表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/1285

モンシドは閑散と……してない!?

 2日目に利用したドームも、綺麗さっぱりと消え去り。

 2台のソリは街道を進む。

 そして何とか夕暮れ前に、モンシドの街道口まで辿り着いた。

 ここは渓谷の奥深い場所で。

 昔々、辺り一帯が大規模崩落して出来た窪地に。

 人間族が入植して造られた村。

 なので気候は荒く、年を通して暮らすには辛い。

 暖かくなり雪が解け出す頃、ここを拠点にして狩りが行われる。

 そして時が進むと、今度は山菜取りの中心地としてにぎわう。

 新鮮な内に加工しようと、商人が加工職人を伴って買い付けに来る。

 その時期が、一番活気の有る季節なのだ。

 だから、寒い真っ只中の今頃は。

 村は閑散としている。

 筈だったのだが……。




「何だ、これは……!」


 レギー達の乗ったソリの運転席で、案内人が驚く。

 村の中は、人でごった返している。

 それも、数百人規模で。

 商人と山菜取り人との商談は、道端での地べた市。

 わらを編んで作られた敷物を地面に敷き、その上にずらりと山菜を並べ。

 実物を見ながら『ああだ、こうだ』と、威勢のいい掛け声が飛び交う。

 建屋の中で取引する訳では無いので、一時的な宿代わりに家々は使われる。

 だから村内の建物の数は、一般的な村よりも少なく。

 村の収容人数は、余り多く無い。

 にも係わらず、この人だかり。

 しかも皆、しっかりとした狩りの服装と装備。

 ガタイの良い、若い男ばかり。

 何もかもが異常事態だ。

『様子を見て参ります』と、エドワーがソリから降り。

 街道口へと向かう。

 それを少し離れた所から、不安そうに見つめるレギー。

 すると、もみ合いの様な様相と成り。

 堪らずエドワーは、ヘレンを手招きする。

 シュッと地面に降り立つと、スタスタとエドワーの下へ向かうヘレン。

 群集は更に膨れ上がり、村をぐるりと取り囲んでいる木製の柵が押されて壊れそうだ。

 大きな怒声が上がった後、片手を振り上げてソリの方へ向かって来ようとする群衆。

 どうやらエドワーとヘレンには、止められなかった様だ。

 ドドドドドッ!

 勢い良く、ソリの方へ突っ込んで来る群衆。

 それを見て、頭を抱えながら。

『怖いよー!』と、思わず漏らすレギー。

『情けない事言わないの!』とクリスが励ますも。

 彼女もまた、内心は怯えている。

 あれだけの数で襲われたら、一まりも無い。


「お逃げ下さい!」

「早く!」


 エドワーとヘレンが叫ぶも、時既に遅く。

 群集は、キムンカの前まで達しようとしていた。

 もう駄目だ!

 クリスがそう思い、目をつぶった時。

 スッと、ソリの前に立ちはだかる影が。

 そして。




 ギンッ!




 鈍い光が地面から沸き上がったかと思うと、ツルツルになった氷の道が生まれ。

 その上を滑って転んだ連中は。

 街道の右側に在る川の方へ向かっている、氷の道の終点までスーッと流れ。

 次々に川の中へ。

 ドボドボボッ!

 まるでグチャグチャの泥を流し込むかの様な音を立てて、男達は川底へと沈む。

 と言っても、源流が近いので水深は浅く。

 溺れる心配は無い。

 それでも膝下位は有るので、落っこちた連中は全身ずぶ濡れ。

 男達は慌てて立ち上がり、身体を振るわせて被った水を払うが。

 ビュウウウゥゥゥゥッ!

 急に山から吹き下ろした風で、一気に体温を下げられてしまう。

 川の中へ、再び崩れ落ちる男達。

 その様を見て、ケラケラ笑うのはミカ。


「ざまぁ無いわね!アハハハハ!」


「うるさいなあ、ちったあ静かにしてくれよ。」


 呆れるジーノ。

 その声で、後ろのソリを見るレギー達。

 クリスはてっきり、ヒィの仕業だと思っていた。

 しかし肝心の彼は、アーシェと共にソリの上。

 じゃあ、一体誰が……?

