表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/1285

川で区切られた町、フラスタ

 ペルデュー国の首都、フラスタ。

 5つの谷と、5つの川。

 それ等によって生み出された、扇状地の集合体に立地する都市。

 川の交差点を中心として、5つの区画に分類され。

 区長に当たる地位の貴族が、それぞれに居る。

 エリメン卿は。

 街道口から見て、流れ出す川の右側。

 ★を上下逆さにした時、右下に当たる地域を治める貴族で。

 フラスタの代表も兼ねている実力者。

 関所を閉じる様国王に進言したのも、彼らしい。

 兵士達から、そう聞かされた。

 そこでふと、ジーノが漏らす。


「国王って、何処に住んでるの?」


 ヒィ達人間の感覚では、首都に居るのが普通。

 だから、フラスタ内に留まっていると思い込んでいた。

 ドワーフは各町村でリーダーが存在し、それが人間社会で言う〔国〕に当たるので。

 ドワーフ全てを統括したおさは置いていない。

 つまり、人間と他のコミュとでは政治形態が違う。

 だからこそ人間の暮らす場所では、周りの町村間の連携が大事。

 それが連合体となって、他の勢力を牽制している場合も有る。

 種族内ではどの道、リーダーは必要で。

 それが王だったり、長だったりするのだが。

 人間社会のシステムでは。

 取り仕切る役目の者は首都に居た方が、色々都合が良い。

 政治的決断も早くなるし、経済的基盤も構築し易い。

 首都が大抵、地域の中心に置かれるのも。

 そう言った理由から。

 ジーノの居たソイレンの町は、たま々長の屋敷が展望台を兼ねていたから。

 町の真ん中に在っただけ。

 基本的には何処に住んでも良い、場所にはこだわらない。

 屈強なドワーフだから、その様な選択性が有るのだろう。

 種族間で非力な方の人間は、そうは行かないのだ。

 その感覚の違いから、ジーノの疑問が出て来たのだが。

 この問いに対し、兵士達からは何の返答も無い。

 まさか、国王は既に追い出されたとか?

 余計な事が、ヒィの頭に浮かぶ。

 いやいや、それならもっと町中まちなかが騒がしい筈。

 関所を封鎖したり、街道口に兵士達を配置している割には。

 町の人達は冷静だ。

 なら、どうして……?

