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唐突なショートカット、まあ意味は有る

 水が落ちる部分が幅50メートル、総幅100メートル程だった滝。

 その右側を、ソリが進んで行く。

 落ちる水滴の様に、最初は思い切り膨らんでいたが。

 川幅は一気に縮み、数分進んだだけで半分程までにせばまった。

 しかし沿岸の土地は相変わらず狭く、B級よりやや細い。

 幸いにも、この辺りは雪の降りが弱いらしく。

 降り積もる雪の量は、除雪しなければならない程では無かった。

 真っ白な景色、周りの木々にも雪は優しく覆い被さり。

 遠近感が狂いそうだ。

 だから、直ぐ近くに見える村も。

 全然大きくなって来ない。

 本当に辿り着けるのかよ?

 ジーノの懸念を他所よそに、クリスはミカを観察している。

 ここで仲良くなっておけば、後々得をする。

 そう考えての事だったが、当のミカは興味ゼロ。

 寧ろヒィと話したがり、爛々とした目で見て来るので。

 逆にヒィは外側を向く。

『凄いなあ』と繰り返すだけ。

 ここでの皆の考えは一致していた。

『早く村へ着いて欲しい』、ただそれだけ。




 やっと、村らしき入り口が見えて来る。

『もう少しだ、頑張れ』と、ジーノがエルクとムースを励ます。

 懸命に前へ進もうとする2頭に、何故か感動を覚えるヒィ。

 自分の土着までの旅を思い出し、姿を重ねているのか。

 アーシェには、その感覚が分からない様だが。

 そして遂に、村へと到着。

 したのだが、何か様子がおかしい。

 雪が少し積もっているので、音が吸収されているだけかも知れないが。

 人の息遣いが感じられない。

 〔生活感が無い〕とも言える、村の内部は。

 小さいながらも家は建っている、でも玄関の扉は暫く開けた様子が無い。

 小屋も有る、でも物資を運び込んだ形跡が見られない。

 かと言って、打ち捨てられた訳でも無いらしい。

 兵士が通過する為だろうか、道に積もっている雪の量は少なく。

 関所へ運ぶ物資を積んだ荷車が、村内を通った形跡もある。

 ならば何故、人影が消えているのだろう?

『こいつなら知っている筈』、そう思ったヒィは。

 鬱陶うっとうしくて避けて来た、ミカへと話し掛ける。


「何が起きてるんだ?ここで。」


「何って?」


「どう考えても異常だろ。人っ子一人見当たらないなんて。」


「まあ、そうね。それよりそれよりー!」


「ご・ま・か・す・な。サフィに頼まれてるんだろ?俺達の事。なら話してくれないか?このままだと、どうしようも無いからさ。」


 はしゃいで矛先をらそうとするミカ、逃すまいとジッと見つめるヒィ。

『吐いちまえよ、楽になるぞ』とは、ジーノ。

『頼む、助けてくれ』とは、アーシェ。

 自分も構って欲しくてうずうずしているが、我慢するクリス。

『仕方無いわねー』とボヤきながら、ミカは言う。


「ちょっと待ってて。お伺いを立てて来るから。」


 シュッ!

 ミカがまたしても消えると。

 少しの間の後、ソリの後ろへと再び現れる。

 ミカの後ろに、見覚えの有る影が。

 さっさと荷物の上に登るミカ。

 影は、ソリの右側へと回り込むと。

 側面に右手を付けながら、ヒィに言う。


「実際にその目で見た方が早いわ。それっ!」


 ヒュッ!

 言い終わるかどうかのタイミングで。

 その場からソリごと、ヒィ達の姿は消えた。

 幸いにも辺りに、目撃者は居なかったが。




「着いたわ。後は自分で確かめる事ね。じゃあ。」


 シュンッ!

 そう言うと、影はとっとと居なくなった。

 慌ててソリから降りるジーノ。

 前では、エルクとムースがぐったりしている。

 それを見て、アーシェも傍へと駆け寄る。

 ソリの上では、同じくクリスがぐたーっと。

『大丈夫かい?』と言いながら、クリスの背中をさすってやるヒィ。

『ふふん』と高みの見物のミカ。

 クリスが気付く、雪の降りがやや強まっているのを。

 少し気持ちが落ち着いて来たのか、クリスが絞り出す様にヒィへ話し掛ける。


「一体……何が……起きたの……?」


「あ、うん。信じられないかも知れないけど……。」


 躊躇ためらった後、ヒィはクリスに告げる。


「瞬間移動で、旅路を短縮しやがったんだ。あいつが。」


「しゅん……かん……?」


 戸惑うクリス。

 どう言う事?

