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ややこしや、人も道も

「そう言えばさあ。」


「なあに?」


 クリスとミカの言い合いが落ち着いて、少しした後。

 ヒィがミカに尋ねる。


「『クリスが言っていた事は本当だ』って言ったよな?」


「大体、ね。」


「具体的には、どう言う事なんだ?」


 それは、アーシェも気になっていた。

 大魔導士を自称する、しかし子供の前では見せた事が無い。

 不思議に感じるのは当たり前。

 クリスの方をチラッと見た後、ミカが告げる。




「そいつの親はね、魔導士に格上げされたばかりなのよ。」




 格上げ?

 ジーノも、少し気になった。

 魔法を使う為には、精霊と契約する必要が有る。

 その精霊のランクが高い程、強力な魔法を発動出来。

 その事から〔魔法使い〕<〔魔導士〕<〔賢者〕と。

 魔法を操る者もランク分けされている。

 よって、格上げとは。

 今まで結んでいた契約を破棄し、新たに精霊と契約し直した事を意味し。

『より高ランクの精霊に認められた』と言う証でも有る。

 それで合点が行くアーシェ。

 契約し直した時、新たに習得する魔法のコントロールは。

 幾ばくか時を要する。

 しかも。

 それまでとは扱う魔力の量が、格段に違うのだ。

 下手に魔法を放てば、多大な損害を与える事も有り得る。

 我が子を危険から遠ざけたい、そんな親心が垣間見える。

 クリスが親の魔法発動に立ち会っていないのも、理由としてその辺りが妥当。

 それを、『自分は愛されていない』と勘違いし。

 元から備えていた、卓越した頭脳との兼ね合いも有って。

 あらぬ誤解を抱えたまま、ここまで成長したのだろう。

 本人にも、その自覚が有るらしく。

 ミカが『大体は』と表現した事に付いて、訂正を求めようとはしない。

 事実と異なる部分は、自分の願望に過ぎない。

 それを認めたく無かっただけ。

 全ては、少女なりの自尊心を守る為の。

 見栄っ張りに他ならない。

 とうとう真正面から、己と向き合う時が来たのだ。

 そう、クリスは悟った。




 関所を抜けてからは、人もまばら。

 と言うより、交代要員で有ろう兵士達を除いて。

 すれ違う者達は居ない。

 余程厳戒態勢を敷いているのだろう、エリメン卿とやらが。

 だとすれば、やはり今回の依頼が絡んでいるのだろうか?

