表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/1285

イヌ族内の頂上決戦、ここに

「さあさあ、それではー。両者の意気込みを聞きたいと思いまーす。」


 不穏な空気を払いたいのは、ユキマリも同じ。

 元気いっぱいに、マイクの様な棒を突き出し。

 ラモーとウォーゲンにインタビュー。

 まずはラモーへ。


「どうですか?勝てそうですか?」


「応援して下さる方々の為に、精一杯尽くす所存。」


 そう言ってラモーは、ユキマリから少し離れ。

 観客へ向かって、四方に一礼をする。

 ドッと歓声が沸く、観客席。


「コールが凄いですねえ。それでは負けじと、こちらはどうですか?」


 今度はウォーゲンに棒を向けるユキマリ。

 しかし『邪魔だ』と言わんばかりに、『ドンッ!』と突き飛ばされた。

 不意の事に、尻餅を付いてしまうユキマリ。

 びっくりするも、気を取り直し。

 パンパンとお尻に付いたほこりを払うと、スックと立ち上がって。

 何事も無かったかの様に、インタビューを続ける。


「おーっと、照れ屋さんですか?いけずぅ。」


 また棒の先を向けようとした所で、ラモーに制止される。


「もう下がった方が良い。あいつは君の事を、〔攻撃対象〕と見ているらしい。」


「は、はいー。では遠慮無くー。」


 ユキマリも、ウォーゲンからの殺気に気付き。

 慌ててその場を離脱。

『ピョーン、ピョーン』と飛び跳ねて、実況席へと戻る。

 その時ボソッと、『ストッキングが破れちゃったじゃないの、このーっ!』と言った声が。

 拾われてしまって、会場全体に響き。

 観客の笑いを誘う。

『テヘヘヘ』と誤魔化しながら、ユキマリは議事進行。

 ラモーとウォーゲン、両者睨み合いながら。

 闘技場の中心で、既にスタンバッている。

 ユキマリが告げる。


「さてさてー。これが正真正銘、最後の戦いですっ!ではー……。」




「始めっ!」




 ユキマリが開戦を告げた瞬間、観客の目線が闘技場の中心へと集まる。

 しかし既に、両者は動き出し。

 目線の先に、それ等の姿は無かった。

 ドーーンッ!

 何かにぶち当たった音がする。

 轟音が聞こえた方向は、選手入場口が在る方の壁付近だった。


「こんな物、もう要らないよなあ!」


 ウォーゲンの仕業だった。

 困った事に、ネコ族がリタイア者を運ぶ為に入場するのも。

 そこからだった。

 これでは、決着が付いた後にネコ族が入れない。

 ウォーゲンがラモーに対し、怒鳴る。


「お前のしかばねは、俺が観客席へ放り上げてやる!安心して倒れるが良い!」


「私が負ける前提か!愚かな!」


 ラモーも口撃する。

 本当はののしり合いなど、望んでいないのだがな……。

 そう思いながら、ウォーゲンに向けて剣を振るう。

 難無く大剣で下から弾き、その返しでウォーゲンが振り下ろす。

 ラモーはスッと半身はんみかわすと、再び懐へ潜り込もうとする。

 馬鹿め!

 剣のつかで、押し潰そうとするウォーゲン。

 それを待っていたかの様に、身体を後ろへ伸ばし。

 その勢いで、バックステップ。

 と同時に盾を前面に出し、ウォーゲンの攻撃に備える。

 しかし、目の前にウォーゲンの姿は無く。

 大剣が盾の上から伸び、ラモーの胴体を真っ二つにしようと襲い掛かる。

 取った!

 ウォーゲンが勝ちを確信した瞬間。

 軽くジャンプし、ラモーが盾の中に姿を隠す。

 遅いわ!

 盾ごとぎ倒そうとする。

 大剣の剣筋。

 ウォーゲンの攻撃は、決まったかに見えた。

 ところが、弾き落とされた盾の後ろにラモーの姿は無く。

 観客の目線で、ハッと気付く。

 上を見上げると、そこには。




「やああああぁぁぁぁぁっ!」




「し、しまったあああぁぁぁぁぁ!」




 片手剣を敢えて両手で持ち、振りの素早さを加速させるラモー。

『大剣で受けようとしても間に合わない』と悟り。

 大剣を放棄し、両手を交差させ腕の筋肉を硬直させて。

 強引に受け流そうとするウォーゲン。

 それでもウォーゲンより、ラモーの剣げきが早かった。

 ウォーゲンの頭上目がけて、ラモーの剣筋が振り下ろされる。

 それはウォーゲンの体幹を貫く様に、縦一閃。

 ぐおっ!

