今回は終始、〔サフィの手のひらの上〕だった
ナパーレの町、その中央付近に生えている大木。
その幹と枝の間に在る、大きなこぶを通り抜けて。
辿り着く、草原。
そこに、レッダロンの住む家は在ったのだが。
余りに、会議出席の人数が多いので。
全員草原に座り、円陣を作って。
話し合いをする事となった。
まず、レッダロンが挨拶を。
「今回の出来事について。各自尽力して頂き、感謝する。ありがとう。」
正座をしながら、丁寧に頭を下げるレッダロン。
『堅っ苦しいなあ』とは、サフィの弁。
さっさと話を進めたいらしい。
レッダロンは続ける。
「何十年にも亘る争いに、漸くけりが付きそうだ。エルフと、シジュウカラ科とのな。」
「えっ?エルフ側は知ってたんですか?」
シジュウカラ科とは、確執が有った。
そうとも取れる発言をレッダロンがしたので、ユキマリは驚いた。
しかしレッダロンは、首を横に振る。
「私も、つい最近知ったのだ。〔サファイア〕殿に聞かされてな。初めは信じられなかったが。」
「サファイ……あ、サフィの事か。」
聞き慣れない名前が出て来たので、やや戸惑ったユキマリ。
完全に〔サフィ〕で定着していたので、違和感を感じるまでになっていた。
逆に言えば。
それだけサフィとユキマリの関係は、親密となった訳だが。
今度はサフィが発言する。
「武闘会の後、ついでに話しといたのよ。色々とね。」
「ああ。そういや、そんな事をしてたな。」
ヒダリィが呟く。
レッダロンと何やら、情報交換していると思っていたが。
ここまで深く話し込んでいたとは。
……ん?
待てよ?
と言う事は……?
ジロッと睨みながら、ヒダリィはサフィへ不満気に言う。
「サフィ、お前。こうなる事は織り込み済みだったんだな?あの時から。」
「当然じゃないの。予定通りよ。」
「あんな前から!? ホントなの、それ!」
サフィの返しに、またもや驚くユキマリ。
イヌ族の長を決める武闘会が開催されたのは、数カ月も前だ。
その時から、こう言う展開になるのを知ってたって言うの!
ユキマリの反応は、至極真っ当だ。
その辺りの事情を知らない者にとっては、何の事やらだが。
再び話し手は、レッダロンに。
「助言を受けてから、こちらでも調べたのだ。すると、『それが本当だ』と分かって来たのだ。」
「〔エルフの戯れ〕に居たエルフの2人組、覚えてる?彼女達がレッダロンと面識が有ったのは、そう言う訳なのよ。」
サフィが、フォロー気味に口を挟む。
レッダロンが続ける。
「テルドの配下の者と、私が各地へ遣わした調査隊とが。偶々出会ってな。宝物のその後を、聞く事が出来たのだ。」
その後、テルドの代理として。
スニーとクロレが、カテゴリーへと出向き。
直接レッダロンと、話し合いをした。
『全てを解決出来る者が見つかった、近い内に主等の下へと訪れる』と告げたのも、その時。
言葉の中で出て来た〔全て〕が、シジュウカラ科との関係までをも含んでいたとは。
スニーとクロレも、思っていなかったらしいが。
レッダロンが、更に続ける。
「前に起こった、宝物強奪未遂の件に。シジュウカラ科も絡んでいた。厳密に言えば、〔その内の一部〕がな。」
「私もレッダロンから聞かされて、驚いたよ。まさか身内に、敵側へ与していた者が居たとは。」
そう話す、テルド。
カテゴリーを取り仕切る役職〔クシュピ〕に就いていた、テルドの父〔エスペル〕は。
その事を知らず、亡くなった。
シジュウカラ科は、同じ地域に暮らす同志。
家族も同然だったので、裏切りなど予想もしていなかったのだ。
サフィがカテゴリーでの道中、警護の為に付き従っていた者達へ。
『レッダロンに伝えた』と話した、〔裏切者〕とは。
シジュウカラ科を指していたのだ。
しかしそこで、人獣の1人が横槍を入れる。
ワーウルフの、老人男性だった。
「儂等にあの森を守る様依頼して来たのも、シジュウカラ科じゃったんじゃが……。」
「そうそう。確かに〔シジュウカラ科〕って名乗ってたよ。特徴も、あいつ等と同じだったし。」
ベンガが続く。
空を飛んでいた奴等と、依頼して来た者達とは。
同一種族だった。
人獣には、そこが解せなかったのだ。
疑問を呈した人獣達に対して、サフィが。
「言ったでしょ、『一枚岩じゃ無かった』って。」
「その通り。事件当時、どうやら内紛が起こっていたらしいのだ。」
レッダロンが話す。
シジュウカラ科の内部で、権力闘争が勃発。
2つに分かれたその勢力は、力がほぼ互角で膠着状態だった。
しかし一方が、逆転を狙って。
宝物奪取に打って出た。
ピノエルフをも利用して。
宝物が宙へ逃れた後、騒動の原因を『ピノエルフだ』と報告したのが。
シジュウカラ科だったので。
『当時裏切っていた』とは、エルフ側の認識に無かった。
その後ピノエルフによって、シジュウカラ科のコミュが攻撃され。
皆散り散りに去って行ったので、『可哀想だ』と思ってはいたが。
サフィがそれを知りながら、裏切り者の存在を匂わす程度に留めていたのは。
疑心暗鬼を生み出す事で、エルフ・ヤマガラ科の警戒心を煽ると共に。
この場に迫っているであろう、シジュウカラ科の連中へ。
『乱れている今がチャンスだ』と思わせ、こちらへ誘い込む為。
ヒダリィから、怪しい2人組の話を聞いた時。
『油断したわね』と言ったのは。
狙い通りに、向こうが動いていたから。
この辺りからしても。
今回の騒動は、サフィの手のひらの上だったと言えるだろう。
シジュウカラ科に関して、もっと詳しく聞きたい。
人獣は、そう願った。
長い者では、もう何十年も〔ムーランティスの森〕を守って来たのだから。
〔内紛〕と言う単語だけで片付ける訳には行かなかった。
でないと、到底納得出来無い。
「なるほど、もっともな意見だ。」
レッダロンは頷く。
サフィも、『関係が有るから』と連れて来た以上。
人獣に対して、説明義務が有ると思っている。
レッダロンは、『本当は伏せておきたかったのだがな』と前置きして。
この場に居る者へ、知っている内容の限りを話し出す。
時々サフィが、話の曖昧な部分でフォローを入れる。
それを総合すると、ドロドロの内幕が浮かび上がって来る。
その内容は、次の様な物だった。