表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/1285

新しい依頼(2件目)

 アーシェがカッシード公国へ帰ってから、数日後。

 ヒィの屋敷の前にドスンと置かれている、『何でも屋!』の看板をジッと見る者が。

 それは、普通の人間では無く……。




「おう!オラ達に何か用かい?」


 鍛冶屋からの仕事帰り。

 ほほに真っ黒なすすを付けたジーノが、陽気に声を掛ける。

 共に茶と緑の迷彩塗装の様な柄が施されている、フードを被りマントを羽織って。

 正体が知られぬ様気を付けている風にも思える、その恰好は。

 明らかに不審人物。

 看板をマジマジと眺めているのも、何か怪しい。

 ヒィはまだ、町中まちなかの巡回から戻っていない様子。

 サフィが居れば勢い良く飛び出して来そうなのに、屋敷内から反応無し。

 誰も居ないのか……。

 じゃあここはオラが、しっかり応対しないと。

 気を引き締めるジーノ。

 明るく振る舞っているのは、自分を鼓舞する為わざと。

 一応ドワーフなので力は強いが、立ち回りはまだまだ。

 戦士としては未熟者。

 相手は屈強そうな体付き、マントの中に包まれていても雰囲気で分かる。

 背も高く、2メートル近く有りそうだ。

 シルエットだけでも、圧倒されるジーノ。

 なのでこちらも出来るだけ姿を大きく見せ、『負けないぞ!』と言う意思を示す。

 戦いへと持ち込ませない為に。

『ふふっ』と鼻で笑われた様な気がするが、関係無い。

 2メートル程間合いを取りながら、気丈に振る舞うジーノ。


「用が無いなら帰ってくれ。オラ達も暇じゃ無いんでな。」


 語気を強めると。

『これは失礼した』と、ジーノの方を振り返る。

 すると。

 顔まですっぽりと隠している。

 つもりなのだろう。

 フードから顔面へと垂れ下がった布が、前へ突き出ている。

 大人の拳1つ半と言った所か。

 膨らんだ布の先が、フゴフゴ動いているので。

 こいつはもしかして……。

 勘繰るジーノ。

 怪しげな者は、話をこう切り出す。


「お主は、ここの主人では無いのか?」


「お、おう。兄貴なら、もう直ぐ戻って来る筈だぜ。」


 意外に礼儀正しい物腰だったので、思わず答えてしまうジーノ。

 その者は、尚も続ける。


「主人に頼みたい事が有って来たのだ。看板通り、『何でも屋』なのだろう?」


「い、一応は……。」


『兄貴は認めてないけどな』と、ボソッと付け加えるジーノ。

 相手には聞こえなかったらしい。

 どうしようか?

 兄貴の居ない時に、勝手に入れるのもなあ……。

 うーん、うーん。

 悩み出すジーノ。

 そこへ。




「なーに?お客さん?」




「あ!」


 思わず声を上げるジーノ。

 タイミング悪く?サフィが戻って来た。

 そして、ジーノが相手をしている者の格好を。

 あちこちのアングルから、舐め回す様に見つめる。

 んーーーーー?

 ん!


「おいおい!失礼な態度を取るなよ!」


 サフィを叱る様に、ジーノが言う。

 彼の者も、戸惑っているらしい。

 思わずサフィに話し掛ける。


「私はここの主人に、依頼事を……。」


 〔依頼〕と言う単語に。

 大喜びで反応するサフィ。

『バンバン』と彼の者の胸元を叩き、屋敷の中へと誘う。


「依頼!依頼人なの!だったら、遠慮無く言って頂戴!内容を詳しく聞かせて貰おうじゃないの!」


「あ、ああ。」


 サフィの気さく過ぎる態度に面食らいながらも。

 依頼人らしき者は、彼女の後に続き屋敷内へと入る。


「お、おい!勝手にそんな事してー!兄貴に怒られても知らねえぞ!」


 慌ててジーノも中へ。

 取り敢えず客間へと、3人は向かった。




「もう布を取って良いわよ、【獣人】さん。」


 客間の、入り口に近い席へ座った依頼人へ。

 そう声を掛けるサフィ。

 驚きながらも、眼前の布と共にフードを脱ぐ。

 すると、頭はフサフサ。

 イヌの様な耳がひょこっと突き出ている。

 顔はほぼオオカミっぽいが、少し違う様だ。

 グレー掛かった毛並み、突き出ていたのは鼻。

 その両側からツンと生えている、何本かの髭。

 着席した時に見えた腕も足も、獣の様にフサフサ。

 不思議そうに、獣人はサフィに対し尋ねる。


「どうして、『人間族では無い』と分かった?」


 獣人は、普通の人間を。

 自らと区別して『人間族』と呼ぶ。

 人間族と獣人族が共に暮らすコミュでは、姿を隠しはしないが。

 フキは、純人間族コミュ。

 人目をはばかる様に、目立たない様に。

 して来たつもりだったのに。

 あっさりと見抜かれてしまった。

 その言葉に呆れる、サフィ。


「バレてないとでも思ったの?こいつでも気付いてたのに?」


 おっとととっと。

 よろけながらも、客人用の飲み物をお盆の様な丸い板に乗せ。

 客間へ入って来るジーノを指差しながら、サフィが言う。

 獣人が答える。


「そう言えば。この町へ入ってから、痛い程視線が……。」


「でしょうね。」


 呆れ具合に拍車が掛かるサフィ。

 アーシェの件で、怪しい者は一般人からも警戒されている。

 そんな状況下、全身を隠す格好でうろついたら。

 注目の的になる事は必至。

 町が置かれている事情を、ジーノが話すと。

『それは情報不足であった』と、素直に非を認める。

 そして席から立ち上がり、改めて名乗りを上げる。


「私は〔ゴーラ〕の町から参った、イヌ族イヌ系の獣人【ラモー】と申す者。」


「あたしはサフィ。このちっこいのは、ジーノよ。」


「『ちっこい』は余計だろ!」


 投げやりな物言いに、プンスカ怒るジーノ。

 こんな形ではあるが、サフィとジーノも自己紹介。

 いつもはヒィが座る、屋敷の主の席へ。

 サフィがツカツカと歩み寄り、ドカッと座る。

 そして自分がこの屋敷を取り仕切っているかの様に、足を組んで偉そうに反り返り。

 ラモーに尋ねる。


「で?依頼の内容は?」


「主人が戻られてから、詳しく話すとするが。実は……。」


 ラモーの依頼から、また面倒事に巻き込まれてしまうヒィ。

 それは。




「イヌ族の長を決める【武闘会】、その〔立会人〕に成って頂きたいのだ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