カテゴリーに渦巻いていた、ドロドロな内情とは
昔々。
〔マーボロ地方〕に出来た、エルフコミュの集合体〔カテゴリー〕の在る場所は。
以下の様な構造を成していた。
まずは。
宝物が鎮座する、【ウチェメリーの栄光】と呼ばれる建物を中心に。
草原地帯が広がり。
その外側に、ドーナツ型の森林地帯【パンゲイク】が。
パンゲイクから、草原地帯を挟んで外側に。
宝物を守る為の、正八角形の魔方陣を形成する結界樹が。
それぞれ存在していた。
結界樹は。
草原地帯の外に広がっている森林地帯の中へ、後で植えられた物だが。
パンゲイクは、もっと昔から在った。
その宝物を守っていたのが、森に暮らすエルフ。
水の精霊達と共に、その任に就いていたが。
誰に命ぜられたのかは、遥か前なので曖昧だった。
宝物の力に因る物なのか、水の精霊の恩恵なのか。
パンゲイクと結界樹の間に在る草原に、1本の立派なウチェメリーの木が在り。
それを囲う様にして。
〔ヘヴィイチゴ〕や〔スジチカ〕と言った珍しい果物が生えている、【神の息吹】と呼ばれる一帯が出来上がっていた。
それに吸い寄せられる様に、パンゲイクに鳥人が移住。
エスペルが移民推進策を取る前に、カテゴリー内へ移り住んだのは。
2種族のガラ族。
それが、ヤマガラ科とシジュウカラ科。
〔神の息吹〕は、エルフの厳重な管理下に有ったので。
実の採取は、極限られた数だけだった。
取れる実の余りの美味しさに、シジュウカラ科が独占を図ろうとし。
乱獲による種の絶滅を危惧していたエルフ、その考えに同調していたヤマガラ科と。
微妙な確執が生まれた。
そこから。
〔神の息吹〕を押さえ、『あわよくば宝物をも手に入れたい』と。
願う様になった、〔強硬派〕と。
これ以上事を拗らせたら、森から追い出されてしまう。
そう懸念を募らせ、和を図ろうとする〔穏健派〕が。
シジュウカラ科の内部に生まれた。
初めはどちらも少数派、傍観している者が多数だったが。
双方段々、周りを取り込み。
何時しか、二極に分裂してしまった。
この時点では、〔神の息吹〕に執着していたのは。
シジュウカラ科の強硬派だけだったが。
或る時期から、それを脅かす者達が現れた。
エスペルが、〔クシュピ〕の役職へ就いた後。
移民政策が推し進められた。
その切っ掛けが、【ピノエルフによる反逆】。
死んだエルフが、尚も生に執着した結果。
ピノエルフと成るのだが。
元々そんな者は、この世界には存在しなかった。
【或る出来事】を境に、生きる事へ固執する者達が現れる様になり。
自然に返らず、現世に留まる魂が増えた結果。
ピノエルフと言う、中途半端な存在が誕生した。
それが曽て、他のコミュとのいざこざを引き起こし。
遂にはエルフや水の精霊の打倒を掲げ、エルフに成り替わろうとした。
何とか鎮圧したが、ピノエルフに成る経緯が経緯なので。
倒しても倒しても、ピノエルフに生まれ変わってしまう。
ならば手元に置いて、厳重に管理するしか無い。
エルフはそう考えた。
これが、カテゴリーからピノエルフを追放しなかった理由。
所構わずピノエルフに暴れられては、他コミュから目を付けられる。
それを避ける為の、苦肉の策だったのだ。
しかしピノエルフは、更なる執念を見せる。
宝物の力を借りれば、ピノエルフからエルフへと変われる。
そう信じられて来たので。
とうとうピノエルフは、宝物奪取を模索し始めたのだ。
一方、その頃。
エルフの力だけでは、ピノエルフを押さえられない。
そう感じたエスペルは。
移民を受け入れる事で、種族の多様性を生み出し。
文化が混じり合う事で、結果として宝物の守りを強固にしようとした。
その第一陣ととして入植して来たのが、鳥人。
それも力の強い、【タカ族】。
働きが目覚ましく、エルフに一目置かれる存在となった。
これに危機感を覚えたのが、シジュウカラ科の強硬派。
目を掛けられる者が増えると、野望が遠のいてしまう。
焦りが生じて来た所へ、更なる者達が参戦して来た。
選りにも選って、人間族が入植して来たのだ。
最初は少数で在ったのに、ズカズカと入り込んで来ては自分ルールを押し付ける。
厚かましさの塊とも言える、人間達の行動に。
エルフ達は警戒し、人間達に対する自衛を取る様になった。
そこで、潮目が変わる。
流石に人間も、これでは不味いと思ったのか。
一部がエルフと交流を始め、絆を深めようとした。
『付け入る隙が生まれた』、そう考えた強硬派は。
ピノエルフと結託し、人間達を陥れようとする。
