旅の供、追加!
「め……がみ?あなたが?」
不思議そうなユキマリ。
『そうよ!』と自慢気に胸を張るが。
サフィの格好からは、想像出来無い。
何せ衣服は、長袖白Yシャツに漆黒ミニスカート。
最近手に入れたらしい、水玉模様の黄緑地ネクタイを首から下げ。
羽織っている半袖ジャケットは、濃紺と白のストライプ柄。
履いている靴は、ややヒールの高い鮮やかな黒艶。
〔神〕と言う者の殆どは、自分の持っている力をパッと見で分かる様に。
それぞれの属性を表す色で、艶やかに着飾っている。
『崇め奉られる対象』として、信仰者に直ぐ認知して貰わなければ。
他の神に示しが付かない。
結構、自尊心が高いのだ。
対して、〔女神〕を自称するサフィのファッションは。
複数の色が混在して、どの属性かはっきりしない。
要するに、統一性が無い。
だから皆、急にそんな事を主張されても判断に困るのだ。
疑惑の目を向けられても、仕方の無い格好。
首をかしげるユキマリに、サフィははっきりと言い切る。
「あたしはオシャレ重視なの。他の神共と、一緒くたにして貰いたくは無いわね。」
「ふ、ふうん。」
分かった風な生返事をするユキマリ。
尚もサフィは主張する。
「乙女なら、自分を綺麗に見せるのに全力投球よ。当然でしょ?」
神々の確執なんて、どうでも良い。
自分の美には、何の係わりも無い。
好き勝手に振る舞い、好き勝手に何処へでも行く。
そんな何物にも縛られない姿勢に、ユキマリも魅了されて行く。
何だかんだで、美に対するこだわりに関して。
近しい物が有るのだろう、最終的には意気投合。
ガシッと両者は、堅い握手。
うむっ。
満足そうな、サフィとユキマリ。
逆に呆れるのは、ヒィ。
どうも女と言う者は、良く分からん。
女性との付き合いの経験が、浅いからだろうか?
いや、そうとも思えない。
ヒィは人間の中では、モテる方。
旅団の一員として寄った町のあちこちで、女性から声を掛けられ。
『少しお話しませんか』だけで済んだケースも有れば。
『あたしのモノになりなさい』と迫られたケースもある。
それで女性に対し、過敏になっているのかも知れない。
まあサフィに付いては、第一印象が染み付く前にぶっ壊され。
完全に恋愛対象から外れたが。
ヒィの好みは、おっとりとした女性。
母の様に温かく包み込んでくれる、包容力の高い人。
旅団として長年生活していたので、純粋な愛に飢えていたのかも。
と、過去を振り返った事も有るが。
『それも違う』と、フキの町の暮らしで思う様になった。
ネロウとブレアの仲睦まじさを、間近で見ていて。
考えを変えていた。
2人の関係を見ても、羨ましくない。
寧ろ微笑ましい。
だから、自分が欲する女性は自分から探しはしまい。
その内、目の前に現れてくれれば良いや。
周りに振り回されず、焦らずのんびり。
構える事にした。
その考えが、逆に女性の気持ちを読み解く事を。
鈍らせている事にヒィは、何時気付くのだろうか?
