サフィは意外と、策士だった
ギクッ!
サフィは、『ピューピュー』と。
鳴りもしない口笛を吹いて、誤魔化そうとするが。
ヒダリィにギロッと睨まれる。
「サラの言う通りだぞ。まだ何か有るんだろ?」
「さ、さぁて。何の事やら……。」
完全に目が泳いでいるサフィ。
『君が話さないなら、ボクから……』と、サラが言い掛けるので。
『わーった、わーったわよ!言やぁ良いんでしょ、言やぁ!』との。
半ば逆切れとも取れる開き直りを見せる、サフィ。
『はあっ』と大きくため息を付きながら、サフィが話し出した事とは。
「言っとくけど。今回のシジュウカラ科の行動は、あたしが焚き付けたんじゃ無いからね?」
「前置きは良いから。とっとと話せよ。」
「むぅーっ。」
ヒダリィに急かされ、少し膨れっ面に成るサフィ。
何を話し出すのか、気になって仕方無い面々。
渋々、サフィは話し出す。
「〔ウチェメリー徽章の授与〕、これ自体が餌だったのよ。」
「シジュウカラ科を誘き出す為のか?」
「そう。レッダロンも、それは了承済みよ。ね?」
サフィから投げ掛けられ、黙って頷くレッダロン。
続けるサフィ。
「これを利用して、長年の因縁に決着を付ける。その手伝いで、あたし達は来たって訳。」
これで良いでしょ?
サフィはヒダリィへ、『もう話したくない』と言った感じで物申すが。
何か足りない、そう思わざるを得ない。
ヒダリィは、サフィの言葉を却下。
サラも、『いい加減、ちゃんと喋れば?』と促すので。
うぐぐぅ……。
『逃れられない』と観念したのか、とうとうサフィは話した。
本当の目的を。
「ごめんね。【利用したのは、あたしの方】なの。」
「えっ!」
「どう言う事だ!」
「説明!説明を!」
円陣の方々から、驚きの声が上がる。
『まあまあ、落ち着け』と、レッダロンは場を諭す。
レッダロン本人も多少、困惑しているが。
エルフは授与式を使って、シジュウカラ科の強硬派を懲らしめようとした。
強硬派とピノエルフは、授与式に付け込んで宝物奪取を狙った。
ヒダリィは授与式を開く為の口実として、ここまで連れて来られた。
サフィ達は、ヒダリィに同行しただけ。
これ等の点から考えると、サフィは利用される側で。
利用する側では無い。
それなのに何故、そんな事を言うのか?
益々混乱する、円陣の面々。
サフィはやや下を向きながら、右手でヒダリィを指す。
ヤマガラ科を統括する立場のオリーが、ヒダリィを見ながらサフィへ言う。
「彼が、どうかしましたか?」
「ヒィは普通の人間。でもこの状態は、普通じゃ無い。それは分かるわよね?」
「え、ええ。何と無く。」
オリーは答える。
シロサイの人獣少女が、今度は発言する。
「それが、どうかしたの?」
「この状態にする必要が有ったの。これから先の事を考えるとね。」
「何の為に?」
少女は不思議そうな顔をする、それを受けて。
躊躇いがちに、サフィは話す。
『これは、言いたく無かったんだけどなー』と言う感情を、強く滲ませながら。
「あんた達も見たでしょ?凄まじい稲光を。あの力を開放する為よ。」
武闘会の後に、レッダロンとサフィは情報交換をした。
話し合いの中で。
レッダロンはヒィに、カテゴリーの再建への貢献を期待した。
一方で、サフィは。
これを、〔或る事〕に利用しようと企んでいた。
サフィは元々、レッダロン達の事情を知っていた。
近々起こるであろう、一連の出来事も。
自分のしたい事に、とても都合の良い展開だった。
ここから既に、サフィの描いたシナリオ通りに事が進んでいた。
ヒィはこれから段々と、〔ヒノカグツチ〕の力を使いこなす様になるだろう。
しかしそれでは、物足りない。
何よりヒィは、この剣に秘められた〔別のモノ〕に付いて知らない。
サラが、打ち明けるのを頑なに拒んでいたから。
それでは困る、何としても……。
そこでサフィは、一計を案じた。
レッダロンに協力する振りをして、ヒィを分割し。
『それに付随する形で』と見せかけて、本命である【剣の分割】を強行した。
サラの力が強いのは分かっていた、だから。
ヒィ本体の様に、片側が薄い状態で残る事は無い。
そう確信していた。
剣の中に在る、別のモノを引き出すには。
剣自体を裂く必要が有ったのだ。
生半可な武器や攻撃では、ヒノカグツチを傷付ける事すら出来ない。
しかしこれなら、サラの封印の力は弱まり。
ヒィ自体が、その存在を知る事になる。
あいつに意識させるだけで良い、それが切っ掛けとなって。
サラも、別のモノに関して話さざるを得なくなる。
そうなれば、開放も時間の問題。
力の発動まで行くとは、流石のサフィも思っていなかったらしいが。
ここまで話して、『ふう』と大きく息を吐くサフィ。
どう? 満足?
そう言った顔付き。
ユキマリとリディは、敵から逃げながらサフィが叫んでいた内容の意味を。
漸く理解した。
ヒダリィと言えば、憮然とした表情。
念の為、サフィに確認する。
「剣が裂けられたら、それで良かったんだな?」
「まあね。」
涼しい顔に変化して、淡々と返事をするサフィ。
薄い右半身を左手で指しながら、ヒダリィは続ける。
「だったら。俺の〔これ〕は、ついでか?」
「違うわよ。おまけよ。」
「同じ様なもんじゃないか。」
呆れるヒダリィ。
『でもそれで、向こうも何とかなったでしょ?』と、サフィに言われ。
言葉に詰まるヒダリィ。
サフィの思い通りで、いささか不本意では有るが。
一瞬ミギィと意識を共有した時、それは感じ取った。
その点だけは、サラも同意。
2つ同時に攻略するには、ヒィも2人に分かれるのが最善手だった。
結果、こちらも向こうも。
対処が上手く行ったのだから。
何とも言えない顔付きになるヒダリィ。
それを励ます様に、リディが立ち上がり。
ヒダリィの傍まで行って、頭を撫でる。
ヒースもピョンピョンと、ヒダリィの前まで跳ねて行き。
「クゥ!クゥ!」と励ましている。
はは、ははは……。
苦笑いを浮かべるヒダリィ、2人と1体の姿にほっこりしたのか。
円陣を組んで座っている者達も、自然と笑顔になる。
はあ、やっと逃げ切った。
心の中でそう思った、サフィ。
それを見透かす様に、サラが告げる。
『肝心な事を言って無いじゃないか。ホントのホントはね……。』
「わーっ!わーっ!」
焦るサフィ、慌ててヒダリィの下まで駆け寄り。
サラを黙らせようと、ヒダリィの背中から剣を持ち出そうとする。
しかしサフィの願いも虚しく、持ち去る前に。
サラがバラしてしまった。
決定的な一言で。
『【ヒィを自慢したかった】。それだけだよ。』