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正式契約

 空き部屋が多いので、その日はヒィの屋敷で1泊したラモー。

 次の日の朝も、3人と朝食を同席。

 その時の会話。

 サフィが、ラモーへ向けて。


「そういやあんた、〔シベリアンハスキー〕に似てるわね。『ハッチャン』って呼んで良い?」


「シベ……何と?」


「だーかーらー。『ハッチャン』で良いわよね?」


「いやちょっと、それは……。」


 困惑するラモー。

 反論するヒィ。


「駄目駄目駄目!お前はいつも、唐突に変な事を言い出すなあ。大体、その『シベ何とか』って何だよ?」


「えーーっ、可愛いと思うけどなあ。」


 猛烈に否定され、プクーッと頬を膨らませながら。

『はあーっ』と大きくため息を付き、残念がるサフィ。

 この世界にも犬は居るが、詳細な犬種までの指定は無く。

 曖昧な表現に留まっている。

黒子犬くろこいぬ』とか、『大茶犬おおちゃいぬ』とか。

 だからサフィの発言は、ヒィ達の想像力の外側なのだ。

 何処から得た知識だ?

 そんな事を考えるのは、労力の無駄。

 ヒィもジーノも、そう思い始めているので。

 この話題は軽く流される。

 それよりも。




「報酬の件、分かってるわよね?」


 ラモーにそう切り出すサフィ。

 頷くラモー。


「心得ている。武闘会が終われば、相応の額を支払おう。」


「じゃあこれ、契約書ね。ちゃんと内容を読んで、オッケーならここにサインして。」


「了解した。何々……?」


 サフィから差し出された紙を、ジッと眺めるラモー。

 そう、ここは〔何でも屋〕。

 何でも引き受けるが、ボランティアとは違う。

 無償で引き受ける程、サフィはお人好しでは無い。

 アーシェの件でも、ちゃっかりロイエンスから報酬を貰っていた。

 ソイレンの町の件は、まだ看板を掲げる前なので。

 ただ働き。

 それでもこれからの活動の、良い宣伝になった。

 サフィはそう考えている。

 くっ付いて来たジーノは、一応或る程度のお金を持参していたが。

『使えないから』と、受け取らなかった。

 代わりに鍛冶屋で得た賃金の中から、家賃として幾らか頂く。

 そんなシステムとなっていた。

 紙に書かれている文章を一通り読んで、ラモーがサフィへ質問する。


「この『報酬は現物では無く、【マール】で支払う事』とは?」


「そのまんまよ。あんた達の通貨は、ここでは使えないもの。かと言って、食べ物とかを持って来られてもねえ。」


「なるほど、承知。」


 ラモーは契約書の内容に同意し、サインする。

 満足気にそれを受け取ると。

 サフィが笑顔で、この場に居る全員へ向かって言う。


「契約成立!さあ、張り切って行くわよ!」


 おーっ!

