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エリメン卿とクリスの関係は、まあ妥当でしょ

「うわーっ!」


 中に入って直ぐ、ジーノが歓声を上げる。

 外観からは想像も出来ない、重厚な造り。

 木製の板と、木製の柱。

 木の香りで、中が埋め尽くされている様だ。

 どうやらレンガで出来ているのは、外側だけらしい。

 木製で屋敷を建てた後、レンガで外側を補強。

 板や柱は、傷まない様に何かが塗られている。

 そのせいで、壁も床も天井もテカテカ。

 艶やかな黒茶色で、気品高く。

 豪華さを演出している。

 そんな事を気にも留めずに、屋敷の中を進んで行くクリス。

 ボーッとしていたら、置いて行かれそうだ。

 慌ててジーノは、ヒィ達の後を追い駆けた。




 幾つか大きな部屋を通り過ぎ、とある部屋で立ち止まるクリス。

 そして入り口のドアを、『コンコン』とノックする。

『どうぞ』と中から声がした。

 トーンから察するに、30代後半と言った所か。

『邪魔するわよ』と言いながら、ドアを開けるクリス。

 すると、待ちきれなかったのか。

 男がクリスの傍まで駆け寄り、ガバッと抱き付く。


「おお!良くぞ!良くぞ無事で!」


「はあ?何言ってんの?」


 呆れるクリス。

 その様子を生温かい目で見ている、ミカとジーノ。

 その目線に気付いたのか、ゆるりとクリスの身体から手を離すと。

 男はシャキッとした姿勢と成り、お辞儀しながら挨拶する。


「私がエリメン卿だ。めいを送り届けてくれたのは、君達だね?」


「〔姪〕ですか?クリスとは、血の繋がりが……?」


「これはこれは、失礼。この子はどうやら、私との関係に付いて話していないらしい。」


 難しい顔になって尋ねるヒィに、エリメン卿が答える。




「〔エリメン卿〕とは。イヴェンコフ家の当主が務める、役職の様なもの。私の名は【ターレン=フォウ=イヴェンコフ】、この子の父親の弟なのだよ。」




 ほう……。

 関心を示すアーシェ。

 貴族として聞き捨てならない言葉が、彼から発せられたので。

 念の為に尋ねる。


「『弟君が当主』とは、何か事情でも?」


「君は?」


 そこに目が向くとは、ただの剣士では無いな。

 そう思い、ターレンはアーシェに尋ねる。

『他の者にはご内密に』と念を押した後、正式に名を名乗る。


「私は、カッシード公国の騎士。ヘイゼル大公にお仕えする、ゼストリアン家の娘。〔アルシャンディ=エスラ=ゼストリアン〕と申す。お見知り置きを。」


「カッシード……ゼストリアン家!あの、名門の!」


「ちょっと。何をそんなに驚いてるのよ。」


 ターレンの顔が高揚して行くさまを、間近で見ていたクリスは。

 不思議に思って、彼に尋ねる。

 すると即座に、答えを返す。


「人間族3大国の1つ、カッシード。それを統べる王の、懐刀ふところがたなと言われる存在。それがゼストリアン家なのだよ。」


「〔名家中の名家〕、なのね。ふーん。」


「おい!これは凄い事なんだぞ!私達よりも、身分の高いお方なのだぞ!」


「ごめんねー、そんな事も分からない子供でー。」


「よさないか!こんな時に意地を張るなど……!」


 アーシェをやたらに持ち上げるターレンの態度が、気に食わないのか。

 子供で有る事を利用してすっ呆け、認めようとしないクリス。

 内心では、とても悔しいに違いない。

 一流貴族と、三流崩れ。

 そんな気がしていたのだ。

『だから名乗りたくは無かったのだ』と、アーシェは呟くと。

 ターレンに言う。


「それで、お尋ねした件は……。」


「おっと、そうでしたな。」


 ターレンの言葉に、プクーッと膨れるクリス。

 相手が身分の高い者だと分かった途端に、敬語を使い出すターレンを。

 侮蔑ぶべつする様に。

 ターレンの方が、遥かに常識的な対応なのだが。

 クリスの気持ちは分かるが、大人の世界は辛いもの。

 ターレンがアーシェに返答する。

 それは、以下の様な内容だった。




 ターレンの父親が、エリメン卿の地位に居た時。

 フラッと、1人の魔導士が訪れた。

 魔導士が宿賃代わりに見せた魔法は、子供心を捉えるのに十分で。

 ターレンもその兄も、魔法に夢中となった。

 その魔導士は、【何かの調査】をしていたらしく。

 半年程、この屋敷に滞在していたのだが。

 その合間に、兄弟へ簡単な魔法を教えてくれた。

 弟は魔法の素質が無かった、対して兄は『魔導士までは成れるだろう』と告げられた。

『魔法を学びたければ、これに導かれ進むと良い』と。

 兄は魔導士から、〔矢印形の小さい板が先に付いた、30センチ程の長さの金属の棒〕を受け取った。

 魔法を学ぶのに適しているのは、精霊が集う場所。

 そこが在る方向を、矢印が指し示してくれるのだそうだ。

 魔導士が去ってから、兄は益々魔法に対する興味を募らせ。

