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国境名物、押し問答に遭遇する

 雪がちらつく中を、ソリは進む。

 街道に積もる雪は、かさばる度に横へ退けられ。

 その分、道幅は狭くなる。

 何とか対面通行が出来るのも、B級とは言いながら多めに幅が設けられている為。

 道にわだちが形成されると、馬車や荷車の車輪がそこへはまり。

 走れる場所が限定されてしまうので。

 除雪は綺麗に真ったいら、これがこの辺りの常識。

 作業中は通行止めになってしまうのが難点だが。

 旅人や行商人も事情を分かっているので、大人しく待つ。

 ヒィ達が進んでいるのは、その作業が一通り終わった後。

 スムーズに国境へ向かって行けるのは、ヒィの日頃の行いが良いからなのか。

 それとも誰かが、事前に手を回しているからなのか。

 そんな事は関係無しに、ソリは進む。

 スリップして動けなくなっている、荷車を横目に。

 氷の精霊の許容範囲以上で、火の精霊の力を使うと。

 怒りを買ってしまうので。

 凍った道は、炎を使って解かせない。

 そこが七面倒臭い点。

 まあ、単純に。

 ワウの村で、対スリップ加工された車輪へと交換すれば良いだけの話だが。

 ケチが多いのか、それで商売をしている連中に金を落としたくないのか。

 強引に突破しようとする輩が多過ぎる。

 その惨状を横目に見ながら、人間の強欲さに呆れるジーノ。

 黙って辺りを警戒するアーシェ。

 ヒィとクリスは、相変わらず黙ったまま。

 内心では、『早く国境に着いて欲しい』と。

 クリスは、願っていたのかも知れないが。




 クリスとヒィとのいざこざが収まってから、数時間。

 休憩を挟みながら、街道を進んで行くと。

 前方から、立派な建物が見えて来る。

 それは、石を積み上げて建設された壁。

 高さは、人の背丈の5倍程だろうか。

 街道の幅に合わせて、木製の四角い扉が設置されている。

 ここがどうやら関所らしい。

 扉の横には、兵士らしき者達の待機所が。

 同じく石を積み上げて、形作られている。

 稜線に向かって伸びる、国境を示す石壁。

 一対の太い円柱型待機所、その2つの間に在る扉。

 それ等が1セットで、敵の侵入をはばんでいる。

 夜は扉が閉められているので、越境出来るのは日中のみ。

 だから今は、扉が開いている筈なのだが。

 何故か、その前に人だかりが。

 何やら、旅人が兵士らしき数人と押し合っている。

 近付くにつれ、それは怒号となってソリまで響いて来る。

 その内容は。




「どうして通してくれないんだ!今は日中だろうが!」


「或るお方の命で、ここは封じられている!諦めろ!」


「そんなの納得出来るか!俺達の運ぶ物資が無かったら、お前等の家族も飢え死にするんだぞ!それでも良いのか!」


「それとこれとは別だ!」


「別なもんか!同じじゃないか!」


「話にならん!とっととここから去れ!」


「それはお前等だろ!上官を呼べ!お前等じゃらちが明かん!」




「どうする、兄貴?通れないみたいだぞ?」


 関所の少し手前で停車し、ヒィの方に振り向いてジーノが尋ねる。

 そこへアーシェが名乗りを上げる。


「私が交渉して来よう。聞こえて来る話から察するに、何か思惑がある様だからな。」


「だったら私も連れて行きなさい。こんな男よりは、役に立つわよ。」


 スクッと立ち上がり、クリスがヒィを指差しながら言う。

『こんのーっ!』とジーノが怒るも、ヒィは制止する。


「君はペルデューと、深い関係が有りそうだしな。頼んだよ。」


「ななな、何よ!私はまだ、あなたを認めた訳じゃ無いんだからね!」


「分かったよ。」


 優しくヒィから頼み事をされたので、照れ隠しの様に反応するクリス。

 それに、これまた優しく応じるヒィ。

 それが気に入らないのか。

 ソリからストっと飛び降りると、『早く行きましょ』とアーシェに促すクリス。

『ああ、行こうか』と、左手でクリスの右手を握り。

 引率の様に、クリスと連れ立って歩いて行くアーシェ。

 何処か心配そうに、その背中を見つめるジーノ。

 ヒィに向かって呟く。


「大丈夫かなあ?あのクリスって奴、何かやらかしそうなんだけど。」


「それならそれで、あの子の貴重な経験になるだろうさ。俺達にすれば寧ろ、『アーシェのお手並み拝見』と言った所かな。」


「確かにな。太刀筋は認めるけど、貴族としての能力をまだ見てないもんな。」


「貴族だからこそ、つまづく部分も有るんだけどな。」


「『目線の違い』って奴かい?」


「それもあるけど……おっと、2人が着いた様だぞ。」


 ヒィとジーノは、ソリの上から様子を見守る事となった。




「ちと済まんが、事情を尋ねても宜しいか?」


 あ?

