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思えばこの時が、〔初コール!〕だった

「ふぁんた……じぃ? 何だ、それは!」


 聞いた事の無い単語、《ファンタジー》。

 ヒィにはそれが、不気味に感じられた。

 構わず続けるサフィ。


「ファンタジーはファンタジーよ。他に何が有るっての?」


「だから、それは何なんだ! 変な事を言っても、誤魔化ごまかされないぞ!」


「ホンットに、頭が固いわねー。ファジーに物事をとらえないと、疲れるわよ?」


「ふぁ、ふぁじぃ? 訳の分からない単語を、次から次へと並べるな!」


 おうむ返しの様な発言で精一杯、アップアップしている。

 ヒィは決して、頭の回転が悪い方では無い。

 しかし立て続けに、ちんぷんかんぷんな単語を並べられては。

 理解が追い付かない。

 まさか、俺をまどわせる気か?

 その隙に、この場から逃げ出そうと……!

 そうはさせないっ!

 罪は軽いかも知れないが、こいつは立派な犯罪者。

 逃がしたと有っては、叔父おじに迷惑が掛かる。

 断固、阻止する!

 メラメラと、ヒィの瞳の奥に炎がともり。

 サフィを逃すまいと、手刀を構え。

 玄関前へと立ちふさがる。

 緊張からか一瞬、ヒィの身体が硬直する。

 すると。


「あんたも行くのよ。さあ!」


 既にサフィは、ヒィの後ろへ回り込んでいた。

 彼の服のえりをむんずと掴み、外へと連れ出そうとするサフィ。

 体当たりに備え、やや後ろへ重心を置いていたヒィは。

 呆気あっけ無く引きられ。

 屋敷の外へ、ポイッと放り出された。


「うわっ!」


 少女とは思えない怪力に、く尻餅を付くヒィ。

 細身ほそみの体の何処どこから、そんな力が……!

 いや、これ程の怪力の持ち主なら。

 何故なぜさっき、あっさりと捕まった?

 疑念が疑念を生み、ヒィの頭の中はグデングデンになって。

 思わず目を回し、バタッと倒れそうだ。

 もう、何が何だか……。

 うつむき加減になるヒィへ、サフィがサッと右手を差し出す。


「さっさと立ちなさい! グズグズしてる暇は無いわよ!」


「え、えぇーーーっ?」


「悩むのは後! あたし達も、現場に急行するの!」


 ウダウダしようものなら、さっきの様に豪快に投げられかねない。

 恐る恐る、差し出された手を握るヒィ。

 意外とサフィは、彼を優しく起こしてやる。

『そんなにおびえられると、女神として不本意だからね』とは、サフィの弁。


「しゅっぱーつ!」


『おーっ!』と右手を天へと伸ばし、勝鬨かちどきを上げるサフィ。

 それとは対照的に、『変な事をして来ないだろうな……?』と。

 疑いの目をサフィへと向けながら、渋々後へ続くヒィ。

 ヒロインに振り回される、主人公。

 この時から既に、その図式は出来上がっていた。




 フキの町は、色々なコミュに囲まれているだけあって。

 辺境にも係わらず、規模は大きかった。

 直径5キロメートル程の、やや円形状の町。

 家も店も多く、人口は大体1万人と言った所か。

 町中まちなかを行き来しやすい様、道も整備され。

 町の中心には、半径200メートル程の円形広場が有り。

 そこから放射状に外環がいかんへと延びる直線道路は、町を綺麗に16分割する。

 町境まちざかいにも、境と広場の中間地点にも。

 環状道路が走っている。

 これだけきちんと区画整備が成されているのだ。

 町中で一旦騒動が起これば、『何事か!』と人が殺到する。

 それは今回も、同様だった。

 ただ、違うのは。

 町の連中では対処のしようが無い程の、異常事態な点だった。




 スタスタと、堂々と。

 歩くサフィの姿は、空き家を忍び込み巡っていた悪党には見えない。

 誰も、咎人とがびととは思わない。

 警戒心を持たれず、人混みの中を平然とすり抜けるサフィ。

 その態度に怪しく思いながらも、き付けられる何かを感じるヒィ。

 自分に足りない物は、こう言う胆力なのだろうか?

 悩み、悩む。

 そうこうしている内に、騒ぎの元へと着いたらしい。

 目の前の景色が、急にひらける。

 綺麗に舗装された道から、少しガタつく石畳。

 それは、広場へ到着した事を意味する。

 そして、人混みを抜けた先には。

 円を描く様に並べられた、なだらかな表面の石の絨毯じゅうたん

 その一角が、ぽっかりと無くなっていた。

 直径3メートル程の、大きな穴。

『崩れる危険性が有るから』と、やや遠巻きに見る見物人達。

 その中に、ロイエンスの姿も有った。

 顔をそむけたくなるヒィ、しかしサフィは。

 既に、ロイエンスの前まで行ってしまっていた。

 ロイエンスの左隣に居た町長が、その姿を見て怒鳴どなり声を上げる。


「き、貴様ーっ! どうしてここに……!」


 ニタァッと、不敵な笑みを浮かべながら。

 サフィは淡々と、町長へ言う。


「【当事者】だからに決まってるでしょ?」


「な、何ぃ! じゃあこれは、お前の仕業しわざだってのか!」


『だったら早く元に戻せ!』と言わんばかりの剣幕で、サフィにまくし立てる町長。

 それを無視し、ヒィを手招きするサフィ。

 仕方無く、顔をやや横に向け。

 申し訳無さそうに、ヒィは進む。

 到着すると早速、ロイエンスから。

 こんな言葉が、ヒィへ投げ掛けられる。


「どうなってるんだ? こんなの、私は全く聞いていないが……。」


「俺もです。巻き込まれた側なんですよ……。」


 トホホと言った感じで、ヒィが言うものだから。

 ロイエンスも、彼の言葉を信じざるを得ない。

 その時、ヒィに向かって。

 サフィから、こんな文言もんごんが飛んで来る。


「穴の中を覗いて御覧ごらんなさい! それで全て分かるから!」


 しつこくからんで来る町長が、鬱陶うっとうしくて仕方が無いサフィ。

 投げやりな言葉に不服ながら、大人しく従うヒィ。

 すると。

 やや年寄り臭い、かすれがかった声が。

 穴から飛んで来た。




「おお、やっとおでなすったか。待ちびたよ。」

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