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受け入れられ、黄昏(たそがれ)て、目を付けられる

 あの一戦の後。

 ヒィは正式に、立会人として認められた。

 本来なら、凄まじい規模での治癒・復元魔法を見せたサフィも。

 立会人として相応しい、と成る所だが。

 獣人の中では、回復等の補助系よりも攻撃系に評価が集まる。

 ゴーラの中でも屈指の実力を誇るハチロクを、完膚なきまでに叩きのめした。

 恐縮しながら、ハチロクを伴って戻って来るヒィの謙虚さも。

 評価を上げる要因となった。

 紳士的な振る舞い、なのにバトルと成れば容赦無し。

 戦士として、これ程理想的な人物が。

 人間族に居るなんて。

『人間も侮れないものだ』と、皆に思わせる。

 滅多に自分より格上を設けない獣人なのだが、彼は別格だ。

 畏怖を持って、ヒィは迎えられた。




「お前の人を見る目は、どうやら正しかったらしいな。」


 一行の輪へ戻って来るなり、ラモーにそう告げるハチロク。

『まあな』と返事をするも、ラモーの関心はサフィへと向けられている。

 ハチロクも、獣人ならではの鎧を身に着けていた。

 盾と同じ、鱗が浮かび上がった特別製。

 簡単にぶった切れる代物では無い。

 しかしヒィは簡単にそれを削ぎ、結果としてハチロクの胴体へ火傷の跡を残す事となった。

 なのだが。

 鎧も、その下に着ていた服も。

 何故か、傷1つ無い状態へと戻っている。

 生き物に対する回復魔法は、良く見かけるが。

 ただの物質に過ぎない物までも、完全に直してしまう。

 逆にハチロクにはわざと、火傷の跡を残す程度の治療しか施していない様に感じる。

 こんな選択性の高い回復魔法が、有るのだろうか?

 それとも、回復とは違った魔法なのか?

 だとしたら、属性や原理は?

