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スッスッスッとは行かないもので

「さあさあ、早く!2人共そこへ、並ぶ並ぶー!」


「な、何だよ。強引だなあ……。」


「兄貴。強引なのは、前からだと思うぜ。」


 いきなり屋敷の中庭で、旅立ちの号令を上げたと思えば。

 今度は強制的に、ヒィとジーノを並ばせるサフィ。

 殺風景だった中庭に、彩りを添えようと。

 ヒィは何本か、木を植えていた。

 観賞用か、食用か。

『育ってみてのお楽しみ』とは、店の主人の言葉。

 フキの町には、木の苗を扱う店も在り。

 結構繁盛しているらしい。

 何でも店の売りは、『珍しい・育ちが早い・種類不明』。

 つまり、滅多にお目に掛かれない代物を扱っているが。

 花や実がどの様な物か、育ててみないと主人にも分からないらしい。

 正に、ロシアンルーレットの要素満載。

 苗を選んだのは、当然サフィ。

 こいつの気まぐれにも困ったもんだ。

 そう言いつつも、ヒィも大きくなるのを楽しみにしていた。

 それ等を踏み付けない様に、ヒィとジーノは中庭のど真ん中へと立たされる。

 ジーノは、戸惑いながらサフィに尋ねる。


「オラまだ未熟者で、精霊の力が上手く使えないからさあ。自由に穴なんて開けられないぞ?」


「あんたの力なんて当てにして無いわよ、最初から。」


「じゃあ何で、ここに整列を?」


 中庭に連れて来られたので、ジーノはてっきり。

『ヒィを迎えに来た、ナンベエの様な事をさせられる』と思っていた。

 不思議がるジーノ。

 一方ヒィは、嫌な予感がしながらも。

 サフィに文句を言う。


「これで良いだろ!一体、今から何を……。」


 そう言い掛ける、ヒィの後ろへと回り込むと。

 ヒィとジーノの目を手で隠して、サフィが言う。

 無邪気にじゃれ合っている、子供の様に。


「ここ、どーこだ?」


「中庭に決まってるじゃないか!ふざけた事をやってる暇が有るなら、とっとと出発を……。」


 視界を遮るサフィの手を、顔から振り解こうとするヒィ。

 その前にサフィの方から、揶揄からかう様な言葉を発しながら目隠しを外す。




「はーずれー。良ーく見てみなさい。ほぉら。」




「え?え?」


 言葉に詰まるジーノ。

 ヒィも、声が出ない。

 一瞬空気が少し冷たく感じたから、何か変だと思ったんだ。

 でも流石に、これは……!