 衝撃で堪らず腰が砕け、ひざを折る。

 その土手っぱらの右側から、これまで破れていった者達の悔しさを込めて。

 両手で持ったまま、片手剣を横へと振り抜くラモー。

 身体がジーンとしびれて、思う様に動けなかったウォーゲンは。

 もろに攻撃を食らい。

 自分が先程倒したマーキーの最後の、再現の如く。

 地面にバタッと、うつ伏せに倒れた。

 頑丈なウォーゲンでも、筋肉が緩んだ状態で横から食らったダメージは計り知れず。

 立ち上がる事は出来ない。

 それでも、戦意は失っていないウォーゲン。

 まだだ!

 まだ、俺は倒れちゃいない!

 負けを認めてはいない!

 漸く、互角に殴り合える奴と巡り会えたのだ!

 このまま終わってたまるか!

 ウォーゲンは目をギラギラさせ、歯を食いしばり。

 何とかして戦闘態勢に戻ろうとするも、叶わず。

 ラモーは地面に横たわるウォーゲンを見下ろし、ボソッと呟く。


「因縁に今こそ、けりを付けようぞ。」


「な、何っ!俺はお前とやり合った覚えは……!」


「有るのだよ。お前は忘れてしまっている様だがな。」


 何度挑まれても、難無く倒していたので。

 ウォーゲンの記憶には残っていなかったのだろう。

 勝者は忘れていても、敗者はずっと覚えているもの。

 やっと借りを返せる。

 ラモーは、剣身の腹を下に向け。

 ウォーゲンの後頭部へ、『ゴーンッ!』と打ち付ける。

 そこで、ウォーゲンの意識は飛び。

 同時に、ウォーゲンの嵌めていた指輪が上空へ。

 そして虹色の輝きを放ちながら、綺麗に弾けて。

 高らかにラモーの勝ちを伝える。

 その瞬間、観客席からは『わあっ』と言う歓声が巻き起こり。

 勝者を讃える様に、暫くの間止む事が無かった。




 勝敗を左右したのは、一体何だったのか?

 それは、『相手を知り尽くしていた』と言う点に尽きる。

 マーキーが武闘会で破れ、ラモーが今まで勝てなかった要因は。

 ウォーゲン特有の攻撃パターンに有った。

 それは、『大剣を持ったまま、素早くは動けない』と言う思い込みを逆手に取った物。

 大剣を相手の頭上にブン投げて、自分は地を這う様に思い切りかがみ。

『ビュッ!』と一気に、地面擦れ擦れをジャンプ。

 背後に素早く回り込む。

 相手は大剣が飛ぶ音で、思わず上に目線を送ってしまう。

 気付いた時には、背後に大剣を握り直したウォーゲンが。

 剣を振り上げた状態で立っている。

 後は勢いのまま、下ろすだけ。

 単純な攻撃なのだ。

 単純故に、原理が分かっても対応出来ない。

 これは、脚力が抜きん出ているウォーゲンだからこそ出来る芸当。

 しかしウォーゲンには、誤算が2つ有った。

 1つは、同じ相手に何度も技を見せ過ぎた事。

 これは。

 〔攻略不可能〕と勝手に考えた、ウォーゲンの慢心から来た物。

 例え対応策を考えられても、実行される前に相手は倒れる。

 そう過信していた。

 もう1つは、〔ウォーゲンのその動きをトレース出来る者〕が。

 ラモーの前に現れた事。

 そう、他ならぬ〔ヒィ〕である。

 ブースト機能を手に入れたヒィの機動力は、凄まじい物が有った。

 だからこそ、ウォーゲンの剣筋の再現は容易かった。

 後は、前から温めていた攻略法を。

 無意識下でも繰り出せる様、身体に染み付かせるだけ。

 特訓のお陰で、〔後の先〕も手に入れたラモーの前には。

 ウォーゲンお得意の攻撃は通じない。

 逆に、磨きを掛けていたラモーの秘策。

 〔片手剣を両手で持ち、素早さを上げる〕と言う行為に、ウォーゲンは最後まで気付く事無く。

 ラモーの努力の前に屈したのだ。




 武闘会はこうして、無事に終わった。

 後は、新しい長を任命する儀式のみ。

 これには、武闘会を運営するネコ族も。

 司会・中継係の微ウサギ系ウサギ族も。

 係わっていない。

 しかしそこにこそ、【落とし穴】が有ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