 まだ頭の冷却が必要らしい。

 自分でそう思うクリス。

 そのかたわらでは、ヒィとミカが。


「全く、乱暴だなあ。」


「あら、賢明な判断だと思うけど?あの方らしいじゃない。」


「何処が〔賢明〕だよ。過程をすっ飛ばしただけじゃないか。て言うか、ここは?」


「もうすぐ分かるって。ほら、誰か来た。」


 ミカが、ソリの前方を指差す。

 そこには、3人の兵士らしき男の姿が。

『おーい!』と手を振りながら、駆け寄って来る。

 体力が戻って来たらしい、2頭は。

 ゆっくりと立ち上がる。

 ホッとする、ジーノとアーシェ。

 兵士達が次々と、アーシェに声を掛ける。


「どうした!国境が破られたのか!」

「被害は!状況は!」

「くそう!奴がもうここまで……!」


「待った待った!何の事だ!きっちり説明して貰おう!」


 アーシェの返しに、ビクッと成るも。

 兵士の1人が2頭を指しながら、こう返答する。


「命からがら、近隣の村から逃げて来たのでは無いのか!こいつ等、相当疲弊しているぞ!」


「え?あ、ああ。そう言う事か。」


「『ああ』じゃ無い!ソリの上でも弱っている者が……何と、子供ではないか!早く、町医者の所へ!」


 さあ、さあ!

 クリスを患者と勘違いしたのか、兵士達が降ろそうとする。

 しかしクリスは、これを拒絶。

 代わりに言った言葉は。


「だったら、エリメン卿の下へ案内なさい!私は、あいつに用が有るのよ!」




 どうやら、今ヒィ達が居る場所は。

 滝から続く街道、その終着点辺り。

 フラスタの手前付近。

 ミカと一緒に現れたのは、サフィ。

『この方が手っ取り早いから』と、即決したらしい。

 余り時間を取ると、セージに怪しまれるので。

 瞬間移動でまとめてヒィ達を運んだ後、会話を交わす間も無く引き返す。

 ツノジカ2頭とクリスは、初めての跳躍だったので〔瞬間移動酔い〕を起こした。

 それを兵士達は『敵襲でこうなった』と勘違いした、と言う訳だ。

 彼等が慌てて駆け付けたのも、その意識のズレのせい。

 逆に言えば、フラスタだけで無く国全体が。

 戦いの危機に晒されていると言う事。

 関所の封鎖、関所近くの村がもぬけの殻。

 この2点も、戦闘に備えた措置なら合点が行く。

 だからアーシェは、『そう言う事か』と納得したのだ。

 同時に、益々分からなくなる。

 セージの主張と、全く正反対の対応。

 国内を鎮めるのでは無く、国外の脅威に備えている。

 これはもう、この状態を作り出した本人に。

 直接問いただした方が早い。

 結局アーシェの考えは、ヒィの思いと一致する。

 エルクとムースは、ジーノの介抱のお陰で。

 元気を取り戻す。

 クリスはまだ顔が少し青いが、弱気な所を兵士達に見られたくないらしい。

 背筋を伸ばし、ソリへと腰掛ける。

 健気やら、痛々しいやら。

 ヒィはそう思いながらも。

 前を先導する兵士達から、クリスの顔が見えない様。

 そっと気を遣う。

 それ等の光景を、荷物の上から眺めているミカ。

 クリスと2頭を助けようとしない、天使なのに薄情だ。

 そう思えるかも知れないが。

 天使は神の使い、簡単に下界の者へ手を貸す様な真似はしない。

 神の領分に触れる事となるから。

 単に心が冷たい訳では無いのだ。

 しかしこの天使、サフィに似て少々ひねくれているらしい。

 チラリとヒィが目線を向けた時、頬が緩んでいる様に感じた。

 あれ在って、こいつ在りか。

 何とも厄介な……。

 いやおうでも、そう思わざるを得ないヒィだった。




 こうしてヒィ達は、兵士達に連れられて。

 フラスタ内へと入って行く。

 街道口には、大勢の兵士が立っていたが。

 皆、ヒィ達に穿うがった目線を送る。

 正体不明の者達がいきなり現れたのだ、当然だろう。

 痛い視線を浴びながら一行は、一路エリメン卿の屋敷へと向かうのだった。

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