表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/1285

イヌ族の長(おさ)、引退撤回かも?

『イヌ族の長が、引退を取り消す』などと。

 途方も無い事を言い出したのは……。

 運営長のミーリが答える。


「そなた、その鎧は……カッシード公国の者か?」


「如何にも。隣に座るテトロン代表、【マーキー】殿の立会人を相務める者。」


「その様な者が何故なにゆえ、そんな質問を……。」


 ミーリが聞き返す相手は。

『報告に戻る』と故郷へ旅立った筈の、アーシェだった。

 隣りのマーキーは、先程から一身に視線を浴びている人物。

 耳と鼻、それに尻尾から。

 〔柴犬〕らしく思える、温和そうな中イヌ系。

 恐縮するマーキーを隣に置いたまま、アーシェは答える。


「私がこの役を仰せ付かったのは、つい先日。おさ殿と国王との会談で決定された事なのだが。実は……。」


 そしてアーシェは、この場に居る全員に向けて言い放つ。




「誰かが、この武闘会を仕組んだらしいのだ。【イヌ族を乗っ取る】為に。」




「何だと!それは真か!」


 驚きを隠せない、運営側。

 アーシェは続ける。


「長殿には、何やら呪いが掛けられているらしい。それで体調を崩し、長の座を降りざるを得ない状況に追い込まれたとの事だ。」


「それが事実なら、何と不届きな!」

「どうされる、運営長!」

「そうさなあ……何にしても、前代未聞の事だからな。」


 運営側3人が、話し合っている。

 暫く揉めそうだ。

 出席者側からも、困惑の声が。


「おいおい、冗談だろ!」

「しかし、確かに。長殿は最近までピンピンしていたのに、急な話だとは……。」

「開催は中止か?中止になるのか?」

「折角ここまで来たんだぞ!それに!お祭り気分で盛り上がっている町の連中は、どうするんだ!」


 何年かに一度の、ビッグイベント。

 そう簡単に、中止には出来ない。

 それは誰もが分かっている。

 変な質問を投げ掛けた、アーシェ自身さえも。

 だから、問う。

 その真意を。

 ここから、ミーリとアーシェの問答が続く。


「この場で敢えて打ち明けたのには、訳が有るのだな?」


「御意。『この中に、裏切者が居る』との情報を受けたのだ。【或る御仁】からな。」


「う、裏切者とやらは何方どちらだ?参加者か?立会人か?まさか……運営側か!」


「そこまで詳しくは、聞かされていない。ただ一言、『開催すれば分かる』と。」


「なるほど、これは牽制なのだな?裏切者に対しての。」


「その通り。怪しい動きをすれば、容赦しない。その宣言なのだ。」


「……相分かった。どの道、中止には出来んからな。予定通り、開催するしかあるまい。」


 ミーリはそう告げると、再び話し合い。

 今度はキュールも含めて、4人で。

 お互い、疑心暗鬼になるのは。

 運営上、宜しく無いのだが。

 致し方あるまい。

 お偉方は横に整列し直し、この場の出席者全員に。

 以下の様に申し渡す。

 対象には、アンビー達案内係も含まれていた。


「この事は、他言無用!町に混乱をもたらすやも知れん!そうなれば武闘会は、即刻中止となるであろう!皆の者、しかとそう心得よ!」




「大変な事になったな。」


 ラモーがヒィにボソッと言う。

『そうですね』と返すしか無いヒィ。

 参加者及び立会人は直ぐに、キャンプ地へと帰って行った。

 残っているのは、ラモー・ビキュア・マーキーと。

 その立会人を務める3人。

 ヒィがアーシェに尋ねる。


「あなたが言っていた〔或る御仁〕って、ズバリ【サフィ】ですね?」


「流石、私の見込んだ男。そうなのだ。」


 これで、合点が行った。

 屋敷に住み始めてから、あちこちうろつき回っていたのも。

 無理やり、何処かの立会人として潜り込んだのも。

 知ってるな?

 誰が、該当者かも。

 わざと伏せて、状況を楽しんでるんじゃないだろうな?

 そこまで怪しむヒィ。

 いつの間にか、サフィの顔をジッと見ていたらしい。

 サフィが、『あらやだ、こんな所で熱視線なんて』と。

 身体をくねらせて、気持ち悪い態度を見せている。

 ここからは、6人輪になって。

 ひそひそ話。


『おいサフィ、さっさと誰なのか教えろよ。』


『この場に居ないのは確かよ。』


『それじゃあ答えになって無いだろ。』


『なってるわよ。ここに居る連中は信用出来る、それで十分でしょ。』


『私もサフィ殿と同意見だ。信頼に足る者が居るだけでも、動き易いと言う物。』


『アーシェさん!余りこいつを付け上がらせる様な事は、極力言わない方が……。』


『褒めて!もっとあたしを褒めて!』


 ヒィとサフィ、アーシェが喋る一方で。

 参加者3人は、やはり複雑。

 何せこのまま勝ち残っても、長に成れないかも知れないのだ。

 それを応援団に伏せたまま、戦いに臨むのは心苦しい。

 しかしイヌ族乗っ取りが本当なら、そんな事は些末な事象に過ぎない。

 マーキーがボソッと漏らす。


『サフィ殿に呪いの解除を願い出たのだが、〔それでは詰まらない〕と断られてな……。』


『こちらも〔ほらっほらっ〕と、これ見よがしに魔法を見せつけられて。強引に立会人へと……。』


 ビキュアも同調する。

 ああ、彼等も振り回されているのだな。

 つくづくそう思う、ラモー。

 彼等の声が聞こえたらしく、ヒィが必死に『済みません!済みません!』と謝って来る。

『いやいや、こちらこそ』と丁寧に返され、益々ペコペコし出すヒィ。

『何腰低くしてんのよー、あたしがまるで悪者じゃない』と、プンスカ怒るサフィ。

 その間に入って、『まあまあ』となだめるアーシェ。

 どちらにせよ、武闘会本番では波乱が起きそうだ。

 ふと思い出した様に、ヒィがサフィへ言う。


『お前、荷物はどうするんだ?ゴーラキャンプ地に置いて行くのか?』


『何言ってんのよ。とっくに運んだわよ、ジーノを使ってね。堅ーく口止めしといたけど。』


『うわぁ……。』


 そう漏らし、可哀想な子を見る様な目付きになるヒィ。

 その冷めた視線は納得が行かないらしい、漸く収まっていたプンスカがまた始まるサフィ。

 一方、『どうしたものか』と考えながらも。

 出場する以上、手は抜くまい。

 お互い、頑張ろうぞ。

 参加者3人は堅く、そう誓い合った。




 アーシェは、打ち合わせの場に問いを投げ掛けてから。

 辺りの挙動を逐一、観察していた。

 心当たりの有る者が、動揺する隙を見せているのかどうかを。

 そこで何人か、気になる素振りの者達が居た。

 一応ヒィ達に、誰かを教えておく。

 サフィは黙って聞いているだけで、頷きも反抗もしない。

 ノーリアクション。

 彼女の反応で、更に絞り込みを図ろうとしていたアーシェは。

 肩透かしを食らう。

 しかし、『ここで反応を示す位なら、そもそも実名で指定して来る筈』と思い直す。

 と同時に。

 彼女にも、武闘会を中止されると困る訳でも有るのだろう。

 そう考えた。

 だからここは大人しく、引き下がる事にした。

 そしてこの場で、6人は解散。

 2人ずつペアとなって、それぞれの本拠地へと戻って行く。

 しかし、それを木陰からじっと見ている者が居た。

 奴に気付いていたのは、サフィと……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