 乗っているソリの前方へ向き直ると、何時の間にか影は消えていた。

 そこでふと、レギーの口から。


「ヴィルジナルが助けてくれたのかなあ?」


「何で?私達を助ける義理なんて、向こうには無いでしょうに。」


「僕達は、〔ついで〕なのかもね。」


「あー、それは有るかも。」


 雪のドームで泊まる際、ヒィ達の近くに見えた影。

 宿をこしらえてくれた者と、今回助けてくれた者が。

 同一人物なら。

 合点が行く。

 でもどうして、そこまでしてくれるのか?

 それだけは、幾ら頭の良いクリスとレギーでも。

 把握出来無かった。

 大人の事情は、彼等にはまだ早いのかも知れない。




 仲間だろうか、川へ落ちた連中を引き上げる者達。

『ひ、卑怯だぞ!』と言う、意味が分からない捨て台詞を吐きながら。

 群集は、村の中へと戻って行った。

 入れ替わりにソリへと戻って来る、エドワーとヘレン。

 レギーの下へ戻るなり、『申し訳ございません!』と土下座で平謝り。

『良いよ、良いよ』とレギーはなだめると。

 エドワーへ尋ねる。


「どうして揉めたんだい?」


「それが、『獲物は俺達の者だ、関係無い奴はとっとと帰れ』と抜かすものですから。『関係大有りだ』と返したのです。そしたら……。」


「向こうが押し出そうとしたのかい?」


「はい。『お前等の様な奴等は知らん』と。それで言い合っている内に、もみ合いへと発展してしまいまして……。」


「私も加勢したのですが、止める事が出来ず。不覚でした。」


 凹んだ様子のヘレンも答える。

 レギーが2人に、優しい口調で声掛けする。


「いや、良くやってくれたよ。ありがとう。」


「「勿体無いお言葉。」」


 更に頭を下げる2人。

 クリスも2人に言う。


「そんな恰好をしてても、事態は好転しないでしょ?背筋を正しなさい。」


「「はっ!」」


 頭を上げ、シャキッとした態度へ戻る2人。

 改めてソリへ座り直し、今後について話し合う。


「このままでは、らちが明きません。」

「如何致しましょう?」


「エドワー。ヘレン。君達はここで待機だ。僕が行くしか無い、エリメン卿の代理として。」


「そんな!坊ちゃん!」

「危険過ぎます!」


「大丈夫。何とかするから。」


「いえ、成りません!」

「クリスティーヌ様からも、お止めの言葉を!」


 2人からの嘆願に、クリスは。

 こう返す。


「良いんじゃない、そうしたいんなら。」


「「ですが……!」」


「何事も経験よ。ねえ、レギー?」


「そうさ。ここで引き下がっては、名家の名折れだ。」




「じゃあ、俺が付いて行こう。」




「ハイエルトさん!」


 ソリの右側からレギーに呼び掛けたのは、他ならぬヒィだった。

 ヒィがレギーに答える。


「『ヒィ』で良いよ。どうやらあの連中は、訳有りの様だしね。俺の方が、都合が良いだろう。」


「で、でも……。」


 不安に思うレギー。

 これはペルデュー国内の問題。

 これ以上、部外者を巻き込んでも良いのだろうか?

 そんなレギーの考えを見透かす様に、ヒィは言う。


「巻き込まれ上等さ。既にもう、あいつに散々やられてるからね。」


「あいつ?」


「い、いや。忘れてくれ。村の中に居る奴等は、国外から集められたっぽいんでね。」


「そ、そうなんですか?」


「良く見なよ。身に着けている防寒着は、この辺りでは見かけない物ばかりだろう?」


「言われて見れば……。」


 気持ちが焦って、そこまで観察する余裕が無かった。

 ヒィの言う通り、着込んではいるが不完全。

 何処か別の場所で調達して、ここへ来る途中で着用した様に見える。

 それが不格好に感じた。

 相変わらずの、ヒィの観察眼。

 相手をまず知らなければ、対処のしようが無い。

 これは基本中の基本。

 そしてヒィは続ける。


「他にも理由が有るんだ。直々に御指名が有ったんだよ、俺に。」


何方どなたが、でしょう?」


 不思議がるレギーに、ヒィは答える。




「薄々気付いてるんじゃないか?〔ヴィルジナル〕だよ。彼が、『付いててあげな』ってね。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