〔お前〕が何故、ここに居る!
アンビーに連れられて、ラモーとヒィが到着した場所は。
縦横40メートル以上の正方形広場で、テニスコート2つ分は有るだろうか。
森林を切り開かれて造成された土地なので、多少木の根っこも残っているが。
それは武闘会終了後に植林される木の苗の、肥やしと成るだろう。
広場の中には、〔縦1メートル・横2メートル・高さ30センチ程〕のテーブルが。
〔コ〕の字を描く様に、ずらりと並べられている。
その外側には、座布団の様な敷物が用意され。
その上に座して、打ち合わせを行うらしい。
コの字の開けた方には、やはり敷物が敷かれている。
こちらは個人用では無く、どちらかと言うと絨毯の様だ。
何人も一度に座れる様、配慮されている。
こちらに、司会進行役や役員が座るのだろう。
その真正面に位置する側へと案内するアンビー。
『どもども』と、既に着席している者達に頭を下げながら通り過ぎる。
続いてヒィ達も通ろうとした時、前方から聞き慣れた声が。
それは。
「遅かったわねー。もう直ぐ始まるわよ。」
「お、お前は……サフィ!?」
「どうしてお主が、ここに……!」
堪らず大声になる、ヒィとラモー。
サフィの返事は、あっさりとした物で。
「決まってるじゃない。立会人だもの。」
「え?お前確か、俺のお付きとして……?」
「受付したって?違うわよ。隣に居る『こいつ』に頼まれて、引き受けたのよ。」
ほら、挨拶して。
サフィの右隣に座っている獣人に、立つ様促す。
スックと立ったその獣人は、こう名乗る。
「俺は【ビキュア】。【イネル】の町から来た、【本キツネ系イヌ族】の者だ。」
体格はラモーよりやや細く、それでいて姿勢はシャンとしている。
がっしりした体幹と、その周りに肉付けされた筋肉。
顔はシャープな作りで、明るい茶褐色と白の毛並み。
シュルっと伸びた、足よりやや短い位の長さの尻尾は。
サフィが気に入りそうな、モフモフ具合。
〔本キツネ系〕を名乗る辺り、姿を例えるなら〔キタキツネ〕が近いか。
「そなたの話は、こちらの方から伺っている。相当強いらしいな。お互い、正々堂々戦おう。」
「宜しく頼む。」
ビキュアが右手を差し出し、握手を求めると。
それに応じるラモー。
動揺を悟られない様に、心を静めながら。
一方で、ヒィとサフィの間は。
喧嘩になりそうな状況。
「そんな話、一度も聞いてないぞ!」
「あんたに話す必要なんて無いもの。」
「有るだろ!昨日はこっちで泊まってたじゃないか!」
「『スパイ行為だ』とでも言いたいの?そんな卑怯な事はしないわよ。それに……。」
「それに?」
もっと文句を付けたかったヒィだが。
サフィのこの言葉で、下がらざるを得なくなった。
「戦うのはあたし達じゃ無いでしょ?単に『ラモーが勝てば良い』話じゃないの。あんたが幾ら喚こうが、それが事実なのよ。」
く、くそう!
