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作戦を聞かされて

「うーん……。」


 レギーが目を覚ますと、外が賑やか。

 被っていた毛布をぎ取り、小屋の外へ出ると。

 ジーノが、皆の分の食事を作り終わった所だった。

 ヒィの下で住まわせて貰っている内に、料理の腕が上達したらしい。

 既に食べ始めているヒィ達は、笑顔。

 それを見て急におなかが空いたのか、小屋に戻りクリスを起こすと。

 レギー達も、食事の輪の中へ加わった。




「大したものね。ヘレンとは大違いだわ。」


「えっへん。」


 ジーノが胸を張る。

 道中はそれぞれ、ヘレンとジーノが調理担当だった。

 お互い別に食事を取っていたので、レギー達は初めてジーノの手料理を食べている。

 大喜びで料理を頬張るレギー達を見て、実際に自分で食べてみて。

『ドワーフに完敗した』と、ガックリ来ている様子のヘレン。

 そこへアーシェが声を掛ける。


「人には得手えて不得手ふえてが有るものだ。私達は、別の事で役に立てば良い。」


「アーシェ様……。」


「私もヒィの屋敷では、立つ瀬が無いものでな……。」


 お互いに、料理の腕がジーノに敵わないのを慰め合う。

 まあ、アーシェには。

 ヒィと言う凄腕の料理人が、まだ立ちはだかっているのだが。




 食事の輪の中に、〔ダイエンの使い〕を名乗る男がやって来る。

 これからの事に付いて、通達だそうだ。

 まずは。

 フラスタへ続く街道口から真反対に当たる、モンシドを囲う柵に皆が集合し。

 柵の無い部分から村を出て、谷伝いに行進する。

 或る程度進んだ所で一旦待機、そこからは少数で進んで行く。

 宝物殿の怪物の様子を探り、隙を突いて。

 まずは、有りっ丈の魔力で魔法攻撃を仕掛ける。

 怪物を怒らせたら、待機中の男共の前までそのまま誘導する。

 先行する魔法部隊は、謂わばおとり

 こちらは数百の屈強な連中だ、流石に数で勝るだろう。

 怪物の首狩りは、早い者勝ち。

 一番先に討ち取った者は、多額の報奨金を手にする。

 と言う事になっているらしい。


「確かに伝えたからな。せい々、おくれを取らない様気を付けるんだな。」


 ガハハハハ!

 豪快な笑い声と共に。

 向こうに見える群衆へと、男は戻って行った。




「何か、雑な作戦ね。」


 クリスが漏らす。

 レギーも同意する。


「出たとこ勝負な感じがするなあ。」


 その上で、『どう思う?』とエドワーに尋ねる。

 少し考えた後、エドワーは答える。


「悪くは無いと思うのですが、何処か引っ掛かりますな。」


「当然でしょ。」


 じゅるじゅるスープを飲みながら、ミカが即答。

 アーシェも、作戦に違和感を感じている様だ。

 じっと考え込んでいる。

 ミカは敢えて話し手として、ヒィを指名する。


「あんた、気付いてるんでしょ?話してあげなよ。」


「俺が?しょうが無いなあ。」


「ヒィさん、何か気になる点でも?」


 レギーがヒィに尋ねる。

『うん』と軽く頷いた後、ヒィが話す。




「〔ダイエンとやら〕は。少なくとも一度は、【怪物とやり合っている】。」




「何ですって!」

「そんな馬鹿な!」


 ヘレンとエドワーは、思わず大声で叫んでしまう。

 何だ、身内で揉め合いか?

