門を開けよ。」
「いや、事情を話して頂かないと。門は開けられません。」
「決まりは決まりですので。」
戸惑いながら、返事をする兵士達。
そこへ、レギーも歩み寄る。
そして兵士達に言う。
「この2人は【罪人】なんだ。君達はこの2人に命ぜられて、一度この門を開けただろう?責任を問われるかもよ?」
「「な、何ですってー!」」
「通してくれたら、僕がその辺を取りなしてあげるよ。どう?」
「「は、はいっ!」」
兵士達も流石に、エリメン卿の子息の顔は覚えていた。
この子が言うのなら、そうなのだろう。
慌てて門を開ける。
ギギギイッ!
軋む様な音を立てて、門が開く。
そこをまず、ヒィによって体調が戻った老人達が。
その後ゆっくりと、キムンカに曳かれたソリが2台とも。
『宜しくお願いしますよー!』と、後ろから兵士達の声がする。
『任せといてー!』と、手を振りながらレギーは答える。
そして門は再び、ギギギイッと言う音を立てながら。
ゆっくりと閉まった。
老人達は、初めて瞬間移動を味わったのに。
フラフラしていない。
サフィが気を遣ったのだろうか。
そんな風に調整出来るなら、オラ達の時もそうやって欲しかった。
文句を付けたくなるジーノだが。
グッタリ気味だったのに虚勢を張って、門の兵士達の前へと出向いた2人を見て。
言う気も薄れる。
門の前への跳躍は二度目だが、連続して跳んだので実質一度目。
その証拠に、案内人達やヘレンは無口になっている。
身体に応えたのだろう。
それに比べ、何故かキムンカ達は平気な様だ。
不思議な技への耐性が優れているらしい。
きっと、魔法耐性も高いのだろう。
普通のヒグマとは違うのだから。
老人達は、〔モーモウ地区の住人〕だった。
それも、ヒィの想定の範囲内。
しかし、すんなりと返す訳には行かない。
老人達の帰還を無事果たさせる為に、ヒィにはまだやる事が有った。
だからまずは、今進んでいるクウィ地区を治めるドンゴ家の屋敷へと向かう。
ソリを返す為と。
今回の報告の為、区長達を砦に招集して貰う為だ。
扇形の地域を成すその中心に、ドンゴ家の屋敷は有る。
皆は真っ直ぐに、そこへと向かう。
さて、今有る状況を聞かされて。
ドンゴ家の者は、どんな顔をするだろうか?
楽しみでも有り可哀想でも有る、まだ少し捻くれ者のクリスだった。