『この裏切り者ーっ!』と叫びたい所だったが。
ラモーが折角温和な雰囲気を演出しているのに、それに水を差す訳には行かない。
それにこいつは元々、掴み所の無い奴だ。
こんな事も『ファンタジーだから』とか抜かして、平気でやって来る。
これも心理戦、俺がラモーさんの足を引っ張る事が有ったら駄目だ。
そうヒィは思い直し、ギロッとサフィの方を睨みながら。
ラモーと共に、再び移動を開始し。
自分の席へと座る。
どうでも良い事だが、サフィは正座では無く胡坐を掻いていた。
獣人は『椅子に座る』と言う習慣が無く、かと言って足の構造上正座はしにくいので。
自然と、男女共に胡坐掻きと成る。
それに合わせているのだろうか。
それともこの世界には無い〔正座〕と言う座り方をすると、都合が悪いのだろうか。
ヒィにはその辺の事情を知る由は無かったので、気にせず流されたが。
案内人は、着席した関係者の後ろに立っている決まりなので。
アンビーも、ヒィ達の後ろに立っている。
ヒィ達の後に数人、会場へ入って着席した後。
大会運営者のお偉いさんだろう、ゆっくりと入場し。
ヒィ達の正面に設けられた席へと座る。
その数、4人。
向かって左から。
ネコっぽい獣人が3人、ウサギっぽい獣人が1人。
それぞれが、座ったまま挨拶をする。
【微ネコ系ネコ族】の、【ガウル】
〔トラネコ〕っぽい茶褐色の毛並み、彼は運営補佐。
【中ネコ系ネコ族】の、【ポーラ】。
〔ペルシャネコ〕の様な長い白毛に包まれている、彼女は副運営長。
【本ネコ系ネコ族】の、【ミーリ】。
〔マンチカン〕の様な愛らしい姿だが、彼が運営長。
即ち、武闘会総責任者。
同時に、〔シャーオ〕の町の町長でも有る。
ネコ族は運営側なので。
3人共、紺基調の地味なスーツ姿。
そして、【微ウサギ系ウサギ族】の【キュール】。
ネズミみたいに丸くて小さい耳が、頭の上にちょこんと乗っかる様は。
〔ナキウサギ〕に近い。
彼女が、司会役のウサギ族を仕切っている。
バニーガールでは無く、着物の様な服を羽織っているのは。
司会者を束ねる裏方なので、目立たぬ様。
こちらもグレー基調の、地味目の配色。
いずれも、その種族では重鎮。
肝心の、イヌ族を預かる頂点の〔長〕は。
公平を期すまで、ここには姿を現さない。
これで、打ち合わせの出席者は出揃った。
武闘会参加者、その立会人共に40人。
イヌ族は様々な系統が有り、打ち合わせ会場を彩っている。
イヌ系、オオカミ系、キツネ系、タヌキ系など。
場の雰囲気も。
お祭り気分、腕試し気分。
それ等が入り混じっている中。
真剣な面持ちの者も居る。
恐らく、テトロンの代表者だろう。
彼には周りから、視線が浴びせられる。
注目されるのは、さぞ辛かろう。
心中を察するヒィ。
でも応援は出来ない。
立会人とは言え、すっかりラモーに情が移ってしまったから。
「それでは今回の武闘会に付いて、注意事項を申し上げる。」
議事進行は、運営補佐のガウル。
彼から、幾つかの注意点を告げられる。
1.基本的には、1対1で試合う事。
2.故意に〔他者の妨害〕(攻撃や防御への横やり)をしてはならない事。
3.以下の行為をした者は、問答無用で失格とする事。
・降伏している相手への追加攻撃
・立会人からの援護
・観客への乱入、司会者や運営に対する暴行等の、不当行為
4.最後の1人に成るまで武闘会は続き、会場に立ち続けた者が勝者とする事。
5.但し不当行為が発覚した場合は、その権利を取り消される事。
6.殺される覚悟の無い者は、この場で棄権を申し出る事。
7.立会人は〔不正等を監視する〕のが役目で有り、公平な立場を保つ事。
8.運営に関してはその場その場で対応を変えるので、その旨を心得て置く事。
9.その他、質問が有れば随時受け付ける。但し期限は、武闘会開始直前までとする。
「以上!何か、質問は有るか!」
説明を終えたガウルが、出席者に投げ掛ける。
特に名乗りを上げる者は無い、そう思われたが。
立会人の1人だろう、手を上げ。
発言の許可を求める。
それは、ヒィとサフィには見覚えの有る顔だった。
何故居るのか、ヒィには不思議だったが。
【彼女】は許可が下りると、スウッと立ち上がり。
運営側へ、こう問い掛ける。
「もし、〔イヌ族の長が隠遁を撤回〕した場合!武闘会自体はどうなるのか!お聞かせ願いたい!」