 そう。

 2人の目の前には、あの黒い板が鎮座している。

 サフィに目を隠され、外されるまで。

 殆ど時間は経過していない。

 なのに、ここは紛れも無く。

 ソイレンの町。

 そこに現れた、黒板のゲート。

 その真ん前だった。

 周りを見渡すと、彼等の姿を見つけたドワーフ達が固まっている。

 何の前触れも無く、急に現れた。

 ドワーフ達の目には、そう映ったらしい。

 わなわなと手足が震えている。

 得体の知れない者に、出会い頭に遭遇した感じ。

 思考が停止している。

 それでも、何かを言わないと。

 質問の様な、問い掛けの様な。

 言葉が、何処からか聞こえて来る。


「ど、どうやって?ここに?」


「何言ってんの。あたしの力に決まってんでしょ?女神なんだから。」


 そんなサフィの返事で、満足する訳が無い。

 頭の中が疑問符だらけのドワーフ達に代わり、ヒィが。

 サフィの両肩をガシッと掴み、ジロッと正面から顔を見据え。

 低い声でゆっくりと、問いを投げ掛ける。


「何をした?」


「瞬間移動よ。それが?」


「な・に・を・し・た?」


 あっけらかんと答えるサフィの返事に、尚も満足せず。

 問い直すヒィ。

 そんな単語で、納得出来る筈が無い。

 呆れた顔で、サフィが言う。


「何よ、現実逃避?やぁねぇ。素直に、ありのままを受け入れなさいよ。」


「そんな簡単に行くか!見てみろ、周りを!怖がってるじゃないか!」


 確かに、こちらを見ているドワーフ達は。

 漏れ無く、顔が青ざめている。

 余りの事に、顔を両手で挟みながら悲鳴を上げる者も。

 騒ぎを聞き付けたのか、モンジェのお付き2人がやって来る。


「何事か……って。何だ、あんた達か。」


 突然出現した事を、まだ知らないので。

 拍子抜けした格好のお付き達。

 彼等にしがみ付き、まだ震えが止まらないドワーフが。

 状況を語る。


「儂等が歩いていたら、この者達がポッと現れたんじゃ!本当なんじゃ!」


 他のドワーフ達も、必死にうんうん頷いている。

『どうしたものか……』と、顔を見合わせながらお付き達が悩む。

 その間にも、サフィがヒィへ指示を。


「とっととゲートを開いてよ!早く!」


「いや、だから!ちゃんと説明をだな……!」


 揉める、ヒィとサフィ。

 未だに信じられないジーノ。

 まごついている、ギャラリーのドワーフ達。

 そこへ、事態を収拾出来る者が。

 漸く、駆け付ける。




「困ったお方だ。少しは控えて貰いたいものよのう。」




「モンジェ様!」


 救いを求める様なトーンで、名前を呼ぶドワーフ達。

 モンジェは彼等の不安を取り除く様に、こう告げる。


「シーフやエルフに負けず劣らずの悪戯好きなのじゃ、このお方は。一々びっくりするでない。」


「で、でも……。」


 ギャラリーはまだ、納得出来ない。

 しかし説き伏せる様に、モンジェは続ける。


「彼女はそう言うお方なのじゃ。皆も心得よ。この場に居ない者にも、その様に申し伝えよ。良いな?」


「は、はい!」


 ここまで言われて、やっとドワーフ達は動き出す。

 一方で、渋々命に従うヒィの傍で。

 現場監督の様に指図している、サフィの下へ歩み寄り。

 モンジェはボソリと。


『余り町を騒がしくする事は、お控え頂きたい。』


『ご、ごめーん。そんなつもりじゃ無かったんだけどねー。』


 パンッと拝む様に掌を合わせ、謝罪のお辞儀をしながら。

 反省の弁を述べるサフィ。

 前にもこの黒板の件で、突然現れた事が有ったので。

 モンジェには耐性が有ったのだ。

 しかしそれは、モンジェの屋敷内での出来事。

 その瞬間に立ち会ったドワーフは、町中には居る筈が無い。

 びっくりするのも当然だった。

 モンジェも、サフィが『女神だ』とは思っていない。

 もっと別の、この世界とは異質の者。

 そう考えていた。

 だからこそ、言うのだ。

 やたらと騒がせないで欲しい、と。

 平穏を乱す様な事は慎んで欲しい、と。

 でなければ何時か、この世界が牙を向く。

 そうなると、儂等もお味方出来ませんぞ。

 暗にそう伝えている。

 しかし、サフィの表情を見て。

 モンジェは安心する。

 この騒がしい事態は、彼女にとって。

 本当に不本意だった。

 顔にそう表れていたからだ。

 だからこそ、さっさとヒィにゲートを開かせ。

 直ぐに姿を消すつもりだった。

 ヒィが予想外にごねたので、こんな大事おおごとになってしまっただけ。

 ヒィには、サフィの真意が伝わらなかったが。

 ブツブツ言いながら、黒金属板の中央に通る縦線をなぞり。

 中央に右手のひらを付けると。


「開けっ!」


 そう叫ぶヒィ。

 すると、前の時の様に。

 パアアッと虹色の光が漏れ出し、板が真ん中から割れる。

 そして、中に。

 爽やかな風に揺れる芝生らしき草が、一面に広がっているのが見える。

『さあさあ、入った入った』と、背中から促し。

 サフィが、ヒィとジーノを押し込めようとする。

 ゲート内に入る直前、サフィはモンジェの方を向いて。

 ほんっとに、ごめんね。

 そう、ポツリと漏らし。

 ゲートの中へと姿を消した。

 そして3人が入った途端、スーッと両側から黒金属板がスライドし。

 ピタッとくっ付くと、元通りの一枚板へと戻る。

 それを見届けると、ペコリと板へ向けお辞儀をし。

 モンジェはお付き達を連れ、屋敷へと戻って行った。




「あんたがさっさとゲートを開かないから!変な迷惑を掛けちゃったじゃないの!」


 何故か、ヒィに八つ当たりするサフィ。

 しかしその時のヒィには、サフィの言葉は届いていなかった。

 目の前に有る景色、その状況を把握する事で必死。

 同じく、ジーノも。

 何とか理解しようと、頭をフル回転。

 それでも結局、サフィの解説待ちと成る。

 2人の理解の範疇を、遥かに越えていた。

 ヒィ達がゲートを潜り抜け、到着した先とは……?

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