「そうそう、それでねー。」
「うんうん。」
清めの池を後にし、一路テトロンへと向かうヒィ達。
人の背丈の2~3倍の高さ、入り乱れる木々で構成された森。
その中を突っ切る様に、サラサラと音を立てながら。
池から流れ出る水で形作られている、片手を広げた程度の幅の小川。
それに沿う形で、馬車1つ分の幅のC級街道が走っている。
滝とは真反対の方向に伸びる、緩やかにうねった街道には。
池へと向かう人影は見られないので、すれ違いに苦労する事は無さそうだ。
サフィとユキマリは歩きながらずっと、ファッションに付いて語り合っている。
池を離れるのは、荷物持ちのジーノが動ける様になってからだった。
水分が抜け、泥も払われたので。
ヒィが支える必要も無くなり、ジーノ1人で担いでいる。
隊列は前から、サフィとユキマリ。
『よっこらしょ』と言いながら歩くジーノ。
後方は、辺りを警戒する様にヒィが務める。
鼻歌交じりで進むサフィに、また怒鳴られそうだが。
警戒は、するに越した事は無い。
それにサフィは、ユキマリと話し中。
お姫様キャラを演じ続けている。
ヒィに怒声が飛んで来る事は無いだろう。
後ろをチラリと見ながら、ジーノがヒィへ話し掛ける。
「なあ、兄貴。」
「何だい?」
「あのゲートの集まりって、何処だったんだろうな?」
「さあ?あいつに聞いてくれよ。」
顎でクイと、サフィの方を指すヒィ。
ユキマリとの話に夢中で、仕草に気付いていないらしい。
ジーノは続ける。
「後さあ。ゲートを使う事、無かったんじゃねえかなあ?」
「お前もそう思うか?思うよなあ。」
テトロンの近くまでは、ゲートで来た。
でもそのゲートを通る為に、ソイレンを訪れたのは。
サフィの行使した、不思議な力に因る。
〔瞬間移動〕の一言で片付けられてしまったが。
だったらテトロンにも、それで行けば良いじゃないか。
ゲートを通るなんて二度手間みたいな行為を、わざわざ取る必要は無い。
2人共そこに何か、引っ掛かる物を感じたのだ。
ヒィとジーノの話している姿が、目に映ったのか。
ユキマリが視線を後ろへと送る。
サフィはそれで漸く、ヒィ達の話し声に気付く。
「何?何を話してるの?」
除け者はやぁよ。
そう言いた気に。
『言ってやれ』とヒィは、ジーノに目配せする。
『しょうが無いなあ』と、駄目元でジーノがサフィに尋ねる。
「ゲートだらけのあそこ、この世界の何処なんだ?」
「ああ、【ヘヴンズ】の事ね。あそこはねぇ……。」
思わせ振りに、間を溜めるサフィ。
でも口から出て来たのは、物騒な単語だった。
「差し詰め、【墓標】かしら。」
「墓……お、お墓って事!?」
びっくりするジーノ。
ヒィは、『あのボロボロになった様を表した、単なる例えだ』と思った。
本気で墓だとは考えない。
〔ゲート〕と言う単語が気になり、今度はユキマリがサフィに尋ねる。
「そう言えばあなた達、滝の裏側から来たみたいね。そこに〔ゲートとやら〕が在るの?」
伝説でしか、聞いた事が無い。
神々の通り道、その先に扉在り。
そんな、一族に伝わる昔話。
獣人要素の少ない〔微ウサギ系〕を。
本家と謳う〔本ウサギ系〕から、或る神様が救って下さった時。
それを使って、逸早く駆け付けたと言う。
そんな他愛も無い話。
心の片隅に残る程度の興味しか無かったので、それ位の記憶だけ。
実在するの?
目を見開いて聞いて来るので、サフィも気圧されて。
『むふーっ』とした顔付きのユキマリに、静かに告げる。
「あんたが描く理想像からは程遠いわよ、あれは。申し訳無いけど。ねぇ?」
ジーノに同意を求めるサフィ。
『確かに、苔みたいなのが生えてたしなあ』と、少し空を見上げながら。
滝の裏側に在ったゲートを思い出すジーノ。
ヒィはジーノとは違う様だ。
何せ。
「お前。俺に、あれ等を直させようとしてるだろ?全部直ったら、綺麗に並ぶんじゃないのか?荘厳な風景に変わると思うんだが。」
墓場扱いは可哀想だ。
でないと俺も、やる気を出さないぞ?
ヒィはそう訴える。
しかし、ゲートに対して思い入れがこれっぽっちも無い素振りの。
ユキマリの方を指しながら。
トーンを落として、サフィが言う。
「墓標は墓標よ。〔時」と、〔想い出〕のね。」
さあ!
もうこんな、湿っぽい話はおしまい!
暗くなる前に、簡易宿場へ着かないと!
ドンッドン、街道を進むわよ!
おーっ!
柵を振り払うかの様に、勝鬨の声を上げ。
前を向く、サフィ。
大きく手を振って、歩いて行く。
『はいはい、分かったよ』と、ジーノも足を速める。
ユキマリは気付き、ヒィは敢えて無視した。
サフィの言葉の中に感じ取った、一抹の不安と。
どうしようも無い、寂しさを。