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ターレン、国の置かれている状況を説明す

「父さん。クリスはもう着いたの……って、多いなあ。何事?」


「あら、【レギー】。またお邪魔するわよ。」


「うん、それは構わないけど……。」


 部屋の入り口で、人がぎゅうぎゅう詰め。

 それを見て躊躇する少年。

 その傍へ寄り、ターレンがヒィ達に紹介する。


「息子の【レガイル】です。さあ、皆さんに挨拶して。」


 ターレンに促され、頭を下げ挨拶するレギー。


「よ、宜しくお願いします。」


「きちんとされた息子さんだ。ふむふむ。」


 感心するアーシェ。

 その美形に、直視出来無い様だ。

 顔を真っ赤にし、うつむいたたままのレギー。

 その後ろへ回り込み、『ドスッ!』とお尻を蹴り飛ばすクリス。


「痛っ!何するんだよー。」


「柄にも無く、照れてるんじゃないの。こっちが恥ずかしくなるわ。」


 またしても、プクーッと膨れ顔。

 ここでの自分の地位が、どんどん下がっている様な気がして。

 憤懣ふんまんる方無い気持ちのクリス。

 それを察してか、ヒィがターレンに話し掛ける。


「先の者が言った通り、俺達は問題を解決しに来ました。今の状況をお聞かせ下さいませんか?」


「あ、ああ。構わんよ。では別室へ移ろうか。」


 そう言うと、レギーに案内させるターレン。

 小さい背中にくっ付いて、ヒィ達は客間らしき部屋へと誘導された。




 クリスが初めにノックした部屋は、ターレンの執務室らしい。

 レギーに連れられて入った部屋は、そこよりもかなり広く。

 応接間として、また客人の宿泊部屋として。

 利用されているそうだ。

 かつて訪れたと言う魔導士も、ここに泊まったとか。

 入り口から見て左手奥に、シングルベッド。

 右手奥に、書斎机と一人掛けの椅子。

 左手手前には、花を生けた花瓶が小さいテーブルの上に乗っている。

 右手手前には、箪笥たんすらしき衣服の仕舞える家具が。

 側壁には、コートなどを掛ける為のフックが幾つか取り付けて有り。

 入り口正面の壁には、大きなガラス窓らしき物が見える。

 下から上へ引き上げるタイプ、この方が寒冷地に向いているのだろう。

 窓の両側には、厚手の生地で出来た赤いカーテンが取り付けてある。

 部屋に置かれている家具と家具の間には、かなりのスペースが。

 赤い絨毯が敷かれているが、テーブルや椅子は置かれていない。

 派手さや煌びやかさは抑えられているが、かと言って気品が失われている訳でも無い。

 正に、くつろぎの空間。

 召使いの様な女性が、ターレンに呼ばれて入って来ると。

 何やら耳打ちされて、部屋から出て行った。

 すると直ぐに、何人かの男性が。

 人数分の椅子と、やや大きめのテーブルを1つ。

 部屋の中へと運んで来る。

『また後で呼ぶ』とターレンが告げると。

 男性達は、部屋から下がって行った。

 入れ替わりに女性が2人、カップや菓子を持って入室。

『お座り下さい』とターレンに促され、ヒィ達が着席した後。

 女性達がカップに紅茶の様な飲み物を入れ、菓子の乗った皿を置いて行く。

 男性達と同様に、『後でまた呼ぶ』とターレンに言われると。

 女性達はそそくさと、部屋を後にした。

 着席順は。

 入り口から一番遠い向こう側に、主賓のターレン。

 入り口から見て左側、ターレンに近い椅子から順に。

 アーシェ、ヒィ、ジーノ、ミカ。

 その対面である側、ターレンに近い椅子から順に。

 レギー、クリス。

 出席者は全員で7名。

『いっただっきまーす』と、早速ジーノが菓子をパクつく。

『これ、はしたない』と、アーシェがたしなめるも。

『構いませんよ』と、ターレンが言うので。

 ジーノは遠慮無く、ムシャムシャパクパク。

 ミカは目の前に在る、パンケーキの様な菓子を。

 手掴みのジーノとは違い、フォークとナイフで上品に切り分けて食べる。

 レギーもクリスもまだ子供なので、手が先に出てしまい。

 美味しそうにジーノが食べるので、つられて食べ始めてしまう。

 対照的に、ヒィとアーシェは。

 ターレンの顔付きをじっくりと眺めながら、話を聞く体制を取る。

 どうして関所を封鎖しているのか?

 何故兵士達を、街道口や屋敷の前へ配置しているのか?

 国全体が、外からの攻撃に備える様な構えを見せているのは?

