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ジョーエン、混乱す

 ミギィとラピスが、橋を渡り終えた頃。

 町の中へと逃げ込んだシジュウカラ科は、水着の格好を良い事に。

『襲われたーっ!』『助けてーっ!』と叫びながら、辺りに触れ回る。

 当然、町は騒然となる。


「何だ何だ!」

「何が起きてるんだ!」

「見ろ!あっちの方が騒がしいぞ!」


 皆、〔煌めきの湯〕の方を見やる。

 どうやら警備兵が、あちらへ駆け付けた様だ。

 それと同時に。

 バシッ!

 吊り橋の切れる音がし。

 ズズーン!

 関所の破られた音が響く。

 先に町へまぎれていた、シジュウカラ科の仲間が。

 こう叫んだ。




「賢者様がご乱心!暴れてるぞ!逃げろ逃げろーっ!」




「えっ!賢者様が!」

「どうして!?」

「そんな事が有ってたまるか!」


 町に住む者、町を訪れていた者。

 それぞれが声を上げる。

 〔俗世に興味が無い〕、〔自ら手出しはしない〕。

 そんな賢者に対する先入観から、にわかには信じられなかったが。

 それを裏切る様に、町のあちこちから。

 ドーーーンッ!

 ズズーーーンッ!

 ドグンッ!

 ガシャーーンッ!


「ば、爆発!?」

「一瞬揺れたぞ!」

「こ、これは大変だ!」


 我先にと、トンネルの方へ逃げようとする旅人達。

 出店を開いている者は、素早く畳んで。

 倉庫街の方へと避難する。

 ここは取り扱う荷が多く、犯罪が起き易いので。

 警備兵も多く配置されていて、町の中では比較的安全なのだ。

 一方、商店街の人達は。

 人の流れを観察していた。

 何か怪しい、勘がそう言っている。

 旅人の監視と言う役目の為、人を疑うくせが付いていたので。

 挙動がおかしい者を、自然と追っていた。

 すると、湯の方から逃げて来た筈の者達が。

 逃げる様子を見せず、何かを置いて回っている。

 店主の1人がそれを見付け、隣の店へ次々と伝達して行く。

 もしや水着の者達が、この状況を作り出しているのでは?

 皆そう思い、直ぐに集結。

 無理をしない範囲で、それぞれを付けて行く事にした。




 息も絶え絶えに、トンネルの傍まで逃げて来た旅人達。

 しかし、目の前の光景に然となる。

 先程の爆音の1つだろうか、トンネルが崩落し。

 通れなくなっていた。

 幸いにも、怪我人は居なかった。

 トンネルの出入り口だけが破壊されたらしく、向こう側からかすかに風が流れて来る。

 突然の出来事に、荷を引いていた牛達が興奮している。

 暴れない様になだめる業者達、彼等にも何が起こったか分からない。

 必死にトンネルから脱出しただけ、だから旅人からの問い掛けに答えられる者は居なかった。

 混乱する現場、そこへ。

 上から降り立つ者達、多数。

 その内、若い女性に見える〔或る者〕が。

 荷運び業者や旅人へ、こう告げる。


「私達が来たからには、もう大丈夫だ。そこで待っていて欲しい。」


「急ぎましょう!」


 仲間だろう、そう声を掛けられると。

 バサッと背中の翼を羽搏はばたかせ、宙へ浮き。

 シュッと、町の中心へと飛んで行った。

 旅人の1人が、こう漏らす。


「あれが……〔竜人〕?」


「あんた、竜人を見るのは初めてかい?」


 荷運び業者の1人が、旅人に話し掛ける。


「え、ええ。ここに来るのは初めてな物で。」


「だったら、良ーく見ておきな。『彼女達がこちら側で良かった』と、心の底から思えるからさ。」


「は、はあ。」


 業者に促され、竜人達の向かった方角を見つめる旅人。

 何とか、早く落ち着きます様に。

 そう、祈らずにはいられなかった。




 水着姿の若い女を、付けて行く商店主。

 すると、道に置かれていた小さい樽から。

 何かを取り出すと、それに火を付けようとしていた。

 商店主は、思わず叫ぶ。


「何しようとしてる!」


「しまった!見つかった!」


 女が手に持っていたのは、明らかにこの場に相応しく無い物だった。

 ば、爆弾!?

