駆け引きの為の部屋で、町の今後を
「暫くお待ち下さい。」
豪華絢爛な部屋へミギィ達を通すと、召使いはそう言って出て行った。
部屋の中を眺めて回る、ジーノ。
色々な調度品を指差しながら、ミギィへ話し掛ける。
「兄貴兄貴!すっげーぞ、あの壺!細かい模様が入ってる!」
「ふーん。」
「あっちには、見た事のねえ彫刻が有るぜ!誰が作ったんだろうな!」
「へえ。」
「兄貴。」
「ほー。」
「あ・に・き!」
「へ?あ、ああ。悪い。」
「どうしたんだよ?ぼーっとして。何か変だぞ?」
「済まん。ちょっと考え事をな。」
「大丈夫かよ……。」
少し心配になるジーノ。
そこへ、アーシェが。
「彼にも色々、思う所が有るのだ。察してやれ。」
そう言うアーシェの目は、少し悲しそうだった。
思わずジーノも、言葉を詰まらせる。
そこへアンビーが、ジーノに後ろから抱き付いて言う。
「じゃあさ、あたしと見て回ろうよ!ね!」
「お、おう!」
ミギィに目配せしながら、アンビーは距離を取る。
アンビーなりの気遣いなのだろう、身に染みるミギィ。
それ等のやり取りを、少し離れた所から見ている竜人達。
リュードが、フォウルに話し掛ける。
「なあ?あいつ、何悩んでるんだ?」
「さあ。」
素っ気無い返事をするフォウル。
リュードとはなるべく、係わりたくないらしい。
リュードは次に、ウルオートへ。
「お前はどう思う?」
「彼なりに葛藤しているのでしょう。」
「何とだ?」
「恐らく、〔今回発現させた力〕かと。彼にとって、不本意だったのでは?」
「分からんなあ。あれだけ強大な力を持っておきながら、悩むとは……。」
「人間族とは、元来そう言う者なのでしょう。」
「分からん。全く分からん。」
横に首を振り、腕組みしならが考え込むリュード。
竜人には、特に力に囚われている者には。
今のミギィの悩みなど、嫉妬の対象でしか無い。
『贅沢極まりない』と、リュードには思えるのだろう。
ウルオートには、リュードの方が贅沢に感じるが。
その間、ラピスは。
ずっと目を閉じていた。
頭の中で、師匠であるオイラスと会話している。
立ったままなので、時々フラッとして。
アーシェに助けられる事、数回。
それでも、瞑想じみた状態を解除する事は無かった。
真剣に、師匠と向かい合っている。
沢山の会話を交わした後、ラピスは考えを纏め。
そっと目を開ける。
そして。
目を泳がせながら、必死に現状と向き合おうとしているミギィを見て。
或る決意をするのだった。
それぞれが、暇を持て余し始めた頃。
やっと、屋敷の主が部屋へと入って来た。
商談用の客間なのだろう、広くも無く狭くも無い。
ミギィ達が通されたここは、飾りの他には椅子しか無い。
普通なら、契約書にサインを記入する為のテーブルが置いてあるのだが。
主なりのやり方、テーブルを持ち込む時は交渉が纏まった時。
逆に言えば、『交渉決裂として、何時でも追い出せるぞ』と示している。
この部屋に入った時から、交渉は始まっていると言う訳だ。
しかし今回は、性質が少し違う。
主の方が立場がやや下、町を救った英雄を招いているのだから。
ここで粗相を働けば、主の名声は地に落ちるだろう。
だから主は、朗らかな表情で。
ミギィ達の前に現れた。
「やあやあ、遅くなって申し訳無い。あちこちから、指示を仰ぐ声が届いているものでね。」
「いえ、お気遣い無く。」
ミギィが返答する。
その姿を見付けると、直ぐに傍へ寄って行き。
積極的に握手を求める。
「あなたが、『怪物を倒した』と言うお方ですか!お目に掛かれて光栄です。あ、私。この町とその付近を預かっております、【ヤインド】と申します。お見知り置きを。」
ささ、どうぞお座りになって。
部屋の中で一番豪勢な椅子に、ミギィを案内すると。
ヤインドは召使いを呼び、人数分の椅子を追加させ。
場に居る皆へ、着席を促す。
椅子を運び込み、設置すると。
召使いは速やかに下がった。
入り口の対面、窓側には。
主である、ヤインドが着席。
その後ろには、警備兵のトップである【ホイセ】が。
剣を抜いた状態で立っている、これがいつもの警護スタイル。
入り口から向かって右側には。
奥からウルオート、フォウル、リュード。
左側には。
奥からアーシェ、アンビー、ジーノ。
入り口側には、ミギィと。
その左隣に、ラピスが。
それぞれ座っている。
正面から見ると良く分かるが、ヤインドはやや小太りな中年男性。
白いYシャツの様な服の上に、着込んでいるベストは。
小豆色の地に、金色の線が斜めに交わり。
菱形の格子を描いている。
足元は。
黒のスラックスに、獣革の黒靴。
オシャレには気を使っているらしい、身だしなみがピシッとしている。
それだけに。
頭に付けている、コックの様な小さい帽子が。
残念感を演出。
少し間抜けな姿を見せて置いて、相手を油断させる心理作戦か?