 お決まりの勝鬨かちどき上げ。

 ヒィには最早、新鮮味が無い。

 逆に気が萎える。

 無理やりサフィから同意を求められ、ジーノは仕方無く『おーっ』と小声で。

 ようやく何でも屋が、本格的に活動を開始した。




 ここで補足。

 この世界には、コミュや種族ごとの【地域通貨】と。

 人間があちこちで商売するのに都合が良い様、各地へ流通させた【統一通貨】が有る。

 統一通貨の単位が、契約書で出て来た『マール』。

 因みにソイレンでは〔ドン〕、ゴーラでは〔ゲルド〕。

 人間コミュでは〔マール〕しか通じず、他の通貨は両替商で交換する事となる。

 町に在る店でも買い物は通貨払いで、物々交換は行商人同士がやる手法。

 ジーノの持つお金を受け取らなかったのは、こんな背景が有ったのだ。

 商売を発展させる為、人間が編み出した知恵。

 それに世界全体が乗っかった形。

 種族の中には、『面倒なシステム』と考える者も居る。

 それは、『自分達が世界を管理している』と自負している神々。

 そして、『欲しい物は対価を払わず強奪すれば良い』と言う思考の悪魔。

 彼等は人間が作り出した経済形態に従わず、距離を置いている。

 物欲と金儲け欲とは、別なのだ。




 話を戻そう。

 ラモーによると、武闘会が行われるのは。

 現在の長が住まう町【テトロン】。

 そのコミュの獣人度合いはゴーラ程、ケモノケモノしてはいなく。

 体毛も程々、体型も〔イヌと人間の中間〕。

 2足歩行だが、足の形は犬のそれで。

 腕は人のそれだが指は短く、手のひらには肉球が有る。

 顔付きは人に近いが、耳は頭の横では無く上にピョコンと。

 人間と犬の〔ハイブリッド〕と言った方が良いか。

 或る程度高い身体能力と、或る程度高い思考能力を兼ね備えた存在。

 だからこそ、前の武闘会で勝ち残ったとも言える。

 今回もテトロンからの代表が、優勝候補らしい。

 それに一矢報いるべく、ラモーは修業を重ねて来た。

『自分の腕を試したい』と言う戦闘願望の方が、『自分が一番だと証明したい』と言う承認欲求よりも強い。

 長として自分が相応しいかどうかは二の次だ。

 本人はそう言う。

 そして武闘会の日程は。

 今日から7日後に、エントリー受付開始。

 10日間の募集期間の後、前夜祭が行われ。

 次の日いよいよ、バトルロイヤルがスタート。

 あっさり決着が付く事も有れば、何日も掛かる持久戦となる事も有るらしい。

 要は、始まってみないと分からない。

 だからそれに耐え得る様、周到に準備して向かって頂きたい。

 私はこれから、直接会場へと向かう。

 後日、また会おう。

 そう言って、ラモーはフキの町を後にした。




 残されたヒィ達。

 これからどうするかを話し合う。

 ヒィは父から受け継いだ、この世界の地図を客間のテーブルに広げる。

 テトロンの町は、ここからかなり離れている。

 獣人の足でも10日は掛かる。

 しかも街道は、舗装などされていない凸凹道。

 馬車を使っても、結構な日数を取られるだろう。

 前夜祭にすら、間に合うかどうか……。

 雲行きが怪しくなり、ジーノは焦り出す。


「どうすんだい、兄貴ー。オラ達、間に合わねえかも知れねえぞ。」


「そうなんだよなあ。」


 ヒィは落ち着きを払いながら、サフィの方を見る。

 こいつは、こうなる事を知っていたかの様だ。

 だったらホイホイと、安請け合いしない。

 何か策を持っている筈。

 ……で、あって欲しい。

 ヒィには1つ、〔心当たり〕が有った。

 でもあれは、そう上手く行く代物とは考えにくい。

 まさかなぁ……。

 期待と欺瞞の目で、サフィを見つめる。

 ひしひしと、期待感を味わうサフィ。

 ああ!

 あたし今、輝いてるわぁ!

 アホの子の事だ、そんな風に思っているのだろう。

 ジーノが目で催促する。

 案が有るなら、早く言ってくれよ。

 こちとら旅の準備で、方々駆け回らないといけないんだからさあ。

 じれったいなあ。

 ジーノは思わず、声に出していたらしい。

 ヒィもそれに相乗りする。


「何か腹案が有るんだろ?さっさと言ってくれ。でないと、このまま置いて行くぞ?」


 こんな面白そうな話に、取り残されたくは無いだろう?

 ヒィはそう言いた気に、声を張る。

『はいはい、分かったわよ』と、焦らすのに飽きたサフィは。

 ニヤリとしながら、案を提示する。

 それはやはり、ヒィの心当たりの通りだった。




「記念すべき、第1回目!〔ゲートを使って行く〕のよ、当然ね!」

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