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行軍、開始

「野郎共!行くぞ!」


「「「「「おーっ!」」」」」


 勝鬨かちどきを上げ、群衆はモンシドの外へ動き出す。

 先頭は、魔法使いらしき十数名。

 ダイエンを守る様に、周りを取り囲んでいる。

 その後ろに、縦3列と成って男達が。

 村から移動し始めて分かったのだが、連中の数は7~800程。

 村の中ではただの人の塊だったので、正確な数は分からないままだったが。

 縦長となった事で、大体の戦力は把握出来る様になった。

 その最後方に、ヒィ達が付けている。

 先頭が遠く離れ、しかも慎重に動いているせいか中々進まない。

 こんな事で、明るい内に待機場所まで辿り着けるのだろうか?

 それとも薄暗い方が、怪物の下へ偵察隊を出すのに都合が良いのだろうか?

 この作戦の指揮は、ダイエンが取っているので。

 ヒィ達はそれに従うだけ。

 それにしてもまどろっこしいやり口に、ミカは辟易しているらしい。

『いっその事、あたいがパカーッと道を開けてやろうかしら』と。

 物騒な事を言い始める。

 雪が降り積もっているので、街道らしき痕跡は見えず。

 足で雪を踏み固めながら、通り道を確保している。

 何度も言う様だが、余計な火力は厳禁。

 火の魔法を使って雪を解かす訳には行かない。

 ヴィルジナルを、不用意に刺激するやも知れないから。

 彼等と事を構える羽目になれば、怪物の下へと辿り着くまでにかなりの戦力を失う事になろう。

 それは避けるべき事案。

 今は姿を見せていないエイスが、何処かで見ているかも。

 ダイエン達は気付いていない様子だが。




 男衆も苛立って来たのか。

 何人かが魔法使い達の前へ出て、どんどん雪を踏み固めて行く。

 お陰で、進むスピードが格段に上がる。

『最初からそうすれば良いのに』と、クリスは思う。

 ダイエンからすれば、勝手な振る舞いをされ計画が台無しにされるのを恐れていたのだろう。

 雇われ兵同然の、荒くれ者の集まりだ。

『制御がし辛い』と思っていたのかも。

 それに連中は、宝物殿の場所を知らない。

 あらぬ方向に進まれたら、それこそ計画に遅れが出る。

 だから前に出さなかったのだろうが、それが反ってフラストレーションを生み。

『従ってやるから、さっさと進もうぜ』と、連中の意識の変化をもたらした様だ。

 そこまで先読みしていたなら、大した司令官ぶりだが。

 とにかく、男達はズンズン進んで行く。

 かなりカチカチになっているので、レギーとクリスは滑りそうになるが。

 お互いを支え合い、道を歩いて行く。

 その姿が少し微笑ましい、エドワーとヘレンだった。




 モンシドから出て、3時間程経った。

 そこで男達が広く雪をならして、一時休憩場所を確保する。

 このペースでは、待機場所へは後3時間程掛かるらしい。

 体力を回復させる為、温かい物を口にする。

 身体がポカポカして来ると、力が回復した様に元気になる。

 30分程休んだ後、再び行進開始。

 出だしこそは勢いが有ったが、やはり消耗しているのか。

 徐々にペースが落ちて来る。

 しかし男共の中に、疲れた目をした者は居ない。

 寧ろ敵へ近付いているのを実感し、キリッとした顔付きになる。

 それに比べ、大人より体力が劣るレギーとクリスは。

 もうバテバテ。

『仕方無いわねー』と、2人の間にミカが入り。

 肩を組むと、ふわりと身体を浮かせる。

 驚く2人に、ボソッと耳打ち。


『楽してるのがバレない様に、足を動かしなさい。この貸しは、後で返して貰うから。』


 意外な天使の手助けに、ホッと一息の2人。

 感謝するレギー、勘繰り気味のクリス。

 ミカとしては、足を引っ張られて男達から見放されるのを避けたかっただけ。

 天使の目的は、ずっと先に在るのだから。




 更に歩く事、4時間程。

 日が傾きかけて来た頃、漸く待機場所へ辿り着く。

 そこは谷の奥深く、左右に高い山頂の連なりが見える。

 正面でその2つが交わり、一段と高いとんがりを形成している。

 ここで怪物を待ち伏せる事となる。

 早速、準備に掛かる男達。

 円形に雪を踏み固め、陣地を作る。

 その前方に白っぽい毛布を覆い被せ、身を隠す為のカバーとする。

 毛布の上から雪を撒き、辺りに紛れ込ませる。

 怪物が迫ってきたら、毛布の下から跳び出し。

 上から下から、右から左から。

 勇猛果敢に襲い掛かる手筈。

 一方で、ダイエン率いる魔法使い達は。

 白いフードと白いマントを身に着け、雪の中に潜む格好へと着替える。

 着々と用意を進める中、ヒィ達は少々揉めていた。

 ダイエンに同行する者、ここに残って待機する者。

 その選別をどうするか、今更になって決めかねていた。

 セージの依頼を受けたヒィは、ダイエン側へ。

 今は宝物殿へ近付くのを避けねばならないジーノとアーシェは、残る側へ。

 これは『怪物が快く迎え入れてくれるのは、恐らくヒィだけだ』と言う、3人の話し合いの結果だった。

 サフィの様子と、ミカの振る舞いから考えると。

 どうもサフィは、宝物殿に用が有るらしい。

 となると目当ては1つ、〔あれ〕しか無い。

 だから、後でどうせ駆り出されるであろうヒィが。

 ダイエンにくっ付いて下見した方が良い。