 そしてとうとう、勘当同然で家を飛び出して行った。

 それはもう、20年以上前の事。

 修行の旅路の間、同じ志を持つ女性と結ばれた兄は。

 子供を授かった。

 それが、クリス。

 その頃には既に父が死去し、ターレンがエリメン卿へ就任。

 葬儀の場へ駆け付けた兄、その脚はボロボロ。

 余程必死に、この場へと急いだのだろう。

 そんな兄の思いとは裏腹に、彼を白い目で見る親族。

 でもターレンは、兄を責める事が出来なかった。

 親子3人、仲睦まじくしている光景を目の当たりにしては。

 それから、『魔法修行の最中さなか、娘を危険に晒したくない』と兄から連絡を受け。

 ターレンがクリスを預かる事、度々。

 クリスの遊び相手は、ターレンの息子。

 年が近く、息子はクリスの1つ上。

『気が合うだろう』との、ターレンの配慮だった。

 兄の血を引くクリスは、頭が切れ。

 それに受け答えしている内に、息子の頭脳も磨かれて行った。

 こうして皆が切磋琢磨する事、数年。

 兄はとうとう、魔導士として活動する事を精霊から許された。

 ただ成りたてなので、魔法が暴発すると厄介だ。

 きちんとコントロール出来る様になるまで、暫く預かって欲しい。

 そう書かれた手紙を兄から受け取った時、ターレンは悩んだ。

 タイミング悪く、国内で大きな問題を抱えていたので。

『ここでもクリスの安全は保障しかねる』、そう懸念したのだが。

 あなたの下が、一番安心する筈よ。

【或る人】のそんな助言を受けて、クリスを迎え入れる事にした。

 似顔絵が描かれた紙を、関所に届けたのも。

 その人の指示。

 そしてその通り、無事にクリスは屋敷へ。

 大喜びで出迎えた、と言う訳だ。




「喋り過ぎでしょ、もう。」


 プイとそっぽを向いたまま、クリスが言う。

 あくまでこれは、身内の問題。

 余所よそ様にペラペラ話す事柄では無い、そう言いたいのだ。

『おっと、済まん済まん』と、ターレンは弁解する。

 クリスの顔を見て、安心した余り。

 口を滑らしてしまった。

 そんな所だろう。

 弟であるターレンが、家を継いでいる理由は分かった。

 クリスだけが関所通過を許された理由も、半分は。

 一方で、ターレンの話の中に出て来た人物で。

 ヒィとジーノ、そしてアーシェは。

 嫌な予感がする……。

 念の為、ヒィがターレンに尋ねる。


「付かぬ事をお聞きしますが、〔クリスを受け入れる様助言をした〕と言う人物は……。」


「ああ。変わった人だったよ。いきなり屋敷を訪ねて来てな。私を呼びつけた途端、今の国の状況を言い当てたのだよ。」


「え?」


 驚くヒィ達。

 ターレンが続ける。


「『だったらあたしに依頼なさい、解決してあげるから』とか何とか、押し切られて……。」


「強引に契約させられた、と?」


「そうなのだよ。『そいつに、その女の子を護衛させるから』とね。後は『護衛は別料金だ』とも言っていたな。」


 まさか……!

 わなわなと震えながら。

 ヒィはターレンに尋ねる。


「その人物は……〔濃紺で長い、ふわっとした髪〕で、〔長袖白Yシャツ・真っ黒なミニスカート〕の格好を……してませんでした?」


「そうそう!良く分かるねえ。」


 感心するターレンとは逆に。

 怒り心頭のヒィ。




 また!

 あいつかーーーーーーーーっ!




 大声でそう叫びたいのを必死で堪え、両肩をプルプルさせるヒィ。

 頭の右上をコツンとげんこつで叩き、ペロッと舌を出しウィンクしながら。

 てへっ。

 そんな感じの憎らしい顔が、目に浮かぶ様だ。

 顔を真っ赤にして苛立いらだつヒィ、思い切り握る右手のひらから血が滲みそう。

 そんな彼の右手をギュッと握るジーノ、そっと左肩に手を置くアーシェ。

 2人共黙って、うんうん頷いている。

 分かる、その気持ち。

 振り回されるのは、辛い事。

 ヒィが不憫でならない2人。

 ?

 クリスは、3人の光景が不思議で堪らない。

 こいつ等を、こんなに困った顔にさせる存在って……。

 やーめたっ、深入りしない方が良さそうだわ。

 私の感がそう言ってる。

 クリスの判断は、正しかった。




「へーっくしゅっ!」


「おやおや、風邪でも引かれたのですか?」


「いえ、大丈夫です。」


 ほほほほほ。

 お嬢様の様な余所行きの雰囲気を保つ為、適当に誤魔化す。

 街道を馬車で進む、セージとサフィ。

 サフィの鼻が、さっきからむずむずしている。

 誰かがあたしの噂をしてるわねー。

 しかも悪い噂を。

 まあどうせ、ヒィ辺りがボヤいてるんでしょ。

 そう考えながら、サフィはセージと退屈な旅を続けていた。

 こちらが到着する頃には、ヒィ達が解決していそうなものだが。

 その時は、サフィはどうするのだろうか?

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