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受付と、パスと、模擬戦と

 街道からテトロンへと繋がる入り口には、大きな砦の様な物が見える。

 仮設の砦なのだろう。

 丸太や木板がつるの様な紐で固定されていて、簡単にバラせそうだ。

 近付くにつれ、町中から聞こえて来る賑やかさが。

 派手さを増して来る。

 適当にがなり立て合っている訳でも無く、共鳴する様に。

 出店の宣伝をしているらしい。

 その方が、客を呼び込み易いのだろう。

 町内の宿は、基本的に多種族からの来客用で。

 参加者及びその関係者は、町の外でキャンプを張っているとの事。

 ただ受付だけは一度、入り口に在る砦の1階でしなければならない。

 その時にパスの様な札を受け取り、期間中はこれを首から下げる。

 パスが有る限り、自由に町を出入り出来る。

 これも、武闘会に限った処置。

 普段のテトロンの町には、その様な制度は無い。

 パスも武闘会の開催ごとに一新されるので人気が高く、パスコレクターも居る程。

 ユキマリは他の微ウサギ系と既に、一度入町にゅうちょうし受付を済ませているので。

 パスを首に掛けて、『じゃあ、挨拶回りが有るから』とここで一旦お別れ。


「立会人、ちゃんと務めてよね。それじゃあ。」


 ヒィの右肩を軽くポンと叩いて。

 ユキマリは砦を通り過ぎ、町へと駆けて行く。

 道中色々と話したので、2人はすっかり打ち解けていた。

 それ程ヒィが、この短期間で多彩な出来事に出くわしたと言う事だろう。

 さて、と。

 荷物をずっと持ってくれたジーノを、早く休ませたい。

 サフィは……まあ良いや。

 ユキマリがヒィの話に付きっ切りだったので、ポツンと孤立した感じで詰まらなそう。

 明後日が前夜祭、その翌日が武闘会本番。

 と言う事は。

 出場者のラモーを初めとするゴーラからの一行が、既に到着している筈。

 受付を済ませたら、早速合流しよう。

 ユキマリが抜けて少し寂しい雰囲気となっている3人は、足早に砦へと向かった。




「受付終了です。お疲れ様でした。パスをどうぞ。」


「ありがとうございます。」


 受付の女性に礼を言って、パスを受け取るヒィ達。

 今回のパスは、エルフの協賛により材質がガラス状。

 堅くて軽い透明の板に、何やら文字が書き込まれている。

 掌位の長方形、厚さは5ミリ程のそれは。

 意思を込めて板をギュッと押すと、登録者固有の立体映像が浮かび上がる優れ物。

 これで、偽造や成り済ましを防いでいるのだそうだ。

 どんな技能が使われているかは、エルフの特殊能力なので秘密。

 ちなみにこの世界のエルフは、〔【霧や雲に近い水】属性〕となっている。

 〔純粋な水属性〕の【レプラコーン】とは、若干精霊との係わり方が異なる。

 なので特殊能力も、『水を操る』と言った訳でも無く。

 それに見合った、微妙な形となっているのだ。

 受付嬢はテトロン出身の【中イヌ系イヌ族】で、小型犬のルックス。

 イヌらしい髪と耳鼻、尻尾が有るらしい。

 犬種は、例えるなら。

 茶と黒の毛並みが混ざった、〔ヨークシャー・テリア〕だろうか。

 パス製作担当は、エルフ族からの出張者。

 両者で分業して、受付業務をやっているとの事。

 ヒィ達は、首に下げたパスをマジマジと眺めながら。

 町の外に居る筈のラモー達を、ウロウロと探し始めた。




 ここで補足。

 獣人はその獣具合によって、3系統に分かれている。

 獣に近い、本系。

 人間との中間体に当たる、中系。

 そして獣の要素が薄い、微系。

 なので獣人の種族を語る時は、【●○○系○○族】と言う決まりになっている。

 尚この世界には、獣人とは別に。

 獣と人間の姿を自由に行き来出来る、【人獣=ワービースト】が居る。

 成れる獣毎に系統立っていて、【○○じゅう族】と呼称する。

 獣人とワービーストは、特に交友は無く。

 共通の敵と相対する事が有った時に、たまに共闘する程度。

 お互い、混同される事を嫌っているのだ。