深読みする者は、そう思ってしまうだろう。
当のヤインドは、ただのアクセサリーとしか見ていない様だが。
当事者が全員揃った所で、これからに付いて話し合いが始まる。
まずは。
破壊されたジョーエン内部、及び〔煌めきの湯〕に付いて。
これは、『シジュウカラ科が全面的に悪い』との結論に達した。
しかし賠償を誰に求めたら良いか、現時点では保留となった。
次に、捕らえたシジュウカラ科の身の上に付いて。
これは、サラから提案が有った。
先程の賠償の件と、セットで。
『同じ境遇の人達が居るから、一緒に話し合えば良いんじゃないかな?』
「誰とだい?」
背中から剣を抜いて、前に持って来ると。
剣に向かって話し掛けるミギィ。
すると、剣から返事が。
『ヒダリィ達だよ。あっちでも、シジュウカラ科が暴れたからね。』
「こ、この声は一体……!」
唖然となる、ヤインドとホイセ。
確かに、剣から声がした。
こんな事が有るのか……!
驚きを隠せないヤインド、と同時に。
商人の商売っ気が出たのか、『これを売ったら、幾らのもうけになるだろう?』と。
つい癖で、考えてしまった。
それを読んだかの様に、声の主は。
『ボクに金銭的価値を付けるのかい?幾らなんだろうねぇ。』
ギョッとした顔付きと成る、ヤインド。
アーシェが、フォローに入る。
「〔サラ〕、唐突に変な事を言うな。彼がそんな物騒な事、考えている訳無いではないか。そうであろう、ヤインド殿?」
「え?ええ、勿論。」
慌てて取り繕うとするヤインド。
明らかに動揺しているが、そこは放って置いて。
『ま、良いけどねー』と、サラは続きを話し出す。
『こっちとあっち。どっちも、シジュウカラ科がやらかした事。あ、君達も。その辺りの事情を知っといた方が良いかな?』
「頼む。」
ミギィがそう返事すると、サラは。
〔カテゴリー〕に纏わる、シジュウカラ科の動きに付いて。
この場に居る者へ、簡単に説明した。
シジュウカラ科は現在、〔穏健派〕と〔強硬派〕に分かれている事。
今は共に、カテゴリーを追い出された身である事。
今回混乱を引き起こしたのは、強硬派であって。
穏健派は寧ろ、それを止めようとしていた事。
でも責任は感じている様だから、賠償の件は穏健派の出方次第じゃない?
最後の一文は、サラ個人の意見。
それを聞いて、ヤインドは悩み出す。
「カテゴリーと言えば、人間を毛嫌いしているとか何とか。そう聞きましたが……。」
人間を近付けようとしない相手と、どう交渉したら良いのか?
懸念を示すのも、当然。
そこへアンビーが、仲介を買って出る。
「ならあたしが、橋渡しをしてあげる。どう?」
「あなたが、ですか?」
見た目は明らかにネコ族、獣人如きに打開出来るとは……。
ヤインドはそう思ったのかも知れないが、アーシェがそこを後押しする。
「向こうを解決したのがヒダリィなら、その仲間で有るアンビーの話は聞き入れてくれるだろう。」
「そうそう。あたし、向こうのトップと面識有るし。ねっ、アーシェ?」
「レッダロン殿の事か?そう言われれば、そうだな。」
「この話、乗るの?乗らないの?実は〔商売人の感〕って奴が、『乗れ』って疼いてるんじゃないの?」
ワクワクした口調でそう告げて、ジッとヤインドを見つめるアンビー。
嘘を言っている様には思えない、その眼差しに。
良いだろう、乗ってやろう。
ヤインドの心に、火が付いた。
「……分かりました。宜しくお願いします。」
「そうこなくっちゃあ!でねでね……!」
ここからグイグイと、ヤインドと話をし出すアンビー。
ついでに、アンビーが取り扱っている商品の売り込みもやっている様だ。
何とか解決の道が、見出せたらしい。
ホッとするミギィ、そこへラピスが。
ボソッと耳打ちを。
『後でお話が有ります。それも、2人きりで。』