ヨミガヘリ
ミギィもヒダリィも、ほぼ同時刻に。
窮地に陥っていた。
2人の考えが一致した、その瞬間。
不思議な事が起こった。
それは……。
《俺の出番だな。焦らしやがって。》
ミギィ側、ヒダリィ側双方に。
不思議な声が響く。
サラが、その声の主へ文句を付ける。
『時期尚早だよ。無理。』
《何故?》
『何でも!』
《どうして?》
『どうしても!ったく、全然反省して無いんだから。』
《反省ならしてるさ。前の俺なら、とっくに出しゃばってただろ?》
『そりゃ、そうだけどさあ。』
サラと声の主が、言い争っている。
しかし、意見は真逆の様だ。
やり取りに困惑する、ミギィとヒダリィ。
2人に分けられた1個人は、混乱の中で孤立していた。
その時、ヒダリィ側に居たサフィが。
剣に向かって大声で叫ぶ。
「サラ!そいつを開放しなさい!【その為に分割した】んだから!」
『やっぱりか。裏が有ると思ったんだよねえ。』
辟易した感じで、そう答えるサラ。
声の主が、サラに言う。
《あの嬢ちゃんは、ああ言ってるぜ。どうするんだ?》
主は、サフィの後押しが嬉しそうだ。
『やれやれ』と言った感じで、サラは答える。
『仕方無いなあ。でもまた暴走した時には、封印するからね?』
《今度は、あの時の様には行かんさ。まあ、変に暴れるつもりも無いがな。》
主は、そう言うと。
ミギィ・ヒダリィ両方に。
こう告げる。
《両手で剣を握れ!そして色の薄い方の手に、思い切り力を込めろ!それで、俺の力は解放される!》
「「良いんだな、サラ!それで何とかなるんだな!」」
ミギィ・ヒダリィは、同時に同じ言葉を発した。
意識が段々繋がって来ているらしい、お互いに起こっている事が頭の中で過ぎって行く。
サラは答える。
『こうなったら、派手にやってくれ!その方が、ボクもスッキリする!』
「「分かった!」」
ミギィは左手に、ヒダリィは右手に。
グッと力を込める。
そして、叫ぶ。
「「開放!」」
すると。
薄い方の半身が、バチバチっと火花を飛び散らせ。
バリバリッと空気を裂く様な音がしたかと思うと、ギラギラと輝き出した。
半分しか無い剣にも、変化が。
無い筈の側に、もう半分らしき煌めきが。
そしてヒィの身体と同じく、バチバチッと火花を散らせている。
ギラギラさせながら、剣としての体裁を整え。
半分は炎、もう半分は〔電気〕で構成されている状態。
電気の側から、主の声がする。
《剣を持っている、お前!先を天高く突き上げろ!そして叫べ!『天罰を』ってな!》
コクンと頷くヒィ、右も左ももう関係無かった。
バチバチっと放電しながら、スウッと宙を浮き上がって行くヒィ。
それを見た、ヒダリィ側のレッダロンは。
周りに向け、大声で叫ぶ。
「総員、退避ーーーっ!」
わーーーーっ!
エルフもヤマガラ科も、一目散に逃げて行く。
一歩目が遅れた、シジュウカラ科とピノエルフは。
その場を動けずにいた。
ミギィ側の、ウルオートも。
一連の会話を聞いていて、『何かが起こる』と感じ。
竜人達に叫ぶ。
「今直ぐ!怪物から離れろーーーっ!」
わーーーーっ!
こちらも、蜘蛛の子を散らす様に。
方々へ避難。
その際に、逃げ遅れている住民を拾い上げながら。
怪物は、異様な魔力を感じ取ったのか。
動きが固まっている。
やや遠くから、ヒィの身体が浮き上がって行くのを。
ジーノとアーシェ、そしてアンビーは。
身震いしながら見ていた。
サフィと一緒に逃げている、ユキマリとリディも。
心配そうに眺めている。
これから何が起こるのか、ヒィ本人も分かっていない。
分かっているのは。
嗾けたサフィと、それに従ったサラ。
そして、謎の声の主。
100メートル位は上昇しただろうか、そこで掲げられた剣の先から。
空へ向かって、一筋の光が伸びた。
それは天を貫き、そこを中心にして真っ黒い雲が立ち込めた。
ゴロゴロゴロ。
雲の中で鳴っている、雷の様な音が。
徐々に大きくなって来る。
その時、ヒィは。
無意識に長ったらしく、こう叫んでいた。
「今こそ顕現せよ!〔ヒノカグツチ〕より生まれし剣、【タケミカヅチ】よ!そして、天罰を!我に仇名す者達へ下せ!」
バチッ!