 アーシェは考えるも、この時点では邪推に過ぎない。

 ともかく、現場に赴いて。

 きちんとこの目で確認しないと。

 騎士としての責任感からか、そう捉えている。

 一方、ヒィは。

 疑問が尽きない。

 関所は閉じられている、しかしクリスは通した。

 街道の向こうからは人が来ない、すれ違うのも兵士達だけ。

 これでは、内なる脅威に対抗しようとしているのでは無く。

 外敵から身を守っている様にしか感じられない。

 セージの話とは真逆だ。

 怪物が暴れていて、国内が荒れているなら。

 国民を逃がそうとするか、国民が逃げ出そうとするか。

 いずれにせよ、関所から。

 寧ろ《出て行く》流れの方が、強くなりそうなもの。

 なのに戦火から逃れようとする動きは、全く見えない。

 わざわざクリスの顔が描かれた紙を、関所へと届け。

 彼女は通そうとする、その考えも良く分からない。

 新米とは言え魔導士の頼みを、断れなかったとも推測出来るが。

 これもアーシェの思考と同じく、邪推でしか無い。

 クリスを送り届ければ、或いは……。

 ヒィの瞳からは、確固とした決意たる物がひしひしと感じられた。




 更に街道を進む事、2・3時間。

 ジーノは気付く。

 街道の幅が、B級では無くA級に相当するどころか。

 その倍にまで成りかけている事を。

 不思議に思い、後ろで大人しくしているクリスに尋ねる。


「ここから先に、何か有るのか?」


「ええ。この先には〔分岐点〕が在るの。」


「分岐?道が分かれてるってのか?」


「厳密に言えば、『道が分かれざるを得ない物が在る』って事。」


「良く分かんねえなあ……ん?」


 そう言えば、さっきから。

 街道の先の方から、『ゴーーーーッ!』って言う低音が聞こえるなあ。

 この辺りの地理に明るく無いジーノは、道なりにソリを進めるだけ。

 クリスは当然知っている、アーシェは聞いた事が有るだけ。

 ヒィは知らない、ミカは知っている。

 その【バカデカい物】に、遭遇するまでには。

 それ程、時は掛からなかった。

 低音は、次第に轟音となり。

 ヒィ達の会話も、掻き消されそう。

 そして遂に、御対面。

 それは。




「うおーーーっ!でけえーーっ!」




 ジーノが思わず声を上げる。

 街道が左右に分かれ、その前には丈夫そうな柵が設けてある。

 恐らく、転落防止の為だろう。

 ソリを止め、その情景を見に行くヒィ達。

 クリスは柵から覗き見し。

 ため息交じりに、呟く。


「何時見ても、凄いわね。吸い込まれそう。」


 そう、柵の向こうは滝壺。

 それも、テトロンへと向かう時に通った物とは比べ物にならない程の大きさ・深さ。

 更に向こう側は、幅が50メートル以上に感じられる滝が。

 ザザアッと、下へ流れ込んでいる。

 落差はざっと、100メートル近くか。

 滝壺に落ちれば、確実に命が刈り取られるだろう。

 柵から滝までは、50~60メートル程の距離か。

 そこから、滝壺は半径60メートル近くの半円形と推測出来よう。

 しかし、滝壺から先の流れは。

 上からは見えない。

 クリスが簡単に説明する。


「この滝はね。ペルデュー内に流れ込んだ川の出口なの。」


 星型の盆地は、4本の流入系と。

 1本の流出系によって出来た、扇状地。

 4本分の水量が行き着く先は、激しい流れを伴った滝。

 そこから地下水脈となって、何処かへと行き着くらしい。

 これだけの量が地下へ潜るなど、信じられない話だが。

 ジーノがクリスの話に頷いているのだ、有りなのだろう。

 壮大な滝の光景、さぞ多くの人が訪れ。

 観光名所にもなりそうだが。

 クリスは言う。


「こんな所で立ち止まる奴なんて居ないわ。ここは、休憩するには寒過ぎるもの。」


「そう言われて見れば……。」


 ヒィは、体感温度の低下に気付く。

 単純な話、滝からの水飛沫しぶきがここまで飛んで来ているのだ。

 かと言って近くには、温まる為に十分な場所も無い。

 ここはあくまでも渓谷、平地を広げるのも重労働。

 だから造成工事も行われず、転落防止の柵を設置するのみ。

 旅人は冷えが加速するので、さっさと通り過ぎようとする。

 恨めしそうに、滝を横目で眺めながら。

 初めて訪れた者には新鮮に映っても。

 良く行き来している者には、〔鬱陶うっとうしい物〕として認識される。

 各地に恵みをもたらしているので、『邪魔だ、消えろ』とまでは言わないが。

 こんなに大きく場所を取っている物が、首都のフラスタまで延々と続いているのだ。

 対岸と行き来するのも一苦労、邪険に扱われる訳だ。

 ジーノはブルブルと体を震わせ、直ぐにソリへと戻る。

 彼が可愛そうに見えたのか、ヒィとアーシェもソリへ。

 滝を一べつすると、飽き飽きした表情でクリスは言う。


「何時か、ぶっ潰してやるから。ふんっ。」


 そして、ソリへと戻って行った。




 さて、これから。

 右と左、何方どちらの街道を進むべきか。

 小柄なヘラジカの、エルクとムースは。

 そわそわしている。

 流石に寒さが堪えているのか、早く身体を動かして体温を上げたいらしい。

 2頭を気遣って、ジーノがクリスへ問う。


「どっちを進んでも良いのか?こいつ等が可哀想だから、とっとと出発したいんだ。」


「それなんだけど、右側を行って頂戴。」


「右?理由は?」


「フラスタは4本の川が流れ込んで、1本の川として出て行く。これで分からない?」


「うーん。オラにはちょっと……。」


 まどろっこしい言い方をすんなよ。

 ジーノは不満気。

 納得の行かない、彼の表情を見て。

 クリスは少し、満足したらしい。

 その辺りはやはり、子供。

 代わりにヒィが、ジーノに言う。


「これだけ太い川が出来るんだ。『フラスタへと流れる4本も、結構太い』って事だよ。」


「つまり?」


町中まちなかは分断されている。川によってね。だから、近道になる方向が在る。これで合ってるかい、クリス?」


 ヒィがクリスに話をすると、満面の笑みを浮かべ。

 クリスが答える。


「その通りよ。これ位、推測出来ない様じゃあ。あなた、駄目ね。」


「むーーーっ!」


 余りに自慢気なので、怒りたいが。

 相手は子供、むきになっても仕方無い。

 はいはい、そうですか。

 ジーノはサラッと流す事にした。

 変なうなり声を聞けただけで十分。

 クリスは静かにソリへと座る。

 運転席にジーノ、隣はアーシェ。

 ジーノを背にしてヒィ、隣にクリス。

 そして荷物の上に、ミカ。

 そのポジション取りは変わらず、ソリは右側の街道へと進み始めた。

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