 群集の目が一瞬、ヒィ達の方を向いたが。

 直ぐに興味を無くし、自分達の行進準備に追われる。

 そしてここからは、小声で話すヒィ。


『まず、【当然の様に】宝物殿の場所を知っている。』


 これは、集合場所を指定している事からも明らか。

 その点に付いては、エドワーが反論する。


『〔区長の何方どなた〕からか、事前に場所を聞かされていたのでは?』


『だとすると、〔エリメン卿に何の断りも入れず、重要機密をしゃべった〕事になりますが?』


『そ、それは……。』


 押し黙るエドワー。

 宝物殿の場所を知る為には。

 脅すやら賄賂を贈るやらして、この国の貴族から強引に聞き出すか。

 辺りをくま無く探し回って、実際に辿り着く事。

 エリメン卿は、モンシドがこの様な事態になっているのを知らない風だった。

 だから、その二択。

 区長と言えど、エリメン卿の許可無く重要機密を漏らせば。

 それは反逆に当たる。

 念の為、案内人2人に尋ねた所。

『今回の任務は、この村まで案内する事だ』と言う。

 彼等にも、宝物殿の場所は知らされていないらしい。

 しかしヒィにとっては、その辺はどうでも良かった。

 大切なのな、次の点だ。




『〔これだけの戦力をもってすれば、怪物を倒せる〕と、暗に言っている。実際に戦ってなければ、そんな作戦を立てようが無い。』




『なるほど!だから【魔法攻撃】なのか!』


 アーシェが納得する。

 違和感の正体、それは。

【いきなり攻め込む】事。

 普通の手順なら、まず宝物殿の行き方を教えて貰い。

 次に、怪物がどの様な者か【あらかじめ調査する】。

 その上で作戦を立案し、戦力を集め。

 相手に悟られない様、行動する。

 この辺りは、氷の妖精ヴィルジナルが暮らしている。

 下手に動くと、妖精達も敵に回してしまう。

 その辺りも考慮しなければならない。

 今回はその調査段階が、すっぽりと抜けているのだ。

 ダイエンは言った。

『頼まれて、【狩り】に来た』と。

 戦う気満々の発言は、裏を返すと『この前の借りを返す』と言っている様なもの。

 直接宝物殿まで出向き、怪物と対面していないと。

 こんな言葉は出ない。

 何しろ〔怪物〕とか〔山龍〕とか言われているだけで。

 実際の姿は、誰も口にしていないのだから。

 たまに国王として、民衆の前へ姿を現すのだ。

 最初は警戒心を解く為、向こうも人間の姿をして出迎えるかも知れない。

 なのに、〔狩る〕とは?

 人間の姿では無く、別の姿の者と。

 宝物殿の前で出会っているからに他ならない。

 人間相手には〔狩る〕では無く、〔倒す〕とか別の表現を用いるだろう。

 ここまで説明すると。

 流石のレギー達にも、ヒィが言った事の意味が分かる。

 つまりは、セージとダイエンが。

 前にこの国を荒らし、フラスタを厳戒態勢に追い込んだ張本人。

 しかし、ここでエドワーに疑問が。


『私は、ダイエンなる者を【初めて見かける】のですが……。』


『私もです。奴等なら以前、直接対峙していますから。』


 ヘレンも続く。

 〔国王の弟〕を宣言し、乗っ取り失敗と成ったら破壊攻撃。

 そんな奴等と、2人も戦ったのだ。

 魔法使いは膨大な魔力を持っていたが。

 攻撃自体は、大した事は無かった。

 普通の戦士でも防げる程度、しかも火の精霊ヒダマが必死になって威力を軽減した。

 汚い捨て台詞を吐いて逃げ帰った時、顔はしっかりと目に焼き付けた。

 再び侵入しようとしても、防げる様に。

 エドワーとヘレンの疑問は、確かにそうだ。

 それでもヒィは、前に体験した事柄から【或る可能性】を見いだし。

 2人の意見を一蹴する。


『〔同一人物とは限らない〕と言う事。それだけです。』


『『はい?』』


 頭がこんがらがる2人。

 ヒィはレギーに言う。


『君なら、今のやり取りで【おかしかった点】に気付くよね?』


『え?えぇと……あっ!』


 レギーは、ヒィの言いたい事が分かった様だ。

 ニヤリと笑うレギー。

 仲間外れの様で、悔しいクリスは。

『説明しなさいよ!』とレギーに強請ねだる。

『あのね……』と、ボソボソ耳打ちすると。

 クリスもニヤリ。

 顔を見合わせて、『ふふふ』と笑う子供達に。

 益々疑問符が湧く、お付きの2人だった。




 井戸端会議の様な話し合いは終わり。

 ヒィ達も、行進の準備をする。

 案内人2人は、ソリとキムンカを守る為。

 ここで留守番。

 ジーノがキムンカ達と、名残惜しそうに何やら話している。

 それを気にも留めずに、案内人は。

『いってらっしゃいませ』と、レギーに一礼。

『後は頼んだよ』と声を掛けて、レギーはクリス達と集合地点へ歩き出す。

 その心内こころうちは。

 恐怖半分、期待半分。

 ドキドキしながら足を進めるレギー。

 同じく、この先に待ち受ける事へ思いを馳せるクリス。

 レギーとクリスをしっかり守ろうと、誓いを新たにするお付き2人。

 そして、ヒィ達4人。

 彼等はそれぞれ思いを抱きながら、群衆の最後尾へと付くのだった。

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