バチバチッ!
ズガガガガガッ!
剣の先から、太い電流が雲へと迸る。
そしてヒィは、両手で持っていた剣を。
フッ。
軽く振り下ろす。
すると、真っ黒い雲から幾つもの稲妻が。
ズゴガゴキグゲゲゲゲゲーーーッ!
轟音を伴いながら地面へと落ち、『ビシャン!』と対象者を襲った。
「※○◆▽※▲◎□●……!」
声にならない声を上げながら、続々と倒れて行く者達。
ピノエルフは焼け焦げ、魂を丸ごと焼き尽くされたが如く消滅。
ミギィ側・ヒダリィ側双方の、シジュウカラ科も。
全員、裁きの雷を食らった。
全身をピクピクさせ、意識が飛んでいる。
こちらは焦げている様子は見えない、ただの感電状態。
しかしもう、自力で動き回るのは無理だろう。
周りにそう思わせる程、奴等の表情は真っ白だった。
モグラとアルマジロが合体した様な、ジョーエンに現れた怪物も。
ドスーーーーン!
雷の直撃を食らい、そのまま消滅。
ラピスにだけは、バチッとやや弱い放電が掛かり。
ジュッと言う音と共に、黒い煙となって悪魔が出て行く。
そこを別の放電によって焼かれ、こちらも消え失せた。
余りの凄まじさに、その場に居合わせた者は魂が抜けた様。
『信じられない』と言った思いの外に、頭の中を巡る物は無い。
その中をスタッと降り立つ、ミギィ・ヒダリィ双方。
呆然とその姿を見つめる仲間、その中でただ1人。
サフィだけは意気揚々と駆け寄り、ヒダリィの左半身を『バシーン!』と叩く。
そして、満面の笑みを浮かべながら言う。
「やったじゃないの!これで、万事解決よ!」
「そ、そうか?」
ヒィはサフィの言葉に、そう答えていた。
〔ヒダリィ〕として言ったつもりだったが、〔ミギィ〕でも同じリアクションを取っていた。
なので、ウルオート達はキョトンとした顔。
空に広がっていた黒い雷雲は、雷が落ちた少し後には綺麗に晴れていた。
ヒダリィ側では、シジュウカラ科の捕縛が始まり。
ミギィ側では、避難していた者達が町中へと帰還。
双方、これからどうするかを心配しながらも。
混乱の一応の決着に、安堵するのだった。
仲間が駆け付けた時には。
輝いていた、ヒィの半身も。
具現化していた、電気状の剣の刀身・柄も。
元通りになっていた。
しかし遠くからでは有るが、確かに見た。
ヒィに隠されていた、新たな能力の一端を。
驚きと不安を持って、ヒィを受け入れる仲間達。
その中でサフィだけは、純粋に嬉しそうだった。
《〔これ〕を見せつけたかったのか、あの小娘は。》
風竜人の後見人は、苦笑いをしていた。
『神をも凌ぐ』、そう思わせる力。
当て付けにしては、派手過ぎないか?
と思うと同時に。
その者には、いささか重荷では無いか?
ヒィへの同情も示す、後見人。
さて、儂は何処までやるかのう。
空を見つめながら、後見人は呟くのだった。
その日、〔ゼアズ・ワールド〕は。
天へと伸びる稲妻の筋を2本、同時に目撃した。
或るモノは〔悪魔の飛来〕と恐怖し、或るモノは〔神の降臨〕と称えた。
この現象が、この世界に何を齎すのか?
彼等には、知る由も無かった。