 すれ違う人々を見ながら、ヒィは考える。

 でも行き着いたのは、『このまま考えていても無駄』と言う結論だった。

 そこでヒィは、思い直す。

 全ては、エリメン卿の屋敷へ着いてから。

 今は出来るだけ、町の様子を観察しておこう。

 きっと役に立つ、そう信じて。




 フラスタは、領域が円形の町で。

 綺麗な弧を描く、高い石壁で守られている。

 それが築けるだけ、扇状地は広い。

 でも最初から、町の規模は大きかったのでは無く。

 徐々に拡張し、今の広さとなった。

 川の合流地点を中心に、半径2.5キロメートルと言った所か。

 広げるにあたり、起点となったのが。

 エリメン卿の治める地域、【アウィ地区】。

 なので建築様式は他の地域より古く、当時の暮らしがしのばれる。

 道も入り組んでいて、路地裏も多い。

 敵が攻め込んできても、簡単に区長の屋敷へと到達出来ない仕組み。

 それが有るので、アウィ地区では再開発は行われない。

 耐熱性の高いレンガで組まれた家々には、もくもくと煙を上げる煙突が横に付いている。

 昔から続くいとなみ、寒い地域ならではの光景。

『古き良き町並みを保っている』、とまで言ったらお世辞だろうか。

 〔古ければ、何でも良くなる〕訳では無いのだから。




 目的地である屋敷は。

 扇形を描く地域の、中心よりやや外側。

 それは天然の城壁で有る山脈が、川の合流地点から見て丁度背と成るから。

 守り易い、ただそれだけの理由。

 他の地域は後から組み込まれたので、そんなしがらみは無く。

 思い通りの町造りをしているらしい。

 逆に言うと、エリメン卿の先祖が開拓して出来た町なので。

 他の区長は、エリメン卿に頭が上がらない。

 かと言って、他の地域の自治権はその区長に一任されているので。

 皆満足し、エリメン卿が座する地位をさらう気は無い。

 そんな事を考えるのは、他の地域から侵入して来た他所よそ者位だろう。

 そして最近、それを実行した輩が現れた。

 セージの言っていた、〔或る貴族〕と〔魔法使い〕の正体が。

 それに該当する可能性有り。

 高いか低いかは、エリメン卿との面談にる。




 雪がチラつく中、ヒィ達はソリを走らせる。

 それ程雪深く無い、アウィ地区の町並みの中を。

 街道口から並行して走っていた川とは、早々に別れ。

 兵士達の案内の下、あちこち動き回らされる。

『遠回りではないか』と思わせる程、到着に時間を取られる。

 しかし兵士に言わせれば『早い方だ』との事。

 それは、ここに何度も来た事が有るクリスのお陰。

 兵士が知らない近道を、どんどん指し示そうとするので。

 うっかり、案内要らずと成る所だった。

 何から何までクリスの言う通りでは、兵士達の面目が立たない。

 何よりも、細い裏路地まで指定されてはソリが通れないだろう。

 そうアーシェに忠告されたので、必要な時だけ言う様になったクリス。

 クリスが荒れるのを心配していたヒィは、取り敢えずホッとする。

 態度が軟化して来た事を歓迎する、ヒィだったが。

 クリスの胸の内は、果たして……。




 漸く辿り着いた、エリメン卿の屋敷。

 そこは周りに立ち並ぶ建物とは、一線を画する規模で。

 ちょっとした要塞に近い。

 開拓の拠点だった名残りか。

 周囲をぐるりと、棘だらけの鉄線を巻き付けた鉄柵が取り囲み。

 中の様子をうかがい知る事は出来ない。

 上から越えようにも。

 高さが3メートル以上は有る柵の先端は、槍の如くとがっている。

 正面真ん中に、くり抜いて造った様なアーチが有り。

 そこから出入りするらしい。

 他に、門等は設けていない様だ。

 不審な輩は、シャットアウト。

 そう、圧を掛けている。

 アーチは、半径2メートル程の半円。

 敷地の内側には、横にスライドする形式の扉が設置され。

 薄い鉄板なのか、鈍く黒光りしている。

 何よりも、今は厳戒態勢なのか。

 アーチの両側に1人ずつ、門番の様に兵士が立っている。

 案内役の兵士が話し掛けると、門番役が中へ合図を送る。

 すると間も無く、中央から左右に門がスライドして行き。

 中に入る様促される。

 棘を恐れてか、躊躇するエルクとムース。

『大丈夫』となだめるジーノ。

 ゆっくりと慎重に、ソリが進み出す。

 2頭が小柄で助かった、大きければアーチに角が引っ掛かる所だった。

 何とかソリの前方が中に入り込むと、後はスムーズ。

 玄関先まで20メートルは続くであろう道を、スルスルと進んで行く。

 そして玄関前で横付けされ、ソリは止まった。




 屋敷の外観は、赤レンガ造り。

 下方は更に、覆う様に土が塗り込まれている。

 攻撃や寒さに対抗する手段か。

 玄関は、普通の屋敷と同じ木製。

 でも何やら、仕掛けが有るらしい。

 ヒィの背中で、剣がキラリと光る。

 それを見て、ミカがヒィに告げる。


「剣が呼応してるわよ。気を付けなさい。」


「え?そ、そうか。分かったよ。」


 荷物を下ろしている途中だったヒィは、背中越しにそう言われ。

 コクンと頷く。

 荷物を全て下ろすと、ソリとツノジカ2頭はお役御免。

 暫くは、持ち主である商人も到着しないだろう。

『私が話を付けておくわ』とクリスが言うので、取り敢えずは屋敷預かりに。

 玄関から右方に見える馬小屋へと、一時移動。

 やっとゆっくり出来る。

 2頭の顔は嬉しそうだ。

『ありがと』とそっと呟き、それぞれ頬を撫でてやるクリス。

 そして直ぐに、玄関へと戻った。




「さあ!ここからは、気合を入れるわよー。」


「何でお前が仕切ってるんだよ。」


「良いじゃない、誰が言っても。」


「いや、ここはその娘だろ。オラ達じゃ無くてさあ。」


 ミカとジーノが揉めている。

 元々ここに用事があるのは、クリスだけ。

 ヒィ達はソリを借りる交換条件として、送り届けたまで。

 本来ならここで、ヒィ達も別れる所だが。

 この辺りの有力者に会って、どうしても確かめたい事が有る。

 フラスタに着くまで見て来た光景は、どうもセージの言っていた事と違いが多過ぎる。

『彼なら事情を把握している』、ヒィとアーシェの意見は一致していた。

 ならば、ここで離れる道理は無い。

 鬱陶しそうな素振りで、クリスが言う。


「くれぐれも、粗相そそうの無い様にね。迷惑だから。」


「ああ。心得てるさ。」


 ヒィが返事すると、顔が真っ赤なのか。

 プイとヒィの顔を避けるクリス。

 どうやら、独りで訪問するのは心細かった様だ。

 安心感からか、顔が緩んで。

 それを見られたく無かったらしい。

 ヒィ達にはバレバレだったが。

 ともかく皆、玄関前に整列。

 クリスが前、その後ろに左からジーノ・アーシェ・ヒィ・ミカ。

 コンコンコンと、アーチから案内して来た兵士が扉を叩く。

 何やら、合言葉の様なやり取りが有った後。

『ではどうぞ、お入り下さい』と、案内役の兵士が扉を開ける。

 中からはふわっと、暖かい空気が。

 それを逃がすまいと、速やかに入る様兵士から促される。

 スイッとクリスが入り、続いて身軽なミカが。

 アーシェ、ヒィと入り。

 一番大きな荷物を背負ったジーノが、最後に入ると。

 冷気を遮断する様に、さっさと扉は閉められた。




 雪中の旅は、一先ひとまず終わり。

 これからヒィ達が会う人物、エリメン卿とは。

 一体、どの様な人物なのか?

 そして〔聞いた事と見た事の違い〕、その原因は明らかと成るのだろうか?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