 疑問が尽きないラモー。

 それを見透かす様に、サフィが前を通り過ぎ。

 ボソッと言う。


「この世界の常識ではかっている内は、真理には程遠いわよ。」


「うっ……。」


 流石、ヒィ殿を見出した方だ。

 何もかもお見通しなのか。

 では立会人の件も、もしや……。

 結局、モヤモヤしたまま。

 サフィに付いては放置となった。




 ヒィはゴーラキャンプ地で、特別待遇を与えられた。

 立会人として相応しい扱いを受け、テントも専用の物が用意された。

 それは代々、強者と認められた者だけが使用を許される立派な奴。

 申し訳無く思いながらヒィは、ジーノと共にテントの中で腰を下ろす。

 使用出来るのはあくまで1人だが、大きさが3人分だった事と。

 ジーノは〔ヒィのお付き〕と認定された事で、2人で泊まれる様計らわれた。

 サフィは男連中と一緒なのを嫌い、ゴーラの女性キャンプに混ぜて貰った。

 応援に来ていた子供達の中では、人気は二分される。

 男の子はヒィ、女の子はサフィの下へ押し掛け。

 色々話を聞きたがる。

 ヒィは優しく接してやるが、サフィは逃げ回っていた。

 それでも、サフィを追い駆ける女の子達は嬉しそう。

『た、助けてぇ』と、情けない声を上げるサフィ。

 剣を取り出し、間近で男の子達に見せてやるヒィ。

 その間にジーノが、荷物の整理を。

 ここに、ヒィ達の一時拠点が出来上がった。




 その夜遅く。

 中々寝付けないヒィは、ジーノを起こさない様に。

 そっとテントの外へと抜け出す。

 するとその先に、サフィの影が。

 ボーッとしながら、膝を抱えて座っている。

 その姿が寂しそうに見えたので、思わず近寄り。

 声を掛ける。


「隣り、座って良いか?」


「ん。あんたか。別にぃ。」


「そうか。」


 ヒィは静かに、サフィの右隣へと座る。

 〔テトロンの足〕は、一帯が森林に覆われ。

 乾期と雨期がはっきりしている気候。

 今は丁度乾期のど真ん中で、カラカラに地面は乾いている。

 空も晴れ渡り、上空彼方にはキラキラした星々が。

 日中はやや暑いが、夜は涼しい風も吹く。

 それに当たろうとしていたのかも知れない。

 ヒィは暫く黙って、サフィの隣に座っていたが。

 顔付きがいつもの調子に戻ったのを見て、スッと立ち上がる。

『邪魔したな』と言うヒィの言葉に、『ホントね』と返すサフィ。

 去り際にポツリと、ヒィがサフィに漏らす。


「お前、俺に何をさせたいんだ?」


 サフィは何か重大な目的を持っていて、それに基づいて動いている。

 この所そう感じていたので、口に出したのだが。

 サフィは、こう答えるだけだった。


「今のあんたには、関係の無い事よ。〔今の〕にはね。」




 翌日、ヒィはコソッと。

 火の精霊に、昨日の戦いの解説を受けた。

 あの、剣の素早さの元。

 それは【第3の炎】。

 爆破する様に弾ける、黄色い揺らめき。

 剣の刃先からも刀身からも、それは出せる。

 爆発から得られる推進力で。

 剣の動きを加速させたり、急ブレーキを掛けたりする事が出来る。

 鍛錬によっては、剣の使用者の手足からも出す事が可能になるとか。

 その使い手は、この世界広しと言えどもほんの一握り。

 出くわす確率はとんでもなく低いので、弟子入りしようにも出来なく。

 黄色の炎が出せても、自己修練しか磨き上げる手は無いらしい。

 帰ったら特訓だなあ。

 そう考えるヒィへ、火の精霊が告げる。

 悪戯を仕掛ける様に。


「炎の種類は、【それ等だけじゃ無い】よ。また時期が来たら、別のを試してみようか。」




 前夜祭の前日と言う、ややこしい日。

 ヒィは関係者として、ラモーとキャンプ地を出る。

 勿論、武闘会の打ち合わせの為だ。

 会を仕切っているのは。

 中立性を保つ為、イヌ族以外の獣人族。

 今回は司会をウサギ族、運営全体をネコ族が執り行っている。

 フキの町から比較的近い位置に在る、ネコ族の町〔シャーオ〕からも。

 運営の手助けの為、かなりの人が駆り出されていた。

 その中には、ラモーとの顔馴染も居る。

 イヌとネコが睨み合い、喧嘩をするのは。

 獣の間での話。

 獣人には知恵が有るので、無意味な争いはしない。

 だからと言って、特段仲が良い訳でも無いのだが。

 パスを首から下げて、テトロンへ入るヒィとラモー。

 打ち合わせ会場へ向かう2人。

 目的地は、武闘会会場に隣接している。

 辿り着くには、砦から町へ入り反対側へと抜け。

 この為にわざわざ切り開いて形作られた、広い空間。

 直径300メートル程の円形構造物、これが闘技場。

 武闘会会場である。

 その傍にちょこんと据えられた、やや小ぶりのグラウンド状の広場。

 こちらが打ち合わせ会場兼、選手の控え場所。

 当日はここが一時期ごった返し、入念なウォーミングアップが行われる。

 睨み合いも起こるかも知れないが、集中している選手にはどうって事無いだろう。

 寧ろ威嚇している者程、心に余裕が無いとも言える。

 だからここに入る時から既に、戦いが始まっているのだ。

 他者との、そして己との。

 そんな話をヒィとラモーは交わしながら、町中を進んで行く。

 丁度砦との真反対に位置する、街道の入り口へと差し掛かった時。

 ラモーを見つけ手を振って来る、或る人影が見える。

 そこで2人を出迎えたのは、ラモーの知り合い。

 シャーオ出身の、本ネコ系ネコ族の娘だった。


「やっほー。久し振りー。」


「この前にも会ったろう?久し振りと言う程、開いて無いだろうが。」


「そうだっけ?」


 2人のやり取りからも、親密さがうかがえる。

 ラモーがヒィに紹介する。


「彼女は【アンビー】。好奇心旺盛の、とんだじゃじゃ馬だ。」


「何よー、その紹介文は。まっ、良いけど。」


 さばさばした性格に思える、その口調。

 サフィに近い物が有ると、ヒィは感じた。

 アンビーは気を取り直して、ヒィに握手を求める。


「君が立会人かい?大変だねー、巻き込まれちゃって。」


「いえ。こちらこそ、宜しくお願いします。」


 右手だけで握手するつもりだったのに、両手で包まれた。

 慌てて左手も差し出す。

 これも、好奇心の賜物なのだろう。

 ガラス球の様に、キラキラした目。

 良く見ると、瞳がやや青掛かっている。

 毛並みは短く、濃いグレー。

 耳も、頭の上にピョコンと立っている。

 やや横長な丸顔の中心に、可愛らしい小ささの鼻がちょこんと付いて。

 その両側に左右3本ずつ、顔の幅より長い白髭が生えている。

 顔の感じからして、猫種に例えると〔ロシアンブルー〕だろうか。

 身体はネコ特有のしなやかさが感じられる細身で、背丈はヒィと同じ位。

 手は指がやや長いが、手の平に有るプニプニの肉球が実にネコっぽい。

 服装は運営特有なのか、スーツに近いパリッとした物。

 色が黒系の青と、地味なのも相まって。

 普段着慣れない雰囲気が、じわじわと染み出ている。

『動きにくいのが難点よねー』とは、本人談。

 ラモーには前に年を聞いたが、その時『生まれてから25年程』と答えが返って来た。

 人間と獣人は微妙に年齢に関する考え方が違うので、一概には言えないが。

 人間に換算すると、25才辺り。

『女性に年を聞くのは失礼』と思ったヒィ。

 敢えて控えていたのだが、アンビーの方から教えてくれた。


「ラモーよりは若いわよ。人間で言うと……20才位?」


「そ、そうなんですか。」


「で?あなたは?」


「お、俺ですか?じゅ、16です……。」


 気兼ねして、妙に縮こまるヒィ。

『まあ!』と、感嘆の声を上げるアンビー。

『こんな少年が立会人を務めるなんて』、そう思ったに違いない。

 ヒィの気持ちを察してか、関心を逸らす様に。

 ラモーがアンビーへ尋ねる。


「案内してくれる為に、ここで待ってたんだろう?役目を果たさなくて良いのか?」


「おっと!そうだった!早くしないと怒られるぅ!」


 いつも叱られてばかりの様に、そう答えると。

『こっちよ』と、歩き出す。

 やれやれ、これからどうなる事やら。

 チラッチラッと後ろを振り返り、こちらをやたら気にする視線を。

 何とか意識しない様、心掛けながら。

 ヒィはラモーと共に、打ち合わせ会場へと向かうのだった。

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