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試合開始直前は、こんな感じ

 試合の時間が迫って来た。

 アンビーは、他の係員と一緒に。

 参加者と立会人のパスを、最終確認。

 透明な板を所持者が、ギュッと指で押し込むと。

 ホログラムの様な、やや後ろの景色が透けた立体映像が。

 ポウッと浮かび上がる。

 それを見ながら、砦で受付業務をしていた女性が。

 登録名簿と付き合わせて、本人である事をチェックする。

 終了後随時、立会人はパスを首に掛けるが。

 参加者は戦いの邪魔になってしまうので、そうは行かない。

 そこでパス作製担当のエルフが、何やら呪文の様な文言を唱え出す。

 するとパスは、指輪へと形状を変える。

 エルフは、利き手では無い方の人差し指にそれをめる様指示。

 参加者全員が嵌めたのを確かめて、これで終わり。

 指輪は、リタイア時にも使用する。

 降参する旨をそれに話し掛けると、自動的にドロドロの状態となり。

 上空へと打ち上がり、花火の様に弾ける。

 その時空中に参加者の名前が描かれ、リタイアが成立。

 それ以降、速やかに闘技場を出なければならない。

 誘導は、ネコ族の役割。

 上空から中継役の微ウサギ系に指示されると、リタイア者の下へ素早く駆け付け。

 数人で担ぎ上げ、『ヒュンッ!』と地面すれすれを一っ跳び。

 こうやって、戦いの邪魔にならない様配慮しているのだ。

 ネコ族の特色であるしなやかさに加え、選手を避けるだけに専念すれば良いので。

 容易に可能。

 逆に言えば、ここがネコ族の見せ場。

 如何に、華麗に退場させるか。

 力量を観客に見せつける。

 ネコ族にとって唯一、輝ける時なのだ。




「では、行って来る。」


「御武運を。」


 固い握手を交わし、ラモーはヒィに見送られ。

 闘技場へと向かう。

 ビキュアとマーキーも、順次戦いの場へ。

 さて、と。

 ヒィは辺りを見回し、アーシェが指摘した連中の様子を確認する。

 30才近くに見える、人間男性のベッシードは。

 大きな湖を抱える〔ヘムライド王国〕出身とあって。

 錆びない材質で造られた先端の槍を、揚々と掲げ。

『特別な武器を持つのは、あいつだけでは無い』と。

 まるでヒィと張り合うかの様に、周りへアピールしている。

 人間の割にはガタイが良いので、余計に目立つと思いきや。

 色々な種族が立会人として来ているので、思い通りに出来ていない様だ。

 見掛けの年齢がアーシェに近く感じられる、人間女性のメランダは。

 フード付きの真っ白なマントを羽織り。

 同じく、金色に輝いた指揮棒の様な物を。

 これ見よがしに振り回している。

 クルクルと身体を回転させながら。

 空中に文字を書く仕草で、やっているものだから。

 マントがヒラヒラどころでは無く、開いた傘をグルグル回す様な感じに。

 裾が『バカァッ』と広がって、通行の邪魔をする。

 何て迷惑な奴等。

 道理で、アーシェさんが怪しむ訳だ。

 ヒィはそう考える。

 〔人間と言う者は、承認欲求の塊である〕。

 見ている者にそう抱かせる程、アピール具合が酷い。

 同列に扱われたくない人間達は、皆2人から距離を取る。

 それでも無理やり絡んで来るので、自然と立会人同士がバラバラと成る。

 その中で、エルフのレッダロンは。

 鋭く横にやや突き出た耳を、ピクリともさせず。

 その場にしゃがみ込んで、ジッと地面を眺めている。

 どうやら、転がっている石を見つめている様だ。

 やや金色掛かった肩まで掛かる髪は、サラサラと風になびいている。

 その中から覗かせる、透き通る様な白肌の顔を見ても。

 表情を変えないので、嬉しいのか悲しいのか分からない。

 何を企んでいるかさえも、外見から探るのは難しいだろう。

 だからアーシェから、目を付けられた。

 そんな所。

 残りの1人、火の妖精〔エルモン〕のドギンは。

 ヒィの剣から、火の精霊の気配を感じ取っているのか。

 チラッと見ては来るが、積極的に寄って来ようとしない。

 ヒィに尋ねられると困る、不都合な事情でも抱えているのだろう。