 群集に向け、アーシェが話し掛けるも。

 そんな、気の抜けた返事しか返って来ない。

 或る男がアーシェに言い放つ。


「こちとら取り込み中なんだ!あんたに構ってる暇なんて……。」


 そこまで言って、黙ってしまう男。

 余りの美形に、言葉を失ったらしい。

 負抜けた身体になった男共は、放って置いて。

 入れ替わりに、連れの女達が兵士共へ言い寄る。


「あたし等も通さないっての?」

「酷いじゃないの!」

「向こうには家族も待ってるのよ!」


 それに対して、兵士達は。


「無理なものは無理だ!」

「俺達が処刑されてしまう!」

「帰れ!帰ってくれ!」


 悲痛な叫びにも聞こえる。

 無理に従わなくてはならない、隠れた事情が有る様に思える。

 そう考えたアーシェは、ズイッとクリスを前に出し。

 兵士達に話し掛ける。


「この子をペルデューへ送り届ける様、命を受けているのだ。どうだろう、私達を通しては貰えぬか?」


「駄目なものは……。」


 一本調子の返答を繰り返そうとする兵士。

 それを別の兵士が止める。


「いや、待て!何処かで見た事の有る様な……。」


 クリスの顔を見て、首を捻る兵士。

 他の者も、思い出そうとする。

 確かに見覚えの有る顔だ。

 何処でだったか……。

 その時、『あっ!』と声を上げる者が。

 急いで右側の待機所へと戻り、何かを持って来る。

 それは、人の顔が描かれた紙。

 紙の上とクリスの顔を、何度か見比べた後。

 兵士が皆、敬礼をして。




 どうぞ、お通り下さい!




 兵士達は少々緊張している様だ。

 変な汗を掻いている様に見える。

 クリスが兵士達に言う。


「分かれば良いのよ。後。関所を止める様、通達したのは誰?」


「『誰?』と申されましても……。」


「だ・れ・っ?」


「うっ……。」


 ジッと見つめられて、顔を背ける兵士達。

『心の中を覗き込まれている』、そんな感覚に陥っているのだろう。

 観念した様に、誰かが声を発する。


「【エリメン卿】です。」


「あいつが?珍しいわね。」


 考え込むクリス。

 アーシェがボソッと、クリスに話し掛ける。


『知り合いなのか?その、エリメン卿とやらと。』


『ええ。私が行こうとしている場所は、正にそいつの屋敷なのよ。柄にも無く、大人しい性格の筈なんだけど。』


 国境を強引に封鎖するとは思えない。

 民思いで、無益な事は避けたがる。

 そう言う奴よ。

 クリスが、エリメン卿に付いて解説する。

 そして。


「とにかく。私達は通らせて貰うから。良いわね?」


「「「「「は、はいっ!」」」」」


 ザザアァッと、扉の前から人垣が消え。

 ギギイッと開門する兵士。

 それに乗じて、旅人や行商人が何人か突破しようとするも。

 懸命に兵士達が阻止する。

 そのもみ合いから抜ける様に、アーシェがクリスの手を引っ張る。

 後ろへ下がり、脱出に成功すると。

 アーシェは、ヒィとジーノが乗っているソリを手招きする。

 やっと出番か。

 ジーノがエルクとムースに合図を送り、ソリを群衆へと突っ込ませる。


「退いた退いた!かれたい奴は構わないけどな!」


 慌てた群衆は、両端へサーッとける。

 ソリの後ろへひょいと飛び乗るアーシェ。

 アーシェの手を取り、『うんしょ』と上がるクリス。

 関所を通過する際、不満たらたらの旅人達に向けて。

 ソリの上から、気高き少女が告げる。




「私に任せて、一旦ワウで待機なさい!大魔導士【イヴェンコフ】の娘、この【クリスティーヌ=フォウ=イヴェンコフ】にね!」

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