 そう悟った商店主は、着火を阻止しようと。

 女に飛び掛かる。


「それを離せっ!」


「じゃ、邪魔をするなっ!」


 抵抗する女、懸命に取り上げようとする商店主。

 しかしもみ合っている内に、爆弾に火が付いてしまった。


「ま、巻き込まれてたまるか!」


 女が怒鳴りながら、人通りの多い道へと放り投げる。

 その瞬間、商店主に身体を押さえられてしまったが。

 爆弾はコロコロと転がり、道の真っ只中へ。

 何処へ逃げれば良いか分からず、大混乱の人混みへと。

 爆弾が消え去る。

 顔を地面へ押さえ付けられながら、『はっはっは!ざまあ見ろ!』と高笑いする女と。

『爆弾が破裂するぞ!早く伏せろ!』と、道の方へ必死に叫ぶ商店主。

 誰かが爆弾を見つけたらしい、『ぎゃああぁぁぁっ!』と金切り声が響く。

 それを皮切りに、人々がバッとしゃがみ。

 手で頭を守る体制を取る。

 その中で、わんわん泣き叫んだまま。

 立っている少女。

 母親だろうか、必死に『早くかがんで!』と声を掛けている。

 爆弾の大きさからして、半径50メートルは吹っ飛ぶだろう。

 しゃがんだ者達は、皆。

 死を覚悟した。

 その時。




「させんっ!」




 ヒュッと、一陣の風が通り過ぎたかと思うと。

 スウッと上空へ上がり、天高くブンッと爆弾を投げる。

 遥か彼方で、『ドーン!』と音がし。

 残骸の欠片が、パラパラと降り注ぐ。

 そして、尚も泣き続ける少女の前にストッと降り立ち。

 頭を優しく撫でながら、落ち着いた口調で少女へ語る。

 母親が子供をなぐさめる様に。


「もう大丈夫だから、涙を拭きなさい。さあ。」


「え……?」


 見た事も無い、竜人の姿。

 怖くも有り、温かくも有る。

 不思議な感じがして少女は、ふと泣き止んだ。

『それで良い』と、再び頭を撫でて。

 傍に居た母親へ引き渡す。


「ありがとうございます!」


 涙を浮かべながら、頭を下げ謝意を示す母親。

 ニコッと笑う竜人。

 その傍へ降り立つ、竜人が。

 声を掛ける。


「〔ウルオート〕様!どうやら、あちこちの破裂音は……!」


「うむ。こいつ等の仕業らしいな。」


 そう答えながら、商店主に抑えられている女を見る。

 ウルオートは、女の目の前でしゃがみ。

 威圧的な口調で、尋問の様な言葉を掛ける。


「お前等か?賢者殿を付け狙っているのは?」


「だったらどうする!」


 キッと、ウルオートをにらみつける女。

 怖い者知らずとは、この事。

 気の強い女の顔面を、右手でガツッと掴み。

 ギリギリと、握り潰す様に力を込める。


「お前。今置かれている立場を、分かっていない様だな。」


 そう告げる、ウルオート。

『うぐ、うぐぐぐ!』と、余りの痛さにもがく女。

 しかしとうとう口を割らず、そのまま気絶してしまった。

 その辺に在った縄で、女を適当に縛り上げると。

 警備兵に引き渡す様、商店主へ助言し。

 ウルオート達はまた、上空へ飛んで行った。

 その凛々しさ、頼もしさに。

 商店主は、少々見とれながらも。

 慌てて女を引きり、近くまで来ていた警備兵の傍へ。

 グターッとなったままの女を商店主から受け取ると、警備兵は連行して行く。

 それを見送った後。

 他にも爆弾が無いか探す為、商店主は周りに協力を求める。

 怖い気持ちで、身体がやや震えながらも。

 皆を守ろうと必死な商店主の姿を見て、周りも賛同し辺りを探す。

 ここではこれ以上、爆弾は見つからなかった。

 それも当然、町の破壊が目的では無いのだから。

 あくまでも、賢者とその弟子をあぶり出す為。

 この町に居る者は、その為の餌に過ぎない。

 これが、リーダーらしき者の言っていた〔プランB〕。

 着々と、あちこちで進行していたのだが……。




 水着の格好をした者が。

 町中まちじゅうあらかじめ隠しておいた、小型の爆弾を取り出し。

 火を付けようとする。

 そこへ、後を付けていた商店街の人間が。

 現場を押さえる。

 更に、その場へ駆け付けた竜人が。

 爆弾を無害化し。

 火を付けようとしていた者は捕らえられ、警備兵に呆気あっけ無く引き渡される。

 方々でその光景が見られ、プランBはもろくも崩れ去る。

 トンネルの出入り口は塞いだ、賢者達もおいそれとは離れられまい。

 ましてや、住民に命の危機が迫っていれば。

 それを『賢者の仕業』と流し、住民の前へ出て来ざるを得ない状況を作り出す。

 その間に、【例の作戦】を……。

 だがその流れは、ほぼついえた。

 竜人があちら側に立って参戦するとは、想定外だった。

 プライドの高い奴等が、何故人間の味方を!?

 考えても仕方無い、こうなったら〔奥の手〕だ!

 あちこちから上がる、同胞の悲鳴を聞きながら。

 シジュウカラ科のリーダーは、仲間から受け取ったミギィの剣を抱えながら。

 大声で叫ぶ。




「あんたの出番だ!派手にやってくれ!頼んだぜ!」

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