 適度な距離を保ちつつ、ヒィの様子をうかがっている。

 その視線のせいで、ヒィはサフィとアーシェから遠ざからざるを得ない。

 フラッと他のグループへ混ざり、適当に相槌を打つ。

 それでも、ドギンからの視線は途絶えない。

 動きにくいったら、ありゃしない。

 だったら……。

 ヒィは或る考えを、実行へと移す事にした。




 参加者から遅れる事、十数分。

 立会人もネコ族の女性に案内され、会場に設けられている席へと向かう。

 こちらは客人扱いなので、不手際が有っては後々問題となる。

 運営の立場の弱さを利用して、ネコ族をここぞとばかりに虐める者も居るとか。

 今回はどうやら、そんな事が起きる気配は無い。

 それは恐らく、アーシェが放った〔あの言葉〕が影響しているのだろう。

 イヌ族乗っ取りの主犯に間違われては、不本意であり不名誉。

 ここは大人しくしておいた方が良い。

 皆の認識は、それで統一されている様だ。

 そんなこんなで、一般客とは違う通路を通り。

 一番上まで上がると。

 ずらりと並べられた敷物の方へと、固まって移動して行く。

 席は特に決められておらず、自由に選べる。

 それをヒィは利用して、ドギンの左隣へ『ドカッ』と座る。

 ビクッと成るも、平静を装うドギン。

 赤緑混ざった、ツンと立った髪が。

 風によって、炎の様にゆらゆら揺れている。

 そこへヒィがボソッと。


「剣が何やら、ささやいてるな?隣がどうのこうの……。」


 ビクビクッ!

 激しい反応を見せるドギン。

 髪の揺らめきが、小刻みなリズムへと変わった。

 緊張が増しているのだろうか。

 その様子を確認した後。

 畳み掛ける様に、ヒィが呟く。


「『話し掛けろ』って?何でわざわざそんな事……えっ?」


 分かった、分かったよ。

 剣が主張している事に同意する振りを見せる、ヒィ。

 それで観念したのか、『はあーっ』と大きく息を吐き。

 ドギンの方から、ヒィに話し掛ける。


「あんちゃん。その背負ってる剣、ちょっくら見せてくれないか?」


「ん?何で?」


 すっ呆ける振りをするヒィ。

 ドギンは続ける。


「俺は見ての通り、火の妖精だ。その剣には、火の精霊が宿ってるんだろ?話をさせて欲しいんだ。」


「話をして、どうするんだい?」


 不思議そうに尋ねるヒィ。

『これは黙ってるつもりだったんだけど、仕方無いか』とボヤき。

 ドギンは言う。




「俺の所に来て欲しい。その説得だよ。」




「ふーん。」


 気の無い返事をするヒィ。

 しかし内心は、直球で理由を打ち明けて来たので心臓がバクバク。

 火の精霊が、それを承諾したらどうしよう。

 焦るヒィだが。

 ふとサフィの、魔法に関する解説を思い出していた。

 魔法は、精霊と契約して発動する物。

 より高位の精霊と契約出来れば、強力な魔法が放てる。

 しかし精霊が認める基準は、高位に成れば成る程高くなる。

 要求がキツくなるのだ。

 ヒィの剣は、話せる様になった事で契約が成立している。

 そしてマジックアイテムの使用に関しても、魔法と同様のルールが適用される。

 サフィの話し振りや、操れる炎からして。

 剣に宿る火の精霊は、少なくとも低ランクでは無い。

 つまり。

 持ち主をそう簡単に乗り換える事は無い程の、高ランクである可能性が高い。

 それで少し安心し、ヒィは背中から剣を抜くと。

 横に持って、ドギンの前に差し出す。


「ほれ。このままでも話せるだろ?試合が始まっちゃうからさあ、さっさと済ませてくれよ。」


 剣身をジーッと眺めるドギン。

 一礼して、剣に話し掛ける。


「初めまして。少しばかり、俺の話を聞いて……。」


 そこまで言って、黙ってしまう。

 そしてうつむくと、目をウルッとさせる。

 明らかに涙目のドギン。

 言葉を続けようとするも、心を折られた様だ。

 ヒィがこそっと剣に。


『何て言ったんだい?』


 すると、返事が。

 素っ気なく、一言。




『〔邪魔だ、失せろ〕。それだけだよ。』

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