 だから、武闘会に招待される事も稀。

 余程の強者で、武闘会の立会人をお願いされた時位。

 ちょっとややこしい関係で有る事を、心に留めて頂きたい。




「おお!間に合ったか。心配していたのだぞ。」


「お恥ずかしい限りです……。」


 ラモーとの再会にしょんぼりと、そう答えて誤魔化すヒィ。

『とっくに出発したらしい』と伝え聞いていたが。

 中々姿を見せないので、無事に到着するか少し不安だった様だ。

 そんな不安を和らげる目的、何て考えはサラサラ無く。

『ハッチャーーーン!』と勝手に付けたあだ名を叫びながら、サフィが抱き付く。

 前にヒィと握手した時には、我を忘れて大層手を傷付けてしまったので。

 無理に引き剥がす事も出来ず、ふっさりとした毛並みの腕でサフィの頭を押し留めるだけ。

『済みません!済みません!』と謝りながら、サフィの背中をグイッと掴み。

 後方へ投げ飛ばすヒィ。

 ゴロゴロゴロ、ドッスーーン!

 誰かのテントにぶつかると、そのままへたり込むサフィ。

『ううっ、ううっ』とうめいているが、嘘泣きかどうかは不明。

 しょうがねえなあ。

 オラが何とかしてやるよ。

 ヒィにそう告げると、『ここだと邪魔になるだろ』と。

 ジーノがズルズルと、サフィを引き摺って行く。

 そして近くに在った大木の木陰に、サフィを寝かせると。

 ヒィの元へと、トコトコ戻って来る。

 改めてヒィとジーノは、ラモーとの再会を喜ぶ。

 ラモーは、ゴーラから。

 150人程の応援団を引き連れて、テトロンへとやって来た。

 そして砦から数百メートル程離れた森【テトロンの足】に、キャンプ地を構え。

 戦う準備を整えていた。

 キャンプ地争奪から既に、前哨戦となっている。

 との話。

 くっ付いて来た応援団の子供達が、そう言っていた。

 砦に近ければ近い程、勝ち上がる確率が高くなるとか。

 どうやらげん担ぎのたぐいらしい。

 しかし応援団は皆、ラモーの優勝を確信している様だ。

 自身に満ち溢れている。

 なので活気も有り賑やかで、その明るさがラモーの助けとなっていた。

 リラックスして、戦いに臨める。

『有り難き事』、ラモーはそう感謝していた。

『そうそう、応援団長を紹介せねばな』と、ラモーが或るテントへと案内する。

 サフィはまだグズグズ言っているので、ヒィがぶる事になった。

 何て面倒臭い女なんだ……。

 そう思わずには居られないヒィ。

 逆に、『荷物を漸く下ろす事が出来る』と。

 ジーノは元気に歩いている。

 ラモーが出迎えてくれた場所から進む事、数分。

 大きな〔八角柱+八角すい〕状のテントに行き着いた。

 結構立派な代物で、丈夫そうな生地が使われている。

 何かの皮だろうか、パンパンに張ったそれは。

 地中に刺さった、8本の鉄の柱で固定され。

 鉄柱で形成された八角形の空き地の、その又中心におっ立っている太い木の柱へと結ばれている。

 木柱の先が頂点を形作り、荘厳な雰囲気を周りに示している。

『ここが本陣だ』と言わんばかりに。

 なので、遠くからも分かり易い。

 獣人は何かにつけて、力を誇示したがる習性が有るらしい。

 獣色けものしょくが強い事の表しだろう。

『こればかりは、どうにも……』と呟きながら、テントの入り口をくぐるラモー。

 そして中で座っている、一番偉そうな獣人に向かって話し掛ける。


「立会人御一行、無事到着されたぞ。」


「おお!そなた等が、ラモーの認めし者か!」


 床に万遍無く敷き詰められた、フサフサの白茶まだら模様の絨毯に。

 胡坐あぐらを掻いて座っていた、薄茶色い毛並みの大男が。

 むくりと立ち上がると、ヒィ達の前までやって来てお辞儀をする。


「この度は、世話になるな。俺は応援団長の【ハチロク】だ。」


「どうも。俺達は……。」


 ヒィが自己紹介を始めようとした時。

 それを遮る様に。

 背中から飛んで来る、キーンとした甲高い声が。




「あっ!〔秋田犬〕だ!可愛いーーー!」




 モフらせてーーーーーーっ!

