話し、纏(まと)まり、それぞれの場所へ
ミギィ側も、ヒダリィ側も。
シジュウカラ科の穏健派に用が有った。
強硬派の犯した過ちを、連帯責任として償わせる為に。
しかし肝心の、その住み処は。
その場に居る誰も知らない。
人獣は、穏健派から直接依頼を受けたが。
恐らく旅をしながらの事、人獣が暮らしていた場所の付近には住んでいまい。
そう成ると、場所が特定し辛いが……。
とにかく、迷惑を被った2つの地域。
その代表が集まって、話をする事になった。
成り行きで。
と言うのも、『どうやって連絡を取る?』とアンビーがポツリと呟いた時。
『じゃあ、今しちゃいなよ』と、サラの力で。
双方に分かれた、〔不殺の剣〕を共鳴させ。
剣を通して、会話が出来る様になったから。
だったら顔を合わせず、このまま意見を交わして。
終わらせれば良いのでは?
そう思うかも知れない。
しかし面と向かって直接やり取りしないと、相手側の機微は読み取れない。
だから、ここは。
レッダロンとアンビーが、まず話をして。
それからヤインドが、話に加わる。
ヒダリィ側はテルドとオリー、ミギィ側はウルオートとホイセも。
後から加わる。
剣を挟んで、あれこれと話し合った後。
会談の日時や場所をセッティング。
カワセミ科から代表を送るかどうかは、追って連絡する事となった。
この日は、これで解散。
後は。
ヒィの下へ依頼しに来た2人、ヴァリーとケイムが。
連絡係として、双方を行き来する事と定められた。
「緊張しましたなあ。」
ヤインドが、額の汗を拭いながら。
ウルオートへ話し掛ける。
エルフとじっくり話をするのは、ウルオートも初めてだったので。
失礼が無かったか、少し心配。
アーシェが『大丈夫』と言ったので、取り敢えずホッとしたが。
ウルオートはこれから、輝竜帝へ報告しに行かねばならない。
ヤインドも、町の有力者を集めて協議を諮る。
ミギィ達も、ラピスと共に。
ネフライに報告する為、ボーデンクライフへ戻る。
ヤインドの好意で、この日は。
町一番の温泉宿へ、お世話になる事に。
激動の1日、疲れも相当溜まっている。
温泉に浸かって癒すのも、悪くない。
ミギィとラピス、ジーノ達3人は。
それぞれ荷物を預けている宿へと、一旦戻り。
その温泉宿へ再集合となった。
一方で、ヒダリィ側も。
普段話す事の無い人間に加え、竜人まで出て来たので。
テルドとオリーは慣れない気遣いをして、気力を使い果たしていた。
会話を横で聞いていたサフィは、ミギィ側を羨ましがる。
「向こうは温泉だって!何、この差!」
ぐぬぬーーー!
歯ぎしりしながら、顔をしかめるサフィ。
ボソッとヒダリィが言う。
「だったら、飛んでけよ。瞬間移動で。」
「あたしが居なくなったら、誰がこっちを仕切るのよ!」
ふんっ。
ヒダリィの折角の提案を、あっさりと蹴るサフィ。
プイとそっぽを向く。
あー、メンドクサイ。
傍目で見ていたユキマリが、思う。
リディは、人獣達に声を掛ける。
「これからどうするの?」
「まだここに居るさ。エルフの親玉も、『居て良い』って言ってるしな。」
キサが淡々と、そう答える。
ベンガもリディに話す。
「帰って来るまで守る、それが約束だからね。そうなるまで、出来るだけ居るよ。」
「そうそう。意外と面白いしね、あの森。」
シロサイの人獣少女も、後に続く。
皆、まだ暫く〔ムーランティスの森〕で厄介になるそうだ。
ヒダリィ達は、屋敷へ帰るとして。
残るは、ヒースとその母親。
ここで初めて、母親は正体を明かす。
自分達が何者であるかを。
「実は私達、【ミズウサギ】と言う魔物なんです。」
クゥ……。
ヒースの鳴き声も、少し弱々しい。
魔物は何処に行っても、嫌われ者。
だからひっそりと、暮らしていたのに。
多種族に迷惑を掛けるつもりなんて、これっぽっちも無かったのに。
うな垂れる表情で、その気持ちは丸分かり。
出来れば黙って、立ち去りたかった。
そんな後ろ向きな、母親の気持ちを。
別の場所へ追い遣る様に、サフィが母親の背中を『バチーン!』と。
思わず突っ伏してしまう母親、対してサフィは立ったまま堂々とし。
母親とヒースへ向け言い放つ。
「あたし達が、そんな度量の狭い奴だと思ったの!心外にも程が有るわ!」
「そうよ。私達とあなた達はもう、立派なお友達よ。」
ユキマリも、優しい言葉を掛ける。
顔を上げる母親、皆の温かさに涙が溢れ出る。
その前にちょこんとしゃがむリディ、ニコッと笑い掛けて。
「大丈夫だよ。うちも、同じ様なもんだもん。」
「ありがとう……!」
ううっ。
嗚咽を漏らす母親。
隣りでは、ピョンピョンと飛び跳ね。
喜んでいるヒース。
こんなにも穏やかに、存在を受け入れられるのは初めてらしい。
リディの右側に、ヒダリィもしゃがみ。
母親に声を掛ける。
「帰りましょう。あなた方の故郷へ。」
ヒダリィは、サフィの方へ向き直り。
『何とかしろ』と無茶振りをする。
偶には良いだろ?