 それ等の理由について、ターレンは話し始めた。

 以下の様に。




 ペルデューと言う国は。

 首都のフラスタと、周りの谷に点在する村々から成る。

 年中雪が降っている印象が有るが、それは間違い。

 暖かくなり雪が解け、地面が見えて来ると。

 そこから色々な山菜が生えて来る。

 厳しい寒さがもたらす恩恵、住む者は皆そう考えている。

 取れる山菜は、ここにしか生えない珍品ばかり。

 高値で取引されるので、その収入で年間を過ごせる程。

 自然を大切にし、自然と共に暮らす。

 それがペルデュー国の住民。

 彼等は、近くに在る〔ヴィルジナルコミュ〕を神聖視している。

 ヴィルジナルがキューレの力を行使し、山菜をはぐくんでいると考えているからだ。

 コミュの位置を探そうとしない、犯そうとしない。

 それが不文律となって、長い間受け継がれて来た。

 しかし最近、それを破ろうとする輩が現れた。

 〔国王の弟〕を名乗る人物が突如、ターレンの下を訪ねて来て。

 民の前には滅多に姿を見せない、国王の態度を良い事に。

『彼は病気になった、俺が代理を務める』と言い出した。

 フラスタの5人の区長が集まり、話し合いをした結果。

『こいつは偽物だ』との結論に。

 従わない旨を、その人物へ告げると。

 今度はそいつに付き添って来た、魔法使いらしき者が。

 辺り構わず、魔法をぶっ放した。

 町中は大混乱、しかし応戦する戦力が無い。

 兵士は居れど、魔法に対抗する手段が無かったのだ。

 そしてそいつと魔法使いは、散々町を荒らした後。

 ヴィルジナルコミュを目指して、或る谷へと向かった。

 ★を逆さにして、左上に位置するその谷は。

 宝物殿が在ると噂されていた場所。

 そう、奴等の目的は。

 最初から、宝物殿の宝だった。

 国王代理と成り、実権を握って。

 合法的に奪おうとしたのだろう、最初は。

 それが区長達に阻止されたので、打って変わって実力行使に。

 そして奴等は、どうにか宝物殿の前まで辿り着いたらしい。

 そこで何かが有った、息も絶え絶えにとんぼ返りして来た奴等は。

 フラスタの兵士を使って侵攻する為、区長達を屈服させようと。

 再び、魔法で町を荒し始めた。

 しかし何処からか現れた少年が、魔法で奴等を撃退した。

『覚えてろよーっ!』と、小者丸出しの捨て台詞を吐いて。

 奴等は滝の方へ、すごすごと逃げて行った。

 少年はターレン達に、『きっと直ぐまた来る、十分な備えを』と言い残し。

 スーッと消えたと言う。

 それで区長達は、話し合いの結果。

 関所の封鎖と。

 戦力を整えてまたやって来るであろう、奴等の撃退の為に兵士の増強を。

 決定した。

 その時にはクリスの身をどうするか、まだ決めていなかった。

 そこへサフィが変な進言をし、クリスとそのお供だけは通す事に。

 他の区長も、それは了承している。

 文句を言わせない様に、1人ずつサフィが論破して行ったらしい。

 サフィが帰った後、区長は皆ぐったりしていた。

 ターレンはそう聞かされたと言う。

 どうもあの娘は、良く分からない。

 でも従った方が、事態が好転する気がした。

 そして今、その通りに成りつつある。

 ここに居る皆が、それを示している。

 感謝、感謝。

 そう言って、ターレンの話は終わった。




「お分かり頂けたかな?」


「ありがとうございます。把握しました。」


 ヒィがお礼を言う。

 話から分かった事。

 セージはやはり、怪しい人物だった。

『確認をせねばなるまい』、そう考えたヒィは。

 念の為、ターレンに尋ねる。


「『セージ』と言う人物に、心当たりは?」


「無いな。全く。」


「『〔モンシド〕と言う村から来た』、と話していたのですが。」


「その村なら。先程出て来た谷の先の方に、実在するよ。」


「『国王に仕える貴族の出だ』とも話していました。」


 ヒィのその言葉に、ターレンは強く反応。

 きっぱりと否定する。


「それは有り得ない。何故なら……おっと。」


 これ以上は言えないらしい。

 急に押し黙るターレン。

 そこへクリスが、菓子を食べながら言う。


「黙っていても、意味無いわよ。何しろこっちには、〔天使様〕が居るもの。」


 嫌味ったらしい口調、そしてミカを一べつ

『呼んだ?』と言わんばかりに、左手を上げるミカ。

 そしてターレンに告げる。


「あんたが言わないなら、あたいが言ってあげる。国王ってのはねえ……。」


「ちょ、ちょっと待った!天使とな!」


「そうよ。あたいは天使。文句有る?」


「い、いや。にわかには信じがたいが……。」


「ふうん、うたぐり深いのね。じゃあ、これで良い?」


 ガタッと席から立ち上がるミカ。

 フワッと体を浮かせ、シュッとターレンの横まで一っ飛び。

 彼の頬を右手でそろっとなぞると、また席まで飛んで戻り。

 静かに着席。


「どう?」


「わ、分かった。分かり……ました。」


 このグループは一体、どうなってるんだ?

 明らかなドワーフと、カッシードの貴族。

 そして得体の知れない剣を背負った少年、おまけに天使。

 確かに彼等なら、何とかしてくれるかも。

 そう考えたターレンは、『ここだけの話ですよ』と付け加え。

 ヒィ達に話す。




「これは、区長を務める家だけの秘密なのですが……。国王は現在、宝物殿にて宝を守っておいでなのですよ。勿論、奴等が来る前からです。」

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