 ヒィの背から、思い切り手を伸ばすサフィ。

 困惑するハチスケ。

『またかーっ』と顔を曇らせるジーノ。

 思わずヒィは、背中からサフィをブンッと振り落とす。


「何を御所望か分からんが!お好きにどうぞっ!」


「ぎゃんっ!」


 ドシャアッ!

 崩れる様に、ハチロクの目の前に倒れ込むサフィ。

 しかし顔を上げて、『モフモフーッ、モフモフーッ』と懇願する様に叫びながら。

 手足をバタバタさせて、もがくサフィ。

 ご覧の通り、この世界には〔モフモフ〕に相当する表現は無い。

 外見とは裏腹な、アホの子の姿に。

 呆気に取られるハチロク。

『分かる、分かるぞ』とうんうん頷きながら、ハチロクの左肩に手を置いて。

 ラモーが言う。


「彼女はこう言う方なのだ、察してやれ。」


「そうか……。」


 ハチロクも、『残念な子』と言う印象を受けた様だ。

 ラモーは続ける。


「この小さきドワーフは、彼の仲間だ。そして彼こそ、素晴らしい剣げきの使い手なのだ。」


「ほう……そう言えば、珍しい形の剣を背負っているな。」


 サフィを負ぶった時は、なるべく刃に当たらない様ヒィも気を遣っていた。

 切れ味が無いと分かっていても。

 ヒィの背中に回り込み、じっくりと眺めるハチロク。

 ヒィの正面へと戻ると、或る要求をする。


「俺はこいつ、ラモーと剣を競い合った仲でな。今回はこいつに譲ったが、剣の腕には自信が有る。そこで一度、剣を交えさせて貰いたい。」


 こいつが推挙する程の力の持ち主なら、是非肌で感じてみたいものだ。

 立会人として相応しいか、この目で確かめたい。

 ラモーを信用していない訳では無いのだが、俺の心が望んでいる。

 そう思ったらしい。

 しかしそれに『待った』を掛ける者が。

 それは、意外にも。

 さっきまでポンコツ具合を思い切り発揮していた、サフィだった。

 彼女はスックと立ち上がり、真顔でハチロクに詰め寄ると。

 低いトーンでゆっくりと、こう忠告する。




「興味本位なら、止めときなさい。文字通り、『火傷する』わよ。」




 余りに凍り付いた目で、表情を変える事無く言い切るので。

 迷いが生じるハチロク。

 この娘、本当にさっきのポンコツと同一人物か?

 迫力が違う……!

 生半可な覚悟で、挑んではいけない気がするが。

 こちらも真偽を確かめない事には、立会人として認める訳には行かない。

 その旨を正直に話し、ハチロクはもう一度ヒィへ願い出る。

 特に断る理由も無いヒィ。

『がっかりさせはしないだろうか』と言う不安は有ったが。

 サフィも『そこまで言うなら』と、ヒィに任せる事に。

 ジーノは、不謹慎ながらワクワクしていた。

 兄貴が獣人とやりあったら、どうなるのか。

 オラも、見てみたい。

 ラモーは心配そうに、ハチロクへ言う。


「……分かった。でも、手加減するなよ?客人にも失礼だ。」


「心得た。では、外へ出ようか。」


 そう言いながら、ハチロクと。

 ラモーが、先に外へ出る。

 ジーノも喜んで、テントを出て行く。

 ヒィとサフィも、テントから離れる。

 その時コソッと、サフィがヒィにアドバイス。

 それは。




「剣に宿る、火の精霊を信じなさい。そうすれば彼も、応えてくれるから。けどくれぐれも、やり過ぎちゃあ駄目よ?」

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