 エイスの協力も、ヒィならすんなりと受けられるだろう。

 ここまで考えていた。

 それに比べ、子供2人は。

 全く正反対の態度。

 がんとして、『行く』と言って聞かないクリスと。

 次期エリメン卿最有力候補なのに、『ここで待ってる』と動く素振りを見せないレギー。

 本来なら、レギーがイヴェンコフ家の代表として。

 ヒィと共に進み。

 クリスは大人しく、ここで待機するのが筋だが。

 考え込むお付き2人。

 そこへヒィが、クリスに尋ねる。


「どうして、そんなに行きたがるんだい?」


「あいつ等、魔法を使うんでしょ?その功罪を見定める必要が有るのよ。」


「〔その〕って、魔法の事かい?」


「そうよ。私が魔法使いになるなら、知って置かなきゃ行けない事案だもの。」


「何で、そんな急に……。」


 まるでクリスが、魔法使いを目指す様な言い口。

 事前に何の相談も受けていなかったので、驚くレギー。

 まさか!

 ヒィは、顔を背け気味のアーシェを睨む。

 頭を掻きながら、『済まない』とアーシェは漏らす。


「彼女には、私が伝えた。その方が良いと思ったのでな。黙っていたのは、済まなかった。」


 深々とヒィへ頭を下げるアーシェ。

 それを制して、クリスがヒィに言う。


「あなたがグズグズしているから、この人を困らせたんでしょ?反省なさいな。」


 5、6つ年下の少女に諭されるヒィ。

『確かにそうだ、面目無い』と、ヒィもアーシェに謝罪する。

 いきなりの展開に、付いて行けないお付き2人。

 レギーがヒィへ、説明を求める。

 お付き達も分かる様に。


「話してくれませんか?その辺りの事情を。」


「……分かった。じゃあ、集団から少し距離を取ろう。」


 そう言ってヒィは、こっそり男達から離れ出す。

 他の者も、それに追随。

 気付かれない様に、話し声が男達まで届かない辺りまで道を下がった。




「……と言う訳なんだ。」


 ヒィが話し終わる頃には。

 レギーとお付き2人は、目を涙で潤ませていた。

 精霊の声が聞こえないばっかりに、そんな事態に気付けなかったのを。

 心の底から悔やむ涙だろう。

 特に、レギーは。

 父親が魔法使いに適さない事は知っていたが、その血筋が思わぬ事を招いていたとは。

 ヒダマの恩恵を忘れ、のうのうと暮らしていた事を恥じる。

 そしてそれに気付かせてくれたヒィ達に、感謝を。

 クリスは言う。


「元々、お父さん達を追い越すつもりだったから。丁度良いと思っただけよ。話に乗っかっただけ。」


 クリスの言葉の中には、魔導士の娘としての高いプライドと。

 町を愛する少女としての、強い思いやりの気持ちが読み取れる。

 決して、町の為にこの身を犠牲にする訳では無い。

 レギーが責任を感じる事は、少しも無いのだ。

 そうとも言いたかった様だ。

 それでも、レギーの涙は止まらない。

 レギーの顔を隠す様に、クリスが抱きかかえる。

 ここでも、何方どちらが年上か分からない光景が。

 でも良いではないか、2人はまだ10才前後。

 年の差など意味を成さない。

 そう考え、温かい眼差しと成って。

 子供2人を見つめる、お付き2人だった。




 結局、ダイエンと共に行くのは。

 ヒィとクリス、そして護衛にヘレン。

 後は待機組と成って、この場に残る。

 珍しくミカは、付いて行かない。

『あたいの出番は、まだ先だから』との事。

 山龍の下へ天使が向かうと事態がややこしくなるので、願ったり叶ったりだが。

 そんなヒィの心を見透かす様に、『後で見てなさいよ』とボソリ。

 耳の良いジーノには、その言葉が聞こえていたが。

 大人しく黙っていた。

 こいつに下手に係わると、ろくな事が無さそうだ。

 そう思っていたに違いない。

 男達の元へこっそり戻ると、ヒィはダイエンの下へ向かう。

 丁度これから、向こう側へと進み出す所だった。

 ヒィはダイエンに声を掛ける。


「今こそ、セージさんの依頼を果たす時。宜しくお願いします。」


「こちらこそ、宜しく頼むよ。」


 握手を交わす、ヒィとダイエン。

 ふと、ヒィの連れが気になる。

 ダイエンがヒィに尋ねる。


「後ろの娘と女性は……?」


「ああ。この子は実は、魔導士の娘でして。戦力になるかと連れて来ました。傍に居る女性は、この子の助手です。」


「ほう……この年で、もう助手を?」


 ヘレンを見やるダイエン。

 お辞儀をしながら、ヘレンは挨拶する。


「微力ながら、お力に成りたく存じます。」


「分かった。同行を認めよう。して、その魔導士とは何方どなたかな?」


 ダイエンが尋ねる。

 クリスが代わりに答える。


「魔導士とは言え、まだ成りたてなのです。名の通っていない事、御容赦を。」


「そうであったか。質問は無粋だったな。取り下げよう。」


「申し訳ございません。」


 頭を下げるクリス。

 その顔は、ニンマリとしていた。

 こいつは、戦力になれば他の事は知りたがらない。

 どうでも良い筈だ、そう考えて適当に濁したまで。

 今まで散々大人をやり込めてきたのだ、これ位の口車は造作も無い。

 まんまとダイエンを丸め込み、ヒィ達3人は魔法使いの中へと加わる。

 そして共に、前へと進み出すのだった。

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