そんな目付きで見られたら、サフィと言えども従わざるを得ない。
渋々、服の左ポケットから。
〔直径1センチ程の、青く丸い球〕を取り出すと、そのまま宙へ放り投げる。
するとそれは、直径20センチ程まで大きくなり。
顔の高さ位の位置で、プカプカと浮かんでいる。
サフィは母親に尋ねる。
「暮らしてたのは、何処?」
「は、はい。【ベスティンガ湖】の畔ですが……。」
「あれ?その湖って、〔ヘムライド王国〕の中に在る奴?」
母親の答えに、ユキマリが反応する。
ベスティンガ湖と言えば、水の妖精〔レプラコーン〕のコミュが在った筈。
『それなら、あいつが適任ね』と、サフィは呟くと。
青い球へ向かって、話し掛ける。
「もしもーし!聞こえてんでしょ!」
《……何よ。》
球から、女性の声が帰って来た。
やや低いトーン、声から察するに20代前半?
ヒダリィは、そう思った。
サフィが、ヒースの母親を指しながら続ける。
「住んでる場所が、あんたが居るとこの近くらしいのよ。迎えに来て頂戴。」
《何で私が、そんな面倒臭い事を……。》
「彼女達、ミズウサギだって。貸しを作っておいた方が、あんたにもお得じゃないの?」
《へえ、魔物かい。それなら話は別よ。良いわ、送ってあげる。》
「さあ、話は付けたわよ。さっさと球の前に並んで。」
サフィに促され、ヒースを抱えて立ち上がる母親。
てくてくと歩いて、球の前へと立つ。
球は、母親の胸辺りの高さを飛んでいる。
母親は振り返ると、精一杯の笑顔を作り。
礼を言う。
「ありがとうございました。機会が有れば、是非立ち寄って下さい。」
「クゥ!クゥ!」
ヒースも、歓迎の言葉を発している。
『ばいばーい!』と、元気良く手を振るリディ。
にこやかな表情で見送る、ヒダリィとユキマリ。
サフィは、『それっ!』と掛け声を上げる。
すると球の中から、変な腕がニョキッと4本伸び。
母親の胴体をガシッと掴むと、シュッと一瞬で。
球の中へ飲み込んだ。
そして、球の中から。
『ほ、本当に!帰って来られた!』と喜ぶ、母親の声が。
ヒースも『クゥ!』と、元気に鳴いている。
《義務は果たしたわよ。じゃあね。》
「お疲れーっ!」
《ふんっ!》
最後に、向こうから。
荒い鼻息が、聞こえた気がした。
しかしサフィは、気にしていない。
浮かび続ける球に左手を触れさせると、球はシュルッと瞬く間に小さくなり。
サフィの左手のひらにポトリと落ちる。
そのまま左ポケットへと仕舞うと、サフィは。
張り切りながら、ヒダリィ達に言う。
「あたし達もさっさと、今夜の宿へ向かうわよっ!」
泊まっていた温泉宿へと向かう、ミギィとラピス。
その途中で、後ろから服の袖を引っ張られたミギィ。
ん?
ああ、何か『話が有る』って言ってたな。
辺りをキョロキョロしながら、裏路地へとミギィを誘導するラピス。
素直に付いて行く、ミギィ。
数分は歩いただろうか、袋小路まで来て。
ラピスはミギィに、唐突に頭を下げる。
そして、声を絞り出す様に。
ラピスは、ミギィに懇願する。
「私もっ!あなたの傍に置いて下さいっ!」