急激な人口増加で、住める土地が無くなって来たので。
草原地帯の周りに在る森林を開拓して、新たに町を作ろうとした。
その時、強硬派が。
人間達を唆したのだ。
あそこに立っている大木を切り倒せば、大きな空き地が出来。
切り倒した大木を使って、何軒もの家が建てられる。
伐採してしまおう、と。
それが結界樹と知らなかった人間達は、強硬派の口車に乗り。
切り倒そうとした。
結界が弱まり始めているのに気付いた、エルフ達は。
慌ててその場に駆け付け、何とか事なきを得た。
しかしそれは、囮だった。
事前の打ち合わせ通り、結界が弱まった所で。
カテゴリーへ移住する前からずっと、裏でこっそりと関係を保っていた者達が。
悪魔を伴って、結界内へ侵入。
種族を問わず、ありとあらゆる町を襲った。
その混乱の中、ピノエルフが。
〔ウチェメリーの栄光〕へ突入。
宝物の奪取を図った。
しかし宝物は、エスペルが持ち去った後だった。
空の建物に怒り狂った、ピノエルフは。
エスペルの魔力を探り、後を追い駆けた。
それに、侵入して来た軍団が合流。
一丸となって、宝物へと向かった。
このままでは、奴等に宝物を奪われてしまう。
そう思うと同時に、エスペルは。
これは自分が招いた事態、自らが責任を取って守り抜くしか無い。
そう考え。
自分の命を捧げる事によって、宝物の力を発動させ。
結果、辺りの地面が浮き上がり空中島と化した。
慌てて宙を飛んだ強硬派は、空中島を追い駆けるが。
宝物の作り出した、バリアの様な膜に阻まれ。
とうとう、取り逃がす事となった。
飛んで行った土地に居たエルフ達は、『シジュウカラ科が助けに来てくれた』と勘違いしたが。
本当は真逆で、皆殺しにしてでも宝物を奪おうとしただけだったのだ。
宝物は、手の届かない所へ行ってしまった。
暴れ回る敵達。
それに懸命に立ち向かう、残された者達。
テルドの話では、人間達は『さっさと何処かへ行ってしまった』となっていたが。
見捨てたのでは無い、宝物を失った責任を感じて。
『戦闘では役に立たない、ならば別の形で』と。
飛び去った土地の行方を捜す為に、物流網を通じて散り散りとなったのだ。
エルフやタカ族に押され始めると、侵入者もとっとと撤退。
ピノエルフだけが、取り残された。
黙って見ている事しか出来なかった穏健派は、ここで動き。
エルフに密告した。
『宝物を奪取しようとしたその中心は、ピノエルフだ』と。
そして、『それに、シジュウカラ科の一部が係わっていた』と。
自分達が処罰されるのを覚悟で、正直に真相を話した穏健派は。
『ここで失うのは惜しい』と、エルフに赦された。
穏健派の立派な心掛けにより、強硬派にも特赦が与えられ。
カテゴリーからの追放で済んだ。
ここから、エルフの。
ピノエルフ討伐が始まった。
密告したのがシジュウカラ科と知ったピノエルフは、シジュウカラ科のコミュを強襲。
結果として、穏健派も森には居られなくなった。
強硬派・穏健派共に、シジュウカラ科は各地へと散り。
騒動を収められなかった償いとして、タカ族も森から退去した。
主を失った〔ウチェメリーの栄光〕は、その後打ち捨てられ。
結界の消滅と共に、朽ち果てて滅んだ。
この時の戦いで、パンゲイクの森は。
ムーランティス・ゴンドウ・ローレンの3つに分割されてしまった。
後に残ったエルフとヤマガラ科は、『いつかきっと、元の場所へ戻って来る』と信じ。
跡地の保全に努めながら、土地の浮かんでいる場所を探し続けた。
しかし宝物の力によって守られていた土地を、見つけ出す事は出来ず。
年月が過ぎて行った。
この間に、穏健派は。
森を守ってくれる様、人獣へ頼み。
強硬派は、力を蓄え。
宝物を奪取する為、悪魔の素を手に入れた。
水面下でも、シジュウカラ科内の分裂は続いていた。
そんな、或る日。
イヌ族の長を決める武闘会、そこへ立会人としてレッダロンが参加。
サフィと出会い、事の真相を聞かされる。
ヒィの事を自慢気に語るサフィ、その話を聞いて。
『彼なら、長年の懸案を何とかしてくれる』、そう考えた。
なのでサフィに協力を仰ぎ、ヒィを駆り出して貰ったと言う訳だ。
ここまでで、シジュウカラ科に関する話は終わった。
何ともややこしい関係、人獣も情報の整理に頭を抱える。
巻き込まれた、ヒースとその母親も。
どうして良いのか分からない。
その時、ヒダリィの背中から声が。
声の主は、サフィに向けて話す。
『何かまだ、この場へ言う事が有るんじゃないの?君にはさ。』